野党審議拒否のコストと日本の借金のコスト

2007-02-05 03:19:31 | Weblog

 不思議の国ニッポンのジャーナリスト

 2月4日(07年)の朝日テレビ『サンデーモーニング』

 司会の田原一郎が民主党政調会長の松本剛明に対して、「柳沢厚労相が辞任しない限り、審議拒否は永久に続けるのか続けないのか、審議に応じて柳沢不信任案の提出で応じるべきではないか、出すのか出さないのか」とか、「辞任要求と審議拒否を愛知県知事選挙と北九州市長選挙に利用しようとしているのではないか」とか、田原自身はいつものことだが単刀直入な物言いを使ってホンネを聞き出そうと思ってしたことだろうが、元々単刀直入には答えようがない問題だとは単細胞だから考えが回らないらしい。

 田原総一郎の頭の中とは違って、世の中はそんなに単純にはできていない。民主党の松本は「永久にというわけではない」とか、「不信任案提出は今のところ予定していない」とか、「県知事選と市長選は柳沢問題とたまたま重なったでけで、選挙に利用しようとしているわけではない」と、まあ、そんなことを言って、ごく当たり前のことを答えていたが、田原は白黒はっきりさせようと、「どっちなんです、どっちなんです」とせっつく。

 戦術は一般的には状況の変化に応じて常に変化させていくものである。例え最後まで同じ戦術を押し通すにしても、状況に変化がなかったか、変化しても同じ戦術でよしと見たか、あるいは戦術を変えるだけの頭が働かなかったか、いずれかであろう。

 いわば状況が変化すれば、戦術も変えていくのだから、現時点で白黒など簡単にはつけることなどできないことを無理につけさせて、誰それはこういった、俺が言わせたのだと手柄にしたいだけのことだろう。名前は知らないが、血圧が高くて脳梗塞の危険信号一歩手前のような赤っぽい崩れかかった顔をしたコメンテーターのオッサンが(郵政造反組復党問題が持ち上がった時の、そのあと脳梗塞で倒れた平沼赳夫に似た赤っぽい表情)「国会が1日空転することで、どれくらいのコストがかかるか、昔とは全然違う・・・・」といった口の挟み方でトンチンカンなことを言い出した。何とまあ、こんな人間がジャーナリストでございます、コメンテーターでございますとジャーナリズム世界のヒナ檀に座っていられる。不思議の国のニッポンならではの光景だと思った。

 「インサイダー」編集長の高野孟が「数のバランスの問題で、不信任案を出しても1発で否決されてそれでおしまいとなるから、審議拒否という手に出たと思います」と分かりきったことを解説をして見せた。

 賛否の大勢は決まっているという既成事実を前にしてすべての事を行わなければならない。野党にとっては柳沢発言自体は問題だが、問題が大きいからこそ、その大きさに応じて不信任案提出・与党反対多数の否決という分かりきったパターン・分かりきった儀式で終わらせてはならない、安倍内閣を追いつめるための絶好のチャンスでもあるのだ。与党側から言わせたら、不信任案提出は逆に柳沢問題を幕引きとし、安倍内閣にこれ以上の深手を負わせないで済ますことのできる思う壺となる。野党はそれを知っているからこそ、簡単には不信任案は出せない。出す、出さないの言質も、審議拒否をどれくらい続けるのかの言質も取られることはできない。

 与党は国会審議に応じよ、審議してこそ政治だ、議論してこそ政治だと応じないことがさも政治の道に反するようなことを言っているが、立場を変えれば、同じことをするだろう。例え審議に応じて論戦を挑んだとしても、野党が議論は尽くされていない、もっと審議に時間をかけよと要求したとしても、与党は審議打ち切りの動議を提案、賛成多数で可決し、同じ賛成多数で与党の法案を可決・通過させる。議席数の趨勢でパターンは最初から決まっているのである。柳沢失言を安倍内閣追及のチャンスとしないで、そう簡単には決まりきったパターンには乗れないだろう。

 田原総一郎にしても分かっていながら、当たり前なら口にできない言質を一つでも取って自分の手柄にしたいばかりに、はっきりとは言えないことを言わせようと小賢しい振舞いに出ているのだろう。

 ここら辺で野党も開き直って、そうだよ、不信任案提出・否決のワンパターンで終わらせないための審議拒否だよ。日本のために何が何でも安倍内閣を倒すという国民のためになる絶対善の前に、少しぐらいの駆引きはするる。県知事選にだって利用するよ。地方選挙で自民党候補に勝つことも安倍内閣を追いつめる一助にもなるんだから、当たり前のことじゃないか、と強気に出た方がいいのではないか。

 勿論、審議拒否が野党に不利になる状況が生じるようになれば、それなりの口実を設けて審議に戻る。戦術は状況に応じて変化させなければならないからだ。勿論裏目に出ることだってある。すべては安倍内閣を倒して、日本を美しい国にするための駆引きなんだ、柳沢厚労相が辞任しない限り、審議拒否は永久に続けるのか続けないのかなどと、バカなことは聞かないでくれぐらいは言ってやれ、言ってやれ。

 バカなコメンテーターが「国会が1日空転することで、どれくらいのコストがかかるか」などとたわけたことを言っていたが、自民党が戦後ほぼ一党独裁状態で政権を引き継いできて積み上げた国の莫大な借金800兆円のコストに比べたら、1ヶ月や2ヶ月の国会空転でも、たかが知れたコストでしかないだろう。地方の200兆の借金にしても地方が自民党の支配下にあるようなものだから、自民党政治がつくり出したコストと言える。合計1000兆の借金という名のコストの中に政治家のムダ遣いばかりではなく、中央省庁のムダ遣いと地方自治のムダ遣いが大きな顔をして席を占めているのは断るまでもない。そのような無責任な借金主である自民党を倒すことこそが、日本という国にとっての最大の善になるはずである。

 自民党に言わせれば、借金もつくったが、日本を経済大国に押し上げ、国民の生活を豊かにしたのは自民党政治のお陰だと言うだろうが、戦後の1ドル=360円の円安固定相場とその後の変動相場下でのほぼ一貫した円安に力を借りた貿易黒字、さらにアメリカ経済の恩恵、朝鮮戦争特需にベトナム戦争特需といった数々の僥倖、それに日本の技術がなぞることで培うことのできた欧米技術の存在が幸いしたのであって、自民政治がつくり上げた経済発展ではない。

 日本の技術、日本の技術と日本の技術が日本独自の優秀さを持っているが如くに言う人間が多いが、日本の技術は日本の技術だけのものではない。日本の技術は中国の技術でもあるからだ。中国にしても欧米の技術をなぞり、欧米の技術をなぞった日本の技術をさらになぞって、かつての日本のように着々と技術力を高めている。日本は単に欧米技術の尻について時間的なスタートラインを30年も40年も先につけて技術を先行させたに過ぎない。中国の小平が改革開放経済に着手したのは1979年で、日本の敗戦から遅れること24年後であり、それから27年しか経っていない。この時間的な差は大きな財産でもあるだろうが、日本の技術が日本の技術だけのものだと過信していたら、過信のしっぺ返しを何らかの形で受けることになるだろう。

 安倍晋三は「美しい国を目指す」、「美しい国を目指す」とバカの一つ覚えのように言うが、今の「美しくない国」日本をつくり出したのが自民党だということ誤魔化すために「美しい国」、「美しい国」と言っているに過ぎない。今の美しくない日本をつくり出した元凶は自民党の自作自演政治だということを総括しないで「美しい国を目指す」ことなどできようがないからだ。総括せず、アメリカがつくり出した戦後体制(「戦後レジーム」)に責任をなすりつけようとしている。

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