星空に魅せられて (病院新聞『山病だより』7月号投稿原稿です.)
登山を始めたばかりの頃の4年前の夏、知人の誘いで南アルプス鳳凰山に登ったことがあった。初心者だったのにコース的には過酷な青木鉱泉からの道を登ったため、途中で完全にばててしまい、おまけに途中で飲み水が尽きるというとんでもない登山だった。初めての山小屋で寝付けなかったので、深夜に1人で小屋の外に出て空を眺めてみると、そこにはダイヤモンドを散りばめたような凄い星空が広がっていた。キラキラと輝くたくさんの星々、そして白い帯のように流れる天の川。標高2700mの高地の空は澄み切っていて間近に星を眺めることができたのだ。だが、その頃はこの星空をカメラで撮影する技術など、とうてい持ち合わせてはいなかった。
南アルプスの朝 初めての山小屋泊りだった鳳凰山薬師岳で迎えた朝の景色に感動.
それから2年後の5月連休、再び鳳凰山を訪れた時のこと。登山の途中で九州からはるばる来られた堀川さんという方と知り合った。この方は星空の撮影にはかなり詳しく、後にメールや葉書で星空の写真を送っていただいたのだが、それは驚くような星が輝く写真の数々だった。鳳凰山で眺めた星空を思い出し、自分でもそういう風景を撮ってみたいと思うようになった。撮影の仕方など詳細に聞き、何度も試したが、全く人に見せられるようなものは撮れなかった。ひとつはピント合わせの難しさ、ファインダーから覗き見る星空は暗くて、とてもピントなど合わせられるものではない。もうひとつはカメラのノイズ低減機能がいまひとつだったことがある。
堀川さん(右)と山本さん(左).星空撮影のきっかけとなった出会い.鳳凰山地蔵岳にて.
残月と茜色の白根三山 地蔵岳で迎えた朝の風景.
そんな中で、偶然1枚だけうまく撮れた写真があった。笊ヶ岳山頂から撮影した月と金星が富士山の上で接近している「聖夜」と名付けた1枚である。今にしてみれば、絞りもシャッタースピードもいまひとつなのだが、ピントが上手くあったため、予想外の美しい写真になった。この1枚をきっかけに、星空の撮影に本格的にのめり込むようになる。カメラを1ランク上のものに変え、ライブビュー機能という星空撮影にはこのうえなく便利な機能を利用してピントがうまく合わせられるようになった。そしてもう1人、重要な人物との出会いがあった。オーロラと星空の撮影においては日本屈指の写真家、牛山俊男さんとの出会いだ。かほり屋というレストランで毎月スライドショーと講演会をされており、会の終了後にレンズやカメラの性能、Iso感度、シャッタースピードなど様々な点で御教示いただき、撮影技術は飛躍的に上達した。
聖夜 笊ヶ岳山頂から捉えた月と金星
笊ヶ岳山頂の朝
山梨百名山を1年半で踏破したことが大きな助けになって、一度歩いているコースは危険な岩場や鎖場が無ければ夜間でも歩けるようになっていた。そこで、2年くらい前から午後出発、山頂に夜到着するという常識外れの登山を行いつつ、星空の撮影に熱中した。オリオン座とさそり座くらいしか知らなかった星座のことも勉強して、様々な星座と星、そして季節によって何時ごろにどの方角に星座が昇っているかもわかるようになってきた。満天の星空の下、1人で空を見上げながら過ごす夜は、宇宙と自然の中に溶け込んだような気持ちに浸れる至福のひと時である。霧におおわれて何も見えなかった夜もあれば、-20℃の寒気で軽い凍傷になったこともあった。徹夜で撮影に没頭して、ヘトヘトで下山してきたこともあった。それでもなお、山の上から見る星空は私の心を引き付けて止まない。
北岳に南中する冬の大三角形 平成20年12月 栗沢山にて
めぐり逢う月と星たち 平成20年12月 杓子山にて
妖艶の森,丹沢ブナ林 平成21年3月 丹沢菰釣山にて
そうして撮影した山と星と月の写真は、ようやく人に見せられるくらいのレベルに達し、作品も約30点に至った。昨年9月の甲府市医師会文化祭に3点出展させていただき、さらに今年6月1日から28日まで甲府市徳行のアウトドアショップエルクの展示場をお借りして、23点の作品を展示した写真展を行なった。大盛況、とは言わないが、そこそこの来場者を迎えることができた。とはいっても、まだまだ未熟、素晴らしい星空に出会っても思うように写ってくれないのが夜の風景である。上手く写らないからさらに工夫して技術を磨くのが写真撮影の楽しさでもある。ただいま山と星空に夢中。
好評の『月と星の奏でる夜の風景』写真展は28日(日曜日)で終了とさせていただきます.山梨日日新聞に掲載していただいたこともあり,たくさんの方々にお越しいただき感謝の限りです.お花をいただいた皆様,ありがとうございました.
登山を始めたばかりの頃の4年前の夏、知人の誘いで南アルプス鳳凰山に登ったことがあった。初心者だったのにコース的には過酷な青木鉱泉からの道を登ったため、途中で完全にばててしまい、おまけに途中で飲み水が尽きるというとんでもない登山だった。初めての山小屋で寝付けなかったので、深夜に1人で小屋の外に出て空を眺めてみると、そこにはダイヤモンドを散りばめたような凄い星空が広がっていた。キラキラと輝くたくさんの星々、そして白い帯のように流れる天の川。標高2700mの高地の空は澄み切っていて間近に星を眺めることができたのだ。だが、その頃はこの星空をカメラで撮影する技術など、とうてい持ち合わせてはいなかった。
南アルプスの朝 初めての山小屋泊りだった鳳凰山薬師岳で迎えた朝の景色に感動.
それから2年後の5月連休、再び鳳凰山を訪れた時のこと。登山の途中で九州からはるばる来られた堀川さんという方と知り合った。この方は星空の撮影にはかなり詳しく、後にメールや葉書で星空の写真を送っていただいたのだが、それは驚くような星が輝く写真の数々だった。鳳凰山で眺めた星空を思い出し、自分でもそういう風景を撮ってみたいと思うようになった。撮影の仕方など詳細に聞き、何度も試したが、全く人に見せられるようなものは撮れなかった。ひとつはピント合わせの難しさ、ファインダーから覗き見る星空は暗くて、とてもピントなど合わせられるものではない。もうひとつはカメラのノイズ低減機能がいまひとつだったことがある。
堀川さん(右)と山本さん(左).星空撮影のきっかけとなった出会い.鳳凰山地蔵岳にて.
残月と茜色の白根三山 地蔵岳で迎えた朝の風景.
そんな中で、偶然1枚だけうまく撮れた写真があった。笊ヶ岳山頂から撮影した月と金星が富士山の上で接近している「聖夜」と名付けた1枚である。今にしてみれば、絞りもシャッタースピードもいまひとつなのだが、ピントが上手くあったため、予想外の美しい写真になった。この1枚をきっかけに、星空の撮影に本格的にのめり込むようになる。カメラを1ランク上のものに変え、ライブビュー機能という星空撮影にはこのうえなく便利な機能を利用してピントがうまく合わせられるようになった。そしてもう1人、重要な人物との出会いがあった。オーロラと星空の撮影においては日本屈指の写真家、牛山俊男さんとの出会いだ。かほり屋というレストランで毎月スライドショーと講演会をされており、会の終了後にレンズやカメラの性能、Iso感度、シャッタースピードなど様々な点で御教示いただき、撮影技術は飛躍的に上達した。
聖夜 笊ヶ岳山頂から捉えた月と金星
笊ヶ岳山頂の朝
山梨百名山を1年半で踏破したことが大きな助けになって、一度歩いているコースは危険な岩場や鎖場が無ければ夜間でも歩けるようになっていた。そこで、2年くらい前から午後出発、山頂に夜到着するという常識外れの登山を行いつつ、星空の撮影に熱中した。オリオン座とさそり座くらいしか知らなかった星座のことも勉強して、様々な星座と星、そして季節によって何時ごろにどの方角に星座が昇っているかもわかるようになってきた。満天の星空の下、1人で空を見上げながら過ごす夜は、宇宙と自然の中に溶け込んだような気持ちに浸れる至福のひと時である。霧におおわれて何も見えなかった夜もあれば、-20℃の寒気で軽い凍傷になったこともあった。徹夜で撮影に没頭して、ヘトヘトで下山してきたこともあった。それでもなお、山の上から見る星空は私の心を引き付けて止まない。
北岳に南中する冬の大三角形 平成20年12月 栗沢山にて
めぐり逢う月と星たち 平成20年12月 杓子山にて
妖艶の森,丹沢ブナ林 平成21年3月 丹沢菰釣山にて
そうして撮影した山と星と月の写真は、ようやく人に見せられるくらいのレベルに達し、作品も約30点に至った。昨年9月の甲府市医師会文化祭に3点出展させていただき、さらに今年6月1日から28日まで甲府市徳行のアウトドアショップエルクの展示場をお借りして、23点の作品を展示した写真展を行なった。大盛況、とは言わないが、そこそこの来場者を迎えることができた。とはいっても、まだまだ未熟、素晴らしい星空に出会っても思うように写ってくれないのが夜の風景である。上手く写らないからさらに工夫して技術を磨くのが写真撮影の楽しさでもある。ただいま山と星空に夢中。
好評の『月と星の奏でる夜の風景』写真展は28日(日曜日)で終了とさせていただきます.山梨日日新聞に掲載していただいたこともあり,たくさんの方々にお越しいただき感謝の限りです.お花をいただいた皆様,ありがとうございました.