明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



永井荷風の着彩の禿げたところを塗り直したりしていて、会場に着いたのは2時は過ぎていただろう。久しぶりにまじまじとプリントを見た村山槐多は、私が岐阜の製陶工場に勤めていたころ、街の書店で入手した雑誌で始めて知った。青春のイメージである。 20歳で陶芸学校を出たばかり、先の長さに呆然としながら、それでも工場長のいったことを聞き逃さず、仕事中にノートを取る訳にもいかず、屋根裏部屋に帰ってからノートに書いていた。そこから毎日のように数キロ歩いて屋台を改造した飲み屋に出かけた。歩いて行けるのはそこしかない。そこでは20代の人間など見た事が無く、工場の職人が多かった。向こうからすると、東京からわざわざこんなところで工場に勤める変わった若者という感じであったろう。みんな飲んだくれているかというとそんな人は一人もいない。私が酔っぱらってあぜ道に落ちた時、「あぜ道に落ちたのあんなが始めてだよ」と店の人に言われたが、翌日工場に行くとみんな知っていた。これでは飲んだくれてはいられない。休みの日は工場のおばさん達がドカドカ入って来て部屋を片付け始めるのにも閉口した。なんであんなに飲まずにいられなかったか、私なりに耐えていたのだろう。なにしろ金歯むき出して笑う工場のオバちゃんが、次第に可愛く見えて来るくらいの状況であった。 作家シリーズ最初の6人のラインナップに槐多を加えずにはいられなかった。先日も書いたが、人形以上の大きさにプリントした時、作者の私が込めたつもりがない意志が立ちのぼって見えるのが不思議である。こと槐多に関しては、その表情を見ていて思い出すのはあの頃の自分である。いつか当時のノートが出て来た時、その孤独感を思い出し、陶芸家になりそこなうとも知らずにいる、二十歳の私のいじらしさ?に耐えられずに捨てた。

石塚公昭幻想写真展-生き続ける作家たち- 2018年7月25日(水)~9月2日(日)

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『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載9回『牡丹灯籠 木場のお露』

展評銀座青木画廊『ピクトリアリズムⅢ』

2016年『深川の人形作家 石塚公昭の世界』 youtub








































































































































































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