昨夜、テレビで「おくりびと」を2時間20分見ました。笑いあり、ペーソスあり、涙ありの娯楽作品です。娯楽作品としては「寅さんシリーズ」と同じくらいの一級作品です。とにかく、もう寝ようと思いつつストーリーの展開が奇想天外で、ついお終いまで見てしまいました。オーケストラでチェロを弾いていた主人公の本木雅弘が楽団の解散で職を失い、郷里の山形へ引き揚げ、そこで納棺師という仕事にいやいやながら引き込まれて行きます。お葬式の時、遺体を棺に収める前に体を拭き清めたり、お化粧をしたり、美しい着物を着せてから送り出します。遺族の悲しみを和らげるように丁寧に、愛情をこめて遺体を美しくして棺に収めるのです。別れた母子のお涙頂戴のエピソードも混じえて、父子物語が底に流れた人情話が主です。本木雅弘が6歳の時、家に奥さんを残して他の女と出て行ってしまった消息不明の実父がある漁港の番屋で死にます。警察から連絡があり、主人公がしぶしぶ遺体を引き取りに行きます。奥さん役の広末涼子が見守るなかで丁寧に納棺の準備をしていると憎んでいた実父の遺体の握りしめた掌の中から丸い可愛い小石が転げ落ちます。父が女と一緒に母と子を捨てて出奔する前に父と交換した小石です。それを握りしめながら実父が死んで行ったのです。一緒にいたはずの女とはずいぶん昔に別れたのです。ダンボール箱一個だけの遺品を残して、捨てた昔の妻や息子の思い出だけを大切にして侘しい漁港で雑役夫をしながら野たれ死ぬのです。父を憎んでいた本木雅弘が涙を流しながら遺体を清めて、死化粧をして行きます。その場面で映画は終わりになります。チェロの美しい曲を本木が弾く場面があちこちに挿入されていて美しい音響効果を上げています。カメラは丁寧に撮っていて、小津安次郎風のクラシックが撮り方をしています。兎に角、立派な娯楽作品です。さて宗教を信じている私としてはどうしても書きたいことがあります。それは主人公役をした本木雅弘さんが納棺師が書いた本を読んだ時、これは、必ず自分が演じて映画にしたいと考えたそうです。この感性がとても重要だと信じています。死んだ人を慈しみ、優しく、丁寧に送りだすことは残った家族の願いです。それを映画の主題にする。そして自分がそれを演じる。
本木雅弘さんの豊かな人間性が素晴らしいのです。
さて、皆様はこの映画をご覧になりましたか。娯楽作品としては見る価値があります。ご覧になった方々のご感想をコメントとして頂ければ嬉しく思います。
今日も皆様のご健康をお祈り致します。 藤山杜人