今回手術をしてくれたのは武蔵野赤十字病院、泌尿器科の田中良典先生でした。
前立腺という鶏卵大の臓器の10ケ所からサンプル細胞を取ったところ、ガン細胞が5ケ所で見つかりました。
田中先生が名医だ!、と直感したのはその治療法の説明を聞いている時でした。手術して臓器ごと取ってしまう。ホルモンや薬物投与で治療する。放射線で焼き殺す。この3つの治療方法の一長一短を実に明快に説明するのです。実際に治療の経験を重ねた結論を簡潔に話しているのだ、と直感しました。簡潔というよりブッキラ棒というくらいです。かねがね外科医はブッキラ棒のほうが名医と勝手に思い込んでいたので、即刻、手術で切徐をお願いしました。
手術後、田中先生を何故直感的に名医と確信してしまったか?という問題を考え続けました。老人ですから今後も何か病気になります。判断が間違っていたら、お医者様を選ぶ時に直感的な判断が出来なくなります。
お医者様との信頼関係を作るには、待った無しの直感的判断が要求されと信じています。
病室は4人部屋でいずれも田中良典先生に切って貰っています。手術の内容は前立腺を切り取るという単純なものでない人もいました。膀胱ガンになり膀胱を一部切り取り、切ったあとは小腸を少し切って移植して穴をふさぐというような神業的な手術をして貰った人もいました。3人の同室の患者から聞くと、「田中さんは、最後の最後まで患者の立場で考える医者です!」と感動しているのです。
私の直感的な確信は正しかったのです。
外科医が名医であるための条件は二つです。今回、田中先生に切って貰った3人と私自身の体験からの結論です:(1)腕が良いこと、(2)患者の立場で考えられる人であること。この二つに尽きます。
この二つの条件をもう少し詳しく説明します。
(1)腕が良いとはーーー
日進月歩の基礎医学の進歩を理解し、即刻、自分のしている治療に取り入れる応用能力が高いこと。そして外科医である以上、手術の技術が抜群に繊細、巧妙であり、手術中のどのような変化にも対応方法を決断できる人であること。
(2)患者の立場で考えられる人とはーーー
患者の退院後の日常の生活の利便と快適さを失はないよう考える人であること。またその為の治療方法を執拗に考える姿勢を崩さない人であること。
皆様は、名医の条件を如何にお考えでしょうか?
尚、今回の手術には病棟常駐のお若い村田先生と豊田先生も参加して3人で執刀してくれたのです。田中先生とこの2人の若いお医者様との違いは直感的に歴然としています。若いお二人は上の二つの条件うちの(1)には問題が無いと思いました。しかし(2)の条件が田中先生ほどではない印象を受けます。若いからそう見えるだけかも知れません。全責任を与えれば素晴らしい仕事をするかも知れません。
今回3人のお医者様の仕事ぶりを見て過去の自分が恥ずかしくなりました。大学に於ける工学の研究には人間の命がかかっていません。会社の中における開発研究のように損得のリスクがありません。すべて税金を使うのでリスクがないのです。随分と無駄な研究をしたものだと、恥ずかしい思いです。
医者は尊敬すべき職業とも言います。その理由は上の(2)の条件が有るためではないでしょうか?(1)腕が良い。という条件はどんな分野の職業でもある程度要求されるのですから。
名医を探す方法は続編で書いてみます。(続く)
下の写真は手術後の私の爽快な気分を表していますので、挿絵として掲載します。昨年の秋にスバルライン、富士山五合目で撮影したものです。