明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

一人  


オイルプリントは転写することにより、カラー化が可能である。大正十五年に陸軍技術本部の鈴木陽は天然色写真展覧会について『日進月歩の世の中ですから異なった理論も發見されるでせうし又種々の改良考案が發明されると思ひます、例えば天然色オイル法も理論上出來る筈ですが日本でやつておられる人を聞かないことを考えると未だ々天然色寫眞の開拓すべき餘地があると思はれます。』と云っている。大正15年といえば、すでに市販の印画紙を使用するブロムオイルの時代なので、オイルの天然色化をこころみる人はいなかったと思われる。 ある飲み会で鯨を食した時に、ドジョウ汁を持って来た人がいて、今地球上で、腹に鯨とドジョウが収まっているのは我々だけであろう、と思った私だが、念のためにくさやも食べておいた。 何がいいたいかというと、こんなことをしているのは地球上で私だけである、と思った時に快感物質が涌き出る私は、それならば、とオイルプリントカラー化を試みたが、被写体まで作らなければならない私は、こんなことまでしていられないと試作一点で挫折したが、後にネットでオイルかブロムオイルで素晴らしいカラー作品をものにしている海外の作家を見つけて危ないところだった、と思ったものである。この玉座はあんたに譲ろう。 一ヶ月越える個展も、残り5日である。猛暑が続き台風も来たが、地下鉄銀座駅を上がってすぐに三愛ビル。銀座4丁目と思えないしずかさで、ついイビキをかいて寝てしまいそうで、というか寝てしまうのは困ったことであるが、 全44点、これだけの点数はなかなか展示の機会はない。 乱歩のいう“群衆の中の孤独”あれを私は最も恐れている。地球上で一人の時のみ私は幸せである。そのために私はやってきた。良い作品は私のイメージ通りの場合であり、悪い作品はそうではない場合である。自分のことさえ未だに良く判らないので、他人にとって良いか悪いかまでは判らず、お勧めするのはどうかと思うのだが、ここに来なければ観られない作品があることだけは間違いないと思う。

石塚公昭幻想写真展-生き続ける作家たち- 2018年7月25日(水)~9月2日(日)

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本日25日発行
『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載10回『劇場の永井荷風』


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