解散、総選挙戦突入ということで、民主党は国会答弁やテレビ出演の機会を狙って民主党政権3年間の成果を一大合唱する手に出た。高校授業無償化で中退者が減少しただけではなく、今まで支払っていた授業料を家計に回すことができて、生活に余裕を与えたとか。
11月19日(2012年)昼のTBS「ひるおび!」に民主党の松原仁が出演、子ども手当によって出生率が増加した、完全失業者数が減少した、雇用保険加入者数が増加した、介護保険拡充によって介護従事者が増加した、25年間保険料納付の年金受給資格を10年間とし、年金受給対象者を拡充した、無年金者が出るのを減らすことができるようにしたと、民主党3年間の成果を次々と挙げていた。
「ひるおび!」前日の2012年11月18日日曜日フジテレビ「新報道2001」でも、細野民主党政調会長が有効求人倍率の回復を例に取って民主党3年間の成果を誇示している。
先ず番組がボードで挙げた厚労省発表の「2012年9月の年齢別完全失業率」とキャプチャーで示した同じく厚労省発表の2012年大卒平均初任給を見てみる。
15~24歳――6・9%
25~34歳――5・7%
35~44歳――4・3%
45~54歳――3・1%
55~64歳――3・7%
65歳以上 ――2・0%
全体平均――4・2%
2012年大卒平均初任給――19万9600円(前年比-1・2%)
これは2年ぶりだと解説していた。
細野豪志「あのー、これまでの(民主党政権の)3年間を振返りたいと思うんですが、私共がですね、政権を取る前というのは、リーマンショックの後のですね、非常に厳しーい、あのー、状況の中でした。
ま、当時の有効求人倍率を改めて確認してみたのですけれども、0・43です。ま、つまり、あのー、それこそ仕事を求めても、半分…以上は仕事が就けないという状況でした。
それが今、数字を借用しますと、0・83と、いうところまで回復できたんです。
これは民主党が財政もしっかりやりですね、金融政策についても、ま、しっかりと言うべきことは言って、様々な政策を打ってきた結果だと思います」
対して甘利自民党政調会長は、麻生政権でリーマンショックに対して財政的に手を打って、経済を横這い状態に支えたが、民主党政権はそれを挙げる力がなかったというふうに反論していた。
どちらが正しいかである。
松原仁や細野が誇っている成果の出典としているのか、あるいは逆に成果としていることを纏めた記事なのか、次のようなPdf記事を公表している。
政権交代の成果 民主党文部科学部門会議(平成24年9月)
〈「人」に関する産業を中心に、雇用環境が大きく改善 政権交代による社会構造の変革
・失業率は5.3% (H21.9 )→ 4.1% (H23.9)に改善
cf.アメリカ9.1%、フランス9.1%、イギリス8.1%、ドイツ6.0%
・就業者数は、平成24年7月現在、平成21年9月比で、医療・福祉及び教育・学習支援で+87万人を実現(9.6%の増)。
・雇用者数は、この2年間で13万人増加。学校耐震化など現場密着型公共事業を重視することで、建設業の雇用者は3万人減少(▲0.7%)にとどめ、医療・福祉で+62万人(10.4%)、教育・学習支援で+24万人(9.4%)増加を実現。
【就業者ベースでも建設業▲9万人に対し、医療・福祉+67万人、教育・学習支援+28万人】
●出生率も1.37(08’)→1.39(10’)に上昇
・人と知恵を大切にする予算の充実により、文科省予算は3年間で7% (3,560億円)増の5兆6,377億円に(うち、将来を担う子どもたちの育成のための文教関係予算は、3年間で9%増(3,509億円)の4兆2,737億円)〉等々――
そして野田首相自身も国会答弁で3年間の成果を謳っている。その一例として2012年11月13日衆院予算委での佐藤茂樹公明党議員の質問に対する野田首相の答弁を記してみる。
佐藤茂樹議員が、これまでの民主党政権で経済は良くならなかった。低迷したままだった。責任をどう考えているのか、答弁を求めた。
野田首相「あの、民主党政権になってから、景気が悪くなったようなご指摘がありますけれども、あの、リーマンショック後、厳しい情勢の中から、政権交代以降、4四半期プラスの成長を遂げました。
大震災があって、これ、また景気が落ち込みましたけども、その後も回復軌道に乗りながら、え、まあ、3四半期、私の政権からプラス成長になりました。
と言うように、一貫して悪かったようなご指摘でありますが、厳しい国際情勢の中でも、プラス成長を着実にやってきたし、そして最近はあまり、雇用の話がありましたけども、完全失業率は4・2%まで引き下げてきたと、いう数字もあるということは事実です。
むしろこれは安倍政権から色々な話がしていますが、その前からずっとデフレじゃないですか。そのデフレを克服できなかった政権に戻すって言うのですか。
我々はデフレのギャップを縮めてきています。どういうように、あの、一貫して悪かったようなご指摘は、これはあまり一方的な話ではないかと、反論させて頂きます」
佐藤議員はこの答弁にまともに反論はせず、政府の今後の経済対策や補正予算についての質問に入っていった。
民主党側は根拠もなく言うわけはないから、確かに完全失業率が減少しただろうし、出生率も増加しただろうし、介護従事者が増加しただろうし、有効求人倍率も下がっているだろう。
様々に成果を謳っている中で野田首相自身が2011年8月29日民主党両院議員総会民主党代表選で、「中産階級の厚みが日本の底力」であり、「そこに光を当てようと言うのが民主党の『国民の生活が第一』という、私は理念」だと公約したのを皮切りに、「分厚い中間層の復活」を日本再生のキーワードとしてきたのである。
いわばいくら民主党3年間の成果を謳おうとも、「分厚い中間層の復活」に向けた、せめて兆しでも見せていなければ、成果は正当性を得ることはできない。
「分厚い中間層の復活」は上層の下層部分を中間層に引きずり降ろすことで中間層を分厚くすることではなく、上層は維持して、下層の内から多くを中間層に引き上げることで達成する「分厚い中間層の復活」でなければ意味を成さないはずだ。
前者なら、日本全体を貧しくすることになる。後者なら、全体的な所得の増加を意味することになる。
2009年民主党マニフェストでも、〈子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、暫定税率廃止などの政策により、家計の可処分所得を増やし、消費を拡大します。それによって日本の経済を内需主導型へ転換し、安定した経済成長を実現します。〉と謳っているのである。下層の可処分所得を増やしてこそ、「分厚い中間層の復活」は可能となる。
高額所得層の可処分所得をいくら増やしても、利益の再配分が下流に流れない現在の状況からして、「分厚い中間層の復活」はあり得ない。
例えこのことが可能となったとしても、下層を取り残すことになり、より一層の格差拡大を結果とすることになる。
次の記事を見ると、「分厚い中間層の復活」は、その兆しさえ現れていないようである。
《22年世帯所得は昭和62年並みに低下、平均538万円》(MSN産経/2012.7.5 17:49)
岩手、宮城、福島3県を除く厚労省発表の「国民生活基礎調査」は平成22年(2010年)1世帯当たり平均所得を前年比マイナス13万2千円の538万円と弾き出している。
22年前の1988年とほぼ同じ低水準で、ピークの1994年の664万2千円と比較して126万2千円減少だということだが、民主党政権3年間の成果に限って言うと、2009年から13万2千円減だということは「分厚い中間層の復活」に何ら責任を果たしていなかったことになる。
厚労省担当者「非正規職員・従業員の割合が増加するなど、働き手の稼ぐ額が減少したことが一因」
「正規職員・正規従業員」15歳以上(役員以外)雇用者1人当たり平均所得
――414万3千円
「非正規職員・非正規従業員」15歳以上(役員以外)雇用者1人当たり平均所得
――123万4千円
290万円9千円の格差がある。
非正規社員を正規社員に引き上げてこそ、「分厚い中間層の復活」、日本の底力の復活は可能となる。
だが厚労省担当者が言っているように、逆の状況となっている。
岩手県,宮城県及び福島県を除く厚労省「労働力調査(詳細集計)」の平成23年平均(速報)結果を見てみる。
2010年(平成23年)平均の雇用者(役員を除く)(4918万人)。
正規の職員・従業員――3185万人(前年比マイナス25万人)
非正規の職員・従業員――1733万人(前年比+48万人)
正規が減って、非正規が増えている状況は「分厚い中間層の復活」とは逆行した、上層+中層から下層に労働者を移動させている光景を映し出しているはずだ。
但しこの「労働力調査(詳細集計)」は、一方で、〈2011年(平成23年)平均の完全失業者(284万人)のうち、失業期間が1年以上の完全失業者は109万人と、前年に比べ5万人減少〉と、経済の好転を映し出している。
このような表面的な好転を取り上げて、野田首相以下、民主党の閣僚やその他がテレビ番組や国会答弁で誇っている民主党3年間の成果であって、実態は自民党政権から引き続いて経済格差や所得格差の拡大に手を貸していても、自らが約束したように下層の所得を引き上げて中間層に位置づける「分厚い中間層の復活」に関しては何ら力を発揮していないし、当然、何ら成果を上げていなかったのである。
当然、民主党3年間の成果は非正規社員の増減を指標とした、「分厚い中間層の復活」の成果如何で誇らなければならないはずだ。
にも関わらず、誰もが非正規社員の増減を根拠とした「分厚い中間層の復活」の検証抜きに安易に成果を語っている。