架空のミュージシャンから始まり、実際したミュージシャン、実在した作家のシリーズと移行して来たが、幼い頃から写生など、目の前の物を見ながら何かを描いたり作ったりを嫌って来た私としては、過去の人物を、写真を参考に作るということは、私らしさを失うことになる、と思い込んでいた。当初の架空のミュージシャンシリーズは、未だにあのシリーズが良かったという方がおられるし、テレビ出演もしばしばあった。まさに童貞でなければ成せない作品であり、実在した人物を写真を参考に作ることは、私にとって、童貞を失うに等しい覚悟であった。その代わりに、写真を始めたこともあり、その人物に対する解釈を表現する面白さを手に入れた。 写真を参考にするのは頭部だけで、あとは好きにやらしてもらって来た。人物制作の8割は頭部制作に費やすが、紙幣に人物像が使われるのは万人にとって人の顔が最も微妙な異変に気がつく物だからで、花鳥風月ではそうは行かない。