制作中の人物は作り始める前、太い眉、という印象があった。しかしそれは作るとなると簡単な話ではない。 小学校時代、同級生の家に戦前の漫画『のらくろ』があった。お父さんが防空壕に隠して守ったそうだが、そのお父さん曰く「白人は眉毛の所が出っ張ってるだろ?連中は猿に近いんだ」。モノクロ写真であると、眉毛とその彫の深さによる陰で、境が判然としないことがある。ややこしくしているのは、比較的鮮明で、1カット眉の薄い写真があることである。評伝の中にも目撃証言に、“薄い眉”というのがあった。そう考えてみると、制作当初から疑っていたのであるが、この人物、撮影時に化粧をしていた可能性がある。眉も描いているのではないか。それは有り得るであろう。世界中に流布する、写真の古典技法の左右逆像を鵜呑みにした肖像は、少なくとも、その人物には見える。しかし、ここで私がようやく見つけた1枚の眉の薄い写真と、当時の証言により、どいつもこいつもシビアさが足りない、と眉の薄い像にしたらどだろうか。何しろ写真によっては、ゲジゲジ眉毛の人物。といっても良いくらいなのである。これは私が写真師の修正を見破った、漱石のワシ鼻とは話が違う。 写真という物は、本人がこう撮られたい、という願望が写っているものである。漱石のワシ鼻の修正は、写真師の独断のはずはない。つまり漱石は、鼻筋のまっすぐの人に見られたい人。と私は思う。本当のところは判らないが、仮に眉を描いていたとしも、本人はそう見られたかったことは間違いがない。 『今作っているのは誰でしょうクイズ』は正解者が7名を超えた。よって足許もおぼつかない、前後不覚状態の人物に抽選をお願いすることになる。今週の土曜日が終わるまで、御応募をお待ちしています。トップページのメールから件名をクイズにてお送り下さい。
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