今年の5月連休は、月例の早い月が夜半に西の空に沈み、深夜に昇って来る天の川は月の影響を受けずに絶好の条件で観察できる、撮影には好条件が揃っていた。アストロガイドで星の位置を確認した昨年の年末から、今年の5月連休は可能ならば仙丈ケ岳に登り、未明に小仙丈カールの脇に立ち昇る天の川を見に行きたいと思っていた。あとは天候と自分の体力・気力次第ということになる。4月下旬から18㎏の重荷を詰めたザックを背負って職場の地下から屋上まで、標高差にして40mほどの階段を昇り降りするトレーニングを行ったが、途中から写真展の準備が忙しくなり不十分なままに連休を迎えてしまう。天気予報と天気図を見る限りでは5月3日か4日が狙い目だ。4連休初日の3日、早起きして伊那市側からバスを利用して北沢峠に向かうことにする。
仙流荘のバス時刻は8時と10時、8時のバスに乗るために5時に甲府の自宅を出発し、双葉スマートインターから中央道に乗ろうとしたところ、双葉サービスエリアでガソリンを補給している時に冬靴を忘れて来たのに気づく。さすがに標高3,000mを超える仙丈ケ岳に6本歯アイゼンで登るのは難しい。中央道を走る前に双葉インターで折り返して自宅に靴を取りに戻った。1時間ほど時間をロスし、もはや8時のバスに乗るのは困難となった。行き先を変えて八ヶ岳に行くか、それとも以前から狙っている鞍掛山か駒薙から甲斐駒ケ岳を狙うか・・・車を走らせながら迷ったが、今回仙丈ケ岳に行かないとまた月の位置との関係で狙っている星の構図は数年後になってしまうかもしれない。到着が夜になったとしても、行かないときっと後悔するだろう。10時のバスで北沢峠を目指すことにする。
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仙流荘からのバスは歌宿(うたじゅく)まで行く。ここから北沢峠まで徒歩で6㎞、約2時間の行程だ。
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道路脇に雪の残る道。向こうに見えるのは甲斐駒ケ岳。
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北沢峠長衛荘到着。時間は午後1時を回っている。
6㎞で標高差300mほどある長い道だったが、バスに同乗していた千葉県流山市から来れれた登山者の方と仲良くなり、山談義や世間話をしながら歩いたおかげでさほど苦痛も無く順調に歩くことができた。長衛荘でソバを食べて昼食とし、ここでお別れして私は小仙丈ケ岳を目指して登り始める。
夏に来るとジグザグの歩き易い道がついている仙丈ケ岳だが、冬になると尾根を直登するルートになるため、2合目を過ぎたあたりからかなりの急登の道が延々と続く。20㎏超えの荷物はトレーニング不足と体重が増えた私の体にはかなり堪えた。午後5時、3時間ほどかかってなんとか5合目まで到着したが、既に足がガクガク、小仙丈ケ岳まで標高差で300mほどだが、登るのはかなり厳しそうだ。空模様が悪く、風が吹き出したため、本日は5合目でテント設営し、早めに寝て深夜に小仙丈ケ岳を目指すことにする。
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まだたっぷりの雪が残る仙丈ケ岳の2合目付近。
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3合目を過ぎたあたりから急登が始まる。
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5合目付近の切れ間から甲斐駒ケ岳が見えるようになる。雲行きが怪しい。
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5合目大滝の頭に到着。既にヘトヘト、足に力が入らない。本日はここでテント設営することにする。
夕食をとって夕方7時前には眠りについた。目を覚ましたのは12時少し前だった。テントの窓から空を見上げると一面の星空が広がっていた。軽食をとって登る準備をしていると、外でなにやらガサガサと歩く音がする。テント窓から外を覗いてみると、こんな時間に登って行く人がいる。私と同じ人種か、それとも寝ぼけて夢でも見たのか??午前1時、5合目を出発する。
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雲が晴れ、星がきらきらと輝く。5合目テント脇から撮影。
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森林限界を超えた6合目あたりから見上げる仙丈ケ岳と天の川。右手に明るく輝くのは火星。
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北岳の空を流れる天の川。6合目付近から。
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甲斐駒ケ岳と鋸岳。その上には天の川が流れる。6合目付近から。
小仙丈ケ岳への登り斜面は思いのほか傾斜がきつく、苦戦する。暗闇の中の登りなのでこの登りがどこまで続くのか見通しがわからず、とにかく滑り落ちないように足場を確認しながらひたすら登る。そして未明3時半ごろ、ようやく小仙丈ケ岳に到着する。凄い星空だ。北岳の右脇から甲斐駒ケ岳にかけて、明るい雲の帯のように天の川が空を架けている。疲れたが、登って来て良かった。先程テント脇を通過して行った登山者は私と同じく星空を撮影にやって来たカメラマンだった。機材が凄い!中判のフィルムカメラにフルサイズのデジタルカメラ、さらに太い三脚が2本。私のカメラ機材の3倍近い重量があるだろう。夜9時に北沢峠を出発して登って来たという、その技術と根性も凄い!
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星のきらめく仙丈ケ岳 右脇の星が火星、その真上高く輝くのがアルクトゥールス、小仙丈カール左上が土星、その左手に輝くのがさそり座アンタレス。
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北岳に立ち昇る天の川
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あっという間に薄明の時間が始まる。水平線が明るみ始め、空が紫~青く映る。
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鳳凰山に昇って来た金星
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小仙丈カールと天の川
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薄明の仙丈ヶ岳と天の川 上のカットとともに、今回撮りたかった映像。
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天の川の輝きは夜明けの空に吸い込まれてゆく。
薄明の青い空を流れる天の川は、ほんの10分ほどで夜明けの空に消えて行く。なんとか撮影にリベンジすることができた(と思う)。
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朝焼けに浮かぶ甲斐駒ケ岳と八ヶ岳
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北岳と富士山
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日の出
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モルゲンロートの小仙丈カールを期待していたがあまり染まらなかった。
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夜明けの北岳と富士山。若干霞んでいる。
日の出の前から足元のハイマツの中でグエッグエッという雷鳥の鳴き声が聞こえていたが日の出とともに目の前につがいの雷鳥が姿を現した。夜明けの風景そっちのけで雷鳥を追いかけて撮影するが、なかなか良い位置で止まってくれない。
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日の出とともに姿を現した雷鳥。
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ライチョウと小仙カール
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ライチョウと仙丈ヶ岳
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晴天の仙丈ケ岳
すっかり夜が明け、時間は朝5時になった。5月の仙丈ケ岳山頂は一度登っているので行かないつもりだったが、雲一つない好天に恵まれた仙丈ケ岳、登らないのは罪悪のように感じた。眠い目と疲れた足に気合を入れて、山頂を目指して登ることにする。朝日を浴びた雪の斜面が眩しく輝いている。それにしても凄い眺望だ。中央アルプスから御嶽山、乗鞍岳、そして北アルプス全山がずらりと並んで見える。凄い迫力だ!
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眩しく輝く仙丈ケ岳
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雪原と乗鞍岳・北アルプスの山並
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またきつい登りが目の前に迫る。
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ようやく見えた仙丈ケ岳山頂。
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藪沢カールと白き山並
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山頂への最後の登りでまたもや雷鳥が登場。宙を舞って目の前に舞い降りて来た。
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ようやく到着、仙丈ケ岳山頂。小仙丈ケ岳から2時間半もかかった。
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中央アルプスから乗鞍岳、北アルプスの山並みがずらりと並ぶ。あまりお目にかかれない凄い眺望。
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大仙丈ヶ岳と塩見・荒川岳
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北岳と並ぶ富士山
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甲斐駒ケ岳。もう登って来る人の姿が見える。
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早春の南アルプスの山並
小仙丈ケ岳で一緒に星空を撮影した若者は私よりも先に到着してもう下山して行った。若者とはいえ、あれだけの荷物と寝不足はかなり堪えたようで、私と同様に疲れた様子だった。これは星を撮るカメラマンの宿命なのだろう。8時になると、もう山頂近くまで登って来た登山者が現れはじめる。さっさと下山し、10時にテント到着した。昼食をとってテント撤収、11時から下山し始め、午後1時前には北沢峠に下山できた。そしてまた疲れる林道歩き、午後3時15分歌宿発のバスに乗って仙流荘に戻った。
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きつい登り斜面を続々と登山者がやって来る。
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北岳と富士山。下りの小仙丈ケ岳付近から。
帰りの車の運転がまた眠くて大変なのだが、ちょうど東京に帰るカップルの2人が乗り継ぎのバスが無くて困っていたので、私の車に乗せて甲府まで行くことにした。車の中で楽しく山談義しながら運転したおかげで睡魔に襲われる事も無く甲府に到着できた。
絶好の天候に恵まれ、仙丈ケ岳の星空リベンジ撮影できただけでなく、いろいろな出会いがあった実りの多い仙丈ケ岳山行だった。