『黄金虫』を手掛けるかどうかは判らないが、ポーの作品にはどうしたって髑髏は要る。以前プラモデルで、夜中に塗装していたら、ノリ過ぎて醤油で煮染めたようになってしまったのを持っていた。下地に夜光塗料まで塗ってある。来客があると、親戚のオジさんが戦中満州で~とひとしきりビビらせたものだが、見えない所に置いてくれ、と怖がるのは100パーセント男で、目を輝かせてにじり寄り、触ろうとするのは女である。触られたらバレるので、女性客の場合は手の届かない場所に置く必用があった。随分長い間本棚の上にあったが、東北の地震で落ちて壊れた。再びネットで探して注文した。 そういえばその髑髏。捜査する刑事に見せるはめになったことがある。と書くと本物と思い込んだオッチョコチョイに通報され。と思われそうだが全く違う。 未だに未解決の一家殺人事件がある。被害者宅に人形特集の雑誌があり、そこに掲載されている作家を刑事が一人づつ訪ねている。ということであった。よほど捜査が難航しているのであろう。結局、私のところに来たところで手がかりがあるはずもなく、一度で終わるはずであった。しかし私が余計なことをいったばかりに。 夜光塗料を何か使いませんか、といわれ、それを塗った物をストロボを使って撮影すると光る。という話をした。聞くと犯人の遺留品に夜光塗料が付着していたということであった。そいつを念のため見てこい、と上司にいわれたらしい。見当違いを説明しても、野暮が背広を着ている連中には通じない。その刑事はハンサムで爽やかな好青年であったが、目だけは相手の眼底を覗き込むような業界人特有のもので、あの調子で部屋中を眺め回されたらかなわない。階段の踊り場までブツを持って行った。昼下がり、煮染めたような頭蓋骨を巡りコソコソする2人。途中エレベーターが上がって来る気配がしたので、とっさに刑事に髑髏をパスしたのはいうまでもない。
『世田谷文学館』展示中
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