飯島参与訪朝は拉致問題に何らかの進展があったのだろうか。5月18日午後、日本に帰国し、菅官房長官に報告しているのみで、公にはされていない。
報告内容は「NHK NEWS WEB」によると、〈拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指す日本政府の方針や、拉致問題で、拉致被害者の即時帰国と真相究明、実行犯の引き渡しが実現しなければ“日本は動かない”という意向を伝えた〉ことになっている。そして次のように発言したことになっている。
飯島参与「本音の話ができた」――
要するに北朝鮮に乗り込むについての、そして乗り込んでからの、北朝鮮要人と会談に臨んだ際の日本側の態度のみを公にしたに過ぎない。北朝鮮側の反応は伝えられていない。
いくら飯島参与が「本音の話ができた」としても、日本側のそのような態度に応じた北朝鮮側の動向がどうであったか、必要とする肝心な情報は後者にあるのにマスコミには何ら伝わっていない。
好きで好きでしょうがない女性にやっと告白する機会を得た男が相手に愛を伝えるに「本音の話ができた」としても、相手から、「アンタにちっとも興味はない」と「本音の話」を伝えられたなら、男の側の「本音の話」は意味を失う。
日本側の「本音の話」に対応した北朝鮮側の「本音の話」が占う進展具合であって、それを公にしていないということは悲観的結果を予測させるのみである。
飯島参与訪朝の事前連絡がなかったために不快感を表明した韓国に対しては同じ轍を踏まないためにだろう、訪問結果を伝えたという。《飯島参与訪朝:拉致問題で進展なし 韓国に説明》(毎日jp/2013年05月20日 01時46分)
記事は韓国政府高官が5月19日、つまり飯島参与日本帰国の翌日、北朝鮮訪問結果について日本政府が韓国政府に対して拉致問題で目立った進展はなかったと説明したと、聯合ニュースの記事として伝えている。
日本政府は拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指す方針に変わりはないという立場を取っているものの、核、ミサイル問題は日本は北朝鮮にとって真の交渉相手になり得ないから、拉致交渉が主体となって、例え進展があったとしても、核、ミサイル問題を置き去りにして拉致だけ進展があったとは言えない。
こういった事情からの韓国に対する目立った進展はなかったという報告の可能性がなきにしもあらずだが、実際に進展はなかったに違いない。
このことは安倍晋三の次の発言に現れている。
安倍晋三「飯島氏の報告の概要は菅官房長官から聞いた。北朝鮮における交渉、対話の中身は申し上げることはできない。必要があれば飯島参与から話を聞きたい」(NHK NEWS WEB)
もし何らかの進展があったなら、報告は菅官房長官を間にワンクッション置かずに、官房長官が同席すれば済むことだから、直ちに安倍晋三に報告という形を取ったに違いない。
だが、安倍晋三は直ちに報告を聞くことをしない猶予を置いた上に、「報告の概要は菅官房長官から聞い」ているとは言うものの、飯島参与と直接会う会わないは「必要があれば」とさらに猶予を置いている。
この二重の猶予自体が成果――拉致解決に進展がなかったことを物語っているはずだ。
そもそもからして飯島訪朝は、と言うよりも、安倍晋三指示の飯島北朝鮮派遣は誰もが承知しているように日本政府の側からの情報では一切知らされていなくて、当然、北朝鮮要人との会談から、その成果、帰国というすべての経緯から結末に至るまでが秘密に伏されていなければならなかった予定事項でありながら、そのためにも6カ国協議の重要な同盟国である米国にも韓国にも事前連絡を行わなかっただろうから、日本側の予定事項を無視する形を取ったがゆえに北朝鮮政府側の情報暴露とも言うことができる北朝鮮のマスメディア報道によって日本国民の知るところとなったこと自体が既に北朝鮮当局の拉致問題に対する姿勢を窺うことができる。
北朝鮮当局に当初から拉致問題に真剣に取り組む姿勢を持ち合わせていたなら、北朝鮮当局は安倍晋三の秘密に最後まで付き合ったはずだ。
マスコミや北朝鮮関係の専門家に「北朝鮮のプロパガンダに利用された」と言われる所以である。
今回の飯島訪朝でもしも拉致問題に関して何らかの進展が確約できたなら、安倍訪朝、最低でも拉致被害者帰国の希望が生じるサプライズへと進展したはずで、それが参院選前なら、憲法改正を可能とする参院選3分の2議席以上獲得の決定打となったかもしれないにも関わらず、そうはならずに物の見事に目論見が外れて、さしずめ三球三振の取らぬ狸の皮算用で終わったといったところだろう。
2008年9月17日の当ブログ記事――《次期日本国総理大臣麻生の外交センスなき拉致対応-『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いたことだが、2002年9月17日の小泉第1回訪朝時に於いても事前に秘密外交が行われ、その秘密は最後まで保つことができた。
金正日に拉致解決に一定の進展を与える意図があったからこその日本政府側の秘密外交に対する秘密保持の協力であったはずだ。
言ってみれば、小泉訪朝、拉致被害者一時帰国のサプライズを演出するためには小泉純一郎を主演とする必要があったために事前の外交は秘密に伏さなければならなかった。
2002年9月17日の小泉第1回訪朝に20カ月先立つ2001年1月に中川秀直前官房長官(当時)がシンガポールのホテルで北朝鮮の姜錫柱・第一外務次官と秘密裏に会談を行なっている。
そして朝日新聞がこのことを伝えたのは小泉第1回訪朝の2002年9月17日から25日後の2002年10月12日の夕刊である。
いわば2001年1月の中川秀直前官房長官と姜錫柱・北朝鮮第一外務次官との会談から2002年9月17日の小泉第1回訪朝を経て2002年10月12日の朝日新聞報道まで事前交渉の秘密は保たれていた。
上記朝日記事は伝えている。中川秀直が〈「拉致問題は避けて通ることのできない政治問題。交渉に入る前に(一定の回答が)示されるべきだ。(被害者の)安否確認や帰国して家族と面会することは可能か」と質したところ、姜氏は「行方不明者」という表現ながらも、「即、動きを見せることができ、人を探して帰すこともできるだろう」と具体的に言及し、柔軟姿勢を見せた。〉云々――
この後も何らかの幾度かの秘密交渉によって日朝それぞれの成果を積み上げ、調整を重ねていき、これらの事前の秘密外交で成果が前以って確約されることとなっていたはずだ。
このように事前交渉の秘密が保持できたからこそ、小泉訪朝と金正日の拉致認知と5人の一時帰国(永久帰国となったが)はサプライズ足り得た。
7月に参院選を控えている安倍晋三にしたら、飯島訪朝によって成功裏に終わった中川秀直の秘密外交の再現を狙ったに違いない。同じように飯島秘密外交が成功し、参院選前に拉致解決に何らかの進展を見ることができたなら、憲法改正を自民党単独で可能とするかもしれない参院選大勝利は勿論、衆参同日選も可能となって、衆議院に於いても現在以上の議席獲得は計算可能となり、拉致進展と併せた衆参圧勝は安倍晋三の名前とその能力を数段と高めることができ、憲法改正の望みも果たすことができ、長期政権の保証ともなり得る。
だが、何もなければ、何もないままに衆参同日選挙を強行した場合、国民が自民党に議席を与え過ぎたと考える可能性は否定できず、衆院の議席を減らす恐れも生じることになり、その与え過ぎの意識が参院選挙にも影響する可能性も考えなければならず、参院選単独選挙とせざるを得なくなる。
例え参院選に勝利したとしても、憲法改正を可能とする議席獲得までいくかどうかは予断を許さないことになる。
結果として飯島訪朝は参院選勝利の決定打の思惑は外れ、三球三振に終わった捕らぬ狸の皮算用といったところだろう。
この捕らぬ狸の皮算用は拉致問題に於ける安倍晋三自らの思惑の思うようにはいかないことの現れであるが、この思惑の停滞は拉致問題に限らない、他の思惑の停滞に発展しない保証はない。
既に歴史認識で大胆な金融緩和で獲得したスタートダッシュの勢いにある種の停滞を与えている。今後問われることになる実体経済の成長に向けたアベノミクス第3の矢の停滞を予兆とならない保証もない。
一つのヘマが次のヘマを予測して、次のヘマへとつながっていくというやつである。
【昨日記事の訂正と謝罪】昨日の下記ブログで安倍晋三が取り組んでいる少子化対策として待機児童問題や出産した母親が休暇を取る制度を「産休3年」と見事命名してしまいましたが、「育児休業3年」の誤りでした。昨日中に訂正して置きましたが、謝罪します。人生そのものが間違っていたので、間違うことが多くて困っています。 『売春』(神崎清著)――
《安倍晋三の「成長戦略第2弾スピーチ」を絵に描いた餅とする人口問題 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》
5月18日当ブログ記事――《橋下徹の従軍慰安婦関連「米国はアンフェア」発言のアンフェアな勘違い - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で、橋下徹が「朝鮮戦争の時もあった。沖縄占領時代だって、日本人の女性が米軍基地の周辺でそういうところに携わっていた」と、アメリカ軍が慰安婦制度を活用していたようなことを発言したことに対して戦争中の日本は日本軍主導による軍民一体の慰安所を設けていたが、アメリカ軍は秦郁彦が言っているように兵士が個人的に利用する「自由恋愛型」ではないか、橋下発言に対するアメリカ政府の批判を「アンフェア」とするのはアンフェアな勘違いではないかと書いた。
また戦争中の軍民一体の慰安所が戦後も政府主導による政府・民間業者一体の形式で引き継いで設置した慰安所を連合国軍兵士の慰安に提供したが、あくまでも橋下徹が言うようにアメリカ軍の主導による設置ではないことを神崎清著の『売春』の数節を引用する形で書いた。
上記書物を読んだのは3、40年も前のことで、内容の殆どは忘れてしまっていたが、改めて占領時代のアメリカの日本人女性に対する性の活用が軍主導による軍管理のもと行われたのではなく、兵士個人個人の「自由恋愛型」であることを証明する一節を見つけた。
この紹介と橋下徹の従軍慰安婦関連の発言が各マスコミから取り沙汰されている中で5月19日(2013年)日曜日のあさひテレビ「報道ステーションSUNDAY」にゲストとして招かれた橋下徹が、特にアメリカを槍玉に上げて慰安婦制度を活用していたと、日本の罪をアメリカにまで広げアンフェアな勘違いを堂々と繰り広げていたことを再度取り上げて見ることにした。
基地売春の実態――星条旗の名のもとに――
政府は道徳的犯罪者 アメリカ軍の日本本土占領を迎えて、東久邇宮内閣は、その対策の準備に忙しかった。当時の無任所大臣近衛文麿の秘書官細川護貞(もりさだ)が、最近公表した『情報天皇に達せず』を読むと、昭和20年8月21日の記事に閣議の模様が出ている。マニラの米軍総司令部と打ち合わせをして帰ってきた軍使から報告を聞いて、風紀対策を論じていたのである。
「彼らの軍規は、極めて厳正にて、沖縄にて強姦嫌疑の者が、げんに10年の刑に服役中なり、と。また欧州上陸軍の行方不明者中、半数は強姦せるため死刑になりたる者にて、家族の不名誉を思い、行方不明とせるものなりと。娯楽設備につき、仏当局が申し出たるところ、キッパリ断りたる例あれば、我が方もかくのごときことをなすべからず、等々語れり」
敗北した日本の軍隊に対する反感が手伝って、アメリカ軍を美化しすぎたきらいはあるが、第1次大戦においてアメリカの援軍を迎えたフランス政府が、性的慰安施設の問題を持ちだしたときに、米軍司令官が「ことアメリカ軍に関する限り。そのようなものは必要ではない」と言下に退けた有名な話がつたわっている。しかし政府が実際にとった処置を見ると、8月21日の閣議では、「我が方もかくの如きことをなすべからず」と言いながら、既に3日前の8月18日、内務省警保局長から無線電話の極秘通牒でもって全国的に占領軍相手の性的慰安施設の設営を司令していたのである。〉――
近衛文麿の秘書官細川護貞とは元熊本県知事、元総理大臣、日本新党初代代表の細川護煕(もりひろ)の父親である。 〈昭和20年、敗戦の直後に日本軍の富士演習地を接収にやってきたとき、政府の全国的指令ににもとづき、警察が県下の酌婦をトラックで運んで下吉田に国際的な慰安所をつくった。まもなくここは解散を命じられたらしいが、迎合的な性的サービスの恥多き発端であった。〉――
そして政府は業者たちの5000万円の資金、この資金を担保にした勧業銀行(現在のみずほ銀行の前身)の5000万円、合わせて1億円の出資で政府公認の特殊慰安施設協会(RAA――リクリエーション・アンド・アミューズメント・アソシエーション)を8月26日結成、3日後の8月29日スピード認可。
「リクリエーション・アンド・アミューズメント・アソシエーション」という言葉を聞いただけでは、売春組織だとは誰も気づくまい。
次のような記述もある。
もしここが米軍の指示によって日本政府が場所を示し、米軍の許可を経て一旦は開業した「国際的な慰安所」であったなら、米軍側には閉鎖する理由は見当たらない。
勿論、RAAに入らなくても、需要と供給の関係さえ見込むことができれば、今流行の言葉を使うと、素人でも起業できた。実際にも起業は基地のある各地域で見られたらしい。
例えば日本軍の富士演習場が接収されてから昭和24年6月に進駐軍の基地として正式にフジ・キャンプが設営されると、富士山周辺のある村では、村民の約半数が襖で隔てただけの一部屋を女性に貸して、女性がそこで商売に励んだのはいいが、声が筒抜けで子供の教育に悪影響があると問題になったことが記されている。村民は農家が大半だが、村長や村会議員、小学校の教師までが部屋を貸していたという。
村長「兵隊をもてなしてくれということであったから」
上から言われると、言われたなりに従う。そこに自分の考えを置かないところは暗記教育型思考そのもので、戦争中から引き継いでいる思考性であろう。勿論、自己利害を優先させるために上の言うことを利用するという狡猾な心理と響き合わせた言いなりの従属といった側面もあるに違いない。
例え民間による起業であったとして、米軍主導・管理の慰安婦制度を見習った利用ではなく、あくまでも政府主導の影響を受けた経営であって、橋下徹が言っていることとは異なる。
では、5月19日(2013年)日曜日のあさひテレビ「報道ステーションSUNDAY」の橋下徹がアメリカ軍兵士が利用している慰安所はアメリカ軍主導だとしている発言の個所を見てみる。
橋下徹「僕は人権を重視していますしね、日本が過去にやったことを何かすべて蒸し返すつもりはありません。敗戦国としての結果をしっかりと引受けて、僕ら政治家というものは将来に向かって政治のエネルギーを使って行かなければならない。
そのときに人権を大切にする何ていうのは当たり前なんです。
それ程アメリカが女性の人権を大切にするんだ、人権を大切にする国なんだと言うなら、先ずは沖縄で行われていることを直視して貰いたいですね。
沖縄で行われていることが直視することはできないアメリカはなぜかと言うと、日本は勿論、悪いことはやりました。慰安婦制度は僕は正当化しませんですから。
今まで日本が慰安婦問題を正当化しようとする、そういう動きがあったからダメなんです。僕は日本の政治家の動きもおかしいと思いますよ。
慰安婦問題はこれはきちっと責任を持って終わりをする。先ずはそこが大原則。その代わり、アメリカも慰安婦制度じゃなくてもですよ、沖縄の占領期間中、沖縄で何をやっていたのか、もっと言えば、じゃあベトナム戦争のとき、朝鮮戦争のとき、第2次世界大戦中のとき、セックススレーブ(性奴隷)という言葉を日本だけに使いますけども、それに類似のことをね、アメリカもやったじゃないですか。
だから、僕は女性の人権をも守っていく世界を目指んであれば、世界各国の軍がきちっと反省して、日本も反省するけども、世界各国の軍も反省して、二度とこういうことが行われないようにみんなで女性の人権を大切にしていきましょうという決意がないと、アメリカが自分たち過去のことを棚に上げているもんですから、沖縄の人権蹂躙行為を本気になって取り組んでいません。
そこを言いたいんですね、僕は」(以上)――
橋下徹は「セックススレーブ(性奴隷)という言葉を日本だけに使いますけども、それに類似のことをね、アメリカもやったじゃないですか」と言って、戦争中の日本軍のように軍主導・管理の慰安所経営がアメリカ軍に於いても行われていたかのように主張している。
だとすると、この主張の少し前の発言の「沖縄で行われていることが直視することはできないアメリカはなぜかと言うと、日本は勿論、悪いことはやりました。慰安婦制度は僕は正当化しませんですから」にしても、沖縄でもアメリカ軍主導・管理による女性をセックススレーブ(性奴隷)として扱うような類似の慰安婦制度が敷かれていたという意味となる。
確かに沖縄では女性の人権を蹂躙する強姦事件が跡を絶たない。だが、果たして占領時代の日本の本土においても沖縄においても、また現在の沖縄にもかつての戦争中の日本軍主導・管理を受けた慰安婦制度に則ったのと類似の形態をしたアメリカ軍主導・管理を受けた慰安婦制度に準拠した従軍慰安所が設置されていたというのだろうか。
どうも自身の勘違いに気づかずに発言がアメリカ政府から批判されたためにただひらすらに自分は正しいんだという思い込みを強めて自己正当化の強弁を働かせているようにしか見えない。
ここでは、「慰安婦制度は僕は正当化しませんですから」と慰安婦制度そのものを否定しているが、5月13日の記者会見では既に周知の事実となっているように、「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」(asahi.com)と、その必要性を主張している。
思い込みに立った強弁を続けると、言葉の一貫性を失うことになる。当然、政治家としての信用も失っていくことになる。
一昨日の5月17日、安倍晋三が政策提言集団だとかの日本アカデメイアで「成長戦略第2弾スピーチ」と題して講演を行った。例の如く、立派な政策を並べ、日本の経済回復、日本の成長はこれで大丈夫だと思わせるに十分な力強さに満ち満ちていた。
そこでの発言は首相官邸HP――《安倍総理「成長戦略第2弾スピーチ」》(日本アカデメイア/2013年5月17日)に依った。一読すれば、大いなる元気を貰うことができる。
発言の順を追って、主なところを拾って、ケチをつけていく。
冒頭、次のように言っている。
安倍晋三「政権発足から5か月が経過しました。
今週、無事、25年度予算が成立いたしました。年末からの予算編成で、年度をまたぎましたが、国民への影響を最小限におさえながら、結果を出す政治を、また一歩前に進めることができたと考えています」
「結果を出す政治」だと、決めつけているところが素晴らしい。余程自信過剰に陥っているらしい。内閣支持率が保証する政策実行能力ではない。
安倍晋三「ゴールデンウィークは、本格的な経済外交をスタートさせました。ロシアと中東です。
大企業のみならず、中堅・中小企業の皆様も含めて、総勢100名を超える、経済ミッションにも同行していただき、官民一体で、日本の「強み」を売り込んでまいりました。
1週間で2万8千kmを移動する強行軍ではありましたが、ここにご出席の多くの方にもお付き合いいただいたわけでございますが、ロシアも、中東も、伸び盛りの成長センター。医療システム、食文化、エネルギー、インフラなど幅広い分野にわたり、日本企業がかかわるプロジェクトが動き出しました。手ごたえは、十分です」――
「1週間で2万8千kmを移動する強行軍ではありました」と言っているが、移動距離が結果を生み出す要因ではない。政策と実行方法と結果が問われている。
また「手応え」イコール結果ではない。
これらの認識を持っていたなら、あるいは政策の実現に関わる危機管理意識を持っていたなら、常に結果への意識が働いて、結果の保証とはならない事柄をさも結果を保証する事柄のようには取り上げないはずだ。
問題はロシア訪問を「経済外交」のみで把えている点だが、領土返還交渉の進展具合で経済外交が支障をきたさない保証はない。
「2.民間投資を喚起する成長戦略」の項目で、「世界から日本に取り込む」政策と「日本から世界に展開する」政策を相互関連させて紹介している。
安倍晋三(日本から世界に展開する)「(長引くデフレと自信喪失解消の)実現の鍵は、日本が生み出した優れたシステム、技術を、世界に展開していくことであります。
医療、食文化、宇宙、防災、エコシティ。今や、従来のインフラだけにはとどまりません。
私たち日本人が築き上げてきた、誇るべき様々なシステム。これを、世界が求めています。大きな商機です。
トップセールス、戦略的な経済協力、そして、国際標準の獲得。新しい「インフラシステム輸出戦略」を打ち立て、現在10兆円のセールスを、2020年までに3倍の30兆円まで拡大してまいります」
安倍晋三(世界から日本に取り込む)「もう一つの鍵は、世界の技術、人材、資金を、日本の成長に取り込むことであります。
日本で、大胆な投資を喚起しなければなりません。
その主役は、企業です。ここにも経営者の皆さんがたくさんいらっしゃいますが、政府もがんばりますので、皆さんには、ぜひともチャレンジしていただきたいと思います。
その目指すところは、投資によって労働者の生産性を高め、手取りを増やすことです。意欲を持って働く人たちが、報われなければなりません。
経済界には、先般、報酬引上げを要請いたしましたが、今年の春闘では、たくさんの企業がよく応えてくださったと思います。報酬が上がることは、消費を拡大し、景気を上昇させて、企業にもメリットがあります。
政府も、投資しやすい環境づくりをはじめ、成長戦略を骨太に実行します。経営者の皆さんにも、雇用や報酬という形で、働く人たちに、果実を行き渡らせて頂きたいと思います。
『世界で勝って、家計が潤う』。アベノミクスも、いよいよ本丸です」――
「日本から世界に展開する」ことと「世界から日本に取り込む」こととは「技術、人材、資金」の日本と世界の相互交通性を言っているはずである。
発展的な相互依存関係の構築と活用を指す。基本的には共に栄える共存共栄の思想の裏打ちがあって成り立つ相互的な政策であるはずである。それが「世界で勝って、家計が潤う」となる。
一つの企業、一つの産業が世界で勝つという状況はあり得るが、それでも内実は多くの面に亘って相互関係にある。勝つことだけに拘って、共に栄える共存共栄の思想、その謙虚さを基本のところで失念していたなら、思い上がりが先行して、勝てる勝負も勝てなくなる。
大体が「世界で勝って、家計が潤う」といく程、物事はそう単純ではない。単純に考えているところにも危うさを感じる。
「3.イノベーションを促す実証先進国」
安倍晋三「トランジスタ・ラジオの開発で、世界をリードしたソニーは、その後、資本にまさる大企業に、後塵を拝することとなりました。
『ソニーはモルモットだ』と揶揄する声に対し、創業者である井深大(まさる)さんは、こう述べて、社員に奮起を促したと言います。
『決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れと考えなければならない。
『常に新しいこと』を『製品に結びつけていく』。そのような『モルモット精神』を上手に活かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくる』
新たなイノベーションに挑み続ける「モルモット精神」を持つ企業に、大きなチャンスを創る。これが、安倍内閣の役割です」――
そしてそのための規制改革を約束した。
「決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れ」と言った井深大の言葉を紹介しているが、「決まった仕事を、決まったようにやる」行動性・思考性の原因が暗記教育にあるということを安倍晋三は気づいているのだろうか。
政治が一方で各種規制改革に取り組み、日本の教育が暗記教育によって「決まった仕事を、決まったようにやる」暗記型の行動性・思考性の人間を育てて社会に送り込こむことが続いたなら、自ら新しい発想に挑戦するのとは逆の改革した規制に改革の都度依存するだけの社会をつくることになる。
政治の規制改革を待つまでもなく、新しい発想によって民間の側から規制を打ち破っていく挑戦的姿勢を持つことができければ、創造的な産業も創造的な社会も構築できないはずだ。
そしてその基本となるのは考える人間を育てる教育――暗記教育からの脱却以外にないと思うが、安倍晋三にはそのような発想はない。
「4.世界に勝てる大学改革」
安倍晋三「人材も、資金も、すべてが世界中から集まってくるような日本にしなければ、「世界で勝つ」ことはできません。
今、世界で活躍しようと考えて、日本の大学を選ぶ若者が、世界にどれだけいるでしょうか?
『世界大学ランキング100』というものがあります。日本の大学は、残念ながら、2校しかランクインしていません。
『日本の大学』ではなく、『世界の大学』へ、
日本の大学は、もっともっと世界を目指すべきです。『日本の大学は、日本人を育てるためのものだ』などという狭量な発想を捨てることが、私の考える『大学改革』です」――
「日本の大学は、日本人を育てるためのものだ」とする考えは日本人を上に置いていることからの権威主義的な発想から来ている。無意識下に日本人優越意識を存在させているからこその日本人上位性であろう。
特に他のアジアやアフリカの発展途上国の人間を下に見ているから、人材交流がアメリカ等の先進国よりも劣っていることになる。
日本人を上に置き、発展途上国の人間を下に見るこの権威主義は暗記教育が教師及び教師が伝える知識・情報を上に置き、生徒を下に置いて教師の知識・情報に従うだけ権威主義的構造と相互関連し合っている。
当然、日本の教育システムを改革することから始めなければ、日本の大学から世界の大学への発展は困難となる。
大体が長いこと世界第2位の経済大国を誇ってきならが、100位以内に2校しかランクされていないということは考える教育とはなっていないことを物語っているはずだ。
このことに気づいていない安倍晋三の「私の考える『大学改革』」であるなら、土台なしで壮大な高層建築を構想するようなものであろう。
6.攻めの農林水産業
安倍晋三「私は、現在1兆円の「六次産業化」市場を、10年間で10兆円に拡大していきたいと思います。
・・・・・・・・・
(供給サイドの構造改革)供給サイドの構造改革も、避けて通れません。
農業や農村の現場をとりまく状況は厳しさを増しています。
この20年間で、農業生産額が、14兆円から10兆円へ減少する中で、生産農業所得は、6兆円から3兆円へと半減しました。
基幹的農業従事者の平均年齢は、現在、66歳です。20年間で、10歳ほど上がりました。これは、若者たちが、新たに農業に従事しなくなったことを意味します。
耕作放棄地は、この20年間で2倍に増えました。今や、滋賀県全体と同じ規模になっています。
高齢化の急速な進展は、一見すれば「ピンチ」ですが、意欲ある若者にバトンタッチできれば、構造改革に一気にドライブできる「チャンス」になると私は思います。
・・・・・・・・・
(農業・農村の所得倍増目標)今日、私は、ここで正式に、『農業・農村の所得倍増目標』を掲げたいと思います」――
安倍晋三(美しいふるさとを守る)「農業の素晴らしさは、成長産業というだけにはとどまりません。
棚田をはじめ中山間地域の農業は、田んぼの水をたたえることで、下流の洪水被害の防止など、多面的な機能を果たしており、単なる生産面での経済性だけで断じることはできない大きな価値を有しています。
そのため、このような多面的機能も評価した、新たな『直接支払い制度』を創設することが必要と考えています。
息を飲むほど美しい田園風景。日本には、朝早く起きて、汗を流し田畑を耕し、水を分かち合いながら、五穀豊穣を祈る伝統があります。
農業を中心とした、こうした日本の「国柄」は、世界に誇るべきものであり、断固として守っていくべきものです。
製造業が、日本の高度成長の基礎となった産業であるとするならば、農業は、『国の基(もとい)』、すなわち、世界に誇るべき日本の伝統・文化を生み出した基礎であると考えます」――
「息を飲むほど美しい田園風景」、「世界に誇るべき日本の伝統・文化を生み出した基礎」だと、日本の農村と農業を高く価値づけている。
だが、現在の農村の過疎化、高齢化、所得の減少化、耕作放棄地の増加、いわば「息を飲むほど美しい田園風景」とは正反対の農村の荒廃はすべて自民党政治がつくり出した日本の風景である。
製造業やその他の都市の産業を発展させるために農業政策を置き去りにして人材、特に若者を“金の卵”と称して農村から奪った。要するに製造業やその他の都市の産業が金の卵を手に入れるために産む母体である農村という鶏を殺してしまった。
本質的な原因は農業では食えなかったからだ。
農村の特に若い女性は戦後も暫くの間は人身売買の対象とされた。身売りされ、売春を強要されたり、女工として昼夜別ない過酷な労働を強いられたりした。
農村の若者にとっては日本の製造業の発展は自分たちの貧困を解決してくれるまさに救いの神であった。大人たちも農閑期に限って、あるいは食えない農業を捨てて1年を通して都会に出稼ぎに出た。
金の卵は戦争中の産めや増やせの人口政策によって戦後も増え残った食い扶持を減らす意味もあったはずだ。そして製造業その他の産業が発展をし続けて、発展に応じた労働者数を必要とするようになり、農村の過疎化を順次加速させていった。過疎化が高齢化等々につながっていった。
だが、「現在1兆円の『六次産業化』市場を、10年間で10兆円に拡大」する、あるいは「今後10年間で、六次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を策定し、実行に移」すについては、それ相応の人材・雇用を必要とする。
一方で規制緩和、制度改革、技術改革で製造業を含めた日本の産業を成長させていき、「世界に勝つ」としている。
当然、成長に応じてそれ相応の人材が現在以上に必要となり、雇用が増加する。
但し人口減少社会となっている。成長・発展していく農業にしても。成長・発展していく産業にしても、双方を成り立たせるためには人口減少化を受けた人材(=生産年齢人口)が限られた状況下で必要とする人材を確保しなければならない不可能に挑戦しなければならないことになる。
かつては可能とした農業から製造業やその他の産業へとの、農村の過疎化や高齢化、衰退化を招く原因となった人材の移動は以降は望むことができないことになる。
双方が人材の争奪戦を演じれば、人件費が高騰して、高騰すれば農業も製造業その他の産業も国際競争力を失うというジレンマに陥る。
当然、「成長戦略第2弾スピーチ」が結果を出すためには出生率を格段に上げ、人口を減少から増加に転じる有効な政策が必要となる。
だが、安倍晋三の今回の「成長戦略第2弾スピーチ」は人口政策に一言も触れていない。
いくら頭の悪い安倍晋三でも、日本の成長・発展には人口増加がか隠すことのできない基本戦略となることに気づいているからこそ、待機児童問題や育児休業3歳までに取り組んでいるのだろうが、人口問題を前提として「成長戦略第2弾スピーチ」を成り立たせていないことの認識は結果という実現に疑いを抱かせるに十分である。
「成長戦略第2弾スピーチ」を絵に描いた餅としないとも限らない欠如意識と言える。
橋下徹日本維新の会共同代表の従軍慰安婦関連の発言が各方面から批判を受けている。持ち前の向こうっ気から批判に張り合って自説を押し通そうとして、それがまた批判を受けるという悪循環に陥っている。
問題は日本の従軍慰安婦制度を各国共通の制度だと勘違いしていることである。次の記事が5月13日の橋下徹のそもそもの発端となった発言要旨を午前中と午後に分けて紹介している。
《慰安婦問題、風俗業をめぐる橋下氏の発言要旨》(asahi.com/2013年5月14日2時16分)(一部抜粋)
午前中の発言。
橋下徹「なぜ日本の慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか。日本は『レイプ国家』だと、国をあげて強制的に慰安婦を拉致し、職業に就かせたと世界は非難している。その点についてはやっぱり、違うところは違うと言わないといけない。
意に反して慰安婦になってしまった方は、戦争の悲劇の結果でもある。戦争の責任は日本国にもある。心情をしっかりと理解して、優しく配慮していくことが必要だ。
当時は日本だけじゃなくいろんな軍で慰安婦制度を活用していた。あれだけ銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、そんな猛者集団というか、精神的にも高ぶっている集団は、どこかで休息をさせてあげようと思ったら慰安婦制度は必要なのはこれは誰だってわかる」――
要するに「なぜ日本の慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか」と言って、世界の慰安婦制度が取り上げられないのは不公平だという趣旨となっている。「レイプ国家」は日本だけじゃない。日本だけ「レイプ国家」と批判されるのは不当だと。
この主張は、「当時は日本だけじゃなくいろんな軍で慰安婦制度を活用していた」、自らがそうと信じている“事実”を根拠としている。
午後の発言。
橋下徹「兵士なんていうのは、命を落とすかも分からない極限の状況まで追い込まれるような任務のわけで、どっかで発散するとか、そういうことはしっかり考えないといけない。建前論ばかりでは人間社会は回らない。
(慰安婦制度は)朝鮮戦争の時もあった。沖縄占領時代だって、日本人の女性が米軍基地の周辺でそういうところに携わっていた。良いか悪いかは別で、あったのは間違いない。戦争責任の一環としてそういう女性たちに配慮しなければいけないが、そういう仕事があったことまでは否定できない。
歴史をひもといたら、いろんな戦争で、勝った側が負けた側をレイプするだのなんだのっていうのは、山ほどある。そういうのを抑えていくためには、一定の慰安婦みたいな制度が必要だったのも厳然たる事実だ。そんな中で、なぜ日本が世界から非難されているのかを、日本国民は知っておかないといけない」――
午後の発言も慰安婦制度は日本国専売特許ではないという趣旨となっている。朝鮮戦争の時も、沖縄占領時代も、米軍は慰安婦制度に関わっていた、歴史的に「一定の慰安婦みたいな制度が必要だったのも厳然たる事実」で、世界的な制度だとの趣旨となる。
この記事も触れているが、沖縄普天間の米軍基地に出かけて、米兵の性犯罪を抑えるために(性)風俗業の活用を申し出たが、司令官から「(風俗業に)行くなと通達を出しているし、これ以上この話はやめよう」と打ち切られた話をしているが、この申し出と慰安婦制度世界発発言に対してだと思うが、アメリカから強い批判が出た。
《慰安婦発言は「言語道断」と米報道官、橋下氏は反論ツイート》(AFP/2013年05月17日 18:52)
5月16日記者会見。
ジェン・サキ米国務省報道官(女性)「言語道断で不快だ。
これまでにも米国が述べてきたように当時、性を目的に人身取引された女性たちの身に起きた出来事は嘆かわしく、とてつもなく重大な人権侵害であることは明白だ。
改めて、犠牲者に対する深い同情の念を表す。我々は日本が過去に起因するこれらの問題に対処するために、近隣諸国と共に取り組み続けることを期待する」――
そして橋下徹の反論ツイッター。
橋下徹「もっと端的に言う。アメリカの日本占領期では日本人女性を活用したのではなかったのか。自国のことを棚に上げて、日本だけを批判するアメリカはアンフェアだと指摘しなければならない。
米軍が現地女性に何をしていたのか、日本の占領期に特に沖縄女性に何をしていたのか、直視すべきだ。
ドイツもフランスも、慰安所方式を活用していたし、(中略)朝鮮戦争やベトナム戦争では慰安所方式が活用されていたという史実もある」――
日本の従軍慰安婦制度は日本軍と売春業者が一体となって運営していた。軍のトラックが女性の移送に利用されたし、日本軍自らが女性の募集に乗り出していた。また日本人軍医が女性の性病検査をしたケースも存在するし、午前中は将校の利用、午後は一般兵士の利用と時間帯を設けていたケースも伝えられている。
いわば日本軍主導の軍民一体の構造を取っていた。
対してアメリカは日本式の軍主導・軍民一体の従軍慰安婦制度にあったのだろうか。「Wikipedia」に次の記述がある。
〈秦郁彦によれば、第二次世界大戦当時の戦地での性政策には大別して自由恋愛型(私娼中心。イギリス軍、米軍)、慰安所型(日本、ドイツ、フランス)、レイプ型(ソ連、朝鮮)の3つの類型があった。〉――
秦郁彦は従軍慰安婦の強制連行説を否定している保守派の歴史学者だから、言っていることに間違いはないだろうという前提で話を進める。
私娼中心の自由恋愛型というのは極く個人的な活動によって支えられる制度であって、軍関与の構造を取っているわけではなく、日本の従軍慰安婦制度のように日本軍主導の軍民一体型とは似ても似つかない構造にある。
また、橋本徹は「アメリカの日本占領期では日本人女性を活用したのではなかったのか」と言っているが、米軍が組織した売春制度ではない。日本政府が売春業者等と組織した、いわば戦前の軍民一体型を引き継ぐ政府・民間一体型の従軍慰安婦制度であり、米兵はその組織・制度の設立に関わっていない、そこに行けば売春婦がいるから利用するという形の個人行動の範囲の利用であって、自由恋愛型を維持する「活用」に過ぎない。
占領時代の慰安婦制度が日本政府主導による政府・民間一体型の従軍慰安婦制度であるのは周知の事実であるが、1974年〈昭和49年〉12月15日第一刷発行の『売春』(神崎清著・現代史出版会)にその記述がある。
鈴木貫太郎内閣の総辞職を受けて皇族且つ現役陸軍大将である東久邇宮(ひがしくにのみや)内閣が1945年8月17日に発足。
〈翌18日には内務省警保局長(橋本政美〉から庁府県長官に宛てて占領軍の性的慰安施設に関する無線通牒が発せられている。
1.外国駐屯軍に対する営業行為は、一定の地域を限定して、従来の取締まり標準に関わらず、これを許可するも
のとする。
2.前項の区域は、警察署長に於いてこれを設定するものとし、日本人の施設利用はこれを禁ずるものとする。
3.警察署長は左の営業については、積極的に指導を行い、施設の急速充実を図るものとす。
性的慰安施設
飲食施設
娯楽場
4.営業に必要なる婦女子は、芸妓・公私娼妓・女給・酌婦・常習密売淫犯等をこれに充足するものとす。〉――
連合軍が日本に第一隊が上陸したのは1945年8月28日である。それに遡る11日前に日本政府は慰安施設と慰安婦を準備していた。多分、戦争中の従軍慰安婦制度の学習から発した政府・民間一体型の従軍慰安婦制度に違いない。
著者解説。〈日本のように政府が音頭を取って警察署長を手足に使い、外国兵相手の女郎屋開業に乗り出した例をほかに聞いたことはない。〉――
何、昔取った杵柄(きねづか)である。
そして米兵、その他の連合軍兵士は日本政府と民間業者が一体となって準備した慰安所施設に個人として通い、カネを払って利用するという自由恋愛型の買春を行ったに過ぎない。
連合軍兵士が個人的に利用はしたが、連合軍が連合軍兵士の利用に供するために準備した施設の利用・活用の類いではない。
当然、橋下徹が言っている「アメリカの日本占領期では日本人女性を活用したのではなかったのか。自国のことを棚に上げて、日本だけを批判するアメリカはアンフェアだと指摘しなければならない」の指摘はアンフェアな勘違いと言わざるを得ない。
小泉元首相時代の元政務秘書飯島勲安倍内閣官房参与が5月14日(2013年)から北朝鮮の首都ピョンヤンを訪問している。観光に出かけたわけではあるまい。昨年の12月28日、拉致被害者家族会メンバーが首相官邸を訪れて拉致の早期解決を要請した。
安倍晋三「もう一度総理になれたのは、何とか拉致問題を解決したいという使命感によるものだ」
まさかそんなことはあるまい。拉致問題解決は処理しなければならない懸案の一つであったかもしれないが、政権を無責任にも投げ出して失った名誉回復が最大の目的だったはずだ。
心にもないことをさも心にあるかのように大袈裟に言うところが如何にも安倍晋三らしい。
安倍晋三「この内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む」
そう締めくくったことの手がかり着手に早速取り掛かったといったところに違いない。
飯島勲の北朝鮮訪問の詳しい目的や現地での日程は明らかにされていなくても、安倍晋三が拉致解決に向けて直接行動に出たと誰もが見たはずだ。
例え安倍晋三が国会でその目的を問われても、「総理大臣としてノーコメントだ」とか、「政府はノーコメント」と答えようが、それは望む結果に繋がらなかった場合には受けるかもしれない批判を前以て避ける予防措置としか受け取られないだろう。
拉致解決の糸口を掴むために訪朝しました、手ぶらで戻って来ましたでは格好がつかない。例え手ぶらであったとしても、拉致を議題にしてもいい感触が掴めた、次回の機会に繋げたいと継続可能性を演出すれば、手ぶらの批判をかわすことはできる。
いずれにしても、大方の人間が飯島勲は安倍晋三の指示を受けて拉致で動いたを共通の事実としているはずだ。
但しこの行動は現在、北朝鮮に対してはその核兵器及びミサイル開発問題や拉致問題等の包括的解決を方針として、米国、北朝鮮、日本、韓国、中国、ロシアの6カ国を枠組みとして協議を行うとしている共同行動に対して単独行動となる。
包括的解決に対する単独行動を安倍晋三はどう解決するのだろうか。しかも飯島勲の訪朝を、6カ国協議の米国側首席代表であるグリン・デービース米国務省対北朝鮮政策特別代表は代表として対北朝鮮政策協議のために5月13日に韓国、15日に中国、16日に日本と順に訪問する途次の韓国ソウルで、「聞いていなかった」(YOMIURI ONLINE)と、前以て報告がなかったことを伝えている。
15日には中国北京で、日本政府から「わずかな説明(があった)。まだ情報が足りない。評価は、日本で詳しい説明を聞いてからにしたい」(同YOMIURI ONLINE)と、北朝鮮が飯島勲の訪朝をメディアを通して伝え、日本の国会で問題となってからの、6カ国の枠組みに反した報告の遅れに間接的に言及している。
韓国政府に対しても前以ての報告がなく、韓国政府は飯島訪朝から1日経過した5月15日に日本政府から説明があり、説明が遅れたことについて遺憾の意が伝えられたと明らかにしている。
そして5月16日日本を訪問したデービース特別代表に杉山外務省アジア大洋州局長が面会、「NHK NEWS WEB」記事によると、〈平成14年の日朝ピョンヤン宣言に基づいて、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指す日本政府の方針に変わりはないとして、理解を求めたものとみられます。〉と解説している。
この解説は6カ国協議の枠組みの制約を受けて拉致解決のみを目的とする単独行動が許されていない日本政府が置かれている状況からして、当然の文言であろう。
拉致解決のみを目指した訪朝ですなどと口が裂けても言えないはずだ。
だが、果たして日本政府に北朝鮮の核開発問題、ミサイル開発問題を北朝鮮と話し合うだけの力と資格があるのだろうか。
北朝鮮の国家としての最大の目的は米国に核保有国であることを認めさせることである。認めさせることが米朝国交の前提とすることができる。
対して米国にとっての最も重視している優先順位の最上位は核問題である。北朝鮮が非核化に向けて行動を起こさなければ、対話には応じない姿勢でいる。
この関係に日本がどれ程に関与できるというのだろうか。アメリカが同じテーブルについていて、あるいは北朝鮮とアメリカのみのテーブルで話し合いが行われて初めてスタートできる核問題であり、ミサイル問題であろう。
一方、北朝鮮の日本に対する望みは日本から戦争賠償を得て、北朝鮮経済の立て直しに役立てることで、米国に核保有国であることを認めさせる目的とは個別問題となっているはずだ。
いわば北朝鮮は核問題もミサイル問題も日本と包括的解決の議題とする対象には入れていないはずだということである。
日本とのみ交渉しても、拉致解決ならぬ、埒の明かない問題となるだけだろう。必然的に拉致解決のみが議題となる。
但し北朝鮮が拉致解決に動くためには金正恩は自己の父子権力継承による権力掌握の正統性を根拠づけている一方の権威たる父親の金正日が拉致の張本人ではないことを日本側が認めること、張本人であることが露見する可能性を孕む拉致実行犯の引渡しを日本側が求めないことを条件とすることが予想される。
要するに拉致被害者の帰国はこの2つの条件をクリアする必要が日本側にある。
だが、核開発問題やミサイル開発問題、拉致問題等の包括的解決から拉致だけを抜き取った解決は、そのことによって戦争賠償を北朝鮮に約束した場合、現在行なっている北朝鮮に対する西側の経済制裁を無効にする役目を果たすことになる。
いわば日本自らが経済制裁を発動した国連安保理決議を破ることになる。
もし日本が北朝鮮の核放棄とミサイル開発放棄を先だとした場合、北朝鮮は当然のこと、拉致解決に応じないはずだ。北朝鮮がいずれをも放棄する決意を固めたとしても、アメリカの保証を優先することになるだろうからである。
安倍晋三は拉致解決のために6カ国協議を枠組みとした包括的解決のハードルをどうクリアするのだろうか。クリアするだけの知恵を持っているのだろうか。
――先に結論を言うと、日本の首相の歴史認識が日中・日韓関係に於ける外交関係構築の欠かすことのできない基本的要件となっていながら、安倍晋三がそのことを踏まえることができないのは自らの歴史認識が中韓に受け入れられないからであり、基本的要件を踏まえた場合、自身も承知しているように直ちに外交問題化・政治問題化するからだ。―― 2013年5月15日)参議院予算委員会 外交・内政諸問題集中審議
踏まえることができないのは安倍晋三ばかりではない。昨日、5月15日(2013年)の外交・内政諸問題の集中審議を行った参院予算委で歴史認識について安倍晋三を追及した民主党小川議員も踏まえていないために安倍晋三の箸にも棒にもかからない、はぐらかすだけの答弁を引き出す堂々巡りの質疑を延々と続けることになった。
際限もないエネルギーのムダに思えて仕方がなかった。NHKの中継を録画して途中まで文字に起こしてみた。安倍晋三の答弁はこれまでの繰返しに過ぎない。小川議員は安倍晋三から繰返しの答弁を引き出すためにエネルギーを使ったようなものである。
小川敏夫「過去の日本、日本はですね、中国に侵略したというご認識はお持ちでしょうか」
安倍晋三「この過去の問題でございますが、日本と中国というのはですね、えー、お互いに隣国でありますから、長い歴史を共にしているわけでございます。
その間ですね、えー、実際にこれまで様々な出来事があったわけでございますが、先の大戦、または過去に於いてですね、えー、中国の人々に対して大きな、えー、被害を与えたと、大きな苦しみを与えたことに対して、いわゆる痛惜の念を持っているわけでございました。(ママ)
そうしたものの反省の上に立って、えー、今日の日本の現状があるわけでございまして、まさに自由で民主的な、法の支配を尊ぶ基本的な人権を守っていくという、そういう国をつくってきました。こういうことでございます」
小川敏夫「つまり、総理はね、あのー、質問に答えていない。あのー、中国の人々に苦しみを与えた、だから、反省するというのはあるんだけど、その前提として私が聞いているのは、侵略したと、まあ、村山談話でも、政府は認めているわけですし、その後の政府も認めておるわけでございますけども、あなた自身、総理、あなた自身は今の答弁でも明らかなように侵略したということについては一言もおっしゃらなかった。
これまでも国会答弁もそうだから、私は重ねてここで聞いているわけです。村山談話を継承するとか、抽象的なことは除いてください。
総理、あなたご自身の認識で、かつて日本は、あるいは日本軍は中国に侵略したのですか、あるいは侵略ではなかったんですか。
そこのところははっきりと、総理のご認識を教えて下さい」
安倍晋三「えー、私は今まで日本が侵略しなかったと言ったことは一度もないわけでございますが、まあ、ま、しかし歴史認識に於いてですね、私がここで述べることはまさにそれは外交問題や政治問題に発展していくわけでございます。
いわば私は行政府の長としてですね、いわば権力を持つ者として、えー、歴史に対して謙虚でなければならない。このように考えているわけでありまして、えー、いわばそうした歴史認識に踏み込むことは、これは抑制するべきであろうと、このように考えているわけでございます。
つまり、えー、歴史認識については歴史家に任せるべき問題であると、このように思っているわけでございます」
小川敏夫「あのー、総理ね、総理は外交問題に発展するからと言って、答弁を逃げていらっしゃるけれども、そうして逃げることが外交問題に発展するという認識は持ちませんか。
即ち、日本政府はこれまで明らかにはっきりと、侵略と、いうことを認めて、その上で謝罪をしておったわけであります。ま、総理は、先般国会でですね、侵略という言葉にも色んな定義がある。色んな意味があるというふうにおっしゃられました。
では、そのー、言葉を踏まえて質問しますと、では、侵略という言葉の定義の把え方によっては侵略したとも言えるかもしれないけれども、侵略という言葉の定義の把え方によっては、あれは侵略でなかったと、こういうふうに総理は考えていらっしゃるんですか」
安倍晋三「ま、つまり、それは今委員が議論しようとされていることこそですね、えー、歴史認識の問題であって、そこにいわば、あー、踏み込んでいく、べきではない、というのが私の見識であります。
つまりここで、えー、議論することによってですね、外交問題、あるいは政治問題に発展をしていく、わけであります。ま、つまり、えー、歴史家がですね、冷静な目を持って、そしてそれは歴史の中で、まさに、えー、長い歴史と試練に、曝される中に於いて、えー、確定していくものであると、いうことだろうと思いますが、つまり、それは歴史家に任せたいと、こういうことでございます」
小川敏夫「いや、これまでは日本政府はですね、日本が侵略したことを認めた上で謝罪をしているわけです。しかしそれを、今総理、あなたは認めないからこそ、外交問題になっているわけです。日中問題が悪化していると。あるいはアメリカもですね、議会調査局がですね、懸念を示しました。
では、侵略の次に続いてもう一つ聞きます。
韓国、あるいは朝鮮半島に対する植民地支配、これもですね、政府も植民地支配を認めて、その上で謝罪しておったんですが、この、おー、安倍総理は日本が韓国を植民地支配をしたという認識はお持ちですか。あるいは違う認識なんですか」
安倍晋三「えー、まあ、韓国、あるいは朝鮮半島の人々に対してですね、まあ、ま、日本は過去、大変な、ま、被害を与え、そして苦しみを与え、まさに、その、痛惜の念、ま、その上に立って、ま、自由で、民主主義な、そして基本的人権を尊ぶ、法の支配を守る国としての、今日の歩みが、あるわけでございます。
えー、ま、その中に於いてですね、まさに、えー、我々はですね、えー、今申し上けましたように国際社会に於いて、大いなる貢献をしてきたところでございます。
えー、先程も申し上げましたようにですね、これは政治問題、外交問題に発展をしていくわけでございますから、えー、これは、まさに歴史家に任せる問題であろうと、このように思います」
小川議員は続いて日韓関係がギクシャクしている原因は何かと問うと、安倍晋三はイ・ミョンバク大統領の竹島上陸を挙げて、民主党政権時代の出来事だと民主党政権に責任を転嫁。ついでにメドベージェフ大統領の国後島訪問も民主党政権の時代だと、そのことだけが問題でもないのに罪を着せるようなことを言う。
対して小川議員は韓国に竹島の実効支配を許したのは自民党政権時代だと、歴史認識に関係しない応酬に両者ともエネルギーを使い、日韓関係がギクシャクしているのは安倍晋三自身の発言が原因となっているのではないかと直截に追及、対して安倍晋三は日韓は自由や民主主義の普遍的価値を共有する大切な隣国で、韓国が新しい指導者となったことから、両国の対話が進み、関係が強化されていくことが日本の国益に適うと、質問には直接答えない、例の如くの答弁に終始する、かくかような際限もな堂々巡りの質疑となっている。
確かに村山談話は日本の植民地支配と侵略を認めている。
村山内閣総理大臣談話(外務省HP/1995年〈平成7年〉8月15日)
〈わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。〉――
だが、安倍晋三は村山談話のうちの「アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」だけを剽窃して、肝心の「植民地支配と侵略」は骨抜きしている。
このこと一つ取るだけでも、日本の戦争を侵略戦争と認めていないことを自明の理とすることができるが、これまでの国会での発言、東京裁判否定、占領政策否定、河野談話に関わる発言、その他での発言で日本の戦争を侵略戦争と認めていないことは十分に証明できる。
村山談話にしても、ここでは「私は今まで日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と断言しているが、「今まで日本が侵略しなかったと言った」経験はないという意味にも取れるし、実際にもそうだったはずだから、「侵略しなかったと言ったことは一度もない」が侵略を認める発言となる保証はない。
安倍晋三が侵略も植民地政策も認めていないのは天皇主義者であることからも分かるはずなのに単に過去の侵略を認めるのか、植民地支配を認めるのかと質問するから、安倍晋三にしても認めていないことを認めるというわけにはいかないから、言った場合外交問題化・政治問題化は明らかで、それを恐れて直接答えないはぐらかしの答弁となるだけなのだと弁えなければならないはずだが、弁えていないから、同じ質問の繰返しとなり、答弁の方も同じ繰返しとなる。
もし小川議員が日本の首相の歴史認識が日中・日韓関係に於ける外交関係構築の欠かすことのできない基本的要件となっていることを的確に認識できていたなら、「歴史家に任せた歴史認識ではなく、中韓と良好な友好関係を築くためには安倍晋三自身の歴史認識を中韓に対して明らかにする必要がある」と追及することができたはずだ。
基本的要件となっているからこそ、村山談話が発表され、河野談話を必要とし、歴代内閣が引き継いでいくこととなった。
いわば村山談話にしても河野談話にしても、それぞれの談話自体を日中・日韓関係に於ける外交関係構築の基本的要件としたのである。
そういった外交上の後々にまで亘る制約を日本の戦争がつくり出した。
しかし基本的要件から攻めないから、安倍晋三に対して自らの歴史認識を隠させたまま、中韓を含めたアジアの国々に多大な被害と苦痛を与えた「反省の上に立って今日の日本の現状がある。まさに自由で民主的な、法の支配を尊ぶ基本的な人権を守っていくという、そういう国をつくってきた」といった文言で過去のことはいつまでも拘るな、現在と未来に拘るべきだといった趣旨の答弁を許すことになる。
小川議員が「例えばの話として、もし総理が植民地政策と侵略を認めたなら、中韓との歴史認識に関わる外交関係は悪化することを避けることできると思いますか」と質問したなら、安倍晋三はどう答弁するだろうか。
勿論、素直には答えまい。今までだって素直に答えたことはない。だが、聞くだけの価値はある。
安倍晋三のパフォーマンスが続いている。4月27、28日の2日間、「ニコニコ動画」のイベント「ニコニコ超会議2」が千葉市の幕張メッセで開始された。
ネット政治時代を迎えて自民、民主、日本維新の会、共産の計4党が特設ブースを解説。それぞれアピールをしたと言う。
初日27日の午後、安倍晋三は自衛隊ブースに赴き、「10式戦車」(ひとまるしきせんしゃ)に自衛隊の迷彩服を着用、ヘルメットをかぶって試乗。内心の国防軍願望を表現したのかもしれない、右手を高々と上げるパフォーマンスを見せた
5月5日こどもの日の午後、わざわざ東京ドームで国民栄誉賞授与式を開催、一方の受賞者松井秀喜をピッチャーに、もう一方の受賞者長島茂を打者に仕立てて、授与者安倍晋三が審判を務めるという、明らかに人気取りのパフォーマンスを演じている。
5月11日夕、南こうせつのコンサートに飛び入り参加、「女房から絶対に歌うなと言われているが、ここは度胸で」(47NEWS)と約3千人の聴衆を前に南こうせつデュエットを披露。
5月12日、東日本大震災被災地宮城県女川町を視察。午後、宮城県東松島市の航空自衛隊松島基地を訪問、殉職隊員の慰霊碑に献花後、自衛隊の操縦服を着込んでブルーインパルスの一機に試乗、得意気に親指を突き立てるポーズを見せている。
安倍晋三「復興の加速化は私の使命だ。先頭に立って希望あふれる東北をつくりあげる。ブルーインパルスの勇姿は希望の象徴だ」(MSN産経)
「復興の加速化は私の使命」と言おうと、復興の先頭に立とうと、ブルーインパルスの勇姿が希望の象徴であろうと、親指を突き立てたことについては復興に即したポーズだったのだろうか。
いわば復興の結果を出している自らの成果に対してのその見事さを誇る行動の一つだったのだろうか。
単にブルーインパルスに試乗した高揚感からの親指の突き立てだったとしたら、あまりにも個人的な感情の発露にとどまる。
ブルーインパルス試乗後、仙台東地区の農地の復旧状況を視察、田植機に試乗し、田植えに参加している。
農家の人から左にハンドルを切るよう指摘されると、「どうしても右に行くってよく言われるんだ」(MSN産経)と冗談。
このような冗談を口にする安倍晋三の心理状況にしても、最大公約数の被災者が復興が進んで日常普段に心置きなく冗談が言える程の心の余裕を取り戻している心理状況と対応させることができるのだろうか。
こんなことを書くと、冗談も言えないのかとなるが、多くの被災者が心の余裕を取り戻しているとはとても言えない状況にあった場合、復興を主導する政治家一人の冗談に素直に付き合うことができるだろうか。苦々しく感じる被災者も少なくないはずだ。
被災者の多くがもしこういった心理状況にあるなら、安倍晋三の冗談は被災者とは孤立した冗談でしかなくなる。
次の記事を見ると、パフォーマンスに現(うつつ)を抜かしている場合ではないと思わせる。
《使われない復興予算 1兆2600億円余りに》(NHK NEWS WEB/2013年5月11日 17時45分)
NHKの取材での判明だそうだ。被災東北3県と市町村で昨年度未使用、今年度繰越しの復旧・復興関連事業関連予算が合わせて1兆2600億円余りにも上るという。
繰越し予算の内訳。
▽道路や漁港などのインフラ復旧費が2613億円
▽除染費用が1909億円、
▽漁港のかさ上げなど水産業関連費用が940億円
▽内陸や高台への集団移転費用が426億円
要するに予定していた復興が予算額で言いうと、1兆2600億円分遅れていることになる。
繰り越した理由。
31の県と市町村
工事を請け負う業者、作業員、資材の不足で、入札が成立せず、契約に結びついていない。
27の県と市町村
職員不足から集団移転や災害公営住宅の事業で用地確保の交渉などが進まず、業者と契約ができない。
東北3県と津波被災地や原発事故の避難区域を持つ39の市町村の今年度の職員不足は1991人。
内、国が各自治体に呼びかけて被災地への職員派遣が決まった人数は今年3月末の時点で1409人、582人が不足。
去年1年間に東北3県で発注された工事で業者が集まらず入札が成立しなかった事業。
▽宮城県28%
▽福島県20%
▽岩手県12%
国は原則、業者が負担することになっている作業員の宿泊費用や交通費などを肩代わり負担することで、被災地以外からも作業員が確保できるよう促し、被災地に生コンクリートを生産する工場を建設して資材の供給量を増やすことを決めているが、追いついていない。
記事は地方財政に詳しい増田聡東北大学教授の発言を伝えている。
増田聡東北大学教授(改めて復興の遅れが裏付けられたとしたうえで)「この状態が続くと復興に向けたプロジェクトが効率的に行われるかどうかといった問題が出てくるおそれがある。
(入札業者の参加不足について)国は様々な対策を導入しているが、うまく復興につながるようにはなっておらず、なかなか特効薬はない。今後事業が本格化するなかで一つ一つの自治体ごとではなく、広域でどの事業を優先して行うかといった議論も必要だ、
(自治体の職員不足について)民間の方が豊富にノウハウをもっていることもあるので、行政と民間企業との役割分担を検討したうえで、やれるものについては業務を委託すべきだ」
勿論安倍政権のみに責任があるのではない。民主党前政権にも責任がある。
だからなおのこと復興の遅れが恒常化しないように効果的な政策を迅速に打たなければならないはずだ。
なのに安倍晋三はパフォーマンスに現を抜かして一人悦に入っている。
例えそのパフォーマンスが体裁は被災地で復興をアピールする形を取っていたとしても、復興が遅れている以上、実質的には復興を顧みていない、復興とは孤立したパフォーマンスということになって、内閣支持率の高さに裏打ちされた、そのことに得意な気分となったパフォーマンということだけが残ることになる。
5月13日(2013年)、橋下徹日本維新の会共同代表が大阪市役所で記者会見し、歴史認識について何が問題になっているのか気づかない間抜けな発言をしている。
《「慰安婦は必要だった」「侵略、反省とおわびを」橋下氏》(asahi.com/2013年5月13日13時55分)
橋下徹「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だって分かる。
当時の歴史を調べたら、日本国軍だけでなく、いろんな軍で(慰安婦を)活用していた。なぜ日本の慰安婦だけが世界的に取り上げられるのか。日本は国をあげて強制的に慰安婦を拉致し、職業に就かせたと世界は非難している。だが、2007年の(第1次安倍内閣の)閣議決定では、そういう証拠がないとなっている。事実と違うことで日本国が不当に侮辱を受けていることにはしっかり主張しなければいけない。
意に反して慰安婦になったのは戦争の悲劇の結果。戦争の責任は日本国にもある。慰安婦の方には優しい言葉をしっかりかけなければいけないし、優しい気持ちで接しなければいけない。
(村山談話について)日本は敗戦国。敗戦の結果として、侵略だと受け止めないといけない。実際に多大な苦痛と損害を周辺諸国に与えたことも間違いない。反省とおわびはしなければいけない。
(安倍晋三が「侵略の定義は定まっていない」と主張している点について)学術上、定義がないのは安倍首相が言われているとおり」
問題となっていることは慰安婦制度の必要性ではない。それが軍や警察とは何ら関係のない純然たる売春業者の経営と運営なら、売春禁止法が施行されていた時代ではないのだから、何ら問題ではないだろう。
だが、橋下徹は頭がいいから、慰安婦制度の必要性から入って、正当性の全体的背景とする間抜けさ加減を演じている。
問題となっていることは軍や警察が関わって、女性を拉致同然に強制連行し、売春婦に貶め、売春を強要したかどうか、その一点に絞られる。だが、橋下徹は軍・警察関与の強制性を「2007年の(第1次安倍内閣の)閣議決定」のみを根拠として否定している。
いわば「閣議決定」を絶対的証拠としている。その思考性は「閣議決定」のみに従属し、物事を全体的に把握する柔軟思考の拒絶がそこにはある。誰それがそのように言っているから、そうに違いないという言う類いの硬直した思考に陥っている。
橋下徹は「意に反して慰安婦になったのは」と言っていることは軍・警察関与の強制性否定の上に成り立たせた文意だから、経済的な理由からの「意に反して」であって、基本的には本人の意思からの慰安婦化とのみ把えていることになる。
果たして慰安婦の強制性を示す文書類はなかったとする「2007年の(第1次安倍内閣の)閣議決定」は絶対的証拠とし得るのだろうか。
これまでも当ブログで何度か書いてきたし、多くの人がブログ等で取り上げているが、1945年8月14日御前会議でポツダム宣言受諾、無条件降伏が決定した。
このポツダム宣言受諾を受けて、同じ8月14日、重要文書類焼却の閣議決定を行い、連合国軍進駐までの約2週間の間に政府や海軍、陸軍が組織的に焼却を実施している。
戦争犯罪を積み重ねてきた全体主義国家の敗戦国の当然の行為と言えば当然の行為と言えるが、ポツダム宣言10番目の条項、〈我々は、日本を人種として奴隷化するつもりもなければ国民として絶滅させるつもりもない。しかし、我々の捕虜を虐待した者を含めて、すべての戦争犯罪人に対しては断固たる正義を付与するものである。日本政府は、日本の人民の間に民主主義的風潮を強化しあるいは復活するにあたって障害となるものはこれを排除するものとする。言論、宗教、思想の自由及び基本的人権の尊重はこれを確立するものとする。〉とした条項のうち、〈戦争犯罪人に対しては断固たる正義を付与するものである。〉の規定回避を目的の一つとしていたと言われている。
当然、焼却は戦争犯罪とされる可能性のある行為・行動、作戦指示・作戦実施報告等々を記した文書類はすべて焼却の対象とされたことになる。
このことを裏返すと、戦争犯罪人とされることの恐れから、これも戦争犯罪の対象とされるのではないか、あれも戦争犯罪の対象とされるのではないかと過剰反応して徹底的に焼却を謀ったと考えることができる。
その他の主たる目的は将来的に外交関係で不利な立場に立たされる懸念のある文書類で、これは海軍が外地の関係機関に打電した暗号電文を連合国側が傍受・解読し、その暗号解読文書が英公文書館に残されているという。
この文書類としている中には個人の日記まで含まれていたというから、その徹底ぶりは容易に想像できる。
外交関係で不利な立場に立たされる懸念のある文書とは正当な作戦・正当な交渉を記した文書ではないことを意味する。
陸軍も文書類焼却命令を出していて、その原文が防衛省防衛研究所に僅かに残っているほか米国立公文書館に旧陸軍による命令の要約史料として若干残されているという。
以上のことから、軍・警察が何の関係もない女性を拉致同然に強制連行し、慰安婦に仕立てたことを証拠立てる軍関係の文書かメモ、個人の日記等が焼却の対象となった可能性は否定できないはずだ。
1944年2月、インドネシアのオランダ人抑留所から日本軍がトラックを乗り付けてオランダ人女性35人を強制的に連行、慰安婦とし、責任者の陸軍少佐が戦後のオランダ軍による軍法会議で死刑を宣告され、刑死しているが、戦争犯罪の程度はあくまでも強制連行の規模、その悪質性を受けた裁判の結果であって、戦争犯罪と指弾されて裁判を受けることがないよう、その証拠隠滅・証拠隠蔽を否でも徹底せざるを得なかったはずだ。
軍・警察による民間人の女性の強制連行ということになったなら、将来的に外交関係で不利な立場に立たされる懸念も生じる。
いわば証拠を示す文書類がなかったことだけを以って強制性の否定は不可能であるはずだ。
前にブログに書いたが、民間の女性ではないが、売春婦を軍が直接募集の形を取って狩り集め、軍のトラックで慰安所に移送したことを伝える資料が天津市の公的機関で発見されている。
日本軍天津防衛司令部から天津特別市政府警察局保安科へ妓女(遊女のこと)を150人を出すよう指示。警察局保安科は天津市内の売春宿の経営者を集めて、借金などはすべて取消して、自由の身にするという条件付きで募集を行った。
その資料には229人が「自発的に応募」と書いていあるということだが、そこに日本軍が持つ強制性・威嚇性が働かなかった保証はない。
その証拠が性病検査後、12人が塀を乗り越えて逃亡した事実であり、残ったうちの86人が軍のトラック4台と10人の日本軍兵士によって移送途中、半数近い42人が逃亡している事実である。
逃亡は「自発的に応募」が虚構であったことの証拠でもあり、彼女たちにとっては売春の従業の利益よりも逃亡の利益が上回っていたことの証拠でもあるはずだ。
だったら、逃亡するなら、最初から断ればいい。だが、断ることができなかった。
そこに日本軍が持つ威嚇性・強制性の存在を嗅ぎ取ることができる。断れない相手だということである。
それが売春業者が正面に立った慰安婦募集であったとしても、軍の要請を背景としていたり軍の名を騙った場合、軍の威嚇性・強制性は売春業者を介して女性に直接伝わることになる。
そのような形の募集を軍の強制連行とは無縁の募集とすることができるだろうか。
この日本軍が持つ威嚇性・強制性が女性に対してではなく、男性に作用した例を挙げる。内務省嘱託員が朝鮮半島内の食料や労務の供出状況について調査を命じられて朝鮮に赴き、1944年7月31日付の内務省管理局に報告した「復命書」に書いてある事実であり、外務省外交史料館に遺されているという。
「復命書」(動員の方法に関して)「事前に知らせると逃亡してしまうため、夜襲、誘出、その他各種の方策を講じて人質的掠奪・拉致の事例が多くなる。朝鮮人の民情に悪影響を及ぼし、家計収入がなくなる家が続出した。
(留守家族の様子について)突然の死因不明の死亡電報が来て、家庭に対して言う言葉を知らないほど気の毒な状態
」――
「事前に知らせると逃亡してしまうため、夜襲、誘出、その他各種の方策を講じて人質的掠奪・拉致の事例が多くなる」云々は日本の支配が可能としていた威嚇性・強制性であって、そこに日本軍や日本の警察が夜襲、誘出、その他各種の方策の実働部隊として、あるいは暗黙の影響力として大きく関わっていたはずだ。
このような方策を、単に文書等の証拠がないからといって、慰安婦強制連行に応用した可能性は否定できない。
何しろ戦争犯罪に触れるような文書、メモ、個人の日記の類いを徹底的に焼却している。当然、生き残った兵士がその事実を知っていたとしても、既に焼却という情報隠蔽の悪事を犯しているのだから、その悪事を曝すこととなる証言を行うはずもなく、口をつぐむだろうから、証拠に併せて証言もなかったからといって従軍慰安婦の強制連行を完全に否定することはできない。
証拠が全てだと言うなら、せめて証拠隠滅・情報隠蔽の焼却の事実だけは伝えるべきだ。伝えた上で、国民に判断させる。
橋下徹は日本の戦争が侵略戦争であったか否かについて、「敗戦の結果として、侵略だと受け止めないといけない」と、侵略戦争であることを認めている。
だが、一方で侵略の定義について、「学術上、定義がないのは安倍首相が言われているとおり」だと言っている。
ここでも橋下徹は問題を履き違えている。
安倍晋三が言っているように「侵略の定義は定まっていない」か否かではなく、また橋下徹が言うように「学術上、定義がない」云々ではなく、それぞれが個人としてどう解釈するかが問題となっているはずである。
解釈に応じてその人間の歴史認識ばかりか、政治家なら、政治的立場が明らかになる。
安倍晋三は「侵略の定義は定まっていない」を口実として、間接的に日本の侵略戦争を否定した。正面切って自らの歴史認識を明らかにし、自らの政治的立場を鮮明にすべきだが、単に正面切って侵略戦争ではないと否定しなかったというだけのことである。
政治問題化・外交問題化を恐れて慎重な姿勢で曖昧な態度を取っていながら、「定まっていない」とした「侵略の定義」に足を取られて、国内的にだけではなく、国外的にも政治問題化・外交問題化させてしまった。
それだけ内心の侵略戦争否定衝動が強いということなのだろう。
橋下徹は安倍晋三と同じく何が問題とされているのか、何が問題となっているのか満足に認識することができないから、的確な判断基準を思い定めることができないでいる。
その間抜けさ加減は両者同程度だということである。
昨日、5月12日(2013年)のNHK日曜討論で安倍晋三の歴史認識を取り上げて、各党出席者の意見を聞いていた。自民党は、あの狂信的なナショナリスト高市早苗自民党政調会長。自分に都合がいいだけの主張を持ち出して言いがかりに似た牽強付会を撒き散らしていた。まさに国家主義的心理性という点で安倍晋三とベッドを共にしていると言うことができる。 【日曜討論】「歴史認識」(2013年5月12日)
4月23日、「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーと共に靖国参拝をしているが、背筋をぴんと伸ばし、両手の指先を内向き対称に揃えたMSN産経記事の写真はナチスか北朝鮮兵士といった全体主義国家の兵士そっくりの姿勢だが、内心の狂信的な国家主義・全体主義の心情が靖国参拝で全身に現れ、その狂信性を全身に纏っているようだ。
高市早苗はNHK福井局スタジオからの出演。
司会「果たして安倍内閣は戦後体制の見直しと言っているのか、東京裁判の結果というものを受け入れてこの国を作ってきた歴代内閣と同じなのか、違うのか。この辺りは如何でしょうか」
高市早苗「国家観・歴史観についてではですね、安倍総理ご自身違った点もあるかとも思います。で、私自身もですね、先程来靖国参拝の話が出ておりますけれども、ここでやめたら、終わりだと思っております。
要は国策に準じて命を捧げた方、いわば公務死された方を如何にお祀りするか、如何に礼をするかというのは国の内政の問題でございます。
中国との間でもですね、1972年、そのとき相互内政不干渉という約束をしておりますし、それから中国が靖国参拝に文句を言い出したのは1985年からです。ですから、後世で、あの戦争が正しかったとか、間違っていたとか、そういった戦争の評価というものとですね、公務に殉じて亡くなった方をどう慰霊するかということは分けて考えなければいけなくて。
じゃあ、例えがアーリントン墓地に日本の閣僚が、総理がですね、花束を捧げに行く。まあ、これはいいのか悪いのかって言い出したあら、あの、東京大空襲、今、私がいますのは福井のスタジオですが、ここも空襲に遭いました。
原爆投下は良かったのか悪かったのか、(ふっと笑いを短く漏らして)すべての国がですね、お互いに謝り謝らないか(という)話になりますね」
司会「ハイ、分かりました」(際限がないと調子で打ち切る)
高市早苗「それからちょっとおかしいと思いますすね」
司会「ハイ、その問題と外交との関連、また議論していきましょう。さあ、生活の党は如何ですか」
広野ただし生活の党副代表「例えば尖閣、日中の間のですね、尖閣列島は日本の国の領土です。私はこれはそう思います。しかし中国側の言い方もある。
竹島も日本の国の領土だと。しかし韓国の言い方もある。歴史認識についてもそうです。ですから、私はですね、日中、あるいは日韓に於いてですね、常設して官民の専門家が入って、そして学者も入って、場合によっては第三国も入ってもいいことですがね、アメリカ、アジアの他の国ですね。
そしてそれを常設会議として、よく議論をすると。そうしませんと、ただ言い張ってですね、何かこうケンカばかりやっていたんでは(苦笑しながら)折角北東アジア、近隣諸国と仲良くしなきゃいけない、そしてしかもアジアの、振興するアジア、発展するアジアの成長を取り入れなければいけない、こういうときにですね、何をやっているんだと、こういう話になっちゃうんですね。
ですから、私はやっぱりそういう常設機関を作って、しっかりと議論をしていく。それをしかも日常的にやっていくということによって、きちっとした関係を作っっていけるんではないかと、こう思っています」
小池晃共産党議員「高市さんはね、アーリントン墓地と違うんですよ。靖国神社というのは単なる戦没者の慰霊施設じゃありません。ここは遊就館て言う、あの侵略戦争を正当な戦争だと認める軍事博物館まで持ってるんですよ。
そういうところに参拝するから、あなた先頭に168人もね、あれは参拝でも何でもない。デモンストレーションですよ。あれがね、周辺諸国からどう思われるかということを考えるべきだと思います。
まさに日本の政治家があの戦後の出発点を否定するんだということを世界にアピールすることになるわけなんですよ。だから、これは単に日中、日韓の問題じゃありません。日本は国際社会に生きていけるかどうかという問題ですよ。
日本の慰安婦の問題はまさに女性の人権を踏みにじる国だということを世界に知らしめることになるわけですよ。
先程ね、東京裁判の立脚点を認めないかのような、そういう発言あったけれども、そんなことをしたら日本は本当に国際社会で生きていく道を失うと思う。
これは単に過去の問題ではなくて、まさに日本を世界から孤立させてね、日本の未来を危うくする道だと。
こういう遣り方はね、本当に反省して、正して貰わないといけないということを思いますよ。日本の未来にとって、今の道は危険だと、余りにも」
司会「高市さん、一言」
高市早苗「小池さん、ちょっと言い過ぎですね。それでしたら――」
小池晃「言い過ぎじゃありません」
高市早苗「オランダに対して、イギリスに対して、えー、アメリカに対してですね、それぞれ当時の国際条約に基づいて、まあ、残念ながら植民地となった国々がですね、それぞれの慰霊施設にその国の方々がお参りをすることについて文句を言うかどうかっていう話なんですよ、靖国の問題と――」
小池晃「違うじゃないですか。侵略戦争を正当化する施設ですよ、靖国は」
高市早苗「それでしたらね――」
司会(遮って、社民党の吉田忠智政策審議会長を指名)
吉田忠智「中国や韓国などとの関係改善には、正しい歴史認識が欠かせないが、安倍総理大臣は一方的に偏った歴史認識を持っている。日本の過去の戦争が侵略戦争だったことを認め、未来志向の関係を築くことが課題であり、村山談話と河野談話を明確に引き継ぐことが極めて重要だ。(以上NHK NEWS WEBから)
侵略の定義そのものは1974年の国連総会ではっきりと定まっているわけでございます。日本の過去の戦争は明らかに侵略戦争であったと。
それを認めた上で如何に未来志向の関係を築いていくのか、そのことが課題ですし、安倍総理の認識はそのスタート地点に立っていない。そのように言わざるを得ません」
司会「高市さん、菅官房長官がですね、今の吉田さんのおっしゃったような指摘に対して村山談話の継承ということを否定したことはないとも発言をしました。政府与党はこの点についてはどう考えていますか」
高市早苗「あのー、例えば日韓併合条約とか日支間条約などに基づいてであってもですね、やはりそのー、支配を受けた、植民地とされた方々の国がですね、本当に民族の誇りを傷つけ、また大変な苦難を与えた、被害を与えた。
これは、あの確かなことだと思います。
ただ、あの、国策を誤り、村山談話の中に国策を誤りと、ありますけれども、それでは当時ですね、資源封鎖もされて、その中で全く抵抗もせずに植民、日本が植民地となる道を選ぶのがベストだったのかどうなのか、当時の国際状況の中で何が正しかったかということを自信を持って主張できる政治家など、あの、今の日本にはいないと思います。
だから、これはもうちょっとおかしいし、侵略の定義についても、例えばケロッグ・ブリアン条約、まあ、これもケロッグ・ブリアン長官が当時ですね、えー、侵略戦争なのか、自衛戦争なのか、それをそれぞれの国が自己決定権を持つという形で留保されてますよね。
だから、色々な学説があるからという安倍総理の発言というのは決して間違っていないと思います」
石井公明党政務調査会長「安倍総理大臣は、『かつてアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えたという認識は、過去の内閣と同じ認識を持っている』と国会で答弁しており、安倍内閣の歴史認識は歴代政権と変わらないと理解している。誤解されている節があるので、明確に丁寧に海外諸国に説明していくことが重要だ」(NHK NEWS WEBから)
1972年に中国と相互内政不干渉を約束したとしても、靖国神社に祀っている戦前の戦争戦死者は外国との戦争を戦った兵士なのだから、内政問題で終わらない。「国策に準じて命を捧げた方」と言っている時点で、国策としての戦前の戦争の侵略性を否定している。
これは狂信的なナショナリスト高市早苗からしたら当然な否定だとしても、「後世で、あの戦争が正しかったとか、間違っていたとか、そういった戦争の評価というものとですね、公務に殉じて亡くなった方をどう慰霊するかということは分けて考えなければいけなくて」は論理矛盾そのものである。
慰霊は戦争の評価に応じるはずだからだ。「かつてアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」という思いが本心からのもので、日本の戦争を侵略戦争であったと位置づけていたなら、戦没者は国策のために戦ったとは言え、侵略戦争の加担者という位置づけを加えるなければならないことになって、当然、侵略戦争の被害者を常に対置した参拝とならなければならないはずだ。
だが、国会議員が雁首を揃えた「お国のために尊い命を捧げた」の顕彰は日本の国だけ、日本の戦没者だけを考えた参拝であって、当然、そこには日本の戦争が侵略戦争だったという意識はなく、「かつてアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」をウソとし、侵略戦争の被害者をそこに置かない独善的な一国主義的参拝でしかないと言える。
高市はまた東京大空襲や原爆投下を持ち出して、さもアメリカの戦争を悪とし、それとの比較で日本の戦争を相対化しようと無理矢理なこじつけを働かせているが、戦争を仕掛けたのはアメリカなのか日本なのか無視している矛盾に気づいていない。
以前ブログに取り上げたが、内閣総理大臣直轄の研究所として組織された総力戦研究所が昭和16年8月27、28日に首相官邸で報告した日米戦争を想定した第1回総力戦机上演習(シミュレーション)を、戦争に最も重要な燃料の自給度を含めた日米国力比較・戦力比較等の様々なデーターとソ連参戦等の予測可能性を駆使して行った結果、日米開戦前の時点で“日本必敗”の予測結果を出していたのである。
だが、当時陸将だった東条英機が自ら勝算を判断することができず、科学分析的な予測結果を無視、日露戦争の戦勝を持ち出して精神論を振りかざし、約5カ月後の昭昭和16年(1941年)12月8日、ハワイ・オアフ島の真珠湾へと攻撃を仕掛けて、太平洋戦争に突入していった。
その結果の東京大空襲であり、原爆投下であった。原爆投下は天皇制維持=国体維持に拘ってポツダム宣言を無視した結果も加わっている。原因と結果を全く考えない、お門違いな言いがかりでしかない高市の東京大空襲であり、原爆投下に過ぎない。
司会者は内心辟易していたのだろう、その発言を途中で遮った気持ちが分かる。
高市は>「オランダに対して、イギリスに対して、えー、アメリカに対してですね、それぞれ当時の国際条約に基づいて、まあ、残念ながら植民地となった国々がですね、それぞれの慰霊施設にその国の方々がお参りをすることについて文句を言うかどうかっていう話なんですよ、靖国の問題と――」と訳の分からにことを言っているが、日本の侵略戦争否定論者はオランダやイギリス、アメリカの植民地を持ち出して、日本の植民地戦争を否定しようと企むが、侵略を受けた国と場合の関係はそれぞれに異なるのだから、個別に取り扱うべきを全体の問題として自国問題を相対化する自己正当化を謀って、日本の戦争を侵略戦ではないとしようとするゴマ化しを働かせているに過ぎない。
高市が言っている「例えば日韓併合条約とか日支間条約などに基づいてであってもですね、やはりそのー、支配を受けた、植民地とされた方々の国がですね、本当に民族の誇りを傷つけ、また大変な苦難を与えた、被害を与えた。これは、あの確かなことだと思います」は、「日韓併合条約とか日支間条約などに基づいて」いるとしている点で、正当化を前提とした否定の文脈となり、安倍晋三の「侵略という定義は国際的にも定まっていない」との発言で日本の戦争を侵略戦争ではないとの正当化を前提として「かつてアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」の戦争否定と同じく、正当化を前提としている以上、批判を受けないための単なる口先の体裁に過ぎないと言うことができる。
「国策を誤り、村山談話の中に国策を誤りと、ありますけれども、それでは当時ですね、資源封鎖もされて、その中で全く抵抗もせずに植民、日本が植民地となる道を選ぶのがベストだったのかどうなのか、当時の国際状況の中で何が正しかったかということを自信を持って主張できる政治家など、あの、今の日本にはいないと思います」云々。
間接的な村山談話否定論となっている。
アメリカが日本に対して在米日本資産の凍結、石油の全面禁輸等の経済制裁を発動をしたのは昭和16年7月28日の日本軍のベトナム進駐を受けた、いわば日本の自己選択の結果論であって、それをアメリカが勝手に選択した不当な資源封鎖であるかのようにこじつけるゴマ化しを行なっている。
「日本が植民地となる道を選ぶのがベストだったのかどうなのか」などと大袈裟なことを言っているが、米を中心とした連合軍は戦後日本に進駐して、日本を植民地とはしなかった。
ソ連が日本の東半分を占領した場合、その衛星国とされた可能性は否定できない。何しろ全体主義国家だったからだ。
『小倉庫次侍従日記・昭和天皇戦時下の肉声』(文藝春秋・07年4月特別号)には半藤一利氏(昭和史研究家・作家)の解説として、アメリカの石油禁輸を受けたときの軍将校の発言が記されている。
軍務局長岡敬純少将「しまった。そこまでやるとは思わなかった。石油をとめられては戦争あるのみだ」
アメリカの石油禁輸を想定外としていた。日本は南洋の石油資源を求めて、勝てる見込みのない戦争をアメリカに仕掛けた。
総力戦研究所の昭和16年8月27、28日の首相官邸での報告を待つまでもなく、日本軍自らがアメリカと戦争をした場合の勝算をシュミレーションしていなかったのだろうか。
高市早苗は「侵略の定義についても、例えばケロッグ・ブリアン条約、まあ、これもケロッグ・ブリアン長官が当時ですね、えー、侵略戦争なのか、自衛戦争なのか、それをそれぞれの国が自己決定権を持つという形で留保されてますよね」と言って、間接的に日本の侵略戦争を否定しているが、日本も加わった1928年(昭和3年)8月27日締結の条約だそうだが、「Wikipedia」には「当時の世界中の学者から、事実上の空文と評されていた」と書いてある。
「侵略戦争なのか、自衛戦争なのか、それをそれぞれの国が自己決定権を持つ」として、相手国を抜いていること自体が既に矛盾を孕んでいるのであって、そのことを認識せずに現在も振り回すこと自体、合理的認識性を欠いた自己都合の発言でしかない。
もし北朝鮮が韓国に通告もなく軍を進めたとしても、北朝鮮が「これは戦略戦争ではない、自衛戦争だ。侵略戦争なのか、自衛戦争なのか、それぞれの国が自己決定権を持つ」と言うことができ、それを許さなければならないことになる。
高市早苗は一つの情報をその情報の範囲内だけでしか考えることができない、全体の状況にまで反映させて考える認識能力を欠いている。この点でも、安倍晋三とベッドを共にしていると言うことができる。
NHK福井局スタジオから出演した高市早苗は「日曜討論」で村山談話間接否定を行なっているが、その福井市で記者団に村山談話の見直しを発言している。
《高市氏 「村山談話の文言変更検討を」》(NHK NEWS WEB/2013年5月12日 14時5分)
高市早苗「『アジアの国々に対して、多大な損害と苦痛を与えた』という点は、安倍内閣が踏襲することになっている。ただ、当時は経済を断交されて日本の生存が危うく、自存自衛が国家意志だと思い、多くの人が戦争に行った。私自身は、『侵略』という文言を入れている村山談話にしっくりきていない。
戦後70年で安倍内閣が続いていれば、『安倍談話』が出るだろう。戦争で損害を受けた国や苦痛を受けた国に対する申し訳ないという思いはきっちりと表現されるが、村山談話とは、またちょっと表現が違うものになると思う」
国家主義的心理性で安倍晋三とベッドを共にしている高市早苗である。この村山談話否定論は安倍晋三も共にしている否定論であるはずだ。
相変わらず日本自身が自ら招いた経済断行であり、危うくなった日本の生存であったことを考えることができない。「自存自衛が国家意志だと思い、多くの人が戦争に行った」としても、だからと言って、その戦争を常に正しいと合理化することはできない。
このような論理を許すとすると、北朝鮮の戦争も常に正しい戦争ということになる。
高市早苗は合理的精神を欠いているからこそ、物事を全体的に把握し、論理的に判断することが不可能となっている。
沖縄県尖閣諸島周辺海域対象の民間協定の体裁を取った日本政府と台湾政府間の「日台民間漁業取り決め」(日台漁業協定)が4月10日台北で締結、5月10日に発効した。 《林農林水産大臣記者会見概要》(平成25年5月10日)
この協定は尖閣諸島の領有権問題が絡んで操業水域などを巡る双方の意見の隔たりが埋まらず、4年前から中断していが、去年11月から交渉再開して締結に至ったものだそうだ。
漁業区域は日本の排他的経済水域の中に双方が相手側漁船に対し漁業関連法令を適用せず取締りを行わない「法令適用除外水域」と法令の適用除外とはしないものの、双方の操業を最大限尊重するなどとした「特別協力水域」の2つの水域を設けているという。
よく分からないのは、30日後の5月10日協定発効の取り決めを含めて日台漁業協定を4月10に締結していながら、「日台漁業委員会」なる第1回会合が5月7日台北で開催され、具体的な操業ルールの取り決めを議論したことである。常識的な順序、もしくは常識的な手続きから言ったなら、具体的な操業ルールを取り決めた上でそのルールをも協定に盛り込み、締結に至ると思うのだが、安倍内閣の方式ではその逆らしい。
しかも4月10日の協定締結から27日も経過し、協定発効が5月10日と3日後に迫る5月7日に操業ルールを取り決める第1回会合を開いたというのだから、益々分からなくなる。
こういったことが安倍内閣の常識なのかもしれない。
もう一つ分からないことは「日台漁業委員会」第1回会合で台湾側が調印した4月10日以降、既に水域内で操業していることを明らかにしたということである。
まさに5月10日発効の協定違反に当たるはずだが、日本側はそのことを把握していなかったのだろうか。協定がまだ発効していない、具体的な操業ルールをまだ取り決めていないうちの台湾側の操業である。
第1回会合では操業ルールは合意に至らず、台湾側が協定発効前にも関わらず自分たちのルールで操業を続けるという異様な形で5月10日の協定発効日を迎えた。
5月10日発効日の農水相の記者会見を農水省HPに記載されている。
記者「日台漁業協定について2点お伺いします。
今日から、もう協定発効なんですが、現時点で、その対象海域に日本、台湾、それぞれの漁船がどのぐらい操業しているのか、あるいは、トラブルの報告があるのか、もしも把握されていたら教えてください」
林農水相「まだ、あの、そういう報告等受けておりませんので、具体的には把握をしている段階ではございません。
記者「あと、もう1点なんですけども、協定の発効日につきまして、台湾側は4月10日の取決め締結の日からという理解で、もう既に操業が始まって、昨日までに、もう既に操業が始まっているという状況、沖縄の漁民の方から報告が出てるんですけども、これは日台で認識に差があるんですけども、どういうことなんでしょうか」
取決めの協議の段階で詰めきれなかったということなんでしょうか。
林農水相「あの、我々の理解は今日から法令適用除外水域において法令が適用されないとこういうことでやってまいりましたので、我々の法令適用除外水域はですね、今日から適用されないということになるということであります」
記者「それは、もう、相互に解釈が違うということなんですか」
林農水相「あの、『そういう取決めをした』とこちらは、あの、考えておりましたので、先方がどういう解釈であられるのかということと、それがどういうふうに、まあ、報道されているのかということはですね、しっかりと報道を精査するなり、相手方に確認をするなりしていきたいとこういうふうに思います」
記者「わかりました」
台湾側は協定締結の4月10日以降操業を開始し、5月7日の「日台漁業委員会」第1回会合でそのことを明らかにした。いや、明らかにしなくても、5月10日以前の違法操業がないか海上保安庁の巡視船が監視するのが当然の危機管理だと思うが、そういった監視もせず、記者が台湾側の違法操業を問題にしたにも関わらず、林農水相は5月10日の「今日から法令適用除外水域において法令が適用されないとこういうことでやってまいりました」から、「我々の法令適用除外水域はですね、今日から適用されないということになるということであります」と言って、規則はこうなっていますと既に分かり切った当たり前のことを言い、台湾側の操業については「報道を精査するなり、相手方に確認をするなりしていきたいとこういうふうに思います」と、違法操業に何ら備えていなかった危機管理不備を自ら暴露している。
単に備えていなかったというだけで責任問題が生じるが、5月7日の「日台漁業委員会」第1回会合で台湾側が4月10日以降操業していることを明らかにしたということが事実なら、見て見ぬ振りをしていたことになる。
沖縄県は件の水域で台湾側の操業を認めないようにと昨年11月から3回にわたり国に要請してきたと「時事ドットコム」記事が伝えている。
仲井真沖縄県知事は日台漁業協定が締結された4月10日に協定を批判するコメントを発表した。
仲井真知事(コメント)「沖縄県からの要望が全く反映されておらず、台湾側に譲歩した内容で極めて遺憾。合意により漁場競合の激化や好漁場の縮小は避けられない。国に対して強く抗議する」(時事ドットコム)
対して5月11日午前の菅官房長官の記者会見。
菅官房長官、「今後、関係漁業者の意見を十分に聴いて影響を把握し、必要な対策をしっかり講じていきたい。漁獲高が減るなどの影響が出た場合は政府として責任を持って対応する」(時事ドットコム)
外国の漁船が入ってきて、日台双方で操業漁船数が増えれば、一般的には漁獲高減は想定しなければならない危機管理であるはずである。
また、台湾漁船が20~50トンと大きく、船員が6人相当、日本船は殆どが1人か2人だと「asahi.com」が伝えている漁船状況も日本側が把握していなければならない情報であって、双方の漁獲能力の趨勢からすると、菅官房長官は日本側に不利な漁獲高減となって現れる確率を十分に想定しなければならなかったはずだ。
にも関わらず、菅官房長官は「漁獲高が減るなどの影響が出た場合は」と、現時点では想定外のこととし、将来的な可能性の範囲内の想定としている。
この手の認識性は現時点で集め得る限りの情報を集めて分析し、前以て不備回避の体制を敷いて備える危機管理に必須の先見性の欠如を示しているはずだ。
この先見性の欠如は林農水相についても言える。
安倍政権が日台漁業協定を締結した背景を次の記事が伝えている。《尖閣で中台共闘を懸念、合意急ぐ…日台漁業協定》(YOMIURI ONLINE/2013年4月11日07時22分)
記事は、〈日中間では2000年に漁業協定が発効したのに対し、日台間は1996年以来計16回の漁業協議が決裂の繰り返しで、「無秩序状態」(外務省幹部)が続いた。尖閣周辺水域を「伝統的な漁場」とみなす台湾漁業者の要求水準が高く、日本がのめなかった〉からだが、〈昨年9月の尖閣国有化に反発した台湾漁船団が巡視船を伴って日本の領海に侵入し、中台が「共闘」する姿勢も見られ、親日的な台湾を中国側に追いやる恐れが高まったことで〉、安倍晋三が昨年12月、漁業協定の合意を急ぐよう関係省庁に指示したという。
但し、〈水産庁が沖縄の漁業には打撃になりかねない譲歩案に難色を示〉すと、〈沖縄県の漁業者の懸念にも関わらず、首相官邸主導で日本側が譲歩し〉、さすが安倍晋三である、〈首相官邸が押し切って〉、締結の運びとなったと解説している。
理由は4月からマグロ漁などが本格化するためで、台湾漁船との衝突を避ける必要上からだとしている。
要するに安倍晋三は沖縄県に不利となる漁業協定だと知っていた。知っていながら、安倍晋三は沖縄県側の不利益を無視して、「中台尖閣共闘」回避を日本の国益としたことを意味する。
この構図は普天間移設に続くものとなる。
もし安倍晋三が小賢しくも沖縄県の利益よりも、「中台尖閣共闘」回避を日本の国益としたなら、そのことの説明責任を負ったことになるはずだ。
だが、何の説明もない。
さらに言うと、沖縄側の利益を犠牲にして台湾側に有利となる漁業協定をエサとして与えて「中台尖閣共闘」回避が成功したとしても、中国の尖閣領有権干渉を阻止する成算を持っているのだろうか。
中国監視船の尖閣諸島接続海域の航行や日本領海への侵犯は収まっていない。大体が中国が将来的な「中台尖閣共闘」の可能性がなくなったとしても、尖閣領有を諦めるとでも胸算用しているのだろうか。
馬台湾総統自体が尖閣領有権主張を引っ込めるつもりはないと日台漁業協定締結4月10日翌日の4月11日に発言している。
馬台湾総統「今回は島の領有権には踏み込まなかったが、今後、議論をしていきたい」(NHK NEWS WEB)
領有権を獲得できたなら、日本側主導の日台漁業協定は必要なくなる。「法令適用除外水域」だろうと「特別協力水域」だろうと、計算上はすべての水域が台湾の領有となる。
一応の漁業権を得て台湾の存在をそこに打ち立てつつ、尖閣諸島の領有権を主張していくという二本立ての策も可能である。例え区域外の操業を行なって拿捕されたとしても、「元々は台湾の領海だ」と主張する漁船も現れるに違いない。
当然、「中台尖閣共闘」回避も怪しくなる。
具体的な操業ルールを協定締結前に取り決めなかった失態、協定発効前に台湾漁船の操業を見逃していた、あるいは無視していた失態、日本側漁船の出漁環境の整備を怠った失態。危機管理欠如からの幾つもの失態を犯している。
菅官房長官と林農水相の危機管理上の先見性の欠如に安倍晋三を一枚加えなければならないことになる。日台漁業協定に関して言うと、安倍晋三を親分とした三バカ大将といったところか