安倍晋三の従軍慰安婦日韓合意の日本軍の責任承認も「政府発見資料に記述なし」も安部流ペテン

2017-12-29 11:39:01 | 政治

 2015年12月28日の日韓政府間従軍慰安婦問題合意を朴槿恵(パク・クネ)政権から変わった文在寅(ムン・ジェイン)政権が合意破棄の世論を受けて検証、2017年12月28日、韓国大統領府の報道官がムン・ジェイン大統領の声明を読み上げた。

 〈文大統領の立場表明全文〉中央日報/2017年12月28日14時13分)
 
◆立場表明の全文。

慰安婦TFの調査結果発表を見ながら、大統領として重い気持ちを禁じ得ません。

2015年の韓日両国政府間の慰安婦交渉は手続き的にも内容的にも重大な欠陥があったことが確認されました。

遺憾ではありますが、避けることはできません。

これは歴史問題の解決において確立された国際社会の普遍的原則に背くだけでなく、何よりも被害の当事者と国民が排除された政治的合意だったという点で極めて遺憾です。

また、現実に確認された非公開合意の存在は国民に大きな失望を与えました。

合意が両国首脳の追認を経た政府間の公式的約束という負担にもかかわらず、私は大統領として国民と共に、この合意では慰安婦問題が解決されないという点を改めてはっきりと明らかにします。

そしてまたも傷を受けた慰安婦被害者の皆さんに心から深い慰労を伝えます。

歴史で最も重要なことは真実です。

真実に背を向けたところで道を付けることはできません。我々には苦痛の過去であるほど向き合う勇気が必要です。苦痛で、避けたい歴史であるほど、正面から直視しなければいけません。

そうしてこそ初めて治癒も、和解も、そして未来も始まるでしょう。

私は韓日両国が不幸だった過去の歴史を踏んで、本当の心の友になることを望みます。

そのような姿勢で日本との外交に臨みます。

歴史は歴史として真実と原則を毀損せずに扱っていきます。同時に私は歴史問題の解決とは別に、韓日間の未来志向的な協力のために正常な外交関係を回復していきます。

政府は被害者中心の解決、国民と共にする外交という原則の下、早期に後続措置を用意することを望みます。

 「慰安婦交渉は手続き的にも内容的にも重大な欠陥があった」
 「歴史問題の解決において確立された国際社会の普遍的原則に背く」
 「この合意では慰安婦問題が解決されない」
 「歴史は歴史として真実と原則を毀損せずに扱っていきます」

 日韓合意の見直しと新たな交渉による解決を目指す意思がありありと滲み出ている。

 ムン・ジェイン大統領が「現実に確認された非公開合意の存在は国民に大きな失望を与えました」と言っている「非公開合意」の内容はここでは触れていないが、2017年12月28日付「毎日新聞」記事が紹介している。その一部をここに抜粋する。    

 〈「最終的かつ不可逆的解決」という文言は、安倍晋三首相の公式謝罪を担保する閣議決定を要求する文脈で韓国側が要求したが、閣議決定は実現せず、「韓国側の当初の意図とは違い、『解決』の不可逆性を意味する脈略に変わった」などと経緯を指摘した。 〉――

 安倍晋三が従軍慰安婦に対する謝罪を閣議決定すれば、日本政府の公式謝罪となって、その謝罪は再び元の状態に戻すことができない「最終的かつ不可逆的解決」の確固とした“担保”とし得る。韓国側はそのような意図で要求したが、安倍晋三は謝罪の閣議決定は行わず日本側は公式謝罪抜きで合意を以って「最終的かつ不可逆的解決」としたということになる。

 但し韓国側が「閣議決定を要求する文脈で」云々したが事実とすると、明示的、あるいは直接的な言葉での要求でなかったことになって、安倍晋三がペテンを働かせたのかどうかは微妙となる。

 上記文在寅大統領の声明に対して日本政府は勿論のこと一斉に反発した。その一人外相河野太郎の関係箇所の発言を取り上げてみる。

 「外務省」(於:オマーン・マスカット/2017年12月27日)    

 冒頭発言

 河野太郎「今日韓国外交部の長官直属のタスクフォースから,一昨年の日韓合意についての検討結果なる報告書が発表されました。この報告書は合意に至るまでの韓国国内における交渉の体制ですとか,あるいは合意の内容について,批判をするものであって,すでに両国政府が最終的かつ不可逆的に合意をしているものについて,やや疑義を表すようなことが韓国政府に対して示されました。

 日韓合意は申し上げたように両国政府の合意でありますし,国際社会からも高く評価されているものです。この報告書は,韓国政府が日韓合意について採るべき立場については触れておりませんが,最終的かつ不可逆的な合意として両国政府が合意をしたものですから,万が一にもこれが,合意が変更されるようなことがあれば,日韓関係は極めて管理不能な状態になるということは私(大臣)から康京和(カン・ギョンファ)長官にもすでに申し上げているとおりでございます。

 そうしたことはないという風に信じておりますし,仮にあるとしても受け入れることは出来ないというのが我々の立場でございます。日本政府として,この日韓合意が韓国政府によって着実に実施されるという風に思っておりますし,そう求めるものであります。政府の立場は外務大臣談話としてすでに発出しているところであります。それについては,韓国側に談話については伝えているという風に認識しています。私(大臣)からは以上です」

 質疑応答

 記者「日韓合意の件ですけれども,今日談話でですね,日韓関係がマネージ不能という,ちょっと強い言葉で談話を出されていると思うんですけれども,改めてどういうお気持ちでこの談話,この言葉を使われているのか教えてください」

 河野太郎「この日韓合意は,前の岸田大臣の時に両国の外務大臣同士で合意をして,最終的かつ不可逆的な合意だということを申し上げ,国際社会からもこれは非常に高い評価を得ていた,これを基にして日韓関係を前に進めようという時にですね,政権が変わったから前の政権がやったことは知りませんということでは,これから先,日韓が合意をするのが何事においても難しくなりますし,国民の支持という話もございましたが,それじゃあ韓国と取り決めをやる時には,毎回国民投票をやってもらわなきゃいかんということになるのでは何事も前に進みませんので,これを不可逆的かつ最終的と言ったものが変更されるようなことがあれば,なかなか日韓がこれから何をやるにも極めてマネージメント不能の状況になります,ということは,先般外務大臣にも直接申し上げましたので,そういうことがよもやないという風に思っております」 

 冒頭発言で日韓従軍慰安婦合意は「最終的かつ不可逆的な合意」を約束しているのだから、その約束を破るようなら、「日韓関係は極めて管理不能な状態になる」と強く警告している。

 これは国としての経済的な立場の上位性、あるいは国力の上位性を利用した、それゆえに一種の恫喝となる発言に値する。アメリカや中国に対しては「管理不能な」関係性を言い立てることはできないだろう。言い立てた場合のダメージはアメリカや中国よりも日本の方が大きくなるからだ。

 質疑応答で「政権が変わったから前の政権がやったことは知りませんということでは,これから先,日韓が合意をするのが何事においても難しくなります」と言っているが、オバマ前米大統領が気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(パリ協定)の2015年12月12日採択に関わり、2016年9月3日に中国の習近平国家主席と共にパリ協定の批准を宣言している。

 だが、次の米大統領トランプは2017年6月1日、米国のパリ協定からの離脱を表明している。

 2017年11日10日にベトナムのダナンで行われた環太平洋パートナーシップ(TPP)閣僚会合に於いて11カ国によるTPP交渉の大筋合意が確認され、各国とも議会承認を残すだけとなったが、就任前のトランプが選挙戦中の公約通りにTPPからの離脱方針を示したことを受けて、オバマは2016年11月22日、任期中の議会承認を断念する考えを正式に表明した。

 パリ協定にしてもTPPにしても、従軍慰安婦日韓合意とは異なって複数という形を取るが、基本的には同じ国家間の合意である。「政権が変わったから前の政権がやったことは知りませんということでは何事においても合意は難しくなります」とトランプに主張するか、アメリカを突き放すような態度を取るべきだろう。

 それができないのは日本が韓国に対するのとは逆に経済的な立場の上位性、あるいは国力の上位性が日本側にではなく、アメリカ側にあるからだろう。

 あまり偉そうな口を叩くことはできない河野太郎の恫喝に過ぎない。

 あれ程歴史認識に拘っていた朴政権が従軍慰安婦問題で日本と合意したのは韓国経済が低迷していたために歴史問題でギクシャクした関係にあった日本と良好な関係を取り戻して、経済取引きでも改善方向に持っていきたい背に腹は変えられない状況にあったからだろう。

 韓国が急激な経済発展を遂げて一挙に先進国の仲間入りを果たした漢江の奇跡(1961年~1997年)後の1997年のGDP成長率は11.3%もあったが、年々下降して朴政権(2013年2月25日~ 2017年3月10日)就任の年は2.9%、翌年の2014年は3.3%、日韓合意の2015年は3.3%と、かつての勢いを完全になくしていた。

 韓国がこのような経済状況下にあり、日韓合意前年の2014年4月16日には300人もの死者を出すセウォル号沈没事故があり、その杜撰な対応などで不人気を曝け出すことになって朴大統領の支持率が低迷、日本は強い立場で交渉に臨むことができた。
 
 いわば韓国経済回復と大統領の支持率回復のキッカケとしたい日韓合意であったはずで、少しのことには目をつぶる意思があったのかもしれない。

 だから、検証結果が「慰安婦交渉は手続き的にも内容的にも重大な欠陥があった」と指摘されることになった。

 韓国側の従軍慰安婦に関わる元々の歴史認識は植民地下の韓国人女性が日本軍兵士に拉致同然に強制連行されて日本軍の慰安所で慰安婦とされ、強制売春に従事させられたとする日本軍関与説であるのに対して安倍晋三の同歴史認識は日本軍関与説を否定するものであった。

 ところが、2015年12月28日、日本の外相岸田文雄とユン韓国外相が韓国ソウルで会談、両国間に横たわっていた従軍慰安婦問題で合意を見た。共同記者発表から日本軍関与について触れている箇所のみを抜粋してみる。

 「日韓共同記者発表」外務省2015年12月28日)   

〈1 岸田外務大臣

 日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。

安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉(以下略)――

 「慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」との文言は韓国側の歴史認識に於ける日本軍関与説の全面的承認に見えるが、ところがそうではなかった。

 全面的承認であるなら、承認した国の首相として公式謝罪の閣議決定はあって然るべきだが、閣議決定がなかったことが全面的承認ではないことを証拠立てる。

 全面的どころか、韓国側の歴史認識とは無縁の文言に過ぎなかった。当時「日本のこころ」代表の右翼中山恭子がこの日韓合意に於ける日本軍の関与を認めた文言を事実と捉えて批判したのに対して安倍晋三は次のように答弁している。

 安倍晋三「海外のプレスを含め正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。性奴隷 あるいは 20万人といった事実ではないこの批判を浴びせているのは事実でありまして、それに対しましては政府としては、それは事実ではないということはしっかりと示していきたいと思いますが、政府としてはこれまでに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったという立場を辻本清美議員の質問主意書に対する答弁書として平成19年、これは第一次安倍内閣の時でありましたが、閣議決定をしておりまして、その立場には全く変わりがないということでございまして、改めて申し上げておきたいと思います。

 また 『当時の軍の関与の下に』というのは、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれにあたったこと、であると従来から述べてきている通りであります。

 いずれにいたしましても重要なことは今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっておりまして、史上初めて日韓両政府が一緒になって慰安婦問題が最終的且つ不可逆的に解決されたことを確認した点にあるわけでありまして、私は私たちの子や孫そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかないと考えておりまして、今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものであります」――

 日本側が認めた「当時の軍の関与」とは慰安所の設営、あるいは設置、その管理、そして慰安婦の移送等を指しているのであって、韓国側が唱えている日本軍関与説は「政府が発見した資料」には記述がないことから事実に反すると斥けている。

 「政府が発見した資料」の中に記述がなくても、韓国人の元従軍慰安婦のみならず、台湾、フィリピン、インドネシアの元従軍慰安婦の女性たちが軍トラックに乗ってやってきた数人ずつの日本軍兵士によって大人の体格に物を言わせて強引に連れ去られて慰安所に閉じ込められ、強制的に日本人兵士を取らされたことを数多く証言している。

 特に周知の事実となっているのはインドネシアの旧宗主国であったオランダ軍が日本軍に負けて収容所に収容されることになったオランダ人の若い女性を強制的に慰安所に閉じ込めて日本軍兵士の慰安婦とした事件で、敗戦後オランダの現地裁判にかけられて、死刑まで出している。

 要するに「政府が発見した資料」の中にはその事実の記述がないというだけのことに過ぎない。「資料」の外の現実の世界には夥しい数でその事実が存在した。

 安倍晋三は政府発見資料には日本軍関与の記述がないとすることで上記元慰安婦の数多くの証言が示し、韓国側の歴史認識となっている現実世界での日本軍関与の事実を抹消し、その抹消を日韓合意に於ける「当時の軍の関与の下に」なる文言に巧みに潜り込ませるペテンを働かせたのである。謝罪の閣議決定など、する気はサラサラなかった。

 当然、日韓共同記者発表で記している「安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する」は口先だけの文言に過ぎない、これもペテンということになる。

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