経済が活気づいて人手不足現象が生じた。と言っても、活気づいたのは国の経済とその恩恵の殆んど多く受ける富裕層のみで、一般国民の生活が活気づいたわけではない。個人消費が満足に増えていないことがそのことを証明している。つまり安倍晋三の経済政策――アベノミクスはカネ持ちミクスと言うことになる。
人手不足の対策として外国人技能実習制度や高度外国人材の受入れ政策によって補ってきたが、焼け石に水ということなのだろう、安倍晋三はここに来て外国人材の受入れ拡大を目指すことになった。
「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」(首相官邸/2018年7月24日) 安倍晋三「この2年半にわたり、47全ての都道府県で有効求人倍率が1倍を超える中、全国各地の中小・小規模事業者を始めとする現場では、人手不足が深刻化しています。このため、生産性向上や国内人材の確保を引き続き強力に推進する必要があることは言うまでもありませんが、それとともに、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築することは急務であります。 新たな制度による外国人材の受入れは、来年4月を目指して、準備を進めてまいりたいと考えていますので、法案の早期提出、受入れ業種の選定等の準備作業を、速やかに進めていただくよう、お願いします。 また、新たな制度による受入れを含め、在留外国人の増加が見込まれる中、日本で働き、学び、生活する外国人の皆さんを社会の一員として受け入れ、円滑に生活できる環境を整備することは重要な課題です。 本日の閣議決定により、法務省が外国人の受入れ環境の整備に関する総合調整を行うこととなりました。法務省の司令塔的機能の下、関係府省が連携を強化し、地方公共団体とも協力しつつ、外国人の受入れ環境の整備を効果的・効率的に進められるよう、関係閣僚の御協力をお願いします。また、法務省には、在留外国人の増加に的確に対応するため、組織体制を抜本的に見直し、在留管理等に当たる新たな体制を構築するよう、検討をお願いします」 |
新たな制度による外国人材の受入れは来年4月の導入を目指すと言っている。ネットで検索したところ、外国人技能実習制度による入国外国人数は2017年6月時点で25万1721人、高度外国人材の受入れ政策による入国外国人数は2017年年6月末現在、認定件数が8515件。家族同伴が許されているから、それ以上の人数となって、合計で34、5万程度だろうか。その他在留資格を得て入国している外国人数や不法滞在外国人数を含めると、相当な数に登るはずだ。
2018年6月27日の党首討論で国民民主党共同代表大塚耕平は、「総理もよくご承知の通り、技能実習生は今国内に26万人、この技能実習生を含んで127万人の外国人労働者。しかし、これは統計上の話で、もっとたくさんいらっしゃると思います」と発言している。
2018年6月5日の「第8回経済財政諮問会議」(首相官邸)での安倍晋三の発言。
安倍晋三「地方の中小・小規模事業者を始めとして人手不足が深刻化しています。このため、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを早急に構築する必要があります。本日提示した骨太方針の原案において、移民政策とは異なるものとして、新たな在留資格の創設を明記しました。
地方の中小・小規模事業者を始めとして人手不足が深刻化しています。このため、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを早急に構築する必要があります。本日提示した骨太方針の原案において、移民政策とは異なるものとして、新たな在留資格の創設を明記しました」
外国人材受入れ拡大政策は「移民政策とは異なる」と断っている。
断らずとも、安倍晋三の各言動、歴史認識から国籍を与える移民政策に反対していることは明らかである。だが、人手不足がカネ持ち層には機能しているが、一般国民には機能していないカネ持ちミクスであるアベノミクスに現在以上の悪影響を及ぼして息の根を止めかねない危機感から、人手不足解消を唯一の目的に止むを得ず選択した、在留資格による入国のみを認める外国人材受入れ拡大政策に過ぎない。
つまり基本的には日本人の血に外国人の血を入れることに反対している。日本人の血を外国人の血で汚したくないと信念しているからだろう。汚すのは最小限に抑えて、純粋日本人を可能な限り残す。
こういった信念は日本人優越民族意識に基づく。在留資格による入国外国人の在留期限延長を目玉にしているが、その目玉たるや、単に獲得人数増加のための募集要件の緩和に過ぎない。
この新たに打ち出した外国人材の受入れ拡大は長年打ち続けてきた少子化政策が不首尾に終わっていることの裏返しという側面を否応もなしに抱えている。
内閣府「第1章 高齢化の状況」によると、15歳から64歳までの生産年齢人口(いわゆる“現役世代”)は、〈平成7(1995)年に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じ、平成25(2013)年には7,901万人と昭和56(1981)年以来32年ぶりに8,000万人を下回った。〉と告げてから、出生数の減少に触れて、〈出生数の減少は、生産年齢人口にまで影響を及ぼし、平成39(2027)年に6,980万人と7,000万人を割り、平成72(2060)年には4,418万人となると推計されている。〉と解説している。
要するに人手不足は少子化政策不首尾の裏返し、その反映でしかない。
《人口減 産めぬ現実》と題した2005年12月23日付『朝日』朝刊。
先ず記事は厚労省の推計で2005年に生まれた子供の数が死亡者を1万人下回り、政府推計よりも1年早く人口の自然減が始まったと紹介している。
記事発信の2005年12月23日は小泉政権下(任期2001年4月26日~2006年9月26日)の1日であり、当然、日本の経済に大きく影響するゆえに少子高齢化対策には真正面から向き合っていたはずだ。
内閣官房長官は2005年10月31日~2006年9月26日まで安倍晋三が務め、総務相は小泉純一郎のブレーン竹中平蔵。
2005年12月22日の閣議後の記者会見。
竹中平蔵「日本が人口減少社会になっていくのは実は30年前に分かっていた。残念ながら30年間、我々の社会は有効な手段を準備できなかった」
「我々の社会」ではなく、自民党一党独裁が続いていたのだから、「我々の自民党は有効な手段を準備できなかった」と発言すべきだったろう。 「30年前に分かっていた」にも関わらず、自民党政権は30年間も無為・無策だった。
出生数と合計特出生率を竹中平蔵の上記発言の2005年から記録がある2013年までを、「少子化対策の現状と課題」(内閣府)のページで紹介しているエクセル文書から引用してみる。当方は四捨五入した。
2004年 出生数 111万人 合計特殊出生率 1.29
2005年 出生数 106万人 合計特殊出生率 1.26
2006年 出生数 109万人 合計特出生率 1.32
2007年 出生数 109万人 合計特殊出生率 1.34
2008年 出生数 109万人 合計特殊出生率 1.37
2009年 出生数 107万人 合計特殊出生率 1.37
2010年 出生数 107万人 合計特殊出生率 1.39
2011年 出生数 105万人 合計特殊出生率 1.39
2012年 出生数 103万人 合計特殊出生率 1.41
2013年 出生数 102万人 合計特殊出生率 1.43
合計特殊出生率とは、15歳から49歳までに産む子供の数の平均を示すとある。また、合計特殊出生率が2であれば人口は横ばいを示し、これを上回れば自然増、下回れば自然減となるということである。
2007年から2013年まで出生数が減少を続けているにも関わらず合計特殊出生率が上がっているのは女性人口に於いても少子高齢化の影響や、生活上、1子だけで我慢する家庭が増えたことを受けて、子どもを生む可能性の低い40代人口の割合が増えたものの、そのことに反して子どもを生む可能性の高い20代、30代の「年齢構成」が低下したことが原因ということである。
要するに少子化防止は出生数減少の確実は歯止めと増加への転向がカギを握っていることになる。
上記の2005年12月22日の閣議後の記者会見に官房長官として出席していた安倍晋三は日本の経済発展に大きく影響することから人口減少社会対策、いわば少子高齢化対策が喫緊の課題だと目の当りにした。あるいはそれ以前からだったかも知れない。
小泉純一郎内閣末期の2006年に猪口邦子少子化担当大臣(当時)のもとで少子化対策が纏められた。だが、2006年、7、8年と出生数はほぼ維持しているのに対して合計特殊出生率が僅かにしか増えていないのは出産の可能性の高い「年齢構成」が低下していることからで、何よりも合計特殊出生率2に近づける勢いはなかった。
当然、2006年9月26日に首相の座についた安倍晋三は少子化対策に大きな責任を負ったことになる。
《第165回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説》(首相官邸2006年9月29日) 安倍晋三「我が国は、昨年初めて、総人口が減少に転じていく人口減少社会を迎え、合計特殊出生率も1.25と過去最低の水準になりました。直近の出生数は昨年を上回っていますが、第2次ベビーブーム世代がまだ30歳代である、残り5年程度のうちに速やかに手を打たなければなりません。 内閣の総力をあげて少子化対策に取り組み、『子育てフレンドリーな社会』を構築します。出産前後や乳幼児期における経済的負担の軽減を含め、子育て家庭に対する総合的な支援を行うとともに、働き方についても、子育てを応援する観点から改革を進めていきます。子育ての素晴らしさ、家族の価値を社会全体で共有できるよう、意識改革に取り組みます」(一部抜粋) |
この所信表明では少子化対策に取り組むことを重要な公約の一つに掲げている。
一つ付け加えてこくと、「財政再建と行政改革の断行」 に関わる所信では、各種改革を挙げた上で、「このような改革を徹底して実施した上で、それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保するため、抜本的・一体的な税制改革を推進し、将来世代への負担の先送りを行わないようにします。消費税については、『逃げず、逃げ込まず』という姿勢で対応してまいります」と約束しているが、この約束をほっぽり投げて、消費税増税を2度先送りしている。
話だけ聞いていると、有言実行が確実な上にも確実に信用できる政治家に見えてくるが、言葉巧みに約束を破り、破ったことを言葉巧み隠す名人である。
具体的に例を挙げる。2014年4月1日の消費税5%から8%への増税を乗り超えることができず、2014年11月18日の「記者会見」で増税の延期を告げることとなった。
安倍晋三「本日、私は、消費税10%への引き上げを法定どおり来年10月には行わず、18カ月延期すべきであるとの結論に至りました。本日、私は、消費税10%への引き上げを法定どおり来年10月には行わず、18カ月延期すべきであるとの結論に至りました。
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国民全体の所得をしっかりと押し上げ、地方経済にも景気回復の効果を十分に波及させていく、そうすれば消費税率引き上げに向けた環境を整えることができると考えます」
ところが、「消費税率引き上げに向けた環境を整えることができ」ず、いわば消費税を増税できる程にアベノミクス=カネ持ちミクスを機能させることができずに2016年6月1日の「記者会見」で再延期を堂々と宣言することになった。
安倍晋三「来年4月に予定される消費税率の10%への引上げについてお話しいたします。1年半前の総選挙で、私は来年4月からの消費税率引上げに向けて必要な経済状況を創り上げるとお約束しました。そして、アベノミクスを強力に推し進めてまいりました。
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内需を腰折れさせかねない消費税率の引上げは延期すべきである。そう判断いたしました」
30カ月延期して2019年10月の引き上げを決定している。
「1年半前の総選挙で、私は来年4月からの消費税率引上げに向けて必要な経済状況を創り上げるとお約束しました」と一見正直に話しているように見えるが、8%への消費税増税を受けた消費の頭打ち、あるいは消費の低迷に備えて公共事業予算を大量に配分するなどして経済対策を打ってきたのである。にも関わらず、増税できる環境を整えることができなかったということはアベノミクスにしても消費税対策にしても全て役に立たなかったということであり、そのことは隠して、一見正直を装っているに過ぎない。
2015年9月24日の自民党総裁としての「安倍晋三記者会見」
安倍晋三「夢を紡ぐ子育て支援であります。そのターゲットは、希望出生率1.8の実現です。
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待機児童ゼロを実現する。幼児教育の無償化も更に拡大する。三世代の同居や近居を促し、大家族で支え合うことも応援したいと思います。さらに、多子世帯への重点的な支援も行い、子育てに優しい社会を創り上げてまいります。
『子どもが欲しい』と願い、不妊治療を受ける。そうした皆さんも是非支援したい。『結婚したい』と願う若者の、背中を押すような政策も、打っていきたい。誰もが、結婚や出産の希望を叶えることができる社会を、創り上げていかなければなりません。
そうすれば、今1.4程度に落ち込んでいる出生率を、1.8まで回復できる。そして、家族を持つことの素晴らしさが、「実感」として広がっていけば、子どもを望む人たちがもっと増えることで、人口が安定する『出生率2.08』も十分視野に入ってくる。少子化の流れに「終止符」を打つことができる、と考えています」
「希望出生率」をネットで調べたところ、〈国民の希望が叶った場合の出生率のこと。 希望出生率は、結婚をして子供を産みたいという人の希望が叶えられた場合の出生率である。 現実には、仕事や家庭の事情で子供が産めなかった、あるいは、第2子、第3子を諦めたという人が人がいるため、「希望出生率>出生率」という不等式が成り立つ。〉(Weblio辞書)とあって、極めて不確かな数字であることが分かる。
不確かな希望出生率を掲げて、それを「人口が安定する『出生率2.08』も十分視野に入ってくる」と、合計特殊出生率「2.08」に見せかける手品を見せただけである。
2015年の合計特殊出生率は1.46で、確かに微増しているが、出生数の減少傾向(=人口減現象)に変わりはないのだから、人口増に転じる合計特殊出生率「2.08」の実現は少子化対策が全く功を奏していない中で困難な道のりであることを示しているに過ぎない。
このように見てきたとおりに少子化防止(=人口増加)は出生数減少の確実な歯止めと増加への転換が第一のカギを握っている以上、第2次安倍政権の2012年12月26日から2018年7月末の今日までの安倍晋三の少子化対策は不首尾続きであったことが分かる。
だからだろうか。通常国会が事実上閉会したあとの2018年7月20日の「安倍晋三記者会見」(首相官邸)では「少子化」には一言も触れていない。
安倍晋三「深刻な人手不足に直面する中小・小規模事業者の皆さんへの支援もしっかりと行ってまいります。生産性を向上させるための投資には、固定資産税をゼロにするかつてない制度がスタートしました。
ものづくり補助金や持続化補助金により、中小・小規模事業者の皆さんによる経営基盤の強化を応援します。4月からは相続税の全額猶予により、次世代への事業承継を力強く後押ししています。一定の専門性、特定の技能を持った優秀な外国人材を受け入れるための新たな在留資格の創設に向けて準備を進めてまいります」
人手不足自体が少子化政策不首尾のツケでもあるが、当座の人手不足対策として外国人材受け入れ拡大が必要だとしても、「少子化」について一言も触れないのは少子化政策不首尾についての情報隠蔽に他ならない。
消費税増税延期のときもそうだったが、アベノミクス=カネ持ちミクスの機能不全に目を向けさせない薄汚い情報操作で外国人材受け入れ拡大を推し進めようとしている。