安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

高内春彦著 「VOICE OF BLUE」(リットーミュージック)

2018-09-14 20:05:03 | 読書

1970年代から80年代初めまでは、アメリカのジャズシーンに関心があったので、downbeatなどの雑誌もたまに読んでいました。しかし、それ以降は、新しいものについていけなくなったり、生活も忙しくなり全般に関心が遠のいていました。今回、久しぶりに現在の状況を知りたくて、購入した本です。

    

著者の高内晴彦さんは、ギター奏者で大学卒業後1980年に渡米。84年には、マイク・スターン、ジャコ・パストリアスなどとともに練習セッションを始め、ブルーノート、ミケルズ、ヴィレッジゲートなどに出演。共演したミュージシャンには、ポール・モチアン(ds)、バリー・ハリス(p)、ジョン・ヒックス(p)、ウェイン・ショーター(ts)、スタンリー・タレンタイン(ts)など。自己のリーダー作を何作も出しています。

(目次概略)

第1章 デューク・エリントンの遺産
第2章 ビバップの時代
第3章 モードの真実
第4章 エスニシティとジャズ
第5章 ロックとジャズ
第6章 米国ジャズ界の現状

なお、裏帯には、本書の内容が簡便にまとめられているので参考に掲載しました。

(感 想)

演奏現場での体験を踏まえた記述は、たいへん興味深いものです。まず、第1章の『アメリカではエリントンという存在がイコール「伝統」であり、ジャズの主流である』という記述には、うなづきつつも驚かされました。僕は、マイルス・デイヴィスが中心だと考えていたからです。エリントンの数々の功績に触れ、影響の大きさや「エリントン・チェンジ」というコード進行まであることが記載されています。

第2章では、究極のビバップは、ジョン・コルトレーンの1959年録音の「Giant Steps」で、ジャズ史でも特に重要だと記し、詳しい解説をしています。『僕にとっては、J.S.バッハ以来の完璧な作曲家がコルトレーンです。悪魔と契約したのではないかと思うくらいです。』と著者は述べていて、コルトレーンを高く評価しています。

第3章では、ギル・エヴァンスに師事した著者ならではの記述があります。モードというとマイルス・デイヴィスですが、『モード・ジャズは、エリントンが持っていた印象派的な要素を、ジャズの中に再び蘇らせたものともいえる』と記して、この章でもエリントンの名前が出てきました。

第4章、第5章では、新しさを米国以外の音楽に求めたり、ロックやフュージョンの音楽や演奏家について触れられています。第6章が最も読みたかったところですが、米国ジャズ界の現状として、「メニューが出揃った現在のジャズ・シーン」とし、1990年代以降は、JAZZの顕著な進化はあまり見られないが、プレイヤー単位では、特別にセンセーショナルな人がいるとして、楽器ごとに名前が挙げられています。

また、6章では、ピアノについて、『王道な弾き方だけど、ちょっと新しい響きを取り入れることが1990年代以降のピアニストの特徴』でそれが行き着く先として、回帰が起こるだろうとし、『ウィントン・ケリーやレッド・ガーランド・スタイルの発展系で、しかも今っぽいというものが、この先にでてくるのではないでしょうか。』とあります。実際に出てくればよいなと期待したいところです。

なお、音楽的な解説については、僕にはよくわからない部分も多く飛ばし読みもしましたが、ピアノなどで和音を確認しながら進めば、理解しやすいかもしれません。ミュージシャンの視点から書かれた面白い本でした。

(著者の演奏写真)