午後、田村写真の田村さんから朗報が届く。 91年、私は本業を脇に置いて、忘れられ廃れて久しい写真の古典技法『オイルプリント』の再現に挑んでいた。神田の古本街に通っては、当時の文献を集め、実験をくりかえしていた。市販のペーパーなどないので、工業用ゼラチンを溶かして紙に塗る。ところが当時の文献どおりにやっても紙に厚塗りが出来ない。ゼラチン層が薄いと諧調が出ないので、独自で厚塗りの工夫をしていった。室温が高いとゼラチンがいつまでも固まらず、よってペーパー作りは冬の寒い時期に限られていたが、文献には特に季節のことなど書かれておらず、このままでは厚塗りができないはずで、不思議であった。田村さんからの連絡は、アメリカより購入した写真用ゼラチンを使った所、工業用ゼラチンとは粘度が違っており、むしろ室温が高くないと、すぐに固まってしまうということであった。昔使われていたゼラチンと同質のゼラチンであろう。 オイルプリントに関してネットの情報といっても私のサイトくらいしかなく、けっこう参考にしてチャレンジしている人がいると聞く。これで私のオイルプリントのページも改訂版を制作しなければならないだろう。過去に京都造形大学、西武百貨店でオイルプリントのワー^クショップを行ったが、最初のペーパー作りのハードルが高かった。田村さんは将来的に、ゼラチンペーパーの制作販売も考えているという。事前にペーパーが用意されていれば、こんな面白い技法はないだろう。(おそらく子供にやらせて、もっとも喜びそうな写真技法でもある) 私は一人再現に挑み、個展まで開いたこの技法に愛着があり、人物像を作り写真を撮り、それをオイルにするという、これが私の作品の最終形態だと考えてきた。作りためたデータも、すべてオイルプリント化可能である。あの頃、写真家でもないのに、私は何をやっているのだ、と内心ハラハラしながら止められなかった。頭で止めても止まらない時は、それに従うほうが結果が良いと思ったのは10年後にオイルプリントの個展を開いた時である。私はこういうことをやろうとしていたのか、と。出来がもう一つの表層の脳よりマシななにかが私の中にある。以来“それ”に従ってきた。 次回の個展には紙を作ってオイルまで手が回らないと思っていたが、これで久しぶりにオイルプリントを披露することになるかもしれない。
過去の雑記
HOME