明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



今年の深川の本祭りが中止になったのは残念であった。こんな年にこそ、と思うのだが。 三島の『仮面の告白』に、神輿について描かれている場面がある。『祖母は仕事師を手なづけてゐて、脚のわるい自分のために、また孫の私のために、町内の祭りの行列が門前の道をとほるやうに計つてもらつた。本来ここは祭りの道順ではなかつたが。仕事師の頭の手配で行列は毎年多少の迂路を敢えてしながら、私の家の前をとほるのが習はしになつた。』 ある年の祭りの日、突然神輿が門内になだれ込み、幼い三島は大人に手を引かれ、とっさに二階に逃げる。『植え込みが小気味よく踏みにじられ躙られた。本当のお祭りだつた。私に飽かれつくしてゐた前庭が、別世界に変つたのであつた。神輿は隈なく練り廻され、潅木はめりめりと裂けて踏まれた。何が起こつてゐるのかさえ私には弁へがたかった。』『何の力が、かれらをこのような衝動に駆つたのか、のちのちまでも私は考へた。それはわからない。あの数十人の若者が、何にせよ計画的に、私の門内へ雪崩れ込まうと考へたりうすることがどうしてできよう。』

手なづけられた仕事師の頭はともかく、三島の祖母が神輿のルートを変えさせたことに、若者達はずっとムカついていたと思うのだが?『私を目覚(おどろ)かせ、切なくさせ、私の心をしらぬ故苦しみを以って充たした。それは神輿の担ぎ手たちの、世にも淫らな・あからさまな陶酔の表情だった。・・・・・・』だとしたら当然そんな表情になるだろう。
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