安倍首相本人だけが理解していない〝夕張は日本の縮図〟

2007-02-15 10:21:31 | Weblog

 上の為すところ、下これに倣う。中央の為すところ、地方これに倣う

 07年2月13日の衆議員予算委員会での民主党・無所属クラブの荒井聰の質問と安倍首相の答弁をNHKテレビから。

 荒井聰議員が夕張の破綻は国や道にも責任がある、メロン城とか各種巨大遊戯施設建設には国の援助も入っていて、貸出し責任があるといった追及を行っていた。貸出すについては経営が可能かどうかもっと精査してから国庫補助をつけるべきだったということだろう。そしてニューヨークタイムズの夕張記事を取り上げて、「数え切れないほどの自治体に対して夕張市を見せしめにしている中央政府の態度は夕張市民の怒りを汲んでいる(?「買っている」の間違いか)。――」と日本語訳を読み上げた。それに対する安倍首相の答弁の概略。

 安倍美しい国首相「ニューヨーク記事自体が極めて不十分。記事の中に財政の中身を誤魔化していたことも書いてないし、破綻が明らかになった後、ボーナスを増やした。飛んでもない話じゃないですか。これはまさに税金のムダ遣いでしょ?そういう体質を根本的に変える必要があるんですよ。写真にも写っているような、ああいう遊戯施設が果してほんとうにうまくいくかどうか、それはちゃんと自分たちで考える必要があるんです。その上で、最低限、私たちが保障しなければならないものは保障しておこう。そして子どもたちやお年寄りに皺寄せがいかないように特別な配慮を行っていく。その上で当然ですね、財政規律と言うことも住民のみなさまにも考えていただいて、再建の道に向かって進んでいただきたいと、このように思います」

 この答弁に先立って、菅総務相は、「基本的には夕張市の破綻は自己責任だと思います」と国にも道にも一切責任がないと明言している。

 いい気なものだ。会計検査院が検査して不当とした平成17年度の各団体の不明朗会計をここに書き出してみる。

 『平成17年度決算検査報告掲記事項の省庁・団体別、事項別件数金額総括表』

*「不当事項」と「意見を表示し又は処置を要求した事項」と「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」とがそれぞれ別表で表示されているが、それらを纏めて掲載。「改善の処置を講じた事項」であっても、それ以前は「不当事項」であり、検査院の指摘を必要としたからである。指摘がなければ、改善されることはなかったろう。裁判所の「2740万円」は書き出しているが、それ以外の合計金額が千万円単位の項目は省略。面倒臭くなったから。無責任男です。「支出1」は「支出1件」と言うことで、金額はその合計額を示す。

裁判所     /支出1―2740万円
内閣府(警察庁)/支出1―9億1286万円
内閣府(防衛庁)/支出13―2億5225万円
総務省     /支出7―1億1142万円
財務省     /収入2―5億2263万円
文部科学省   /支出2―43億8264万円
(1兆8755億4680万円)/(11億5564万円)
*( )内数字は「指摘金額」か「背景金額」かのいずれか。

厚生労働省   /収入4―31億2392万円  
        /支出266―79億7835万円
国土交通省   / 支32―78億0008万円
*厚生労働省のうち1件及び国土交通省のうち1件は、それぞれ同一の事態に係るものであるとの注意書きあり。ゴマカシに関しては縦割りではなく、横の連携をうまく働かせたと言うことか。

農林水産省  /支出25―25億1465万円
(1658億円)・(22億9039万円)・(11億1983万円)
*( )内数字は「指摘金額」か「背景金額」

経済産業省  /支15―7億0482万円
日本銀行    /支出3―3億8097万円
*経済産業省のうち1件及び日本銀行のうち1件は、重複があり、件数及び金額の合計に当たっては、その重複を控除しているの注意書きあり。

環境省    /支出1―1億8500万円
日本郵政公社 /支出35―7億5346万円
成田国際空港 /収入1―642万円
       /支出1―2億1025万円
国立美術館  /支出1―115億1185万円 
(34条処置要求)・(36条意見表示)の記入あり
国立博物館  /支出1―2億0026万円
独立行政法人労働者健康福祉機構
       /収入1―232億7537万円
独立行政法人中小企業基盤整備機構
       /支出1―219億4671万円
日本高速道路 /支出(処置要求)1―9億1556万円
東日本高速道路/支出(処置要求)1―2億5070万円
首都高速道路 /支出(処置要求)1―67億8008万円
中日本高速道路/支出(処置要求)1―12億2685万円
西日本高速道路/支出(処置要求)1―42億5825万円
日本放送協会 /収入1―350億円
   /支出1―1995万円
中部国際空港 /支出1―1億8923万円
東日本電信電話 /支出(意見表示)2―44億8460万円
西日本電信電話 /支出(意見表示)2―30億5860万円
放送大学学園  /支出1―10億0744万円
特に掲記を要すると認めた事項/支出4―
 (5028億円)・(1289億円)・(835億円)・(1兆0322億円)
合計(支出・収入合わせて)/449件―452億9727万円

 会計検査院の合計は( )内の数字を含んでいない、一種の罪薄めを行った合計であろう。それにここに現れているのはほんの氷山の一角で、検査の網にかからない不当行為の方が多いはずである。

 安倍美しい国首相が衆院予算委の答弁の言葉を借りて言うなら、「これはまさに税金のムダ遣いでしょ。自分たちで考える必要があるんです」

 「考える」ことのなく、政治家・官僚の犯罪・不祥事は美しい日本の歴史・伝統・文化となって延々と演じ続けられる。

 安倍首相の抗議の言葉は夕張に向けて声を上げるよりも、自らの足元の省庁にこそ向けてキッパリと言うべき言葉である。さらには「税金のムダ遣いでしょ」の大見本たる赤字施設〝グリンピア〟もあれば、郵貯からだが、〝かんぽの宿〟もある。膨大な国庫、あるいは郵貯を使って建設したものの、赤字経営で成り立たなくなり、入札・競売とは名ばかりで、二束三文で叩き売っている。損金は国民の税金に回すばかりで、その責任は誰も取らない。

 天下りで甘い汁を吸い、随意契約でキックバックのたっぷりとした役得を受け、裏ガネで贅沢を味わい、接待でグルメ・銘酒の腹肥やしをする。「財政規律と言うことも住民のみなさま」ではなく、役人や国会議員の「みなさまにも考えていただ」かなければならない緊急課題であろう。そしてそういうことなら、安倍美しい国首相が先ず各省庁に対する監督・監視をこじっかり行わなければならない。

 夕張市が各種巨大箱物を建設するとき、国の補助金を出す側の関係官庁は「ああいう遊戯施設が果してほんとうにうまくいくかどうか」、「自分たちで考え」、経営可能かどうか厳しく審査したのだろうか。夕張市は一つを造っては、それが赤字だからと、次を造って赤字を埋めようとする、借金を新たな借金で埋めていくその場凌ぎと同じ形態の経営を行っていたようだから、前例(既設の箱物)を調べれば、その経営状況は把握できるただろうし、それを参考に次の建設予定箱物の将来的な経営状況は予測可能となるはずである。少しぐらい黒字が予想されたとしても、前の赤字が足を引っ張ることだろうから、余程の黒字が計算できない限り、補助金を出さないことで建設断念に追い込むことぐらいのことはすべきだったろう。

 日本の役人の一般的な生態から予想すると、夕張市役所の職員から書類上の数字の説明を受けただけ、説明に頷いただけで必要とする補助金を太っ腹にも気前よく差し出したのではないか。そうでなければ赤字施設の建設に国庫補助をつけることはできなかったはずで、当然建設そのものも不可能となる。

 許可に向けた色よい返事が出れば、一件落着とばかり夕張市一の料亭か、夕張市になければ札幌市にまで出張って、札幌有数の料亭に一席を設け、美人どころをはべらせ、飲ましたり食わせたりする。

 それとも書類説明する前に色よい返事を狙って、既に一席設けていて、許可を戴いた後の一席はご苦労様との意味を持たせた慰労会と言うことなのだろうか。

 中央役人が権限の笠を着ているだけのことで自分の懐を痛めない地方自治体のカネで何様顔をしながら卑しいばかりに飲んだり食ったり、女の身体を触ったりするところを見れば、地方役人も自分たちもと思って、お手盛りで「ボーナスを増や」すといったこともしたくなるだろう。中央省庁の裏ガネづくりと裏ガネを使った飲み食いの大盤振舞いの隠れ制度と地方自治体の同じ構図の隠れ制度は軌を一にした響き合った関係にあり、上が下の悪事を見習うという関係は上の資格を失う行為であるが、下が上の悪事を見習うの分には下の資格を失うわけではない。ある意味、よくぞ上を見習ったと、褒められる行為に入る。

 県会議員の政務調査費の私的流用にしても、国会議員の〝政治とカネ〟の金権体質を見習っての、上の為すところ、下これに倣う、中央の為すところ、地方これに倣うが順当な順序のはずである。

 夕張の破綻が代々の夕張市長を陣頭とした夕張市役所職員のズサン体質が招いた破綻であったとしても、そのズサンさは中央の国会議員や各省庁員のズサン体質と同じ線上でつながった関係にあるのであり、夕張市の自己責任だけで片付けることはできないはずある。そう、中央と夕張のズサンさはつながっているのであり、夕張の破綻と日本の借金・ムダ遣いは対応しあった関係にあるのである。

 夕張は日本の縮図だと多くの人間が把えている中で、政府のみが自己責任だと、夕張単体の問題で、中央の無関係責任事項としている。「裸の王様」と批判されたと言うことだが、まさに裸の王様状況にある単細胞人間だけに許される視野狭窄的判断なのだろう。

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