07年3月12日の夜7時のNHKニュース(ビデオから)。例の松岡農水相の資金管理団体が多額の光熱水費を計上している問題。
松岡「今の法律制度で定められた必要な報告を致しております。法律以上のことはどうするということにつきましては、各党・各会派でお決めいただければ、私、そのお決めいただいた基準なり、扱いに従って、そのときは率先してお答えをし、ご説明申し上げたいと(思います。)決して答える気はないとか、そういったことは拒否しているわけではございません」
民主党小川勝也参議員「松岡大臣を辞めさせるおつもりはないかどうか、答をお伺いしたいと思います」
安倍晋三「今後職責を果たすことによってですね、国民の信頼をうる努力をしてもらいたいと――」
安倍「領収書の添付をどうするか、どうするということも議論しながら、こういった政治資金規正法改正も視野に入れながらですね、自由民主党に於いては議論していくように、支持を致しておる次第であります」
(何とまあ事務的且つ紋切り型で、熱意も何もない答弁なのだろうか。)
夜9時のNHKニュース。
女子アナ「松岡農林水産大臣の資金管理団体が多額の光熱水費計上している問題です。自民党内から、今日の論戦で山場になるという見方も出ていた参議員予算委員会の集中審議が行われました」
(「山場」にしてたまるか。)
男性解説「自らの資金管理団体が光熱費などがかからない国会の議員会館に事務所を置きながら、光熱水費として一昨年507万円を計上していたことなどについて野党側から説明を求められています」
閣議室の様子が映し出され、閣議後の記者会見。
松岡「法で求められている以上の、ものについて、ご説明、報告するということは、これは属人的立場での対応ということになりますので――」
(「属人的」?俗人・俗物ということで〝俗人的〟と言ったなら、まさにぴったりの形容・ぴったりの自己評価と分かるが、テロップに確かに「属人的」の活字が記されている。「属人的」とは何ぞやと急いで「大辞林」(三省堂)を調べてみた。
【属人】――人を基本にして考えること。
【属人主義】――人がどこにいても、その人の本国法を適用
すべきだとする立場。
法律外のことはプライバシーが保障されている個人的立場からの対応となるから、それはお断りと言うことなのだろうか。例え法律外のことであっても、〝道義〟という観点からも関係なしと直結させ得るとは限らない場合もある。)
野党は衆参両院で証人喚問を求めていくことで一致とのこと。
鳩山民主党幹事長「松岡農水大臣が自らお辞めにならなかったり、あるいは罷免、えー、されなかったり、えー、して、また疑惑がさらに深まっていくという状況の中では、当然のことながら証人喚問を求めていくという――」
(ごくごく普通の応対で終わっている。物言いが優し過ぎないか。「もしこれが世間一般の犯罪事件だったなら、任意同行の段階を通り越して、即に逮捕されている段階ではないか。踏み字はできないが、証人喚問して、徹底的な追及で疑惑を晴らすしか、国民も納得しないはずだ」ぐらいは言うべきではないだろうか。
発言が不適切と言うことなら、松岡農水相が507万円の光熱水費の中に還元水が含まれているとする、その500ミリリットル5000円という値段ついての質問に塩崎官房長官が「値段は価値を見いだす人によって決まってくる。どういう価値を見いだすかという問題だ」と述べたのを真似て、「私自身の価値観・判断からすると、そういった段階に来ていると思いますよ」とかわせばいい。)
記者会見での塩崎官房長官「何度も国会で本人も申し上げておりますし、私も申し上げておりますけれども適切に公開していると、いうことを私も聞いておるところであります」
冬芝国土交通相「現行の政治資金規正法に基づいて、エー、きちんとやっておられると、いうことであれば、その説明でもいいんではないかというふうに思います」
久間「説明責任ちゅうけども、説明したいと思って、1人が説明するとね、これに限らず他のやつでも、みんな、あのー、洗いざらい、報告するつう形になるわけでしょ?」
(そういう形になったら、そうすべきが国民の負託を受けた者の責任のはず。何を言っているのか。)
山本金融相「大臣の方も、それは納得を、が、できるような説明を、していくという、それは義務課せられているだろうと――」
高市沖縄・北方担当相「今のご説明では、あの、私自身も分かんないです。具体的にこういう品目が、で、いくらぐらいかかりましたみたいな、ざっくりとしたことだったら出せるじゃないかなー、と思いますがね」
(山本金融相にしても高市早苗にしても、松岡農水相と同じ自民党に所属することから生じているはずの党利害に反する発言となっている。説明責任に関わる原理・原則に則っての発言なのか、党利害を超えるそれぞれの自己利害からの、いわばご都合主義的な倫理観からの発言なのかは分からない。山本金融相は当初サラ金業者寄りの案文を予定していながら、参院選対策から悪名高かったグレーゾーン金利を公布後3年半以内(本体施行後2年半以内)廃止とした昨06年12月成立・公布の貸金業法改正に関わっている。それ以前に山本金融相の政治団体は表に現れた金額は15万円と小額ながらサラ金業界にパーティ券を購入して貰っている。業者寄りと見られた政治姿勢とカネの関係という前科を払拭するためのカネに対する潔癖な姿勢の見せかけと言うこともある。)
片山虎之助「うん、まあ、それはしたほうがいいねえ。説明責任つう意味では。それはあの、適切な中身は私は言われたほうがいいと思います」
(うまく言い逃れるだろうという安心を踏み台とした参院対策なのか。言い逃れが効かず、政権にダメージとなった場合、参院選に悪影響するだろうから、「適切な中身は私は言われたほうがいい」の実現は逆効果となる。還元水も浄水器をその存在が証明されていない、ウソの現在進行形中なのである。)
午後1時からの予算委員会の集中審議。
松岡「今日も答えは、あの、同じは同じでありまして、えー、これは内容につきまして、ええ、今報告を申し上げております。それ以上のことにつきましてではですね、法律の運用・在り方とも関わるもんでございますから、各党・各会派でお決めいただいて、その基準が決まれば、公表の扱いが決まればですね、それに従って、それはしっかりお答えして参りたいと、そういうことでありまして、決して答える気はないとか、そういったことを拒否してるわけじゃございません。以上であります」
松岡大臣を辞めさせる気はないのかという質問に安倍晋三、上記7時のニュウースの「今後職責を果たすことによって~努力をしてもらいたい」云々を言った後、「光熱費等についてですね、えー、松岡大臣から、えー、委員会の場に於いても、法律に則って適切に報告していると、このように答弁していると思います。松岡大臣はですね、ルールに従って答弁していると、私は了解しています」
高木民主党国対委員長(記者会見)「見苦しい。ええ、そういう答弁が続いておりまして、ある意味では滑稽、とも言える、状況でございます。松岡大臣を守り続ける安倍総理の任命責任も当然、追及していきたいと――」
安倍、首相官邸での記者会見。5時半から「大臣はですね、法令に則って報告していると、このように答弁しています。政治と、まあ、おカネの問題。大切な問題ですし、光熱費の問題だけではなくて、事務所費の問題、そして不動産を取得していいのかどうか、そしてそれを自分名義にしていいのかどうか、それはそういう問題があると思いますね。議論を行い、そして、とりまとめを行うように指示しております」――
先ずは安倍首相の「今後職責を果たすことによってですね、国民の信頼をうる努力をしてもらいたいと――」から。この部分は3月13日(07年)の読売新聞(インターネット記事)によると、「(松岡氏は農業)政策分野について、相当の見識がある。今後とも職責を果たすことで、国民の信頼を得る努力をしてもらいたい」と述べ、罷免や辞任を求める考えがないことを改めて強調した」とある。
政治家が金銭的な疑惑・政治資金の不正操作疑惑を持たれながら、その疑惑を説明等の方法で直接的に払拭する努力をせずに、また任命責任者の立場にいる政治家も徹底的な疑惑払拭の要求もせずに、「今後職責を果たすことによってですね、国民の信頼をうる努力を」しさえすれば免罪されるということなら、ロッキード事件の田中角栄にしても、「職責を果たすこと」については単なる一大臣に過ぎない松岡などといった小物と違って「相当の見識があ」り、総理大臣というそれ相応の政治力を発揮できる立場だったことを考慮に入れると、その成果を大いに期待できただろうから、「今後職責を果たすことによってですね、国民の信頼をうる努力を」する手続きを踏みさえすれば金権政治家だと非難されることもなく免罪されて然るべきではなかったのではないか。
ロッキード社から5億円のワイロを受け取った事実と無料であるはずの光熱水費を507万円計上した事実とでは額が桁違いだとする意見があるかもしれないが、些細な疑惑なら事実解明もなしに「職責を果たし」さえしたら許されるとする基準の罷り通りは許されるだろうか。些細であろうと重大であろうと事実解明を経て、解明された事実に沿い厳しく律することによって、秩序は守られる。特に国民の選択と負託を受けた国会議員の倫理観に関わる問題である。松岡農水相の一件が一旦許された場合、別の問題でも〝松岡例〟として利用されない保証はない。あのとき松岡大臣は許されたのだから、今回も許されていいのではないかといった拡大解釈である。
大体が安倍晋三は口癖のキャッチフレーズとしている「品格」と政策的な「見識」のどちらを上位価値としているのだろうか。安倍首相の対応を見ると、自らのキャッチフレーズを裏切って、「品格」を「見識」の下に置いている印象を受ける。「品格」とは「行動が美しいか醜いかを敏感に感じ取る」(安倍)感性の獲得によって養い得る資質であろう。「品格」を「見識」の下に置くこと自体が、既に「品格」のない行為であるばかりか、安倍晋三なる人間自体が「品格」を基準として行動していないことの証明でもあろう。「美しい国づくり」を目差しているとしているが、美しくない「品格」では成し得ない「美しい国づくり」であろう。最初から分かっていたことではあったが。
次に塩崎官房長官の「何度も国会で本人も申し上げておりますし、私も申し上げておりますけれども適切に公開していると、いうことを私も聞いておるところであります」と冬芝国土交通相の「現行の政治資金規正法に基づいて、エー、きちんとやっておられると、いうことであれば、その説明でもいいんではないかというふうに思います」。
塩崎官房長官にしても、水戸黄門や遠山の金さんといった時代劇に出てくるケチな悪代官の役にそのまますんなりと入っていけそうな厭味を感じさせる冬芝国土交通相にしても、同じ与党という立場がそうさせている与党利害発言ではないか。野党の立場にあったなら、別の発言になるだろう。
民主党の参議員蓮舫氏らが松岡氏の国会議員事務所を訪れ、還元水装置が存在しないことを発見している。いわば松岡小物は明らかにウソを以て言い逃れしようとしたのである。当然「適切に公開」は誰の目にも見える形での具体的な説明、あるいはその他の証明を経て、本人が言っているだけのことを脱して、より正当な承認を得る。その手続きを見ないまま、「本人も申し上げ」、「私も聞いておるところであります」とする本人の言い分のみで、それでよしとする。これを以て原理・原則もないご都合主義からの対応と言われても仕方がないのではないか。自分の置かれた状況によって態度を変える機会主義が言わせたのだろう。
「本人」が「申し上げてお」ることを鵜呑みとすることが許されるなら、小・中学校の校長がいじめ自殺があってもいじめが原因の自殺とは考えられないとする責任逃れの言い分をすべて正しいとしなければならなくなる。昨年9月北海道の小学校6年生女児が首を吊り、今年1月6日に死亡した事件では学校や友達宛に遺した遺書にいじめを訴える内容があったもに関わらず、市教委までがその事実を隠す責任逃れを犯している。そのことがのちに露見することになったとしても、塩崎や冬芝の正当性理論からすると、市教委「本人」が「申し上げてお」るからと、全面承認といかなければならなくなる。
参考までに『蓮舫氏アポなし訪問「還元水ない」 (スポニチ/2007年03月10日)
――民主党の蓮舫氏、芝博一氏ら参院議員4人が9日、松岡利勝農相の議員会館事務所を予告なしで訪問した。松岡氏の資金管理団体は、光熱費や水道費がかからない衆院議員会館に事務所を置きながら、政治資金収支報告書に多額の経費を計上。05年の光熱水費は約500万円にも及んでいたため、国会で使途について追及されていた。
松岡氏は5日の参院予算委員会で「水道は“ナントカ還元水”を付けている。暖房なども含まれている」と答弁。これに民主党から「浄水器や電気ストーブが100個もおいてあるのか?」と疑問の声が上がっていた。「ナントカ還元水」は「電解還元水」とみられ、浄水器で水道水を電気分解してつくられる水素を多く含んだ水で、胃腸の改善に役立つとされる。
4議員は還元水の装置や暖房装置の確認をするため、アポイントをとらずに“急襲”。松岡氏は閣議のため不在で秘書が応対した。“アポなし団”は部屋の中を見渡し「事務所を見れば一目瞭然(りょうぜん)と思って来たが、還元水(装置)は付いてないじゃないですか!」と詰め寄った。これに対して秘書は「きょうはご勘弁ください」と答えた。
松岡氏は閣議後の記者会見で、報道陣から「(ボトル)1本5000円の水を飲んでいて、計上していると聞いているが…」と聞かれると「内容に関することなので差し控えたい」。さらに「今、水道水を飲んでいる人はいないでしょう」とはぐらかした。