なぎのあとさき

日記です。

パヴェーゼ「美しい夏」

2009年08月22日 | 読書メモ
夏の海も太陽も、
夏の緑も花も出てこないけど、
美しい夏。

若い娘のジーニアとアメーリアが、
ボーイフレンドのアトリエや、
カフェをうろうろしてるだけの話だけど、
美しい夏なのだ。

ジーニアは、
画家のモデルのアルバイトをする
アメーリアのことが、
とても気になる。
そして、画家の男の子に恋をする。

男の子たちは、
女ごころなんて全くわからない、
おばかさんたち。

自分のことばかりの娘たちは、
かわいらしい愚かさで、
美しい夏をだいなしにしてしまう。

夏が過ぎて、
ジーニアは絶望しながらも、
誰かを待ち続ける。

《あたしは年をとったんだわ、それだけのことよ。
美しい盛りは終わったのね》

と思うジーニアは、まだ16歳。

《あたしたち、さよならもいわなかったわね》

ラストは電車で読んでいて、
思いがけず涙。

ふとした瞬間、
夏の夜の香りを感じて、
立ち止まってしまう、
ジーニア。

《きっと来るわよ。季節はめぐっているんですもの》

アメーリアは、
「ちょび髭はあなたに気があるのよ」、
「あなたのお医者」っていうセリフや、
無駄なことはいわないところ、
ちょっといじわるなところが
Cにそっくりで、
ジーニアは若い頃の自分のようで、
心の奥のほうの記憶が浸される本だった。
グィードやロドリゲスのたまり場も、
身に覚えあるし。

ジーニアもきっと、
何年かたって、
自分のことから解放されたら、
夏の世界の美しさに気づくだろう。

読み終えた次の日も、
余韻が残っていて、
家ではジャニスが聞きたくなり、
チャリの道行きに、
深くて、つやが戻ってきた緑、
湿気のなくなった風、
きれいすぎる夕焼けに、
晩夏を感じつつ、
アイポでNight Swimmingなんか聞いてたら、
目がうるんでしまう。

美しい夏。

《きっと来るわよ。季節はめぐっているんですもの》
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