安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

原 尞著 「ミステリオーソ」(早川書房)

2019-01-27 20:07:02 | 読書

原 尞(はら りょう)さんが書いたハードボイルド・シリーズの十四年ぶりの新作「それまでの明日」(2018年、早川書房刊)を年末年始休みに読みましたが、それが面白かったので、1995年に発行されたエッセイ集「ミステリオーソ」を改めて読んでみました。 

   

ミステリオーソは、「神秘的な」という意味の英語ですが、ジャズファンにはセロ二アス・モンク作曲のブルースの曲名として知られています。

(大まかな目次)

はじめに

飛ばない紙飛行機
観た 聴いた 読んだ
トレンチ・コートの男たち
作家について
ジャズについての四つの断章
視点
小説を書くということ
〈未発表初期短編〉番号が間違っている
小説以外の沢崎シリーズ

(感 想)

「はじめに」という巻頭の文章にあるように、1988年に長編『そして夜は甦る』を世に出して作家への道を歩みはじめて以来、7年間の新聞などに書いたエッセイとそれに類する文章に著者が手を加えてまとめた本です。好きな映画、音楽(とくにジャズ)や小説のこと、加えて自伝的なことが内容となっています。

自伝的な部分では、破天荒な道をたどって作家になった軌跡が描かれていて、面白いです。学生生活、ジャズピアニスト、映画の助監督やシナリオライター、ミステリ作家と、サラリーマン生活ばかりの僕には、興味深く、また、魅惑的な生活ぶりが描かれていて、この部分がハイライトでした。

ただ単に思いつくままに、ハードボイルドの小説を書いているのではなく、いわばその修行としての膨大な読書や文章のスタイルの確立など、作家となるための努力もうかがわれ、著者の小説がさらに面白く読めるだろうと思われる記述もあります。

著者は、「アメイジング・バド・パウエル」の中で、『一般には美しいと考えられている”楽音”の周囲を、人間臭くて情熱的な”雑音”がびっしりと取り巻いている。これに突き動かされなければ、ほとんど音楽を聴いたことにはならない。優れた音楽は美しくない、少なくとも単に美しいだけではないと言いきってもいい。』と述べています。

そして、バド・パウエルの『ウン・ポコ・ロコ』と『チュニジアの夜』はそういう美しさとは対極にある音楽であると記し、バド・パウエルとチャーリー・パーカーがジャズの巨匠の中でも屈指の即興家であるとしています。ジャズに関する文章は、美しい音楽に惹かれがちな僕にはかなり示唆に富んだものでした。

   

デューク・エリントンと、彼の楽団に対してたいへん高い評価をしています。

好きな映画として「死刑台のエレベーター」、「サムライ」、「狼は天使の匂い」が挙げられています。

「トレンチ・コートの男たち」では、ハンフリー・ボガードの魅力やジャン・ギャバンの魅力が語られます。

 【最新作 それまでの明日】