中川自民党政調会長の「核保有議論」誘発発言は閣内及び自民党内では目立ったところでは麻生外務大臣からエールを受けたものの、他は「非核三原則」順守の守りにあって、中川昭一の一人相撲の感がある。但し本人は発言が中国・北朝鮮に牽制の役を果たす効果があったとしているらしい。そのことが10月29日(06年)の『朝日』朝刊に記事となっている。
『本人には自負?』
「中川氏は一連の発言に、国内の議論喚起と同時に北朝鮮や中国をけん制する意味を込めている。
15日に中川氏が核保有論議の必要性に言及し、ブッシュ大統領が日本の核保有に対する中国の懸念に触れ、中国の唐家琁国務委員が訪朝して北朝鮮の核実験をめぐる緊張状態はひとまず緩む方向に向かった。中川氏は記者会見で『結果的にそうなった』としながらも、自身の発言が中国の説得外交につながったとの見方を示した。だが、中川氏の発言と中国の動きの関連は定かでなく、政府・与党内でもこれを積極的に認める声はない」
金正日は自身の独裁体制の維持・保証をすべてに優先する絶対条件としている。そのためには当面の絶対必要事項として緊急に優先させなければならない事態は、日本が核保有に向かうかどうかも分からない動静よりも既に崩壊しかかっている国内経済にトドメを刺し、金正日体制を内側から瓦解させかねないアメリカの金融制裁の解除であろう。
いわば中川昭一の「核保有論議」誘発発言はどう逆立ちしても、北朝鮮の当面の脅威たり得る代物とはなり得ない。5年先に、あるいは早くて3年先に脅威足り得ても、その間に金正日体制が崩壊したのでは意味を成さないからである。
ということは中川発言は牽制足り得ないということであろう。金正日が金融制裁の解除と同時にアメリカからの攻撃を受けない保証をアメリカ自身から受け、国内経済の回復を図って、自身の独裁体制を磐石なものとしたら、日本の核保有など、例えあったとしてもどうでもいいに違いない。国家体制さえ維持できたなら、自身の血を受け継いだ者を国家指導者として後継者に選び、父親である金日成から受け継いだ金王朝を北朝鮮の地に永遠の生命で打ち建てていく、そのことを自らの夢としているように受け取れるからである。日本の天皇の男系による万世一系に対抗すべく、金家の血を北朝鮮の地に永遠の歴史・伝統・文化とする。将軍様の男系による万世一系を北朝鮮にも系統づける。
すべてはアメリカの出方にかかっているのである。日本の出方ではない。それを「『結果的にそうなった』としながらも、自身の発言が中国の説得外交につながったとの見方を示した」とは我田引水に過ぎるのではないのか。「つなが」るには当事者である北朝鮮にとって今やアメリカが握っているとも言える生殺与奪の権に匹敵する牽制球とならなければならない。
北朝鮮には核を使う恐さがある。日本は核保有後、使えるのか。北朝鮮に日本が使う恐さを与えることができると言うのだろうか。
北朝鮮はブッシュ・アメリカの北朝鮮攻撃の可能性を真に恐怖している。日本の核がそれほどの恐怖を金正日に与え得ると考えているのだろうか。単に核を保有していますで終わるのではないだろうか。
日本が核保有に向かうどころか、核保有議論が核保有議論のままで終わったなら、いわば言葉のままで終わったなら、次回の核保有議論は『狼と少年』の少年の「狼が来た」の言葉と化すだろう。実際に保有したとしても、使う恐さを与えることができないとしたら、やはり〝狼少年〟の効果しか与え得ない可能性さえ生じさせかねない。
アメリカが既に核と核ミサイルを大量に保有していて、北朝鮮を包囲している。日本が新たに保有したからとって、北朝鮮に与える影響はさして変わるまい。違うことと言ったら、、同じ核ミサイルを喰らうとしたら、アメリカの核を喰らうのは構わないが、日本のには喰らいたくないというメンツの問題だけではないか。
前々から思っていたことだが、あらゆる状況・場面を考えることができない単純な頭の持ち主である。どうも強がりだけで言っている印象を受ける。お坊ちゃんが強がってボクシングの真似でもするようにである。