英語道(トラスト英語学院のブログ)

トラスト英語学院(長野県伊那市)塾長。英語指導や自身の英語学習雑感、趣味のランニングと筋トレについて綴ります(^^)

一部少数の悪役となる

2019年05月19日 | 2020年大学入試制度改革
ここにきて、いよいよ大学入試の英語における民間試験活用の綻びが露呈し始めた。

このままでよいのか?本当に立ち止まってきちんと検証しないと、拙速の一言では済まされない事態になりかねない。

ようやくNHKのニュースでも取り上げられて、問題視されるようになってきた。これまで「4技能」の合言葉の下、従来の「読む」力をベースとした大学受験英語のスタイルが卑下され、「なんちゃってスピーキング」がもてはやされてきた。そこへ今回のお粗末なライティングの採点である。

NHK NEWS WEB より
ニュースの中でも取り上げられているが、伊那の高校生も多く受けているGTECライティングのこの答案。

「地域をきれいにするためにできることは何だと思うか、1つ取り上げて理由を書きなさい」という英作文の問題で、生徒の解答用紙には「I think to inportant」としか書かれておらず、文法や単語のつづりも間違っているのに、160点満点中41点が与えられていたそうだ。信じられない。一方で、18行ある解答欄に、そこそこの正しい文法で目いっぱい書かれていた答案は、131点だったという信頼おける塾長先生のツイッター画像もあった。公平性に欠けているとしか思えない。

ここで2020年度大学入試制度改革の要点・問題点をまとめておこう。

【現在決まっていること】
・現在の高2生が大学受験を受ける時から、センター試験が変わる。
・英語に関しては、発音や文法問題がなくなり、読解中心となる(すべてマーク)。
・英語は、当初4年間はセンター試験と外部試験の受験を義務付ける。
・外部試験は高校3年時の4月~12月までに受けた2回が有効となる。
・当初4年間、外部試験をどう使うかは大学の判断に依る。
・5年目以降は、つまり、現在の中1生の大学受験時から、英語は外部試験のみとなる。
・外部試験は、英検など8種類のみが認められている。ただし、4技能すべて一日で完結する試験とする。つまり、英検は、新しい英検となる。

【問題点】
・外部試験のライティングとスピーキングの採点の公平性。
・海外業者や学生のアルバイトによる採点も認められることによる信頼性。
・1点を競う大学入試で、「英検2級合格」「CEFR A2」など紋切り型では、公正な実力差を表すことは不可能。
・採点の公平性が期されない限り、学力評価の客観性が担保されない。
・来年4月からの外部試験受検なのに、最も多くが受験するであろう一日完結型の英検がいまだにどんなものか分かっていない。


新制度適用まで一年を切っているのに、こんな状況での見切り発車は許されません。民間試験導入は止めるべきです。0.1秒、1cmのために努力しているアスリート同様、1点のために受験生は頑張っています。公平性が担保されないものを大学受験で使ってはなりません。

従来通りのセンター試験と二次試験で十分です。何が問題なのでしょう。「4技能」という美辞麗句に踊らされているとしか思えません。そんなに「話す」力を望むなら、大学に入ってからやればいい。従来通りの受験英語で「読む」力がある人は、トレーニングを積めば話す力は身につきます。読む力もないのに表層的に話す力を大学受験で求めよとするから、総体的な英語力は落ちていると感じている教育現場の人間は、私だけではないはずです。

きつい言い方かもしれませんが、高卒程度とされる英検2級でも、全く大した実力ではありません。私の息子も含め中学生で合格する学生は多いですし、合格していても、指導していると「え、その英語力でよく合格したね」と感じる場面に多々遭遇します。英検などの資格試験は学習を進める上での目標にはなりますが、実力を担保するものではないということが、こういうところでも分かるのです。従来の「読む」力を根幹とした受験英語で骨太な英語力を養っておかないと、先に残るのは後悔のみです。

次々に綻びが出てきますが、英検などの民間試験が悪いんじゃありません。制度改革を急いだ結果、"改悪"の方向に進んでいるのに気づいているのに、立ち止まる勇気がない国の責任が大きいのです。


最後に、大学受験英語の神髄を世に知らしめた、我が長野県出身の碩学・伊藤和夫先生が亡くなる12日前に記された『予備校の英語』のあとがきからの抜粋を紹介させていただきます。22年前、すでに今日の状況を予言されたような記述で、鳥肌が立ちます。
予備校が滅び、大学受験の中で受験英語が必要でなくなる時代が来れば、今の「色男」対「悪役」という体制のうち、後者が退場することになる。色男は大喜びだろうが、その時代に残るのは会話英語とカルチャー英語という、うまそうな匂いだけで実体のない、ごく薄っぺらなものでしかないと思う。ただそれですべてが終わるはずはない。この日本人の中で、一部少数ではあっても英語の読める人間が必要だという事態は必ず存続する。

(伊藤和夫『予備校の英語』あとがき より引用)

私はどんな事態になろうが、一部少数の人間であり続け、英語の読める人間を育ててまいります。


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