09年7月21日、麻生首相は衆議院本会議で解散が決まった後の記者会見で次のように述べた。
「私は、皆様の生活を守るため、景気の回復と安心社会の実現をお約束します。今度の総選挙は、安心社会実現選挙であります。国民に問うのは、政党の責任力です。この約束ができなければ、責任を取ります」
いくら選挙を「安心社会実現選挙」と名づけたとしても、自民党勝利で「安心社会実現」が約束されるわけではない。尤も民主党が勝利したとしても、確実に約束されるとは限らない。
だが、現在の老後不安・雇用不安・子育て不安・医療不安等々の“不安社会”をつくり上げたのは自民党政治であることを忘れてはならない。麻生首相は自民党政治の“不安社会”建設プロジェクトに党役員、重要閣僚として加わり、“不安社会”建設に辣腕を振るってきた。
その麻生太郎が自民党政治のトップに立った。当然のこととして自民党政治の“不安社会”建設プロジェクトはますます加速することになる。
そもそもからして老後不安・雇用不安・子育て不安・医療不安等々を複合的に抱えた今の“不安社会”は自民党政治が族益・省益・大企業益を優先擁護、そのおこぼれを一般国民・一般生活者におすそ分けする利益配分形式がこれまでは経済発展のお陰を蒙っておこぼれもそれ相応に増やすことができたために大きな破綻もなく維持できていたが、低成長時代に入っても族益・省益・大企業益優先擁護のスタイルを変えることなく維持、そのため一般国民・一般生活者へのおすそ分けが極端に減ったことで皺寄せとなって現れた社会の矛盾であって、政権担当維持が危なくなって「安心社会実現」などと一般国民の生活に目を配る姿勢を示しているが、自民党の利益配分のスタイルは本質的には何一つ変わっていないことに留意しなければならない。
このことを象徴する出来事がある。
昨7月23日日の「asahi.com」記事――《首相自ら異例の団体回り 経団連は自民・民主両にらみ》が伝えているが、麻生首相は22日、〈衆院選での支持を求めて業界団体行脚を始めた。首相自ら団体側に出向くのは極めて異例。〉だと伝えている。
但し日本経団連側は〈これまで公言してきた「自民支持」を明言しないなど、自民党との距離を微妙に修正し始めた〉と、民主政権獲得の場合にも備える様子見の状況を示しているということだが、このことは麻生首相の「団体回り」の効果自体も微妙であることを教えている。
都議選で自民党各候補者の事務所を1箇所だけ残してすべて回って候補者を激励したそうだが、そのことと同じく、殆ど効果がないといった結果も予想される。
また例え効果が出たとしても、族益・省益・大企業益優先擁護のおこぼれがそれ相応に一般国民に滴(したた)り落ちていった時代は企業の支持が従業員の支持、いわば国民の支持に直結もしたが、企業が企業自体の利益と従業員の利益を別個に考え、企業の利益を最優先、そのためには従業員の利益を無視・切り捨てる姿勢を取り始めたことにより従業員(=国民)の方も企業の利益と従業員の利益は必ずしも一致するとは限らないことを学習、企業の立場とは別個に自分たちの利益を考えるようになった結果、企業の政党支持が利益配分と同様に従業員の政党支持につながる保証はなくなっている。
いわば企業側が今までどおりに企業の利益を優先擁護する政党を選択しても、国民は企業の選択とは別個に国民の利益優先擁護を掲げる政党を選択することになるだろう。
また国民の利益の優先擁護を掲げる政党が彼らの支持を得て、族益・省益・大企業益優先擁護の自民党に対抗するだけの力を備えてきたことも、国民が企業等の上からの指示に従うのではなく、自らの意思で政党を選択する裁量が広かったことも彼らに力を与えている。
こういった政党選択の状況を踏まえるなら、麻生首相は一般国民の支持こそを必要としなければならないはずで、記者会見で冒頭述べている「日本を守り、国民の暮らしを守るのは、どちらの政党か、どの政党か、政治の責任を明らかにするためであります」とした宣言との整合性を図るためにも先ずは国民の前に立って政策を訴えるべきを、愚かにもそのことに気づかずに解散後早々に企業回りを優先させ、国民への訴えは後回しにする考え違いを犯している。
これは麻生首相とも言えども、自民党政治が本質的な血としている族益・省益・大企業益優先擁護に全身染まっていて、「国民の暮らしを守る」は口先だけだからこそ犯している考え違いであろう。
自民党政治は族益・省益・大企業益優先擁護の政治では決してないと反論し、その証拠として高度経済成長時代に一億総中流社会を築いたこと挙げるかもしれないが、アメリカの経済発展にリードされた世界の経済成長の世界の中の一国として日本も恩恵を受けた高度経済発展であって、国民もおこぼれに授かることができた、低所得者が存在しないではなかった一億総中流社会であって、自民党政治自らが全面的につくり上げた一億総中流と言うわけではない。
また日本の高度経済成長のそもそもの土台が朝鮮戦争特需であって、戦争で瀕死の打撃を受けた日本の経済がその特需で息を吹き返し、ベトナム戦争特需で加速させていった幸運を忘れてはならない。
一国の政治は高度経済成長時代ではなく、低成長時代、もしくは不況時代にこそ、その真価が試される。経済発展による税収の伸びをいいことに赤字国債まで発行して族益・省益・大企業益優先擁護のために予算をバラ撒く政治を押し通してきたなら、経済成長が止まったとき、たちまち行き詰まる。行き詰まっても族益・省益・大企業益優先擁護を政治体質としているから、その方面に向けたバラ撒きから抜け切れず、結果として国民生活に向けたサービスを縮小、その予算を削ることになる。
こういった経緯はこれまでの自民党政治で実際に見てきたことであろう。
自民党政治が族益・省益・大企業益優先擁護を本質的体質としていることは上記「asahi.com」記事――《首相自ら異例の団体回り 経団連は自民・民主両にらみ》からも窺うことができる。
〈経団連が自民、民主両党を対象に実施した昨年の政策評価では、最高のA評価は自民の10項目に対し民主はゼロ。政策評価を基に会員企業・団体が行う献金も、07年は自民に約29億円だが民主には8千万円と圧倒的な差があった。 〉――
このことは自民党政治が大企業の経営に利益を与える政治となっていることからの「10項目」の「A評価」であり、その見返りとして「約29億円」の献金となって現れたということを如実に物語っている。
裏返して言うなら、自民党は大企業の利益に添う政策を掲げることで「10項目」の「A評価」を受け、そのご褒美として、いい子、いい子と「約29億円」の献金を貰うことができたと言える。
上記記事は最後のところで、総選挙民主党優位の状況受けた経団連の最近の動きを次のように伝えている。
〈民主党との関係強化を狙って、今月9日には御手洗会長らが岡田克也幹事長と意見交換。各政党にマニフェスト(政権公約)に盛り込むべき内容を要望するなど、自民党ありきではなく政策本位で選択する立場を打ち出している。(冨田佳志、安川嘉泰、田伏潤) 〉――
もし民主党が政権を取って、政治資金をせしめるために大企業が気に入る政策に走るようになったなら、自民党と同じく、国民の支持を失うに違いない。
麻生が記者会見での冒頭発言の後の記者との質疑の中で選挙後の獲得議席数によって公明以外の政党と連携の考えはあるのかと質問されて、理念と政策が一致しない数合わせはしないと答えて、その姿勢に則って自公連立を果たしてきたと答え、その一例を次のように述べていることにも、「国民生活優先の政治」ではない姿が現れている。
「我々は、ここに国旗を掲げてありますけれども、少なくとも国旗国歌法というのを通したときも、自公によって、あの国旗国歌法は国会を通過した。それが、我々のやってきた実績の一つです」
両院議員懇談会でも「自由民主党は真の保守党です。私たちは理念のもとに集まった同志であります。(背後の壁を左右振返って)ここに国旗が掲げてありますが、当然のこととして国旗を掲げている政党がどこにありますか」と言って国旗掲揚を誇っているが、今でこそ選挙方便上「国民生活優先の政治」を掲げてはいるものの、「国旗国歌法」は「国民生活」とは直接関係のない、そこから離れた場所で、しかも国旗掲揚も国歌斉唱も形式で済ませることができる、そのことに反して国家主義者たちにとっては最も自己表現の活躍対象となる、国家の側から国民を国家意識培養の方向に持っていって国の形を国家主義許容の方向で整えようとする法律であって、それを「我々のやってきた実績の一つです」と誇ること自体にも国家優先・国民生活後回しの姿勢を見ることができる。
国家が国家主義の立場から国民を統治しようと意志した場合、国の形を偉大らしげに装うことを忘れてはならない。国旗も国家もそのような装置の一つとなり得るということである。
官僚組織や政界、大企業といった社会の上層を築いてから、社会の下層に向けて手を差し伸べる上から目線の政治は、その国が民主的体制を取っている限り、いわば独裁国家でない限り、もはや時代的に通用しない政治手法となっていることを忘れてはならない。
これからの時代は一般国民の利益を優先させる政策が企業経営にコストとして跳ね返っても、企業の国際競争力を失わせない政治を創造して凌いでいく国家経営が必要となるのではないだろうか。
自民党政治が族益・省益・大企業益優先擁護を歴史とし、伝統とし、文化としていることを踏まえると、21日夕方の解散後の麻生記者会見はウソのちりばめが露わとなる。
冒頭部分の「私は、就任以来、景気を回復させ、国民生活を守ることを最優先に取り組んでまいりました」も見せ掛けの言葉と化す。当然、「私の不用意な発言のために、国民の皆様に不信を与え、政治に対する信頼を損なわせました。深く反省をいたしております」の謝罪も、「自民党内の結束の乱れについてであります。私が至らなかったため、国民の皆様に不信感を与えました。総裁として、心からおわびを申し上げるところです」の謝罪も、ウソをちりばめた謝罪に過ぎないと見なければならない。
「謙虚に反省し、自由民主党に期待を寄せてくださる皆様の思いを大切にして、責任を全うしてまいります。今回の総選挙に際し、国民の皆様と3つの約束をさせていただきます」として掲げた「景気最優先」、「安心社会の実現」、「政治責任」も色眼鏡をかけて見なければならない。
日本の戦後経済発展が朝鮮戦争特需、ベトナム戦争特需等を発火薬としてアメリカの経済発展のロケットに乗った他力本願の発展であったように、現在もなお他力本願の外需型経済の構造を取っていて中国やアメリカの景気回復を頼りとしている以上、麻生がいくら「私は、政局より政策を優先し、自民党・公明党とともに、経済政策に専念してきました。はなはだ異例のことではありますが、半年余りの間に、4度の予算編成を行いました。お陰様でその結果が、ようやく景気回復の兆しとして見えてきたところです。7,050円まで下がっていた株価は、今日は9,600円台まで回復をしております。企業の業績の見通しもよくなりつつあります」と自画自賛しようが、これは日本より一足早い中国の景気回復による中国向け外需の助けも借りた「ようやく景気回復の兆しとして見えてきた」といった状況であり、続けて言っている「しかしながら、中小企業の業績や雇用情勢などは依然として悪く、いまだ道半ばにあります」は中国だけではなく、アメリカの確かな景気回復を見ない限り、解消できない「道半ば」であろう。
外需頼みと言うことなら、既に触れたようにあくまでも必要事項は中国・アメリカの「確かな景気回復」であって、いくら何を約束しようが、「確かな景気回復を実現するまでは、総理・総裁の任務を投げ出すわけにはまいりません」は不必要事項となる。
「2つ目の約束」として「安心社会の実現」を掲げ、「私たちの生活には、雇用や子育ての不安、年金や医療の不安、格差の拡大など、多くの不安がつきまとっています」と言っているが、すべて自民党政治が族益・省益・大企業益優先擁護を歴史とし、伝統とし、文化としていることからつくり出した「雇用や子育ての不安、年金や医療の不安、格差の拡大」等々であって、つくり出した張本人の主たる一人から「私が目指す安心社会とは、子どもたちに夢を、若者に希望を、そして高齢者には安心を、であります」と言われても
俄かには信用できない。
大体がこれまで戦後長きに亘って大企業には利益を、官僚には天下りの夢を、自民党議員に献金の安心を与えてきた自民党政治なのである。そのことを隠して、何を信用しろと言うのだろうか。
選挙に負けたくないから、「従業員を解雇しない企業に対し助成する」とか、「失業しても、雇用保険が支給されない方々に対しては、職業訓練の拡充や訓練期間中の生活保障を行」う、あるいは「パートやアルバイトの人たちの待遇を改善」、「妊婦健診を無料にする助成」の少子化対策、「小学校に上がる前の幼児教育を無償にする」と様々に手を打っているのだろうが、アメリカの自動車産業が大型車製造の長い年月をかけた優秀なノウハウを持っていたとしても、時代が必要とする小型車製造のノウハウがなく、一朝一夕に獲得することができずに敗退したように、族益・省益・大企業益優先擁護の政治を歴史とし、伝統とし、文化としてきた自民党には戦後から現在に至る長い年月をかけて築いてきた族益・省益・大企業益優先擁護の政治ノウハウはあっても、国民生活優先の政治ノウハウを持たない以上、また日本の官僚にしても自民党べったりの共同歩調を取ってきた彼らの歴史・文化・伝統からすると同じように国民生活優先の政治ノウハウを持つはずもなく(だから社会保障費の削減や国の指示を受けて詳しく調査もせずに生活保護を打ち切ったり、支給を断ったりして自殺者を出すことができる)、そのような国民生活優先の政治技術の一朝一夕の獲得は期待不可能で、アメリカの自動車産業のように一度歴史から退場して貰って、脱官僚政治を目指す、これまでの族益・省益・大企業益優先擁護の自民党政治を反面教材とする民主党、その他の野党に期待するしかないのではないだろか。
もしこの指摘が妥当性を持つなら、麻生が記者会見で述べているいいとこだらけは信用しないことから出発しなければならない。
「安心社会の実現」の後に続けて、「私は、景気が回復した後、社会保障と少子化に充てるための消費税率引上げを含む抜本的な税制改革をお願いすると申し上げました。国民の皆様に負担をお願いする以上、大胆な行政改革を行います」と掲げた「国会議員の削減、公務員の削減や天下りとわたりの廃止、行政の無駄を根絶」にしても何十年の前から指摘されていたものの、自民党が族益・省益・大企業益優先擁護の政治を体質としていることが原因して満足に解決できずに現在も引きずっている弊害であって、麻生内閣にしても満足に解決できずに先送りする伝統をただ踏襲するだけだろう。
そんな麻生内閣に何が期待できるだろうか。「増税は、だれにとっても嫌なことです。しかし、これ以上に私たちの世代の借金を子や孫に先送りすることはできないと思います。政治の責任を果たすためには、選挙のマイナスになることでも申し上げなければなりません。それが政治の責任だと思います」と偉そうに言っているが、「国民の暮らしを守る」を真性の事実とするなら、「国会議員の削減、公務員の削減や天下りとわたりの廃止、行政の無駄を根絶」を先に持ってきて、これらを満足に解決済みとしてから、財政の不足分の消費税増税へと持っていくのが「国民の暮らしを守る」に添う優先順位のはずである。
「国会議員の削減、公務員の削減や天下りとわたりの廃止、行政の無駄」のいずれの一つでも未解決のまま野放し状態にして消費税増税を事実化した場合、そのことで余裕を生じせしめることとなる政府歳入にしても、循環する景気次第で余裕が継続していく保証はなく、「行政の無駄」だけがこれまでと同様に野放し状態で延々と残ることになって、その状態のまま再度、「増税は、だれにとっても嫌なことです。しかし、これ以上に私たちの世代の借金を子や孫に先送りすることはできないと思います。政治の責任を果たすためには、選挙のマイナスになることでも申し上げなければなりません。それが政治の責任だと思います」云々と尤もらしげな御託を並べて「国民の暮らしを守る」は放置したまま再度消費税を上げる悪循環に陥らない保証はない。
民主党が言っているように、「国会議員の削減、公務員の削減や天下りとわたりの廃止、行政の無駄の根絶」を確実実行してから、消費税増税に関わるべきで、そのことを以って初めて、「政治の責任」とすべきであろう。
となると、政権は「民主党には、任せられない」として、「民主党は政権交代を主張しておられます。しかし、景気対策、福祉の財源、日本の安全保障、いずれをとっても自民・公明両党の案に反対するだけで、具体的な政策が見えてきません。
町工場の資金繰りの支援や仕事を打ち切られた人たちへの生活支援など、極めて緊急を要した予算にさえ反対し、国会の審議を引き延ばしました。若い世代の保険料の負担を抑えるための年金改革法にも反対したのです。
子ども手当に5兆円、高速道路の無料化に2兆円など、財源の裏打ちのないケタ違いのバラマキ政策であります。予算を組み替えれば、何十兆円もわいて出てくるような夢物語。国連決議に従って、北朝鮮の貨物を検査する、そういう法案についても審議に応じず、廃案にしてしまいました。この結果に一番喜んでいるのは、北朝鮮ではないでしょうか。
財源を伴わない空論に、日本の経済を任せるわけにはいきません。安全保障政策のまとまっていない政党に、日本の安全を委ねるわけにはいかないのです。日本の未来に責任が持てるのは、私の信じる自由民主党だけです。
今回の総選挙は、どの政党が政権を担うのにふさわしいのか、国民の皆様に判断をしていただく大切な機会です」と「任せられない」理由を並べているが、「行政の無駄の根絶」等と「消費税増税」の優先順位から見ても分かるように自民党政治が族益・省益・大企業益優先擁護の政治ノウハウしか持たないゆえに「国民生活優先の政治」が期待不可能と言うことなら、そのような自民党政治を反面教材としている民主党と野党連合に一度政権を任せてみる価値は十分にあると言うもので、民主党と野党連合に向けたこのような価値期待は既に世論調査や街の声に現れている。
麻生はもし総選挙で自民党が敗北した場合の正当な理由に自身の人格面や政治資質面の欠格を隠して、「選挙のマイナスになることでも申し上げなければなりません」とした消費税増税提起に持っていこうとしているのではないのだろうか。「党内の反対を押し切って、俺は消費税増税を提起した。選挙には負けたが、政治の責任は果たした」と。きっとそうこじつけることで自己正当化と選挙敗北を正当化するように思えてならない。
そして「3つ目の約束」を記者会見の「おわりに」の項で述べている。
「私は、皆様の生活を守るため、景気の回復と安心社会の実現をお約束します。今度の総選挙は、安心社会実現選挙であります。国民に問うのは、政党の責任力です。この約束ができなければ、責任を取ります。これが、3つ目の約束であります。
政治の責任を果たす。重ねて申し上げます。子どもたちに夢を、若者に希望を、そして高齢者に安心を。そのために、私は、私の信じる自由民主党の先頭に立って、命をかけて戦うことを皆さん方にお誓いを申し上げます。
ありがとうございました」――
どうも「命をかけて戦う」という言葉に出会うと、厭な気分にさせられる。満足に責任も取れない人間が「命をかけて戦う」ことなどできようはずがないのに、「命をかけて戦う」と言う。責任のない人間程、「命をかけて戦う」言うのではないだろうか。
麻生が名づけた「安心社会実現選挙」は民主党の勝利でつなげるべし(2)に続く
麻生内閣総理大臣記者会見
【麻生総理冒頭発言】
(はじめに)
麻生太郎です。
私は、本日、衆議院を解散して、国民の皆様に信を問う決意をいたしました。日本を守り、国民の暮らしを守るのは、どちらの政党か、どの政党か、政治の責任を明らかにするためであります。
1 反省とおわび
私は、就任以来、景気を回復させ、国民生活を守ることを最優先に取り組んでまいりました。その間、私の不用意な発言のために、国民の皆様に不信を与え、政治に対する信頼を損なわせました。深く反省をいたしております。
また、自民党内の結束の乱れについてであります。私が至らなかったため、国民の皆様に不信感を与えました。総裁として、心からおわびを申し上げるところです。
謙虚に反省し、自由民主党に期待を寄せてくださる皆様の思いを大切にして、責任を全うしてまいります。今回の総選挙に際し、国民の皆様と3つの約束をさせていただきます。
2 景気最優先
私が、昨年9月24日、内閣総理大臣に就任をした当時、世界は、百年に一度、そう言われた金融・経済危機に見舞われました。アメリカ発の世界同時不況から、皆さんの暮らしを守るのが政治の最優先の課題になったと存じます。
私は、政局より政策を優先し、自民党・公明党とともに、経済政策に専念してきました。はなはだ異例のことではありますが、半年余りの間に、4度の予算編成を行いました。お陰様でその結果が、ようやく景気回復の兆しとして見えてきたところです。7,050円まで下がっていた株価は、今日は9,600円台まで回復をしております。企業の業績の見通しもよくなりつつあります。
しかしながら、中小企業の業績や雇用情勢などは依然として悪く、いまだ道半ばにあります。
経済対策、この一点にかけてきた私にとりましては、確かな景気回復を実現するまでは、総理・総裁の任務を投げ出すわけにはまいりません。日本経済立て直しには、全治3年。したがって、景気最優先。日本の経済を必ず回復させます。これが、1つ目のお約束です。
3 安心社会の実現
2つ目の約束は、安心社会の実現です。私たちの生活には、雇用や子育ての不安、年金や医療の不安、格差の拡大など、多くの不安がつきまとっています。
私が目指す安心社会とは、子どもたちに夢を、若者に希望を、そして高齢者には安心を、であります。
雇用に不安のない社会、老後に不安のない社会、子育てに不安のない社会、それを実現する政策を加速します。行き過ぎた市場原理主義からは決別します。
特に、雇用については、従業員を解雇しない企業に対し助成するということで、今、月平均で約240万人の雇用を守っております。また、失業しても、雇用保険が支給されない方々に対しては、職業訓練の拡充や訓練期間中の生活保障を行います。更に、パートやアルバイトの人たちの待遇を改善します。
少子化については、妊婦健診を無料にする助成を行いました。更に、小学校に上がる前の幼児教育を無償にすることにも取り組みます。
4 責任
そのためには、財源が必要です。
私は、景気が回復した後、社会保障と少子化に充てるための消費税率引上げを含む抜本的な税制改革をお願いすると申し上げました。国民の皆様に負担をお願いする以上、大胆な行政改革を行います。
国会議員の削減、公務員の削減や天下りとわたりの廃止、行政の無駄を根絶します。増税は、だれにとっても嫌なことです。しかし、これ以上に私たちの世代の借金を子や孫に先送りすることはできないと思います。政治の責任を果たすためには、選挙のマイナスになることでも申し上げなければなりません。それが政治の責任だと思います。
5 民主党には、任せられない
他方、民主党は政権交代を主張しておられます。しかし、景気対策、福祉の財源、日本の安全保障、いずれをとっても自民・公明両党の案に反対するだけで、具体的な政策が見えてきません。
町工場の資金繰りの支援や仕事を打ち切られた人たちへの生活支援など、極めて緊急を要した予算にさえ反対し、国会の審議を引き延ばしました。若い世代の保険料の負担を抑えるための年金改革法にも反対したのです。
子ども手当に5兆円、高速道路の無料化に2兆円など、財源の裏打ちのないケタ違いのバラマキ政策であります。予算を組み替えれば、何十兆円もわいて出てくるような夢物語。国連決議に従って、北朝鮮の貨物を検査する、そういう法案についても審議に応じず、廃案にしてしまいました。この結果に一番喜んでいるのは、北朝鮮ではないでしょうか。
財源を伴わない空論に、日本の経済を任せるわけにはいきません。安全保障政策のまとまっていない政党に、日本の安全を委ねるわけにはいかないのです。日本の未来に責任が持てるのは、私の信じる自由民主党だけです。
今回の総選挙は、どの政党が政権を担うのにふさわしいのか、国民の皆様に判断をしていただく大切な機会です。
(おわりに)
私は、皆様の生活を守るため、景気の回復と安心社会の実現をお約束します。今度の総選挙は、安心社会実現選挙であります。国民に問うのは、政党の責任力です。この約束ができなければ、責任を取ります。これが、3つ目の約束であります。
政治の責任を果たす。重ねて申し上げます。子どもたちに夢を、若者に希望を、そして高齢者に安心を。そのために、私は、私の信じる自由民主党の先頭に立って、命をかけて戦うことを皆さん方にお誓いを申し上げます。
ありがとうございました。
【質疑応答】
(問)
総理に2点お伺いします。まず、総理は就任以来、これまで衆議院を解散する機会は何度かあったと思いますが、本日この時期になぜ衆議院を解散されたのか、その理由をお聞かせください。
また、この時期の総選挙は、与党にとっては厳しいという見方が強いですけれども、総理は一番に何を訴えて、どのようにして選挙戦を戦うお考えでしょうか。併せてお聞かせください。
(麻生総理)
解散の時期につきましては、私が衆議院の任期が余すところ1年である時期に内閣総理大臣に就任をいたしました。就任以来、いつ解散して信を問うか。それと、経済・金融危機に見舞われた日本を立て直すために、景気対策、経済対策を最優先しなければならない。この2つをずっと考えてきました。
こうした中で、4度にわたります経済対策の裏打ちとなる、予算案、また関連法案、更には他の重要法案を成立させることができました。その結果、景気は底を打ち、株価や企業の業績などにも明るさが見え始めてきております。
さまざまな御批判もありましたけれども、政局よりは政策を優先してきたこと、間違っていなかったと、そう思っております。このため、国民の皆様方には、これまでの成果、経済対策の成果を評価していただき、引き続き、この景気回復の基調を、より確かなものにするための経済運営を、是非任せていただけるかどうかを問うために解散を決断したところです。
選挙についてのお話もありましたが、厳しい選挙になることは覚悟しております。しかし、勝つためには、我々は国民一人ひとりに、愚直なまでに政策を訴えるしかないと思っております。
国民の皆さんにとりましては、国民の暮らしに責任を持てるのはどの政党か。それを判断していただきたいと思っております。自由民主党と他党との政策の違いを見ていただきたい。目指すべき日本の姿、具体的な政策、そしてその財源、私どもは具体的には景気最優先、安心社会の実現、安全保障、その点において、我々は他の政党には任せられない、そう思っております。日本の政策に日本に責任を持てることができるのは自由民主党、私はそう思ってこの選挙を戦い抜きたいと思っております。
(問)
先ほど総理の方から自民党内の結束の乱れについて、総裁として心からおわび申し上げるというお話がありましたけれども、自民党内では麻生総理では選挙は戦えないという声も根強くあるようです。そうした中で、党内をどう結束させて選挙に望まれるお考えなのでしょうか。
もう一点、自民党内ではこれに関連して、独自にマニフェストを示して選挙を戦おうとする動きがあります。こうした動きに対して、どういうふうに対処していくお考えでしょうか。
(麻生総理)
本日、自由民主党のすべての国会議員を対象に両院議員懇談会を開催させていただきました。いろいろ御意見をいただいた中で、私に対する批判というものは謙虚に受け止めます。
しかし、今こそ党が一つになって国民に訴えるべきときである。自民党の底力を発揮すべきときではないかとの御意見が多数を占め、党の団結が確認できたと、そう思っております。
今後は、私を始め、自民党自身も改めるべきは改め、真の国民政党として開かれた国民政党として生まれ変わった覚悟で、国民のための政策実行に邁進してまいりたいと思っております。
議論がいろいろ出る。いいことだと思っている。しかし、いったん決まった以上、団結して戦ってきたのが自民党の歴史、自民党は一致団結して戦わない限りは、選挙は勝てません。その先頭に立って戦い抜く覚悟です。
マニフェストについても御質問がありましたが、候補者個人が選挙公報などを通じて意見をおっしゃることは可能です。しかし、党が一致して戦わなければならないときに、この選挙を独自のマニフェストで勝ち抜くことはできないと存じます。
なお、公職選挙法というのがありますが、選挙運動のために配布できる党の公約、いわゆるマニフェストは1種類と決められております。党の決めた公約と違うものであれば、それは党の公約、マニフェストとは言えないということだと思っております。
(問)
安全保障政策でお伺いしたいんですが、1点その前に、もし、今回の衆院選で勝敗ラインを総理の方でお考えのものがあったら、それを聞かせてください。
それと、安全保障政策ですけれども、先ほども民主党の安全保障政策に総理は疑問を抱かれましたが、インド洋での給油継続などは、民主党が政権を取った場合には続けるといったような現実的な路線も民主党は出してきているようですが、あるいは日米同盟も基軸でいくといった感じで、大きな違いはないようにも見えるんですが、そこら辺はどうお考えでしょうか。
(麻生総理)
まず、日本を守るという点についてはテロ対策、また、海賊への対処のための自衛艦の派遣、反対するだけで代案を出されたという記憶がありません。
北朝鮮の貨物検査法については、審議にも応じず廃案にされた。民主党の政策は、私はこの安全保障に関しましては、極めて無責任、不安を感じるのは当然だと思っております。
今、政権を取ったら変わるというんだったら、なぜ今はやらないんですか。なぜ今ならできないんですか。それは反対するためにだけ反対していたということを自ら言っているようなことになりはしないか。今の御発言を私は民主党の公式な発表というものを聞いておりませんので、私はあなたの御意見が本当かどうかわかりません。しかし、向こうがそう言っておるというあなたのおっしゃる話が正しいとする上で申し上げるなら、今のが答えです。
2つ目のどれくらいが勝敗ラインか、私どもは公認候補の全員当選を目指すのは当然です。しかし、今、この段階で、どれくらいが勝敗ラインかは、今、解散総選挙が始まったばかりでもあり、今からみんなが戦う、その決意をしているときに、勝敗ラインを私の口から申し上げるのは、いかがなものか。慎むべきことだと、私自身はそう思っております。
(問)
総理は、今後、党が一致結束して選挙に臨まなければいけないとおっしゃっているんですけれども、解散後も離党表明をする議員がいるなど、党内に動揺が引き続き続いています。本当に一致結束して、この選挙に臨むことができるとお考えでしょうか。
(麻生総理)
自民党の結束については、皆さん方にもオープンにさせていただいた上で、両院議員懇談会の場の雰囲気を見ていただいたと存じます。多くの御意見をいただき、そのおかげで党の団結が確認できたと、私自身はそう思っております。
今後、自民党として改めるべきことは改める、私自身も含めてそう申し上げたところですが、我々は我々がやってきた政策に自信を持ち、そして、我々が目指すべき日本の未来というものにつきましても、自信を持って私どもはやっていかなければなりません。
今、離党された方がおられるというお話ですが、私どもは一致団結という状況というものは、今日の両院議員総会に代わる両院議員懇談会、あの場でも改めて確認をさせていただいた上での話で、私どもはその点に関しては今後一致団結して戦っていけるものだと、そう思っております。
(問)
総理に、先ほど勝敗ラインについて、すべての候補者が当選することを目指すというお話がありましたが、自民党の幹部からは、既に自公で過半数を維持するというのが大前提だという目標が出されていますけれども、その自公で過半数が取れなかった場合の総裁としての責任について、どのようにお考えになっているのかというのが1点。
もう一点は、選挙後の獲得議席数によって、自民、公明以外の政党と政治の安定ということを目標にした場合に、何らかの形で政策理念が一致するグループと連携を図る考えがおありかどうか、お伺いしたいと思います。
(麻生総理)
我々は政治をやっております。したがって、基本は理念。理念、政策、これが一番肝心なところです。数合わせだけしているつもりはありませんし、理念というものはお互いにきちんとした政権の中にあって、お互いに意見を交換し、きちんとした意見を、きちんと詰め合わせた上で、我々は自公連立政権というのをやってきたと思っております。
我々は、ここに国旗を掲げてありますけれども、少なくとも国旗国歌法というのを通したときも、自公によって、あの国旗国歌法は国会を通過した。それが、我々のやってきた実績の一つです。
勝敗ラインにつきましては、先ほど申し上げたとおりであって、今、仮定の質問に安易にお答えするべきではないと思いますし、むやみにこれぐらいが勝敗ラインなどと、どなたが言われたか知りませんけれども、そういったことを今の段階で安易に言うのは軽率だと思います。
(問)
今までもあった御質問ですが、やはり与党で過半数を割った場合の責任の取り方を明らかにしないのは、いかがなものかと思いますが、その点が1点と。それから、総理のお話の中にもありました、消費増税なんですけれども、2011年に景気回復ということを前提に、消費増税について国民にお願いするというのは、自民党のマニフェストにはっきり書き込むというお考えでよろしいのかどうか。この点を確認させてください。
(麻生総理)
選挙で負けた話を前提にしての質問ということに、私が安易に答えることができるとお思いでしょうか。選挙を今から戦うんですよ。私どもは、その心構えがなくて、選挙戦などというものは戦えるものではないと思っています。自分のこれまでの選挙を戦った経験で、皆、力の限り必死になって、あらん限りの力を振り絞ってやるのが選挙です。私はそう思って選挙を戦ってきたつもりです。
したがって、まだ、解散されたばかり、公示・告示にもなっていない段階で、今からどうする、こうするというのは、私どもとしてお答えするところではありません。