明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



妹の滋子の証言によれば温は『ヴァガボンド・タイ』なるものを着用したらしい。めぼしい知人に聞いてみたが誰もどんな物か知らない。おそらく『ボヘミアン・タイ』というクタッとしたリボン状のネクタイではないかと想像した。いかにも、という感じである。温の姪のオキュルスの東さんに伺うとと、たぶんボヘミアン・タイであろうとの返事をいただいた。 写真に残っておらず、しかし目撃談その他で事実として残る、こういうことこそやらないとならない。 写真が1カットしか残っていないブラインド・レモン・ジェファーソンを作った時のことを書いたが、盲目のレモンは辻々に立って演奏し、ギターのネックにぶら下げたブリキのカップに金を集めた。何セントだろうと音で聞き分けたらしい。家に帰り、ウィスキーを女房が盗み飲みしたことも、瓶を振ればその音で判ったという。残された写真にはブリキのカップはぶら下っていなかったが、この目撃談により、確実な情報であろう、とぶら下げた。こういうところに創作のかいがある。誰も知らないからといって創ってよいところと創ってダサくなることはあるように思う。 さらに温は藤のステッキを愛用したらしい。先日愛用のシルクハットを撮影させていただき、プリント作品に登場させるつもりだが、ステッキは棺に収めたと伺った。私は『中央公論アダージョ』第3号で『チャップリンと日本橋を歩く』を手掛けた。本棚を見上げると、何かちょこっと見えるのだが、あれがその時制作したステッキではないだろうか。

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温像の立ち姿に着手しながら、まだ眉のことを考えている。写真の中で特に眉が太く濃く見えるのが3カット。一つは十代と思しき、写真館で和服で撮影した物。あとの2つは映画の撮影所に取材に訪れた時のものである。屋外の光線でたまたま影ができ、と思いたいところだが、それならば鼻の下に影がないのはおかしいことになる。 他の写真、中でも特に渡辺温といえばかならず使われる、有名な写真の眉は、どちらかというとあっさりしていて、濃い眉といえない。つまり眉を濃くしたら、多くの人には妙にみえてしまう、ということである。しかし温の妹滋子の証言によれば、温は俳優のメル・ファーラーに似ていたという。メル・ファーラーはどちらかといえばくっきりとした眉の持ち主である。 温は二十歳の時にパーマをかけ母親に叱られている。シルクハットをかぶり通勤したお洒落なモダニスト渡辺温は、眉をいじっていた可能性があるのではないか。なくはないだろうが、それはちょっと、という気もする。 これも写真館で撮影された坊主頭の子供時代の写真がある。これはほとんど眉が飛んでしまっている。あるとしたらむしろ足していたのかもしれない。結論としては太くはあるが、光線によっては飛んでしまう程度に濃くはない。 もう良いだろう・・・。

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