政治の停滞を打破するキッカケとして解散・総選挙は必要であろう。党首討論で議題となった議員定数と議員歳費の適正化も必要なのは断るまでもない。だが、解散にしても、議員定数と議員歳費の適正化にしても、中央集権の呪縛から逃れることができていない現在の日本の不効率な政治を根本的に変える最善の鍵になるとは誰もが思っているわけではないだろう。 『国家基本政策委員会合同審査会(党首討論) 野田VS小沢代表』(2012年11月14日)
昨日の党首討論では野田首相と安倍自民総裁が解散条件として議員定数削減と議員報酬削減の実現を激しく遣り合って、さも日本の政治に最必須の重要課題であるかのように両問題に焦点を当てたが、単なる制度のスリム化と政府年間予算額から見ると、僅かながらの財政支出の負担軽減に過ぎないし、「政治主導」を確立できなければ、それだけのことで終わるだけではなく、解散にしても日本の政治を変えるキッカケとはならないはずである。
官僚主導からの脱却・政治主導の確立こそが日本の政治の質を根底から変える要諦だということである。
尤も政治主導が絶対だとは言わない。官僚を主導する政治家の資質も問題となる。
最初に断っておくが、小沢氏が討論で指摘した「政治主導と地域主権」に関して地域主権の確立自体が強力な政治主導なくして実現不可能の条件となるはずである。
いわば政治主導の確立が最初で、地域主権の確立は政治主導の確立に呼応する形を取るということである。
このことは後に述べるとして、昨日の党首討論の内、小沢「国民の生活が第一」代表の野田首相に対する主張を全文、小沢氏に敬意を込めて取り上げてみる。
小沢国民の生活が第一代表「『国民の生活が第一』の小沢でございます。与えられた時間は10分間でございますので、できるだけ簡潔に申し上げたいと思います。
野田内閣になりましてから、あー、大事な場面で3党合意、というのが、あー、出てくるわけでありますが、まあ、今の議論(野田首相と安倍自民総裁の党首討論)を聞いていると、(首を傾げながら、)ホントーによく合意したなと思うくらいでありますが、(自分でも噴き出し笑いする。議場にも失笑が起きる)おー、まあ、私は、あのー、与党と野党が、あー、意見交換して、コンセンサスを得るということに反対のわけではありません。それは大いに結構なことだと思います。
ただ、大きい政党がですね、えー、合意したからと言ってですね、この合意を、そのまんま他の政党もついて来いと、おー、ま、いうような遣り方というのは、これは国会運営、あるいは法案審議についても、ちょっと、おー、親切な、丁寧な遣り方ではないと、そう、オー、思います。
そういうような手法はですね、勿論全てが正しくいっているときはいいんですけども、おー、往々にして、えー、その当事者、政党のエゴや目先の利害で以って議論が導き、出される場合が多いわけでありまして、特にですね、うーん、まあ、これが終わってから、あー、委員会で議論というわけですが、あー、特例公債法案につきまして、これを、まあ、3党合意ということで、うー、ありますけども、おー、この-、オー、内容を、オー、見ますと、おー、大概、誰が見てもですね、えー、やっぱり、おー、このー、内容につきましては、憲法上、あるいは財政法上の、おー、大きな問題を、おー、孕んでいるんじゃないかと、おー、いうふうに思うと、思います。
ですから、うーん、このようなことを仮に、いー、議会の大多数で、の大きな政党が合意したんだからと、その事実は事実として、え、大事な問題を含んだ(含んでいる)ことにつきましては、あー、もっと丁寧な、伝統的なですね、多少時間がかかっても、議論をしていくべきではないだろうかと、オー、そういうふうに思っています。
この点につきましては、あー、特に最近の3党合意という、言葉の中で、えー、若干、うーん、当面の必要性のみで議論されて、基本のことについての問題意識がなおざりにされているんじゃないだろうかということを、オー、心配しておりますので、この点は、この機会に総理に申し上げておきたいと思います。
総理への、おー、質問ですけれども、うーん、今も、おー、マニフェストの話出てましたが、えー、政府与党でも、おー、次の総選挙へ向けての、オー、マニフェストの作成と言いますか、議論が進んでいるやに、聞いております。
ま、そん中で、えー、3年前のおー、政権交代の、おー、ときの、おー、マニフェストについて、その関連で、お伺いしたいんですけれども、うーん、まあ、新しいマニフェストをつくるに当って、ま、謝罪か釈明かなんか知りませんけれども、前のマニフェストについて、この、おー、云々ということを報道されている、風の便りに聞いておりますけれども、え、この、おー、2009年のマニフェスト、国民に我々は提示してですね、えー、その、おー、中身の議論・内容についていろいろな議論も勿論あるかもしれないけれども、少なくとも総選挙でそれを提示して、それを国民が受け入れて、そして政権を民主党が、いー、負託したわけであります。
うーん、ですから、あー、野田さんが今、総理の座におられるのも、おー、3年前の総選挙でありますし、いー、ある意味でそのマニフェスト、国民が信頼し、期待を寄せた結果であろうと、私は思っております。
そいう中でですね、マニフェストの一番の、おー、前提として、大事な要件は、あー、私は、あー、官僚主導の中央集権から、あー、政治主導の、そして地方分権と言いますか、地域主権、という国の行政、えー、社会の仕組みを根本から変えると、いうことが最大の前提になったんではないかと、いうふうに思っております。
そこでですね、野田総理に対してですね、うーん、その09年の政権交代のときのマニフェスト、おー、内容がいけなかったと、いうことで議論されているのか、あるいは内容はよかったけど、おー、実際上できなかったということなのか、あるいは、その両方なのか、特に今の、私申し上げました、国の、オー、仕組みを、統治の機構を、行政の機構を根本的に変える、官僚主導から政治主導によって、それを実現すると、いうことで非常に大事な、あー、当時の、マニフェストの前提、根幹をなすものだと思っておりますが、この点につきまして野田総理はどのようにお考えですか、お聞かせください」
野田首相「あの、09年のマニフェストはまさに当時の小沢、あー、幹事長主導のもとで、え、つくられたマニフェストでございました。
そこに書かれていることで、えー、例えば『コンクリートから人へ』、であるとか、今ご指摘があった統治機構の抜本的な見直しであるとか、地域主権改革であるとか、あの、考えてきた理念、というものについては私は正しい方向だったと、いうふうに思っております。
但し、先般も、あのー、検証会等をやりながら、国民の皆様と意見交換をさせて頂きましたけども、財源確保、この財政の見通しについては甘いところがあったと、いうところは率直に認めなければいけないと、いうことであります。
その上で、財源を確保しながら、例えば高校授業料の無償化であるとか、えー、あるいは農家の戸別所得補償など成果を生んでいるもののありますが、それは、あのー、小沢幹事長時代に22年度の予算編成のときにご決断頂いたように、暫定税率は廃止ということは、約束したことは、できなかったという部分も出てまいりました、ということを、あの、やっぱり事実として申し上げながら、今国民の皆様にご説明をさせて頂いているところでございます。
で、ご指摘を頂いた統治機構に関わる部分で、特に、地域主権、地方を大事にしていくという考え方に於いては、政権交代以降、地方交付税は間違いなく増やし続けてまいりました。
え、義務付け・枠付けという制度の見直しもやってまいりました。一括交付金も進めてまいりました。等々、え、コツコツ着々でありますが、地域主権改革というのは、これは私は、あのー、いい方向に向かってきているし、政権交代があったればこそ、実現しつつある、そういう課題だと思います。
国の統治機構の中ではまさに官僚主導ではなく、政治主導という部分もあるかと思います。この政治主導の解釈は色々とあるかもしれませんが、えー、例えば政治主導を推進するための、もっと、えー、政府の中に、いー、政治家が入るための法律等々、この辺がまだ、未整備の課題等々があることは事実でございますけども、今の地域主権改革を含めて、着実に一定の前進はしていると思っています」
小沢国民の生活が第一代表「えー、今、オー、基本的な、あー、考え方については、オー、自分も、総理も、賛成だというお話でした。で、具体的にですね、じゃ、これを、おー、実行するにはどうしたらいいかっちゅうこと、なんですね。
その中で、時間がありませんから、端的に端折って言いますけども、おー、一括交付金ちゅうのは、あの時のマニフェストにも出てた考え方ですが、現実に、一括交付金ちゅうのは総理ももう一度、オー、調べて貰いたいと、思うんですけれども、実際上は、いわゆる、自由に使える、地方が自由に使えるおカネ、じゃないんですね。
一括交付金ちゅう名前だけは当用(差し当たって用いること)してはおりますけども、実際は、あー、今までと同様、それ以上にですね、ヒジョーに面倒臭い、いー、二重の、チェックがあったり、あるいは書類の量も、お、非常に多くなっております。
ですから、それは、あのー、何ら補助金と変わらないし、前の補助金以上に、ヒジョーに煩雑になって面倒臭くなっていると、いうのが実際の姿です。
どうか、そういう意味に於いて、形式、名前ばかりではなくてですね、本当に地域主権に向けた国の統治機構・行政機構を変えると、いうのが、総理も賛成だということであれば、あー、もし、来年度予算が、編成する機会が総理にありましたならば、あー、もう一歩前進して、本当に我々の理想に向かって頑張って、頂きたいと思います。
時間ですので、終わります。ありがとうございました」(軽く一礼する)
小沢氏の以上の主張をマスコミはどこに目がついているのか、不当にも過小評価している。
《かすむ小沢氏…解散でざわつき、討論も消化不良》
(YOMIURI ONLINE/2012年11月15日00時19分)
〈持ち時間が10分の小沢氏は、民主党政権公約(マニフェスト)の統治機構改革に関する1問しか質問できず、議論は深まらなかった。
首相が推進し、小沢氏が反発して党を離れる原因となった消費増税については、一言も触れずじまい。直前に首相が衆院解散に言及し、場内のざわつきが収まっていなかったこともあり、「小沢氏は迫力不足で存在感を示せず、消化不良に終わった」との見方が出た。〉――
〈「小沢氏は迫力不足で存在感を示せず、消化不良に終わった」との見方が出た。〉とさも一般的な評価であるかのように書いているが、実際は一般を装って記事を書いた記者と周辺の評価を書き出したに過ぎないはずだ。
一般の評価であるなら仕方がないが、そうではなく、新聞社の評価に過ぎなかった場合、世論に影響を与えて、「国民の生活が第一」の政党支持率に対する不当な世論誘導となる。
《小沢氏、迫力欠く=野田首相と初対決》(時事ドットコム/2012/11/14-22:41)
〈新党「国民の生活が第一」の小沢一郎代表は14日、結党以来初の党首討論に臨み、野田佳彦首相と初対決した。小沢氏の持ち時間は10分。小沢氏が民主党を離れる直接のきっかけになった消費増税について追及する場面はなく、迫力を欠いた論戦となった。
小沢氏は、民主党が2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ政治主導や地域主権改革について「マニフェストの根幹をなす」として、首相の見解をただした。首相は「良い方向に向かっている」「一定の前進はしている」などと淡々と答えるとともに、マニフェスト作りを主導したのが小沢氏だったことに触れて「理念は正しい方向だったが、財源確保に甘いところがあった」と指摘した。〉――
新聞社の評価が正当であるなら構わないが、正当でなかったなら、「かすむ小沢氏」、「小沢氏、迫力欠く」の見出しの文字だけが一人歩きし、小沢氏と「国民の生活が第一」に対する評価を下げることに貢献するに違いない。
復興予算のいたずらな流用は政治の目が届かないことをいいことにそれぞれの省庁が自分たちの仕事を増やし、活躍の場をつくって自己評価を高める省益優先の官僚主導を恣(ほしいまま)にしていることが可能とした不適切この上ない予算使途であるはずだ。
逆説するなら、政治主導が的確に機能していたなら、官僚たちの予算流用といった好き勝手は許さないだろう。
この一事を以てしても、如何に政治主導が大切かが分かる。
会計検査院が23年度報告として2009年度ムダ遣い約1兆7904億円に次ぐ史上2番目の513件、計約5296億円の予算ムダ遣いを10月2日午後、野田首相に報告、指摘したのはムダ遣いが復興予算だけではなく、予算全体に亘っていることの証明であろう。
予算のムダ遣いのうちには不適切でムダな事業も含む。
予算のムダ遣いの横行蔓延・ムダな事業の横行蔓延は偏に官僚主導が盤石の状態にあるからだ。
亭主(国民)がコツコツ真面目に働いていて収入(税金)を渡しているのに対して専業主婦の女房(官僚)がブランド買いに走っているようなものである。
勿論、そこに政治家が一部関わっている場合もあるだろうが、全体的に政治主導の目が光っていたなら、官僚主導の入り込む隙を与えないはずだ。
よく行政組織=官僚組織はタテ割りだと口にし、その弊害が盛んに言われている。中央集権体制自体が中央を頂点とし、地方を下に置くタテ割りの構造を取っている。
中央集権体制とはタテ割りの権力体制だということである。
政府と都道府県の地方政府との関係に於いても中央集権体制を取っているが、政治対官僚の関係に於いて政治主導が機能せず、官僚主導が実質的に国を動かしている以上(そうでなければ、官僚主導とは言わない)、中央集権体制の打破と打破に伴う地域主権の確立は官僚主導からの脱却とその脱却に伴う政治主導の確立が絶対条件となる。
このような官僚主導からの脱却に対する政治主導の確立の重要性からすると、野田首相と安倍自民総裁が遣り合った議員定数の削減だ、歳費削減だは小さな問題でしかない。
解散にしても、次の政権が従来どおりに政治主導を確立することができず、官僚主導におんぶした形で政治を推し進めるなら、ムダな予算・無駄な事業を従来どおりに伝統とし、文化とするだろうし、政治家もそこに地元利益誘導で参戦するだろうから、いくら消費税を増税しようとも、その税収をムダが食い潰すことになって、野田首相の言葉を借りるなら、シロアリが食い潰すことになって、さらなる消費税増税で埋め合わせることになりなねず、特に利益の再配分が滞って生じている所得の格差をより広げる懸念が生じる。
消費税増税による税収増を適正に国民生活に利する方向で使途するか否かも政治主導にかかっている。
以上の懸念を払拭できなければ、解散もさして意味をなさない。
例えゆくゆくはねじれが解消して、政権運営が良好な運転を獲得できたとしても、官僚主導の自民党政権がそうであったように財政健全化は中低所得層を犠牲とした各種格差拡大化によって少しは成し遂げても、時々の世界的な金融不況や円高不況等に見舞われて頓挫し、抜本的な解決に至らないのは前科から判断して目に見えている。
いつ襲うかもしれない不況や大自然災害に備えるためにも官僚主導を消去、政治主導を確立して予算のムダと政府事業のムダを省き、赤字を解消し、将来的には貯金として残しておく努力をすべきだろう。
政治主導の確かな確立によって、地域主権も真に地域が主導権を握る有効な形で確立することができる。
マスコミも国民も解散に目を奪われて、何が大切なことか見る目を失っている。
野田首相と安倍総裁の遣り取りが激しかったからと言って、上辺だけで誤魔化されてはいけない。党首討論に於ける肝心な指摘は小沢「国民の生活が第一」代表のみが成し得た。
マスコミにしても多くの国民にしても、そのことに気づくだけの目を持っていないことが「国民の生活が第一」の低支持率に反映し、小沢氏の不人気に反映しているということなのだろう。
小沢氏が党首討論で政治主導と地域主権の問題を持ち出したのは日本の統治機構を根本から変える必要性からの訴えだけではなく、地方を本拠地として国会の場に進出を果たそうとしている第三極に対して「国民の生活が第一」は政治主導と地域主権を主たるテーマとしていることを伝えるメッセージの意味も込めた深慮遠謀でもあるかもしれない。
マスコミは気づくまい。