年間自殺者4万人台突破は間近?
07年11月10日『朝日』朝刊≪自殺9年連続3万人台「2割削減目標」≫
<政府は9日、自殺対策白書を初めてまとめた。2016年までに自殺者数を05年比で2割以上減らすことを目標に掲げ、相談体制の充実やインターネット上での自殺予告への対応、精神疾患診断技術の向上など46項目の重点施策を打ち出した。
警察庁によると、自殺者は98年に初めて年間3万人を突破し、9年連続で3万人台だ。白書では、26年から40年までに生まれ、戦前・戦中に青少年期を過ごした世代が他の世代に比べて自殺率が高いことに注目。この世代の高齢化を要因の一つと分析し、「高齢者の自殺がこれ以上に深刻な問題となる恐れがある」と、対策の必要性を強調している。重点政策としては、児童や生徒への自殺予防教育、多重債務者向け相談員の資格向上、介護者への支援などを掲げた。>
「26年から40年までに生まれ、戦前・戦中に青少年期を過ごした世代が他の世代に比べて自殺率が高い」とは、日本が高齢者に優しくない社会となっていることを示すものだろう。
高齢者に優しくない社会は、「年老いた親を家で家族が面倒を見るのが日本の昔からの美風だ」との口実のもと、自分たちの無能な社会保障政策を棚に上げるゴマカシを働かせて、社会保障関係の支出を減らし財政再建政策の一環とする施設介護から家庭介護に方針転換の舵を切った自民党政治によっても加速した。
家族介護=日本の美風なる自民党の政策には日本社会が核家族化しているという視点がすっぽりと抜け落ちている。そのことに目を向けない愚かしい責任逃れだった。
いわば家族介護といっても他に家族構成員が存在する昔風の大家族下にあって一人にのみその他すべての負担がのしかかるかる介護ではなく、介護のみならず家事洗濯、食事づくりすべてに特定の少数者、もしくは一人に負担がかかる介護とならざるを得ない核家族社会となっているのである。
その結果の核家族化した老人夫婦のみの家庭での夫の(あるいは妻の)介護疲れからの年老いた者同士の無理心中、あるいは被介護者を殺して、介護者が自殺するケース。死に切れずに無残にも一人生き残るケース。
そして最も究極な核家族形態である独居老人の生活苦からの自殺や将来への不安からの自殺。あるいは老夫婦のみの家庭での生活苦や将来不安からの心中。
07年11月09日のasahi.com記事≪ワンピースブームは消費冷え込みの象徴 丸井・社長)
<「消費の潮目は明らかに変わった。とても慎重だ」。丸井グループの青井浩社長は9日、07年9月中間連結決算の発表の場で、こう嘆いた。相次ぐ商品値上げなどが購買心理を急激に冷やした可能性があるという。
例に挙げたのが、女性のワンピースブーム。同社でも売れ行きは好調だが、半面、ジャケットやスカートは不振。青井社長は「ワンピースを買えば、上下の衣料品支出を抑えられるという心理があるのでは」と分析した。中間決算は改正貸金業規制法の影響でカード事業も冷え込み、売上高が前年同期比10.5%減の2368億円、当期利益は同75.7%減の8億円だった。≫
アメリカのサブプライムローンの焦げ付きによる金融機関の大型損失、そして株価の下落とドル安円高が日本の経済に直撃しかねない雲行き。原油高による諸物価の値上がり。大豆・サトウキビ等のバイオ燃料加工への優先的提供の反動を受けた各加工食品・加工飼料原料不足からのそれらの価格高騰、そして年金の目減りや消費税増税の動き等が複合的要因となった「消費の潮目」の変化であろう。
自民党は小泉政権・安倍政権共に経済成長路線・景気拡大政策を敷き、経済全体を底上げして、その果実を家計部門に再配分するとしたが、果実は優遇税制等で利益獲得に有利となった企業が獲得した利益を懐に抱え込み、一部の除いて家計部門全体にまで配分することはなかった。
しかも景気拡大は日本が自力で獲得した動きではなく、中国経済やアメリカ経済に頼った他力本願の景気なのだから、景気拡大を常に維持できる保証はないにも関わらず、そこにのみ軸足を置く柔軟性を欠いた相変わらずの視野狭窄の政策が原油高やサブプライムローンの焦げ付きを原因とした米経済が減速しかねない悪要因に脅かされることとなった。
今日(07.11.13)の『朝日』朝刊≪時時刻刻 ドル独歩安 底なしサブプライム不安≫には、トヨタ自動車にとっても、急激な円高は懸念材料だ。今年下期円相場のレートを1ドル=110円に設定しているが、想定よりも1円の円高ドル安となるだけで350億円の営業利益が吹っ飛ぶ。>とし、液晶テレビ国内首位のシャープは<「サブプライム問題で北米の新築住宅件数が落ち込み、連動して大型テレビの売り上げも落ちた」>(同記事)と売り上げ減少を指摘している。
トヨタはこれまで円安による為替利益を北米での自社自動車の販売価格に値引き分として埋め込み、安売りで販売競争を有利に進めてきた。その結果の年間販売台数世界1位のGMに迫る販売記録と史上最高の営業利益であろう。
景気減速がはっきりとした形を取らなくても、自民党の企業優遇がつくり出している生活格差が世界第2位の経済大国日本の名にふさわしい「自殺9年連続3万人台」というギネスブック並みの偉大な記録であり、はっきりとした形を取った場合、自殺者2割削減どころか、自殺者年間4万人台、ある否5万人台も夢ではないのではないだろうか。
人間は生活の生きものである。生活はカネなくして成り立たない。「自殺者2割削減」の重点政策として<児童や生徒への自殺予防教育、多重債務者向け相談員の資格向上、介護者への支援>などを掲げているが、景気動向の様々な内的・外的要因を一切考えない、自殺の直接的な原因だけを考えた視野の狭い対策となっている。景気が決定的に減速・後退し、一般生活者が現在以上に生活(=カネ)に逼迫したなら、焼け石に水、何ら役に立たなくなる政策ばかりである。役に立たないとなれば、さらに加速して自殺者年間4万人台、5万人台という「命の生き剥がし」は計算に入る人数となる。
企業が利益を獲得しても犠牲を受ける、景気減速・後退でも犠牲を受ける一般生活者という構図は自民党政治が企業の利害のみを代弁する立場に立っているからなのは言うまでもない。
企業に有利・一般生活者に不利の調和を破りたいと思うなら、一般生活者の利害を代弁する政治集団を自ら導き出す努力が必要になる。<自殺9年連続3万人台>という統計を安易に見過ごしてはならない。