ヨットの趣味の楽しみ方は色々です。よくレース派と巡航派に2つに分類されます。レース派は快速で帆走し、レースで優勝する楽しみ方をする人々で、巡航派はレースには出ないで静かにあちこちを帆走しながら風景を楽しむ人々です。私は後者に続します。
しかし、その他に、私はヨットに詰っているヨーロッパ伝統工芸の見事さをじわじわ楽しんで時を過ごすことが多いのです。ヨットの構造と作り方は2000年以上にわたるヨーロッパの造船工芸が積み重なって現在のような最終構造になったのです。決して産業革命以後の現代技術は使われていません。と言っても、補助機関として積んである小さなジーゼルエンジンだけは例外ですが。
ヨットに触って構造を観察しながら、ヨットの運動性能を確かめる度に人間の叡智の奥深さに圧倒されます。心が豊かになります。そこで今回はヨットの構造と運動性能をしめす写真を一枚ずつ下にしめします。
この構造の何が凄いのでしょうか?三つだけ説明します。その第一は船底に固定した重い鉄板のキールがあることです。キールの重さは船全体の重さの50%から30%もあります。ですから強風が吹いて、船が傾いても横転しないのです。
もう一つの構造の素晴らしさは2枚の帆が三角形になっていて上端ほど狭くなっていることです。こういう形にすると風の力がマストの上の方よりも下の方へ強く作用します。船が傾くとセイルも傾いて風を受ける有効面積が小さくなります。一方キールが船を立ち上がらせようとします。この2つの効果で絶対に横転しないという完璧な構造になっています。
最後の驚くべき構造は三角形の帆の外側を風が高速で流れるようにすると吸いつけらて船が風上に登れるのです。このとき船底のキールが船の横流れを止めているのです。
勿論、風上へ直角に登ることは不可能です。風上に向かって45度の方向までは登れるのです。それが経験で積み上げた限界です。ずっと後になって、この限度はベルヌーイの定理から証明されたのです。45度ずつジグザグに登れば、走行距離は長くなりますが、結果として風上に向かって直角に登れることになるのです。すばらしい構造だとおもいませんか?
江戸時代の日本の帆船は帆の形が長方形であり、その上、横滑りを止めるキールが船底についていなかったのです。追い風でしか走れないのです。それでは難破することが多くなります。ヨーロッパで発達したヨットの構造上の秘密は他にも沢山ありますが、今回はここで止めます。
運動性能の凄さは、船の小回り性能です。そして強風がふいても傾きはするが絶対に横転しないで走るという運動性能です。構造上、絶対に横転しなのです。この写真には傾いても悠々としている私の後ろ姿が写っています。小さい後ろ姿ですが、くつろいでいる姿勢がお分かりと思います。
ヨットの最高の面白さは風を左前方45度の角度で受け、風上に向かって登っている時にあります。風を受けて船体は15度から20度右へ傾いて走ります。風に向かっているので顔に風が吹きつけます。ですから実際の船の速度より、とてもスピードが出ているように感じられます。爽快なスピード感が楽しめます。その上、何時も風に向かって45度になるように舵を小刻みに調整します。それがまた面白いのです。クローズホールドという走り方です。かなり走ったら船首の方向を90度変えてジグザグに登ります。この走り方が面白いのです。
それに比較して、追い風を受けて風下へ下る走り方は楽しくないのです。追い風なので、体と風が一緒に走るので船が止まっているような気分になります。しかし最短距離を走れるので船の有効速度は早いのです。この走り方をランニングと言いますが、あまり楽しくありません。
遊ぶのが目的の場合はスリルがあった方が面白いので安定度を犠牲にして、傾き角度を大にし、スピードも上げる構造にします。
いかがでしょうか?ヨーロッパ人の伝統的な叡智の一端がお分かり頂けましたでしょうか?次回は大型帆船の構造を説明したいと思います。(続く)