実家近くにあるマッサージに出かける。母や妹も行ったそうだし、昨日遊びに行った地元の先輩の陶芸家Sさんも薦めるので行ってみた。プロのマッサージを受けるのは始めてである。なんとなく行きそびれていた。 私は床屋が嫌いで、ずっと自分で切っている。床屋が苦手になったのは、生えてもいない髭を剃ってもらうときに、床屋の親父の鼻息が顔に当たり、あの親父の顔がここにあると思うと可笑しくてたまらず、それをこらえるために子供の頃ずっと苦しんだせいである。その間太ももをつねったりした。あとで考えれば、髭はそらないでいい、といえばよかっただけのことだが、断ってはいけないような気がしていたのである。 マッサージがそれと同じとはいえないが、他人とそんな形で接するのがなんとなく億劫であった。しかしなにしろ背中がとてつもなく張っているのは父親譲りで年季が入っている。行ってみることにした。 カーテンで仕切られたベッドに寝転がる。開始早々「何やってたんですか?」。「何やってたって?いや特に何も・・・。」「指が入っていきませんね」。「何かされてたんでしょ?私なんかいくら鍛えてもこんな腕になりません。」数十年間、ずっと安静にしていただけなのだが。「タバコを止めてから太るばかりで」。マッサージ師は陸上選手のような青年だが、体重をかけて思いっきりやってる感じが伝わってくる。「でも何かされてたんでしょ?」しつこい。ずっと可愛らしいお人形を作ってます、といえる感じではない。「昔ちょっと力仕事を」。鉄骨運びのアルバイトは大昔の話である。「やっぱり」。がんばってやってもらっているのは判るので、申し訳なくて寝てしまうのをこらえるが、一回鼻が鳴ってしまった。言葉の端に、『ここまで思いっきりやってるのに寝るか?』という感じが伝わってくる。「1回、2回でどうなる、という感じではありませんね。今日は筋肉にちょっと起きてもらえれば」。 1時間、まったく物足りないが、思った以上に良いものであった。お愛想で「すいません。今日は災難でしたね」。といったら、笑顔で特に何も応えてくれなかった。
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