日向八丁尾根(2日目)
9月23日 天候晴れ
前夜は大岩山の手前、駒薙の林の中にテントを張り、10時まで宴会をしてテントに入った。いつもならちょうど良い酔い加減ですぐに眠ってしまうところなのだが、翌日歩くルートの期待と不安のためか、なかなか寝付けずに夜が更けてゆく。未明3時半、今頃は甲府盆地の上に冬の大三角形が昇ってきている時間だろうが、とにかく眠らなければ、しかし写真も撮りたい・・・そういう葛藤の中で、シュラフにくるまって悶えていた。
薄明に並ぶ三山 右から甲斐駒ケ岳、鳳凰山、富士山。空に輝くいちばん明るい星はおおいぬ座のシリウス。
鳳凰山と富士山 今日もよい天気だ。
朝4時半、結局眠れそうもなかったのでシュラフを片付け、駒薙にカメラを持って出かける。東の空はもう朝焼けが始まっていて、オリオン座と冬の大三角形は遥か頭上高く昇ってしまっていた。時、既に遅しだ。星空の撮影と山歩きを両立させるのはやはり容易なことではない。それにしても甲府盆地の明りは眩しいほどに明るい。風も無く穏やかな朝、水平線を赤く染めてしだいに明け行く空、何度見ても山の上の朝は美しい。6時近くまで駒薙で夜明けの風景を眺め、テントに戻る。
朝焼けの甲斐駒ケ岳
本日歩く日向八丁尾根。いちばん右が大岩山、左の尖っているのが烏帽子岳、尾根の向こうのギザギザしているのが鋸岳。
小池さんと深沢さんはもう朝食を終え、テント撤収しているところだった。私もパンを食べて急いで自分のテントを撤収する。6時20分、いよいよハイライト、日向八丁尾根に向けて出発だ。一旦急斜面をコルに下りて登り返すと、40分ほどで林の中に南面(甲斐駒ケ岳側)の眺望がわずかに得られる大岩山に到着した。
大岩山山頂
いよいよ大岩山からの下降が始まる。降りたらもう戻って来られない。行くしかない。
問題はその先だ。大岩山の先にある小ピークまではほぼ明瞭な道があるが、その先の切り立った斜面に道らしきものはない。いよいよ大岩山からの急下降が始まる。右手(北側)に回り込んだほうが斜面が緩くて降り易いと聞いていたので、先端から少し戻ったところで下降を始める。木は生えてはいるがほとんど崖のような急斜面だ。ザイルを木の根元にひっかけながら慎重に下る。4~5回ザイルを出し、最後の急斜面はさらに傾斜が強く、垂直懸垂下降に近い形になるため、先にザックをザイルで下ろし、空身でザイルにぶら下がりながら下りた。斜面を水平にトラバースし、日向八丁尾根の基部に到着、大岩山からの下降に1時間10分かかった。
日向八丁尾根の取り付きから大岩山の斜面を振り返る。露出した岩の向こう側を下降したが、手前側は傾斜がきつくて厳しそうだった。向こう側で正解だったと思う。
一休みして日向八丁尾根に取り付く。以外にも尾根には明瞭な道がついていた。ところどころテープも絡み付いている。ところどころ道は途絶え、シャクナゲやツガの若木のヤブコギを強いられるところもあるのだが、予想外に良い道だった。しかし・・・烏帽子岳まで標高差であと300mほどのあたりでハイマツが現れ始めた。道はハイマツの下に隠れてしまっているようで、背丈以上もあるハイマツを踏み分けながら進むようになる。体力を消耗し、ヘトヘトになってハイマツを越えると一旦は普通の登山道になった。しかしそれも長くは続かず、烏帽子岳手前のコブで再びヤブコギとなる。しかも今度はかなりの急斜面だ。体力も技術も劣る私は、2人よりも遥かに遅れて薮をかき分けて進む。30mほど先で「おーい」と呼ぶ声が聞こえるので、そこを目指して突き進むしかない。急斜面の途中に古い針金が2本通っている場所があり、おそらく林業作業か何かの古い道がここにあったのだろう。今はただのヤブコギ道になってしまっている。やがて展望の良い岩の上にたどり着いた。
背丈よりも高いハイマツの薮が出現。烏帽子岳は向こうに見えるコブの先だ。
鋸岳が目の前に迫る
眺望の良い岩の上に飛び出す。眼下には甲斐駒ケ岳から延びる深い谷が見える。
水平よりやや低い高さに暴れ出した雲海が広がり、彼方に八ヶ岳や奥秩父山塊が時折姿を現す。足元には深く切れ込んだ谷が見える。ずいぶんと来たものだ、と思うのはまだ早い。烏帽子岳はもう一つ上のコブを越えないと見えてこない。巻き道があると聞いていたので、水平方向に進み道を探すがそれらしいものは見つからない。結局隣の小尾根から烏帽子岳の北側斜面を直登することになってしまう。ここは背丈を越えるツガの若木がびっしりと生えていて、足元も良く見えないようなヤブコギになる。しかも見上げるような急斜面だ。左に登ろうとしたらツガの大木が横たわり越えられず、右に回りこんで越える。ほとんど体力は尽き果てた、しかし烏帽子岳の山頂はまだ見上げる遥か彼方だ。遂にここで力尽きるのか!?そんな気さえした大変な登りだった。
烏帽子岳の巻き道・・・? ではなくてただの獣道だった。
着いた!! 烏帽子岳山頂だ。尾根の上には明瞭な道がついていた。
ツガのヤブコギが終わるあたりで小池さんと深沢さんが待っていてくれた。足を引っ張ってしまって申し訳ない。しかし、こっちも必死なのだ。呼吸が整うまで15分ほど休ませてもらって、再び出発、足がだいぶ疲れたが、なんとか踏ん張れそうだ。そしてようやく烏帽子岳に到着、時間は13時10分だった。日向八丁尾根の取り付きが8時半だったから、4時間40分かかって尾根を抜け出たことになる。烏帽子の尾根上には真直ぐに続く道がついており、おそらくは巻き道を探らずに尾根を直登していればこの道に出たのかもしれない。とにかくヘトヘトだ。深沢さんが差し出してくれた黒砂糖を舐める元気もないほどに息が上がってしまった。眼前に格好良い三角錐を描く甲斐駒ケ岳の絶景があるのに、三脚を立てる力が出ない。
甲斐駒ケ岳をバックに3人で記念撮影
10分ほど休んでようやく動けるようになってきた。改めて見上げる甲斐駒ケ岳の姿が凄い。肩のところを滝のように雲が流れ落ちて行く。三脚を立てて3人で記念撮影し、またへたりこんで座る。折角の景色だったのに休んでいるうちに甲斐駒ケ岳は雲におおわれてしまった。水分と軽食を補給して三つ頭に向って出発する。もう目の前に三つ頭が見える。ここから先は踏み跡のしっかりした道だ。いったん下ってまた緩く登り返すが、登り始めのところで登山道を横断する細い踏み跡があった。おそらくこれが見つけられなかった烏帽子岳の巻き道だったのだろう。いずれにせよ、なんとか登りつくことができた。
六合石室 修理されてきれいな小屋になっている。
甲斐駒ケ岳と木星 思いもよらぬ星空が出迎えてくれた。
三つ頭を越えて、小コブをいくつか越えて6合石室に15時15分に到着した。石室はボロボロの岩小屋と思っていたのだが、修理されたようで新しい屋根がついていた。中に入ると3~4人用のテントが一張と、横たわって寝ている若者が1人いた。10人は軽く寝れそうな立派な小屋だった。ここで寝ることもできたのだが、山の中に来たのだから山が見えるところで寝たい。今は曇っているが、ひょっとしたら星空も見られるかもしれない。私は即座にテント泊りを決めて、道を戻って白砂の広場に行き、ザックを降ろして水を汲みに行く。水場は白砂のところから仙丈ケ岳側の斜面を10分ほど降りたところにある。この道は現在通行禁止になっている赤河原への道らしい。水を汲んだ後の登り返しがきつく、途中2回休んで白砂のテント場に戻ると、小池さんと深沢さんがテントを張っているところだった。小屋の中は酒を飲んで宴会するような雰囲気ではなかったようで、こちらに移動してきたのだ。小池さんたちのテントの中で本日無事に日向八丁尾根を通過できたことを祝ってビールで乾杯する。私がここまで来られたのはまさに2人のおかげである。感謝でいっぱいだ。夕食をとりながら、ビール3分の1とウィスキー1杯飲んだあたりで、昨日の寝不足と本日の疲れが一気に出てきたようで睡魔が襲ってきた。午後6時、あたりが薄暗くなってきたところで本日は早々に自分のテントに戻って寝させてもらうことにした。
仙丈ケ岳と天の川 流星が天の川の中を流れる。
テントと星空 空に輝くのはアルクトゥールス、山は鋸岳。
空架ける天の川 久しぶりに見るきれいな天の川だ。
新しい下着に着替えて寝る準備をしていると、外で小池さんが「月が出ているぞー」と呼んでいる。夕方6時半、曇っていた空はうそのように晴れ上がり、仙丈ケ岳の左裾に三日月が沈んで行くところだった。甲斐駒ケ岳の上には木星も輝き始めている。思いもよらぬご褒美が山の上で待っていた。静かに暮れ行く空、そしてしだいに光り輝いてゆく星々、久しぶりに見る済んだ星空を感動しながら見上げる。夜7時になると天の川がはっきりと見え出した。そして昨日見逃したさそり座が横たわり、仙丈ケ岳の上に沈んで行く。頭の上には夏の大三角形が輝き、それを貫くように天の川が流れ、さらに北の空にはカシオペア座、さらに北極星を挟んで北斗七星が輝いている。一晩中見ていても飽きない空なのだが、さすがに疲れたので、さそり座が沈む8時まで空を眺め、テントに戻って寝た。
明日は甲斐駒ケ岳に登り、黒戸尾根を歩いて竹宇駒ケ岳神社の駐車場に戻るだけだ。長いルートだが時間は十分にある。横になったと思ったらあっという間に眠りについてしまった。
9月23日 天候晴れ
前夜は大岩山の手前、駒薙の林の中にテントを張り、10時まで宴会をしてテントに入った。いつもならちょうど良い酔い加減ですぐに眠ってしまうところなのだが、翌日歩くルートの期待と不安のためか、なかなか寝付けずに夜が更けてゆく。未明3時半、今頃は甲府盆地の上に冬の大三角形が昇ってきている時間だろうが、とにかく眠らなければ、しかし写真も撮りたい・・・そういう葛藤の中で、シュラフにくるまって悶えていた。
薄明に並ぶ三山 右から甲斐駒ケ岳、鳳凰山、富士山。空に輝くいちばん明るい星はおおいぬ座のシリウス。
鳳凰山と富士山 今日もよい天気だ。
朝4時半、結局眠れそうもなかったのでシュラフを片付け、駒薙にカメラを持って出かける。東の空はもう朝焼けが始まっていて、オリオン座と冬の大三角形は遥か頭上高く昇ってしまっていた。時、既に遅しだ。星空の撮影と山歩きを両立させるのはやはり容易なことではない。それにしても甲府盆地の明りは眩しいほどに明るい。風も無く穏やかな朝、水平線を赤く染めてしだいに明け行く空、何度見ても山の上の朝は美しい。6時近くまで駒薙で夜明けの風景を眺め、テントに戻る。
朝焼けの甲斐駒ケ岳
本日歩く日向八丁尾根。いちばん右が大岩山、左の尖っているのが烏帽子岳、尾根の向こうのギザギザしているのが鋸岳。
小池さんと深沢さんはもう朝食を終え、テント撤収しているところだった。私もパンを食べて急いで自分のテントを撤収する。6時20分、いよいよハイライト、日向八丁尾根に向けて出発だ。一旦急斜面をコルに下りて登り返すと、40分ほどで林の中に南面(甲斐駒ケ岳側)の眺望がわずかに得られる大岩山に到着した。
大岩山山頂
いよいよ大岩山からの下降が始まる。降りたらもう戻って来られない。行くしかない。
問題はその先だ。大岩山の先にある小ピークまではほぼ明瞭な道があるが、その先の切り立った斜面に道らしきものはない。いよいよ大岩山からの急下降が始まる。右手(北側)に回り込んだほうが斜面が緩くて降り易いと聞いていたので、先端から少し戻ったところで下降を始める。木は生えてはいるがほとんど崖のような急斜面だ。ザイルを木の根元にひっかけながら慎重に下る。4~5回ザイルを出し、最後の急斜面はさらに傾斜が強く、垂直懸垂下降に近い形になるため、先にザックをザイルで下ろし、空身でザイルにぶら下がりながら下りた。斜面を水平にトラバースし、日向八丁尾根の基部に到着、大岩山からの下降に1時間10分かかった。
日向八丁尾根の取り付きから大岩山の斜面を振り返る。露出した岩の向こう側を下降したが、手前側は傾斜がきつくて厳しそうだった。向こう側で正解だったと思う。
一休みして日向八丁尾根に取り付く。以外にも尾根には明瞭な道がついていた。ところどころテープも絡み付いている。ところどころ道は途絶え、シャクナゲやツガの若木のヤブコギを強いられるところもあるのだが、予想外に良い道だった。しかし・・・烏帽子岳まで標高差であと300mほどのあたりでハイマツが現れ始めた。道はハイマツの下に隠れてしまっているようで、背丈以上もあるハイマツを踏み分けながら進むようになる。体力を消耗し、ヘトヘトになってハイマツを越えると一旦は普通の登山道になった。しかしそれも長くは続かず、烏帽子岳手前のコブで再びヤブコギとなる。しかも今度はかなりの急斜面だ。体力も技術も劣る私は、2人よりも遥かに遅れて薮をかき分けて進む。30mほど先で「おーい」と呼ぶ声が聞こえるので、そこを目指して突き進むしかない。急斜面の途中に古い針金が2本通っている場所があり、おそらく林業作業か何かの古い道がここにあったのだろう。今はただのヤブコギ道になってしまっている。やがて展望の良い岩の上にたどり着いた。
背丈よりも高いハイマツの薮が出現。烏帽子岳は向こうに見えるコブの先だ。
鋸岳が目の前に迫る
眺望の良い岩の上に飛び出す。眼下には甲斐駒ケ岳から延びる深い谷が見える。
水平よりやや低い高さに暴れ出した雲海が広がり、彼方に八ヶ岳や奥秩父山塊が時折姿を現す。足元には深く切れ込んだ谷が見える。ずいぶんと来たものだ、と思うのはまだ早い。烏帽子岳はもう一つ上のコブを越えないと見えてこない。巻き道があると聞いていたので、水平方向に進み道を探すがそれらしいものは見つからない。結局隣の小尾根から烏帽子岳の北側斜面を直登することになってしまう。ここは背丈を越えるツガの若木がびっしりと生えていて、足元も良く見えないようなヤブコギになる。しかも見上げるような急斜面だ。左に登ろうとしたらツガの大木が横たわり越えられず、右に回りこんで越える。ほとんど体力は尽き果てた、しかし烏帽子岳の山頂はまだ見上げる遥か彼方だ。遂にここで力尽きるのか!?そんな気さえした大変な登りだった。
烏帽子岳の巻き道・・・? ではなくてただの獣道だった。
着いた!! 烏帽子岳山頂だ。尾根の上には明瞭な道がついていた。
ツガのヤブコギが終わるあたりで小池さんと深沢さんが待っていてくれた。足を引っ張ってしまって申し訳ない。しかし、こっちも必死なのだ。呼吸が整うまで15分ほど休ませてもらって、再び出発、足がだいぶ疲れたが、なんとか踏ん張れそうだ。そしてようやく烏帽子岳に到着、時間は13時10分だった。日向八丁尾根の取り付きが8時半だったから、4時間40分かかって尾根を抜け出たことになる。烏帽子の尾根上には真直ぐに続く道がついており、おそらくは巻き道を探らずに尾根を直登していればこの道に出たのかもしれない。とにかくヘトヘトだ。深沢さんが差し出してくれた黒砂糖を舐める元気もないほどに息が上がってしまった。眼前に格好良い三角錐を描く甲斐駒ケ岳の絶景があるのに、三脚を立てる力が出ない。
甲斐駒ケ岳をバックに3人で記念撮影
10分ほど休んでようやく動けるようになってきた。改めて見上げる甲斐駒ケ岳の姿が凄い。肩のところを滝のように雲が流れ落ちて行く。三脚を立てて3人で記念撮影し、またへたりこんで座る。折角の景色だったのに休んでいるうちに甲斐駒ケ岳は雲におおわれてしまった。水分と軽食を補給して三つ頭に向って出発する。もう目の前に三つ頭が見える。ここから先は踏み跡のしっかりした道だ。いったん下ってまた緩く登り返すが、登り始めのところで登山道を横断する細い踏み跡があった。おそらくこれが見つけられなかった烏帽子岳の巻き道だったのだろう。いずれにせよ、なんとか登りつくことができた。
六合石室 修理されてきれいな小屋になっている。
甲斐駒ケ岳と木星 思いもよらぬ星空が出迎えてくれた。
三つ頭を越えて、小コブをいくつか越えて6合石室に15時15分に到着した。石室はボロボロの岩小屋と思っていたのだが、修理されたようで新しい屋根がついていた。中に入ると3~4人用のテントが一張と、横たわって寝ている若者が1人いた。10人は軽く寝れそうな立派な小屋だった。ここで寝ることもできたのだが、山の中に来たのだから山が見えるところで寝たい。今は曇っているが、ひょっとしたら星空も見られるかもしれない。私は即座にテント泊りを決めて、道を戻って白砂の広場に行き、ザックを降ろして水を汲みに行く。水場は白砂のところから仙丈ケ岳側の斜面を10分ほど降りたところにある。この道は現在通行禁止になっている赤河原への道らしい。水を汲んだ後の登り返しがきつく、途中2回休んで白砂のテント場に戻ると、小池さんと深沢さんがテントを張っているところだった。小屋の中は酒を飲んで宴会するような雰囲気ではなかったようで、こちらに移動してきたのだ。小池さんたちのテントの中で本日無事に日向八丁尾根を通過できたことを祝ってビールで乾杯する。私がここまで来られたのはまさに2人のおかげである。感謝でいっぱいだ。夕食をとりながら、ビール3分の1とウィスキー1杯飲んだあたりで、昨日の寝不足と本日の疲れが一気に出てきたようで睡魔が襲ってきた。午後6時、あたりが薄暗くなってきたところで本日は早々に自分のテントに戻って寝させてもらうことにした。
仙丈ケ岳と天の川 流星が天の川の中を流れる。
テントと星空 空に輝くのはアルクトゥールス、山は鋸岳。
空架ける天の川 久しぶりに見るきれいな天の川だ。
新しい下着に着替えて寝る準備をしていると、外で小池さんが「月が出ているぞー」と呼んでいる。夕方6時半、曇っていた空はうそのように晴れ上がり、仙丈ケ岳の左裾に三日月が沈んで行くところだった。甲斐駒ケ岳の上には木星も輝き始めている。思いもよらぬご褒美が山の上で待っていた。静かに暮れ行く空、そしてしだいに光り輝いてゆく星々、久しぶりに見る済んだ星空を感動しながら見上げる。夜7時になると天の川がはっきりと見え出した。そして昨日見逃したさそり座が横たわり、仙丈ケ岳の上に沈んで行く。頭の上には夏の大三角形が輝き、それを貫くように天の川が流れ、さらに北の空にはカシオペア座、さらに北極星を挟んで北斗七星が輝いている。一晩中見ていても飽きない空なのだが、さすがに疲れたので、さそり座が沈む8時まで空を眺め、テントに戻って寝た。
明日は甲斐駒ケ岳に登り、黒戸尾根を歩いて竹宇駒ケ岳神社の駐車場に戻るだけだ。長いルートだが時間は十分にある。横になったと思ったらあっという間に眠りについてしまった。