昨9月11日が東日本大震災発生から半年。近親者を亡くし、家も仕事も失った被災者は身体のどこかが虚(うつ)ろな感じに襲われたり、あるいは一瞬身体が身体でなくなって虚ろそのものと化すような無の感覚を依然として引きずることになっているのではないだろうか。近親者を失った場合、ここにもそこにもどこにもいない、目に見えないということが手応えも何もない、あるいは距離感も重量感もない無力感となって襲ってくる。
いるはずなのにいないという感覚はどうすることもできないもどかしさばかり募らせるに違いない。
9月10日土曜日夜放送NHK総合テレビ「東日本大震災『 追いつめられる被災者』」は震災の犠牲者が最も多い自治体である宮城県石巻市の仮設住宅問題をテーマの一つとしていたが、被災地全体の仮設住宅入居率が83%にとどまっていると伝えていた。
菅仮免が4月26日の衆院予算委の国会答弁で「遅くともお盆のころまでには希望者全員が入れるよう全力を尽くす」と公約した8月お盆から1カ月が迫ると言うのに「希望者全員」どころか、未達成が17%。
だが、その83%もすべて満足を与える入居ではないところを問題点としている。
また他のWeb記事が入居できないで依然として不自由な避難所暮らしを強いられている被災者が現在も約6800人にのぼると伝えているが、石巻市の場合は100世帯近くが行き場もなく、仮設住宅にも入れない被災者が存在するという。
これは最初から避難所にも入れずに仮設住宅の抽選からも洩れて、建物の形は残っているが、津波で階下が全く使えなくなって全壊、あるいは半壊と認定された自宅2階等で暮らす被災者の存在だと番組で取上げていた。
そのような一人として1、2階が使えなくなった3階に一人住む中高年女性がトイレが使えないからと地盤沈下で水をかぶった道路を長靴を履いて近くの病院にまで出かけて用を足す、飲用水は近くのビルでペットボトルに何本も入れて持ちやすいようにそれらをバケツ2個に纏め入れて両手に下げて自宅にまで戻る、食事は市の配給所からプラスチックの容器に入った弁当の配給を受けて家に持ち帰り食事とする、あるいは依然として電気が通っていないためにランタンの灯り一つで夜を過ごす孤独な生活を紹介していた。
彼女の言葉。「仮設住宅は当らない。避難所はもう一杯だから入れないと言われ、自宅3階、無事だった3階に済んでいる」
要するに石巻市内だけではないはずだが、震災半年が経過しても、政治の恩恵から依然として落ちこぼれている多くの困窮者が存在するということであろう。石巻市では食糧配給所を115箇所設けていて、7500人以上が頼っているという。
番組はこのように政治が満足に機能していない状況に言及している。
辻村NHK仙台放送局デスク「避難所から仮設住宅へというの流れから多くの人たちがこぼれ落ちてしまっています。石巻市は人口が16万人程でして、三陸の沿岸では大きな都市です。その都市の中心部ですね、住宅密集地、ここは広い範囲で津波に襲われました。このため避難所自体の確保もままなりませんで、ようやく住民が避難所に辿り着きましたら、そこでもう溢れ返っているという状況だったんです。
そのため避難所に食べ物や生活必需品を取りに行って、被災して全壊している家に帰って生活すると、こういう状態が半年続いています」
鎌田靖キャスター「住宅と言うと、なぜ仮説に入ることができないんですか。菅総理大臣はお盆までは希望者全員仮設住宅に入所していただくというふうに言ってましたけど、これどうなってるんでしょうか」
辻村NHK仙台放送局デスク「菅さんのこの発言がですね、アダ(仇)になっていると私は感じています」
鎌田靖キャスター「アダになっていると」
鎌田靖キャスター「ハイ、被災した希望者の方に見合うだけの数の仮設住宅を造ろうと、まあ、建設の戸数に拘った。これによって、郊外の割と交通の便の悪い所で多くの仮設住宅が建てられた。
しかし被災者の方の実態というのはですね、津波で車を失っていたりだとか、あるいは高齢の被災者が多かったりして、なかなかそういうところには入れない。結果として、そうした仮設住宅は定員割れの状態になっています。
また、そういう所にバスを走らせればいいんですけども、このバスも7月までは自治体の予算になっていたんです。そのためバスを出すことについては二の足を踏んでいたというふうに感じます。
また、こうしたこまめな対応ができるだけの職員の数、応援の職員の数も含めて、その数がいなかったということもこの背景にあると思います」
この遣り取りの前に番組は石巻市が国が求めた8月お盆までに戸数を間に合わせようと7300戸の建設を進めてきたこと、その内の2000戸は市の中心部に土地を確保できず、公共機関の殆んどない、近所にスーパーも病院も学校もない山間部に建設されたため、山間部の仮設住宅への入居が進まない一方、市中心部に希望者が集中、抽選洩れの被災者が多く出ていると紹介している。
以上の経緯から窺うことができる情景は菅仮免が4月26日の国会で「8月お盆まで希望者仮設住宅全員入居」の公約を建設の進捗状況を誰に尋ねたわけでもなく、計画性も先の見通しも根拠もなくぶち上げ、その公約を実行可能性など問題とせずに単に期限内の戸数達成を目標に国土交通省の尻を叩いたのだろう、国土交通省は自治体の尻を叩き、期限内の建設戸数達成がノルマ化していった様子である。
いわば年齢とか車の所有の有無といった被災者の個々の状況に応じた生活環境の利便性は無視された。「被災者に寄り添った」ということなのだろう。
番組は交通の便が悪い、生活維持に欠かすことができないスーパーも病院もない、学校も歩いて行ける距離にはないとの解説付きで山間部の仮設住宅に住む入居者の声を伝えている。
60代見当の女性(掃き出しの窓から外に向かって)「うちは車があるからいいですけど、車のないお宅いらっしゃると思いますね。わざわざタクシーで買い物行ったりしている状態なんですよ。買い物、タクシーなんですよ」
女性の背後の部屋の中に若い男性の姿が映っている。息子なのだろう、車を運転して買い物やその他の用を足しているに違いない。
40~50代見当の男性「車があるっていうのが条件ですね、ここの仮設入るには。あれば、町民バスみたいな、それ、出るのかでないのか、まだ決まっていないと言う。
町民バス出ますよってこと、はっきりすれば、入居希望者はもっと増えると思う」
バス運行について石巻市の担当者が答えている。
石森誠石巻市総合政策課主幹「(バスの話を持ったのは)6月末とか7月とか8月っていう形なんですけど、仮設住宅の建設戸数とか、計画が具体的にまだ立っていなかったので、(バス会社との)そういった相談と言うのは遅れた形になると思うんですけども」
NHK記者「有事、非常時ですので、一気に物事、進められない要因としてどういった部分があるんですか」
石森主幹「石巻市内に関しては、そのオー、財源的な問題と、各既定路線との調整とかですね、まあ、許認可なんですけども、早急にやりたいと思いますので、ご理解をお願いしたいと思います」
震災半年経過して、また山間部の仮設住宅に入居した被災者に不便な生活を強いていながら、あるいは車を持たず、高齢等が理由となって市中心部の仮設に入りたいと思いながら抽選洩れして依然として避難所に多くの被災者が不自由な暮らしを続けている状況にありながら、「早急にやりたい」と言う。
この遅れ、遅さは国の対策の遅れ、遅さに対応した遅れ、遅さであろう。何よりの原因は生活環境の利便性と両立させない期限内の建設戸数達成のみをノルマ化させた無計画性にあるのは確実だ。
根拠もなく「お盆まで」を言い、生活の利便性の根拠付けもないままに仮設住宅建設を国の政策として進めていった。脱原発発言にも見ることができる、一国のリーダーの計画性はこの程度だった。
平野復興担当大臣が登場する。興味ある発言のみを拾ってみる。
平野復興担当大臣「先程、菅さんの発言がアダになったという発言もございましたけども、仮設住宅を、とにかく建設を急げと、いうことで県に色々と督励したことはあります。
この仮設住宅の建設をしないことには先ずは行く場所がないということであります。それから、あの、今の、今、様々ビデオが流されましたけども、今政治の方はですね、これから造った仮設住宅の住環境、これからこれが大きなテーマになってくるだろうと、いうことで、チームを立ち上げて、様々検討を始めています。
その中で例えば、家の中では西日が入って大変だとか、玄関が狭くて大変だとか、そういった小さな要望も何とか応えられないか。
あと、先程問題になっていましたけども、いわゆる買い物難民、というような、まあ、あまりいい言葉じゃございませんけども、こういった方々の買い物はどうすればいいのか。例えば、バスを運行させる。あるいは移動コンビニといったものを提供するとかですね。
そういったことの様々な検討を始めて、検討を始めるだけではなくて、今のビデオを見ましてですね、早くやらないかんなと、いう印象を強く持ちました」
住環境改善のためにチームを立ち上げて検討を開始した段階だと言っている。しかもビデオを見て、「早くやらないかんなと、いう印象を強く持ちました」とビデオを見て気づかされる、その認識の遅さ、鈍感さにも気づかずに言っている。
すべて無計画な政策しか打ち立てることができない認識能力、鈍感さの結末としてある遅滞状況であろう。
「仮設住宅の建設をしないことには先ずは行く場所がない」から、建設を急がせたと言っているが、だが、生活環境の利便性と両立させない、期限内戸数達成のみをノルマ化させた建設であったために結果として仮設住宅を「行き場」とさせずに避難所を引き続いての「行き場所」とさせた、あるいは全壊・半壊の水道が出ない、電気が来ていない場所もあるといった自宅を「行き場」とさせ、自宅難民化させた無計画性を無視し、反省する視点を欠いている。
これは「被災者に寄り添う」と言いながら、実態は国という上から目線に立っていることからの無反省であろう。
辻村NHK仙台放送局デスク「平野さん、今バスのお話が出ましたけども、7月から国土交通省はバスに対して補助を出すことにしていますけども、この金額が年間3500万円にとどまっています。どの自治体も一律ということになっています。3500万円というのは1日1台のバスを出すのがやっとでして」
平野復興担当大臣「そうですね」
辻村NHK仙台放送局デスク「それについてどうですか」
平野復興担当大臣「これはですね、広い意味での被災者生活支援ということになると思います。あの、この補助体系のあり方も、あの、きちっと検討対象にして、ええ、自治体が困らないような答をしっかり出して実施したいと思います」
7月からバス運行にやっと補助金をつけた。だが、必要・不必要の地域事情も考慮せずに一律の金額となっている。しかも1日1台のバス運行がやっとの金額というすべてに亘って不満足な制度だということも菅前政権の無計画性、認識程度を物語って余りある。
繰返しになるが、4月26日の衆院予算委の国会答弁。
菅仮免首相「遅くともお盆のころまでには希望者全員が入れるよう全力を尽くす」
4月28日閣議後記者会見。
大畠国交相「お盆までに完成できるめどがついていれば、私から申し上げている。特に津波の被害を受けた自治体では用地の確保が難しい。5月末までに3万戸を完成させるめどはついている。できるだけお盆までに仮設住宅に入れるよう、県や地元自治体とも急ぎ調整を始めた」
菅の無計画性が現れた一つの場面に過ぎない。勿論認識程度に対応した無計画性であるのは断るまでもない。 |