昨日(2012年11月16日)の野田首相の解散記者会見を取り上げる前に、先ず最初に野田首相が11月14日の党首討論で解散を求める安倍晋三の追及に対して自身の正直さについて、自分を「正直の上にバカがつく」程のバカッ正直だと最大限に自己評価して、「近いうちに国民の信を問う」はウソをつくつもりで言ったのではないと述べた発言を取り上げてみる。
《【衆院解散】決断は突然に 党首討論要旨》(MSN産経/2012.11.15 00:13)から関係箇所のみを取り上げてみる。
安倍晋三「私が総裁に就任して1カ月半、首相に『(衆院解散の)約束を果たすべきだ』と厳しい言葉を投げかけてきた。それは国民の政治への信頼に関わるからだ。民主党は消費税率を上げる必要はないと約束して政権を取った。その約束を違えて主要な政策を百八十度変えるのだから国民に改めて信を問うのは当然だ。強力な新しい政権が経済と外交を立て直すべきだ。勇気を持って決断してほしい」
野田首相「『近いうちに信を問う』と言ったことに嘘はない。小学生のとき成績の下がった通知表を持って帰り、おやじに怒られると思ったが、頭をなでてくれた。生活態度の講評に『野田君は正直の上にバカがつく』と書いてあり、おやじはそれを見て喜んでくれた。私の教育論はそこから始まる。偏差値ではなく数字に表せない大切なものがあると。だから嘘をつくつもりはない」――
偏差値や数字で表される成績よりも、数字には表すことができない正直さを大切にする野田首相の教育の原点は自身の幼少の頃からの「正直の上にバカがつく」美徳が出発点だと誇り、それ程にも自分は正直に出来上がっている、ウソなどつくはずはないと自信たっぷりに自己保証している。
次に野田首相がウソつきの格好の例としてブログに何度か取り上げてきた、2011年8月29日実施民主党代表選当日の野田候補最後の演説中の発言を再度ここに取り上げてみる。取り上げることによって、解散記者会見の野田首相の発言が如何にウソ混じり・ゴミ混じりかを炙り出していくことになる。
「ゴミ混じり」とは、純一であるべき事柄に異物が混じっていることの譬えとして使っている。
《野田財相/民主党両院議員総会民主党代表選の演説》(2011年8月29日)
野田候補「悲願の政権交代をみなさんと共に実現をさせていただきました。その政権交代、実現をしたあと、担当したのは財政です。えらいときの担当となりました。税収が9兆円以上落ち込んでしまった中で、先ずやるべきことはバケツの水をザルに流し込むような勿体無い遣り方は改める、そこは徹底したいと思います。
しかし、白アリ退治、行政刷新会議を通じての戦いを進めてまいりました。気を抜くと、働きアリが収めた、その税金に白アリがたかる構図は、気を抜くとまた出てきます。私は引き続き行政刷新担当大臣を専任大臣として行政改革を推進をするべきだと思います。
先ずは隗より始めよ。議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減、それはみなさんにお約束したこと。全力で闘っていこうじゃありませんか。
それでも、どうしてもおカネが足りないときには、国民にご負担をお願いすることがあるかもしれません」――
「先ずやるべきことはバケツの水をザルに流し込むような(予算の)勿体無い遣り方は改める、そこは徹底したい」と、「徹底したい」という言葉まで使って予算のムダ遣いの根絶を訴えているが、もしムダ遣いを改めることができていたなら、復興予算の流用は存在しないはずだから、存在するということは例外的な一つの例とすることはできず、逆に全体的にムダ遣いが横行している証明となって、有言不実行をも証明していることになる。
ムダ遣いの根絶と「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」は国民に約束したことで、「それでも、どうしてもおカネが足りないときには、国民にご負担をお願いすることがあるかもしれません」と消費税の増税の可能性を訴えている。
いわばあくまでも順番はムダ遣いの根絶と「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」であって、最後の最後が消費税増税だと、優先順位をつけている。
民主党がマニフェストで国民に約束した政策が民主党政権の誕生に貢献したように野田首相の代表選最後の演説で約束した政策やその順位付けが野田政権の誕生・野田首相誕生に最終的に貢献し、国民と対峙する構図をつくり出したのだから、この最終演説は民主党議員や党員、サポータ向けに限った言葉ではなく、国民との契約と位置づけることができる。
国民との契約でもありながら、その契約を果たさないうちに優先順位を180度逆転させてマニフェストに4年間は上げないと公約していた消費税増税法を先に達成した。
これを以てウソをついたと言わずに、何と表現すればいいだろうか。
野田首相は上記演説で、「政治に必要なのは夢、志、矜持、人情、血の通った政治だと思います」と言い、「一人ひとりを大切にする政治は私の原点です」と高らかに謳っている。
優先順位を180度豹変させることで、民主党所属の多くの議員、党員、サポータに対してこれらの言葉を裏切っただけではなく、国民に対しても自らが発信したメッセージを自分から裏切ったのである。
では、昨日の解散記者会見発言をウソがあるかないかの視点から見てみる。発言は首相官邸HPから採った。
先ず冒頭の発言。
野田首相「この解散の理由は、私が政治生命をかけた社会保障と税の一体改革を実現する際に、実現をした暁には、近いうちに国民に信を問うと申し上げました。その約束を果たすためであります」
だが、民主党代表に当選させ、首相の座への道を切り開いた演説での約束事・対国民契約から言って、最初に政治生命を賭けるべきはムダ遣いの根絶と「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」であって、これらを成し遂げた後に政治生命を賭けるべき「社会保障と税の一体改革」としなければならなかったはずだが、冒頭発言からウソ混じり・ゴミ混じりとなっている。
続いて白々しく次のように発言している。
野田首相「政治は、筋を通すときには通さなければならないと思います。そのことによって、初めて国民の政治への信頼を回復することができると判断したからであります」
「筋を通す」とは自身の発言に対して行動を違えないこと、言行一致を言うはずだ。そうすることによって、「初めて国民の政治への信頼を回復することができる」
だが、違えたことによって、野田内閣支持率は20%を切り、国民世論を強力なバックアップとすることができなかったこのような政治不信状況が政治の混乱を招く一因ともなった。
ところが野田首相自身は筋を通していると信じている。バカッ正直な上に残念ながら客観的に自己を省みる自省心を欠いているから、そのような肯定的な評価が可能となるのだろう。
野田首相「身を切る改革は誰もが主張していても、国会議員の定数の1割の削減もままならない。そうした決められない政治が政局を理由に続いてまいりました。その悪弊を解散することによって断ち切りたい、そういう思いもございました」
自身が最優先事項として消費税増税よりも何よりも「議員定数の削減」を挙げていたことをケロッと忘れている。バカッ正直であるということは恐ろしい。
そして野田首相は首相就任からの440日間を振返る。
野田首相「一心不乱に国難とも言えるさまざまな課題にぶれずに、逃げずに、真正面から同志の皆さんとともに立ち向かってまいりました。ねじれ国会である中で、動かない政治を動かすために、全身全霊を傾けてまいりました。政治を前へ進めようと思いました。大変険しい山でありましたが、その道を一歩一歩進もうとしました。
険しい山だった理由はいろいろあります。何よりも、膨大な借金の山、長引くデフレ、いずれも自民党の政権からの負の遺産です。これはとても大きいものがありました。加えて、欧州の債務危機、あるいはさまざまな災害等々の困難もありました。そういう問題を一つ一つ現実的に政策を編み出し、推進をしてきたつもりであります」――
優先順位を変えておいて、「一心不乱に国難とも言えるさまざまな課題にぶれずに、逃げずに、真正面から同志の皆さんとともに立ち向かってまいりました」と正々堂々と発言できる心臓はバカッ正直だけあって見事である。
確かに「膨大な借金の山、長引くデフレ」は「自民党の政権からの負の遺産」である。だが、民主党政権はその負の遺産を取り崩すために果敢に取り組んだのだろうか。逆に税収不相応に国家予算を増額し、結果的に赤字国債を増やした。
ムダ遣いの根絶だけではなく、国家予算自体を絞り込むことがほんの形式程度に終ったからだ。
また、欧州の債務危機や東大日本大震災を挙げて、「そういう問題を一つ一つ現実的に政策を編み出し、推進をしてきたつもりであります」と言っているが、どういう成果を上げつつあるのか、一言も触れていない。
被災地復興を例に取ると、除染も瓦礫処理も、産業の回復も目に見える形で進んでいないからだろう。
野田首相「『福島の再生なくして日本の再生なし』と申し上げましたが、震災からの復旧・復興、原発事故との戦い、日本経済の再生、まだ道半ばであります」
「道半ば」は前々から言っていて、「道半ば」をいつまで続けるのか、そこから一歩も出ていない状況にある。被災地では民主党政権に対する不平・不満、批判が渦巻いている。
以上見てきたように野田首相はバカッ正直とは言い難い言葉の裏切りを国民に投げつけた。その結果の内閣支持率だろうが、マスコミは記者会見最後の質疑応答で、野田首相が言うように「筋を通すときには通す」政治家であり、「国難とも言えるさまざまな課題にぶれずに、逃げずに、真正面から立ち向かう」政治家であるなら、なぜ内閣支持率はこうまで低いのか、その理由を教えてもらいたいとなぜ尋ねなかったのだろうか。
消費税増税が嫌われたと答えるかもしれないが、実際は財政再建に向けた消費税増税の必要性を問う世論調査では当初は賛成・反対共50%前後で均衡していたのである。それが消費税反対が上回ることになっていったのは野田首相自身が自らの言葉の数々を自ら裏切ってきたことが周知されるに至ったからだろう。
野田首相の実際の姿は筋を通すときには通さず、国難とも言えるさまざまな課題にぶれ、逃げ、真正面から立ち向かわなかった姿の積み重ねであった。
野田首相は次いで国家の基盤をなす重要政策である社会保障政策、経済政策、エネルギー政策、外交・安全保障政策、政治改革政策の5つを挙げ、これらの政策を自民党の政策と比較して、民主党政策を肯定、自民党政策を否定している。
肯定はいい。結構毛だらけ、猫灰だらけ。
だが、民主党代表と首相への道を開いた出発点となる代表選最終演説で発信した自らの言葉をそもそもからして裏切り、それらをウソとし、ゴミ混じりとしたのである。
筋を通す、ブレない、逃げもしない、真正面から立ち向かう実行能力を欠いていたからこその実行能力に関わる信用失墜――自身の言葉に対する裏切りであって、その前科を犯している以上、国家基盤形成の重要政策を掲げて、いくら優れた政策だと誇ったとしても、既に欠いていることが証明された実行能力自体が戻ってくるわけではない。
自身の言葉を裏切るウソ混じり・ゴミ混じりの同じことの繰返しを必然とするのは目に見えている。