――菅首相の「4年間の実績の中で判断する政権交代が望ましい姿」は有能な首相を条件としなければならない――
菅首相は常々衆議院任期の4年間の実績で政権は評価を受けるべきで、それが政権交代のあるべき姿だとの持論を機会あるごとに述べている。2月9日の菅首相と山口公明党代表との党首討論でも同様のことを述べている。《(5完)公明・山口氏、「首相には、決意もリーダーシップも全くない」(9日午後)》(MSN産経/2011.2.9 18:53)
菅首相「まあ、あのー、議院内閣制における政権というものについての考え方はいろいろあります。例えば、イギリスの場合は、えー、新たな政権ができれば、えー、一応、任期の満了までを一つの単位にして、その中でやれたことに対して国民から最終的には任期満了の近くで信を問うというのがだいたいの恒例のやり方になっております。そういった意味で昨年、一昨年、今から1年半前に政権交代になりまして、基本的にまず、マニフェストは4年間の間に実現するというこの基本的な構造になっております。
その上で、その上で、既に進行しているもの、例えば、高校の無償化とか、まだ、道半ばではありますが、子ども手当ですとか、あるいは農業戸別所得保障とか、これまでの政権では取りえなかった政策を順次、現在、進めているんです。ですから、そのことをしっかりとみていただき、そして、折り返し点の来る9月ごろまでには、どこまでがやれたか、どこまでが今、着手中か、しかし、この問題についてはどうしてもいろんなその後の変化の中で難しいとなれば、そのことについて検証して国民の皆さんにお示しする。私は任期が終わるまでの、その4年間の実績の中で判断をするというように政権交代を繰り返すようにわが国もなってきているわけですから、そういうあり方が望ましい民主主義だとこのように考えております」
昨3月4日(2011年)の参議院予算委の森まさこ自民党議員と菅首相との質疑応答でも同趣旨の発言を行っている。その部分だけを取上げてみる。(一部分省略)
《菅首相対森まさこ(2011年3月4日参議院予算委)》
森まさこ自民党議員は冒頭、前質問者の世耕弘成議員が追及した国民年金第3号被保険者切り替え漏れ問題の責任についてどう考えるか質す。
菅首相「ま、この、3号被保険者の取扱い、イー、について、えー…、多少、状況を、報告を、受けておりますが、えー…、現在、えー、厚生大臣を中心に、えー、総務大臣も含めてですね、えー、これから、あ、対応の、あり方について、えー…しっかりした、方向性を…、おー、出すために、えー…、協議をして、えー…、貰っているところであります。
先ずは、あー、今の状況に対して、えー…、きちんと、オ、関係者の意見を聞きながら、方向性を、おー、出すと、いうことが、ア、必要かと、こう考えております」
森まさこ「全くこの大混乱をもたらしたことについての、反省のお答えがありませんでした。国会は内閣をチェックする機関ですから、私たち野党は鋭い質問をします。しかしそれに対して真正面から、答えてくだされば、熟議になると思うんです。ところがどうでしょうか、今朝からずっと、菅総理のご答弁、誤魔化しの答弁、責任のなすりつけ。
残念ながら、一国の総理の器であると、思わせられる答弁は、ございませんでした。――
(自身の選挙区を経済状況等を例に挙げて如何に地方が大変か訴えてから――)
地方は、国民は不安で一杯なんです。総理のお態度を見ていて、本当にこのままこの方に、国をお任せをしても大丈夫だろうか、そんな不安に駆られてしまうんです。それでも総理はマニフェストは4年で判断、してくれ、と言います。マニフェストとはそもそも実行可能性のある、具体的政策を、財政と期限を数値で示し、事後に検証するものです。
菅総理、英会話教室、ノバの破綻で被害を出したのは記憶に新しいところだと思いますが、ああいった継続的な契約はいつもトラブルになる点がどんなところにあるのでしょうか」
菅首相「先ずですね、国民のみなさんが、あの、不安に思っていられるというような、ご指摘。私は、この1年半の間、あー、マニフェストの中でも、進んでいるものもたくさんありますし、(一段と声を高めて)最も心配をされた経済状態は、少なくとも1年半前の、あのー、リーマンショック以降、オ、改善が、進んできておりまして、今、まさに、喫緊の課題は、予算を成立をさせて執行することだと、このことが国民のみなさんの、おー、生活を、ヲ…、安心できるものにする、エ、一番大きな、今の課題であると、このように思っておりますし、それに全力を上げて、きているところであります。
今、ご指摘の件は、私、ノバの、個別的案件について、えー、特に質問通告もいただいておりますし、いや、おり、おりませんし、どういう意味で、ご質問をされているのか、なぜ私に聞かれているのか、よく分かりません」
森まさこ「それはあの、英会話教室とか、エステとか、継続的なサービス業務についてですね、これがトラブルになる点がございます。消費者被害ですので、消費者大臣、お答えになりますか」
蓮舫「あの、まさにご指摘の通り、英会話教室ですとか、あるいは美容業界の場合ですと、生徒さん、あるいはお客さんが、前以て、契約をして、例えば、複数年度分の学費、あるいは契約金をすべて振り込んで、そしてサービスはあとでチケット制で受ける、システムが多かったものですから、その振り込んだ後に、突然倒産をされて、えー、おられなくなってしまった場合に、その、振り込んでしまったものが、回収できない、不利益を蒙るというこういう被害が多かったと承知をしております」
森まさこ「中途解約に応じないという点なんですが、菅総理、これニュースでも随分騒がれていたんで、えー、認識していただきたいと思います。今不景気ですから、諸費者被害がどんどん増大、しているんですけれどもね。中途契約に応じないんです。中途解約に応じないんです。
メリットだけを誇大宣伝して、契約のあと、その宣伝と契約内容、余りにもギャップがあるから、話が違うじゃないかと、消費者が言っても、中途解約に応じないんです。
菅総理、国民は話が違うじゃないかと思っています。中途解約に応じてください。できるだけ早い衆議院選挙を望む国民は過半数以上です。4年待て、4年待てと言って、中途解約に応じないんじゃ、連穂大臣も悪徳業者に指導できないんじゃないですか。どうですか」
蓮舫「いずれにせよ、私の立場では、あの、森委員も消費者問題、大変専門で扱っておられておりますので、諸費者の被害が出ないように、最大限の努力をしていきたいと思っています」
森まさこ「菅総理に聞いております」
菅首相「えー、この間、あのー、おー、解散、という言葉を野党の方が語っておりますが、シー、私は、例えば大統領制で言えば、4年間の任期、あるいは地位もそのケースが多いです。そして、議院内閣制は、やはり衆議院の、オ、4年の任期、私は、本来、これが一つの単位であるべきだし、現実に、イ、政権交代が、ア、定常化しているイギリス等では、ま、イギリスの場合は5年ですけれども、ほぼ5年を、おー、一つの内閣がやって、えー、必要であれば、ま、交代していくと。
ですから、あー、この政権交代があって、1年、えー、半、余りが経過をいたしました。エ、そいう中で、やはり、4年間の、中で、その結果を国民のみなさんに、判断をしていただくというのが、(声を強め)本来の私は、あー、4年という、ウ、衆議院の、任期を――、持っている日本に於ける政権交代が、あー、定常化したときに、あるべき姿ではないかと、私はこう考えております」
森まさこ「諸費者被害の場合では、まだ裁判という手段がございます。マニフェスト違反の場合では、国民は菅総理が、やるやると言ったら、そのまま受けていなければならないという、そこが非常に重大な政治責任、があるということを、ご認識になっていただきたいと思います」
民主党と自由党の合併時に民主党から自由党に流れた億単位のカネの問題に移る。 |
森まさこ議員の前の質問者である世耕議員の追及と担当大臣の細川厚労相の応答を、《年金切り替え漏れ:細川厚労相「救済制度、知らなかった」》(毎日jp/2011年3月4日 23時15分)で見てみる。
細川厚労相「当時は知らなかった。不明を恥じる。当時の長妻昭厚労相が決めた。(副厚労相だった)私は労働を担当しており、タッチしていなかった。当時は知らなかった。不明を恥じる」
世耕議員「前現両大臣の責任は免れない」(長妻前厚労相の参考人招致を求める。)
厚労省と日本年金機構が職員向けに作成した1月27日付の資料に〈運用3号を法改正でなく課長通知で決めた理由について「第3号被保険者制度を巡っては、これまでの制度改正の際にもさまざまな議論がなされており、調整は容易でない」と記されている〉点を取上げて――
世耕議員「要するに国会で法律議論したらいろいろ議論が出て時間がかかって面倒くさいからすっ飛ばそうと。議会制民主主義の否定だ」
いわば議論を尽くさず、国民への説明も行わなず、そこに政治主導が存在したのかどうか分からないが、課長通知ですり抜けようとした手抜きが公平か不公平かの議論をより沸騰させた。
記事は最後にこう書いている。〈さらに世耕氏は、細川氏の「ウソ」も明らかにした。運用3号の申請者は1月30日時点で2331人。世耕氏は「既に942人の受給権が確定し15日には493人に年金が支給される」と指摘し、細川氏が表明した「支給留保」は誤りだと問いつめた。細川氏はこれを認め、「訂正させてほしい」と答えた。【鈴木直、山田夢留】〉――
こういったことは厚労省と所管大臣である厚労相の責任にとどまらず、菅首相が内閣の統括者であり、最終責任者である上に厚労相の任命責任者でもある菅首相の責任も問われる問題であるはずである。
だが、森まさこ議員が質した菅首相の責任について、菅首相は「多少、状況を、報告を、受けておりますが」と問題意識も責任意識もまるきり欠いた受け答えをしている。「多少」ということはどういうことなのだろうか。緊張感も何も感じさせない、他人事の言葉となっている。
長妻前大臣時代から問題となっていて、先月(2月)の衆議院予算委等でも取上げられ、野党の追及を激しく受けていたのである。しかも菅首相は常々、「社会保障は国民生活の安心の基盤」だと言っている。1月24日(2011年)の第177回国会に於ける菅内閣総理大臣施政方針演説では、(社会保障の充実は)「『最小不幸社会の実現』のために何と言っても必要なこと。それは、国民生活の安心の基盤である社会保障をしっかりさせることです」と訴えているし、社会保障と税の一体改革を菅内閣の一大使命としている。
当然、問題意識、責任意識は十二分に持っていていいはずだが、この国会答弁に見せた温度差は何を意味するのだろうか。
消えた年金と同様、年金の切り替え洩れによって未加入者となり、受給できない主婦等が数十万人から100万人存在すると推定されることは年金制度を揺るがす大きな問題となるはずであり、その救済は公平性の観点から一歩間違えると年金制度そのものに対する信頼を壊しかねない。当然、菅首相は内閣の統括者として関係閣僚と共に危機感を持って対策に臨まなければならない責任を負っていたはずだ。
だが、「多少、状況を、報告を、受け」ただけだと言う。この問題意識の欠如、責任意識の希薄さは果して内閣の長たる首相がよくしていい態度なのだろうか。
果して一国のリーダーを務める資格があるのかとその感覚を疑いたくなるこの問題意識の欠如、責任意識の希薄さからしたら政権担当の資格を失うはずだが、資格云々を飛ばして政権担当に向けた執念は濃密且つ露骨である。
あるいは資格を欠いていることを埋め合わせる政権担当の執念だろうか。
菅首相が主張して止まない、政権は衆議院任期の4年間の実績で評価を受けるのがあるべき姿であるは、この主張が4年の衆議院の任期と首相の在任期間を合わせているものとなっていることに対して国民年金第3号被保険者切り替え漏れ問題の国会質疑で見せた社会保障問題に対する問題意識の欠如、責任意識の希薄さ、そのほかの指導力欠如、合理的判断能力欠如、責任回避姿勢等々から判断すると、自分がどうしても衆議院任期一杯まで首相の座にしがみついていたい自己都合からの主張と断じないわけにはいかない。
例え衆議院任期4年間を首相の在任期間とするという主張を百歩譲って認めるとしても、リーダ-たる首相は指導力が優れ、政治的創造性に満ちた有能な政治家でなければならないという絶対条件をつけなければならないはずだ。
指導力もない、無能な首相を4年間も据えておくことは国益ばかりか、国民にとって悲劇だからだ。
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