菅首相は今回の地震をチャンスとして自身の情報発信力に利用しようとしている

2011-03-13 10:48:01 | Weblog



 気象庁が発生直後の会見で命名した「平成23(2011)年東北地方太平洋沖地震」は2011年3月11日午後2時46分頃発生。いつ名称が変更されたのか、「東北関東大震災」と呼ばれている。

 参議院予算審議委員会の国会審議をNHKテレビで中継中の出来事だった。議事堂内が大きく揺れて、驚いて椅子の肘掛に両手をついて腰を浮かしかけた大臣もいた。菅内閣直撃の何らかの激震さながらに三陸沖を震源とした地震は気象庁HPによると気象庁は午後2時46分頃地震発生から2分後の2時48分に宮城県北部と中部で震度6強が観測されたと発表している。

 そして地震発生から3分後の2時49分に岩手・福島・宮城各県に「大津波の津波警報」を発令。だが、津波の高さは「高いところで3メートル以上」という曖昧な数値となっている。この1分後の2時50分に岩手県3メートル、到達時間は「既に津波到達と推測」、宮城県6メートル、到達時間は「11日15時00分」、福島県3メートル、到達時間「11日15時10分」、他は1~2メートル、到達時間は「11日15時30分」前後と数値を示して予告。

 3時14分には宮城県に予想津波高さ10メートル以上、岩手県6メートル、福島県6メートル、青森県太平洋沿岸3メートルと修正している。

 地震発生が午後2時46分頃。津波は少なくとも数分後から40分前後の間に東北の太平洋岸各地を襲った。各テレビが濁流となった津波が日本家屋や漁船、乗用車等を次々と押し流しながら陸地を凄い勢いで浸食していく様子を刻々と、しかも繰返し伝えた。鉄筋コンクリートの建物の2階部分までの到達を伝えてもいた。

 首相官邸はこういった情報を各被災現地から要請を含めて逐次伝達されただけではなく、自らも各県庁や国の出先機関等に要請を含めた情報収集に当り、それらを基に各地域ごとの統一的な情報に纏めるべく情報分析を急いだはずだ。

 そして翌12日午前6時過ぎ、菅首相は自衛隊のヘリコプターに搭乗、被災地と一部が自動停止した福島第一原子力発電所の視察に向け首相官邸を後にした。《首相が被災地視察に出発「きちっと状況把握したい」》asahi.com/2011年3月12日6時46分)

 出発前の簡単なぶら下がり。

 菅首相「昨日以来、政府として全力を挙げて、救済、復興に取り組んでいます。私はこれからヘリコプターで被災地を見ると同時に、福島原子力発電所に出掛けてまいります。現在、10キロ内の避難を命令したところであります。指示をしたところであります。現地で、現地の行動の責任者ときちっと話をして状況を把握したい。原子力保安院のメンバー、そして原子力安全委員会の委員長も同行しますので、必要な判断は場合によっては、現地で行うことになります。そういうことでいまから出掛けて参ります」

 何のための現地視察であり、何のための原子力発電所の視察なのか疑った。空からの被災地視察は誰の迷惑にならないかもしれないが、テレビ各局が既にヘリコプターを飛ばして各被災地の俯瞰映像を流している。原子力発電所の場合は処理に慌しい中、却って迷惑を与える可能性は誰もが考えることだろう。

 実際にも昨12日午後6時前の枝野官房長官の記者会見でこのことに質問が及んでいる。《「福島第一原発で爆発あった」枝野官房長官の会見全文》asahi.com/2011年3月12日19時44分)

 ――今朝、首相が福島第一原発を視察した。視察で東電側で説明、警備などいろいろな作業が必要。作業が遅れたことはなかったか

 枝野「そういったことは私はなかったというふうに思う。むしろ総理ご自身が現場で直接の対応してらっしゃる皆さんの認識や評価、あるいはその時点での事実関係をしっかりと把握をされて、いま対応をされているということで。むしろ対応には万全を期すために、必要なことだったのではないかと思っている」

 私自身はツイッターに次のように投稿した。

 〈首相、12日朝福島第一原発視察。説明を受けるために関係者を何人か知らないが複数引き連れて50分も時間をかけさせる。そのことで放射能物質大気放出対策に何か役立ったというのだろうか。説明を受けるだけなら、電話かファクスかメールで片付くこと。 http://t.co/gnlKSYX posted at 2011年03月12日(土) 12:51:43〉

 だが、何よりも視察が情報収集よりも自身の存在と能力を共に影が薄いことからの反動意識が仕向けることになったに違いない目立たせる目的であることは菅首相の出発前の次ぎの言葉が証明している。

 「現在、10キロ内の避難を命令したところであります。指示をしたところであります」

 菅首相が内閣内部の誰を介して福島県に伝達したのか分からない。官房長官なのか、あるいはさらに下の地位の人間であるのか、あるいは直接福島県知事に伝達したのかもしれない。

 だが、「10キロ内避難」の決定内容を誰に伝達させるにしても、決して命令事項ではなく、単なる指示事項でしかない。福島県知事に直接伝達した場合にしても、県知事に対する命令事項ではなく、指示事項であって、最終的な伝達対象である住民に対しても、決して命令事項ではなく、指示事項に相当する。

 それを「命令したところであります」と最初に言ってしまったのは、指示よりも命令の方が発する者が優越的位置に立っていることの証明となるからだろう。

 いわば自らの優越性を表現したい欲求が「命令」という行為を仮定させた。

 ツイッターに次のように書いた。〈一刻も猶予ならない緊急時に最初から「指示」という言葉のみで済ますべきを、「命令したところであります」と実体とは異なる逆の心理として自分を強い存在、力ある者に見せたい虚栄心を先ず発動させる。「指導力ない」がトラウマとなっていて、強がりの衝動を常に抱えているからだろう。posted at 2011年03月12日(土) 09:32:06〉

 菅首相は今回の地震をチャンスとして自らの情報発信力の一つに利用しようとしていたのではないだろうか。いいところを見せ、例え少しであっても支持率の底上げを狙って、カッコいいとこを見せようとした。

 ツイッターに次ぎのようにも書いた。〈菅首相にしたら、今回の災害を国民に指導力・危機管理能力あることを見せる絶好のチャンスと内心張り切っているのもかしれない。昨年10月のテレビ中継されたチリ鉱山落盤事故救出現場にチリ大統領が立ち会ったのは支持率を上げる目的からだと言われたが、実際にも支持率を上げることができたように。posted at 2011年03月12日(土) 09:33:00〉

 さらに福島第一原発1号炉のその後の事態の推移が菅首相の原発視察を無意味にしたことによって視察がマスコミを通じた国民への露出行為であったことを何よりも証明することになっている。

 第一号炉の事態推移を時系列で簡単に見てみる。

●陸上自衛隊がポンプ車2台と水タンク車2台で冷却水の注入作業に当たっていたところ12日午後3時半爆
 発。建屋の壁が崩落。
●原子炉内の温度が上昇し、冷却水が水蒸気化して燃料棒が露出し、炉心溶融が起きる。冷却させることが
 できなかった場合、最悪原子炉が入った格納容器の爆発もあり得るという。
●原子炉に海水を注入、冷却を図る方式に転換、12日午後8時から注入開始。
●海水注入の場合、原子炉を満たすのには5~10時間、格納容器を満たすのには「10日単位」の経過を必
 要とする。
●(「日テレNEWS24」冷却用タービンを三重県内の「東芝」の工場からタービンを陸路で小牧基地ま
 で運搬、自衛隊大型輸送機で12日午後9時半小牧基地を出発。福島県まで空輸。

 すべてが計画的な経過を辿った事態の展開となっているわけではなく、その場その場の追加策の形を取った展開となっている。このことは12日午後3時半爆発に対して爆発音から正式は発表が2時間後であること、「asahi.com」記事によるが、住民避難の半径10キロ内から半径20キロ内にまでの拡大指示が爆発12日午後3時半爆発から約3時間後であること、菅首相が自らの言葉で国民に伝えたのはさらにこの2時間後の午後8時半からの国民向けのメッセージによってだったことが何よりも証明している。

 いわば菅首相の福島原発視察は何の役にも立たなかったし、無意味だった。事態の悪化が図らずもそのことを暴露してしまった。

 また今後の対応策を与野党で話し合う12日午後の与野党党首会談の最中に1号機の爆発が起きていたにも関わらず、菅首相から野党党首に何ら話がなかったということも計画性を疑わせる事例となる。東京電力による原子炉に対する対策だけではなく、各方面に与える影響に対する対策や災害復興のための政府支出等に関しては野党も関わっていく問題なのだから、迅速に公表してこそ計画性を持ち得る。

 だが、逆であった。《党首会談中に福島原発で爆発 首相、野党に報告せず》日本経済新聞電子版/2011/3/12 23:12)

 〈菅直人首相が12日午後の与野党党首会談の席で、福島第1原子力発電所1号機の被災状況に関し「大丈夫」と野党側に説明していたことが分かった。1号機は会談の最中に爆発したが、首相からの報告はなかった。〉

 みんなの党渡辺喜美代表(放射性物質の濃度上昇や燃料棒の損傷について)「それはメルトダウンではないか」

 菅首相「メルトダウンとは考えていない」

 志位和夫共産党委員長(1号機の圧力容器の水位低下を指摘したうえで)「危険だ。万全な対応をしてほしい」」

 菅首相「大丈夫。上がってきている」

 菅首相は実際とはすべて逆のことを主張している。一種の情報隠蔽、もしくは情報操作に当たる。この理由を無理に考えるとしたら、自身が率先して原発を視察した手前、悪化方向への推移を認めたくなかったからではないだろうか。いい方向へ進んでこそ、視察は意味と価値を持ってくる。

 この勘繰りが当たっているとしたら、そう大きく外れていることはないはずだが、やはり自身の情報発信力が目的でマスコミに露出して間接的に国民の目に映るための視察だったと言える。

 記事は最後に次のように書いている。〈政府は首相が会談中に爆発の事実を認識していたかどうかを明らかにしていないが、志位氏は報告が無かったことなど一連の政府の対応について、加藤公一首相補佐官に電話で「無責任で怠慢な姿勢だ」と抗議した。社民党の福島瑞穂党首は「最悪の場合に備えて情報開示をしっかりし、10キロにこだわらず避難すべきだ」と主張。国民新党の亀井静香代表は会談で「いたずらに不安を醸し出すようなことをしては意味がない」と指摘した。〉

 もし菅首相が党首会談開催中だからと報告を入れなかったとしたら、危機管理上、そのことも問題となる。的確・迅速且つ正確な情報公開をも含めて、それぞれが役目上の義務と責任を果たさなければ、どのような事柄も計画性は持ち得ない。

 菅首相が今回の地震をチャンスとして自身の情報発信力に利用しようとした節は昨夜12日夜8時半頃からの国民向けのメッセージからも窺うことができる。首相官邸HPからの採録で、全文引用してみる。

 《東北地方太平洋沖地震に関する菅内閣総理大臣メッセージ》(首相官邸HP/2011年3月12日)

 地震が発生して1日半が経過をいたしました。被災をされた皆さんに心からお見舞いを申し上げますとともに、救援、救出に当たって全力を挙げていただいている自衛隊、警察、消防、海上保安庁、そして各自治体、関係各位の本当に身をおしまない努力に心から感謝を申し上げます。

 私は、本日、午前6時に自衛隊のヘリコプターで現地を視察いたしました。まず、福島の第一原子力発電所に出向き、その現場の関係者と実態をしっかりと話を聞くことができました。

 加えて、仙台、石巻、そういった地域についても、ヘリコプターの中から現地を詳しく視察をいたしました。今回の地震は大きな津波を伴ったことによって、大変甚大な被害を及ぼしていることが、その視察によって明らかになりました。まずは、人命救出ということで、昨日、今日、そして明日、とにかくまず人命救出、救援に全力を挙げなければなりません。自衛隊にも当初の2万人体制から5万人体制に、そして、先ほど北澤防衛大臣には、更にもっと全国からの動員をお願いして、さらなる動員を検討していただいているところであります。まず、1人でも多くの皆さんの命を救う、このために全力を挙げて、特に今日、明日、明後日頑張り抜かなければならないと思っております。

 そして、既に避難所等に多くの方が避難をされております。食事、水、そして、大変寒いときでありますので毛布や暖房機、更にはトイレといった施設についても、今、全力を挙げて、そうした被災地に送り届ける態勢を進めているところであります。そうした形で、何としても被災者の皆さんにも、しっかりとこの事態を乗り越えていただきたいと、このように考えております。

 加えて、福島第一原子力発電所、更には第二原子力発電所について、多くの皆様に御心配をおかけいたしております。今回の地震が、従来想定された津波の上限をはるかに超えるような大きな津波が襲ったために、従来、原発が止まってもバックアップ態勢が稼動することになっていたわけでありますけれども、そうしたところに問題が生じているところであります。

 そこで、私たちとしては、まず、住民の皆様の安全ということを第一に考えて策を打ってまいりました。

 そして、特に福島の第一原子力発電所の第1号機について、新たな事態、これは後に官房長官から詳しく説明をさせますけれども、そうした事態も生じたことに伴って、既に10キロ圏の住まいの皆さんに避難をお願いしておりましたけれども、改めて福島第一原子力発電所を中心にして20キロ圏の皆さんに退避をお願いすることにいたしました。

 これを含めて、しっかりとした対応をすることによって、一人の住民の皆さんにも健康被害といったようなことに陥らないように、全力を挙げて取り組んでまいりますので、どうか皆さんも政府の報告やマスコミの報道に注意をされて、冷静に行動されることを心からお願いをいたします。

 また今回の震災に対しては、オバマ大統領から電話をいただくことを始めとして、世界の50か国以上の首脳から支援の申し出もいただいております。本当に国際的な温かい気持ち、ありがたく思っております。

 有効にお願いできることについては、順次お願いをさせていただきたい、このように思っているところであります。

 どうか、まずは命を救うこと。そしてそれに続いては、避難政策に対しての対応、これはかつての阪神・淡路の経験を踏まえて、仮設住宅などいろいろな施策が重要になると考えております。そしてその次には、復興に向けてのいろいろな手立てを考えなければなりません。野党の皆さんも、昨日に続く今日の党首会談の中でも、特に復興については一緒に力を合わせてやっていこうという、そういう姿勢をお示しいただきました。大変ありがたく受け止めております。

 どうか国民の皆さんに、この本当に未曾有の国難とも言うべき今回の地震、これを国民皆さん一人ひとりの力で、そしてそれに支えられた政府や関係機関の全力を挙げる努力によって、しっかりと乗り越えて、そして未来の日本の本当に、あのときの苦難を乗り越えて、こうした日本が生まれたんだと言えるような、そういう取組みを、それぞれの立場で頑張っていただきたい、私も全身全霊、まさに命がけでこの仕事に取り組むことをお約束をして、私からの国民の皆様へのお願いとさせていただきます。

 どうかよろしくお願い申し上げます。

 国民が心配していることは被災者の救援・救出であり、避難生活者に対する食糧支援・居住空間の迅速な支援であり、さらに福島第一原発の推移であろう。

 こういったことの対策と実行の具体的な進捗状況の報告かと思ったら、原発視察前の記者会見で、「現在、10キロ内の避難を命令したところであります。指示をしたところであります」と自分を偉く見せる情報発信につい気を取られて、口を突いて出るはずもない「命令」という言葉を最初に使ってしまったように、自衛隊のヘリコプターで現地を視察した、役にも立たなかったにも関わらず原発を視察した、自衛隊員派遣を当初の2万人体制から5万人体制へと拡大したと、先ず自身が行ったことの説明を持ってきて自分を売っているところに地震をチャンスとして自身の情報発信力に利用しようとしている節が否応もなしに見えてしまう。

 その一方で被災者の救援・救出及び避難生活者への各支援の具体的な進捗状況に関しては、「既に避難所等に多くの方が避難をされております。食事、水、そして、大変寒いときでありますので毛布や暖房機、更にはトイレといった施設についても、今、全力を挙げて、そうした被災地に送り届ける態勢を進めているところであります」と具体的な進捗状況を伝えるのではなく、「態勢を進めているところであります」と準備段階であるかのように言う。

 勿論地震発生から30時間程しか経過していないという時間的余裕の問題もあるが、危機管理対応は初動が何よりも重要ではあるものの、初動段階を超えたなら、迅速・適切な具体的展開に重要度が移る。いわば初動に対する「結果責任」が唯一の問題点となる。「結果責任」に重点を置くべき意識を「態勢を進めているところであります」と準備段階にとどめているところに危機管理の甘さを見てしまう。

 また避難生活者への食料や暖房具等の支援は口にし、「まずは命を救うこと」と言っているが、建物の屋上等に取り残された被災者が何人程度で、全員の救出に成功したかどうかの説明を抜かしている。何よりも国民を勇気づける具体的な“結果”となったはずである。

 勿論、津波に呑み込まれた行方不明者の一人でも多くの救出も国民を勇気づける。そのことの報告を多くの国民が待ち望んでいるはずだ。

 要するにすべての成果を「結果責任」に持っていくべきを、その意識が希薄で、最初に自分が何をした、かにをしたと自慢話紛いのことを言い、締め括りに「どうか国民の皆さんに、この本当に未曾有の国難とも言うべき今回の地震、これを国民皆さん一人ひとりの力で、そしてそれに支えられた政府や関係機関の全力を挙げる努力によって、しっかりと乗り越えて、そして未来の日本の本当に、あのときの苦難を乗り越えて、こうした日本が生まれたんだと言えるような、そういう取組みを、それぞれの立場で頑張っていただきたい、私も全身全霊、まさに命がけでこの仕事に取り組むことをお約束をして、私からの国民の皆様へのお願いとさせていただきます」と立派なことを言われたとしても、自身を美しく見せ売り込む情報発信にしか見えないことになる。

 このことは政府の対応を検証する段階になっておいおいと明らかにされていくはずである。

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