昨日(2018年9月14日)の当ブログでも、プーチン提案を「平和条約締結に対する意欲の表れ」とする認識は国民騙しの発言だと批判したが、昨日の9月14日に日本記者クラブで行われた自民総裁選立候補討論会でも同じような発言をしていることをマスコミ報道によって知ったから、具体的にどのような発言をしたのか、その詳報を伝えている以下の記事から、その箇所を取り上げてみた。安倍晋三らしい誤魔化しに満ちた詭弁そのものの発言となっている。
「産経ニュース」 記者「続いて外交について伺う。ロシアのプーチン大統領が無条件で平和条約を結ぼうとおっしゃったのには驚いた。要するに領土問題を確定して平和条約を結ぼうという日本政府の考え方を、プーチン氏は理解していなかったのかと…。22回お会いになって、2人きりで何時間もお会いになってっているのに共通認識すらなかったのかな、と大変驚きました。どうやって立て直していかれるおつもりか」 安倍晋三「結構、専門家は違う考え方を持っている人が多いんですよ。日露関係をずっとやってこられた方はずっと見てきて、私もですね、日露交渉を始めるに当たって、1955年に松本(俊一元全権)さんが(旧ソ連のヤコブ・)マリク(元全権)と交渉を始めますね。その後、ずっと会談記録、秘密交渉の部門についても読んできた。これは殆ど表に出てきていません。その上でずっと会談を行ってきました。様々なことを話しています。 そこでプーチン大統領が述べたことを、様々な言葉からサインを受け取らなければならないんだろうと思います。一つはとにかく平和条約ちゃんとやろうと言ったことは事実です。勿論、日本の立場は領土問題を解決をして平和条約を締結する。これはもうその立場ですし、それについては、あの発言の前も後もちゃんと私は述べていますし、プーチン大統領からの反応もあります。でもそれは今、私申し上げることはできません。交渉の最中ですから。 私は、プーチン大統領の平和条約を結んでいくという真摯(しんし)な決意を、長門会談の後の記者会見で表明しています。つまり平和条約が必要だということについての意欲は示されたのは間違いないんだろうと思います。そこで申し上げることができるのは、今年の11月、12月の首脳会談、これは重要な首脳会談になっていくと思っています。 記者「安倍首相は『自らの時代に何とかする』ということを言ってきていて、非常に期待を持たせている、国民に対して。それが非常に無責任に聞こえてしまう。あなたの期間中に何とかしないといけないという言い方があまりに前のめりではないかと思う」 安倍晋三「それでは私の時代にはできませんと言った方がいいですか。それは、いわばこういう問題はどうするか。今までのあれを見てきました。例えば河野一郎(元農相)が乗り込んでいって、私の責任であると。鳩山(一郎元首相)さんも私の時代にやると言ったから前に進んでいくんですよ。 私の時代ではなくて、代を継いでやっていきますよと言ったらできません。なぜかということを申し上げましょうか。それは今、北方四島は残念ながらロシア人しか住んでいない。実効的に、彼らがそこを支配をしているという状況があります。この状況を、彼らはこれを変えるというインセンティブを与えるのは相当難しい。ですから私が意欲を見せない限り動かないんですよ。今まで一ミリも動いていなかったじゃないですか。 だから今回は長門会談によって共同経済活動を、スムーズにはいってませんが、ウニなどについて合意しました。あそこに日本人が、日本の法的立場を害さない形で行って作業する、(北方)四島で。初めてのことですよ。そして(北方)四島の元島民も今まで飛行機で行けなかった、墓参が。それが2年連続でできています。 そういうところも出てきたというのは、私があなたとやろうということを示しているから、これは前に進んでるんであって、斜に構えて、そう簡単じゃないよと私は言い続けたんであれば、これは一ミリも進まないどころか、後退していくというのが、私がプーチン大統領とずっと会談してきた結果です。 かつてソ連時代には私の父(安倍晋太郎氏)も外務大臣をやっていました。外相会談をやることすらとても難しかった。首脳会談だってできなかった。やっとこれだけ頻繁にですね、頻繁に首脳会談ができるようになったというのは、やはり今の時代になって、私とプーチン大統領が共に平和条約を私たちの手でやろうということを話しているからです。 これは別に期待感を持たせる、高い期待感を上げていくというので、できなかったときは政治的にダメージが大きいですから、むしろなるべくそうではないことを言いたいんです。でもそれを言わなければ、これは進んでいかないから、私だってある種リスクを取ってですね、それを申し上げているわけであって、それをそういうふうに誤解されると私も大変つらいところがあるわけです」 |
記者は「要するに領土問題を確定して平和条約を結ぼうという日本政府の考え方を、プーチン氏は理解していなかったのかと…」と尋ねているが、十分に理解していないはずはない。安倍晋三に対して領土返還に応じるつもりはない意思表示をかねがね見せているに関わらず(この意思表示はプーチンが2016年12月15、16日の長門と東京での安倍晋三との首脳会談後の共同記者会見で、日露和親条約から第2次世界大戦集結までの歴史を紐解き、1905年の日露戦争から「40年後の1945年の戦争の後にソ連はサハリンを取り戻しただけでなく、南クリル諸島も手に入れることができました」との物言いで北方四島は第2次大戦の結果ロシア領となったと示唆しているところに最も直接的且つ象徴的に現れている。)、安倍晋三が気づかずに平和条約締結への進展に繰返し言及するから、多分業を煮やしたのだろう、ロシアの国益に適う形で、「じゃあ、年内に先ず平和条約を結ぼうではないか」と提案したはずだ。
安倍晋三は記者の質問に対して「日露交渉を始めるに当たって、1955年に松本(俊一元全権)さんが(旧ソ連のヤコブ・)マリク(元全権)と交渉を始めますね。その後、ずっと会談記録、秘密交渉の部門についても読んできた。これは殆ど表に出てきていません。その上でずっと会談を行ってき」て、プーチンに「様々なことを話しています」と発言しているが、現状でのその結論が領土の帰属問題を解決して平和条約締結へと持っていくという日本側の国益に添う進展はゼロで、ロシアの国益を満たすだけのプーチンの領土問題先送り・年内平和条約締結の提案なのだから、自身の発言を体裁良く見せる、中味は何もない詭弁にも等しい戯言に過ぎない。
安倍晋三は次いでプーチンが提案で述べた「様々な言葉からサインを受け取らなければならないんだろうと思います。一つはとにかく平和条約ちゃんとやろうと言ったことは事実です」と、平和条約締結を促す「サイン」――意思表示だったと自らの解釈を示している。
続けて、「勿論、日本の立場は領土問題を解決をして平和条約を締結する」行程表に則っていることを改めて表明している。このような自らの国益とする日本側の行程表に対してプーチンは「今思いついた。まず平和条約を締結しよう。今すぐにとは言わないが、ことしの年末までに。いかなる前提条件も付けずに」との発言で年末という期限を切って領土問題抜きに平和条約締結を迫り、そのことを以ってロシア側の国益にしようとした。
いわばプーチンは日ロ双方の国益に折り合いを付ける形ではなく、日本側が国益とする行程表とは真っ向から反するロシア側が国益とする行程表を一方的に提示することで国益の着地点が日本側とは異なるところに狙いをつけているのだから、お互いが成果とする「平和条約」自体も異なる姿を取るだけではなく、「一つはとにかく平和条約ちゃんとやろうと言ったことは事実です」の「ちゃんとやろう」と解釈した確実性にしても日ロ双方の思惑の違いを受けて異なる「ちゃんとやろう」ということになり、これらをごちゃ混ぜに「事実です」と言うこと自体、裏側にある双方が狙いをつけている国益の違いに対応した日ロ双方の利害が一致しない「事実」となる。
にも関わらず、プーチンの提案を日ロ双方が一致する思惑に立った平和条約締結に向けた「サイン」――意思表示であるかのように「事実です」と言っているのだから、国民を欺く詭弁以外の何ものでもない。
安倍晋三はプーチン提案を平和条約締結に向けた「サイン」――意思表示であるとする自らの解釈を更に補強する。「私は、プーチン大統領の平和条約を結んでいくという真摯(しんし)な決意を、長門会談の後の記者会見で表明しています。つまり平和条約が必要だということについての意欲は示されたのは間違いないんだろうと思います。そこで申し上げることができるのは、今年の11月、12月の首脳会談、これは重要な首脳会談になっていくと思っています」
プーチンが2018年9月12日の東方経済フォーラム2018全体会合で平和条約に関する新たな提案を行った以上、2日前の9月10日のプーチンとの22回目となる首脳会談までの北方四島と平和条約に関係する議論は反故にされたも同然となるのだから、安倍晋三だろうとプーチンだろうと、「長門会談の後の記者会見」で「平和条約を結んでいくという真摯(しんし)な決意」をどう表明しようと、過去の話となって有効性を失うだけではなく、この記者会見でプーチンが歴史を紐解いて第2次世界大戦の結果、ロシア領となったといった趣旨の発言をしたことに対しても目をつぶって、日本側に都合のいい話だけをしていることも詭弁のうちに入る。
当然、「平和条約が必要だということについての意欲は示されたのは間違いないんだろうと思います」にしても、着地点が異なるプーチンの平和条約締結への意欲であることを無視していることになって、日本側に都合いい詭弁の類いに加えなければならない。
安倍晋三は誤魔化すという点では頭の回転が早く、事実を見ない、自分に都合がいいだけの言葉を次々と紡ぎ出す能力に長けているが、仔細に点検すると、詭弁で成り立たせた発言であることが見えてくる。
記者の「安倍首相は『自らの時代に何とかする』ということを言ってきていて、非常に期待を持たせている、国民に対して。それが非常に無責任に聞こえてしまう。あなたの期間中に何とかしないといけないという言い方があまりに前のめりではないかと思う」との批判的な質問に安倍晋三は「それでは私の時代にはできませんと言った方がいいですか」と言い返し、さらに「私が意欲を見せない限り動かないんですよ。今まで一ミリも動いていなかったじゃないですか」と答えている。
「自らの時代に何とかする」は自らの責任を確約したことに当たり、そうである以上、確約を実現する重大な責任を負ったことになる。対して「私の時代にはできません」は国民から見たら誰もが認めることはできない責任放棄に当たり、何ら動かないことを指す。一国の首相の責任の履行という点で、後者の行動は選択肢を持たないことになる。にも関わらず、選択肢の一つに入れ、両者を比較させて後者の責任放棄を以って自身の前者の行動の正当化に使う。
狡猾なまでの言いくるめの議論――詭弁そのものである。詭弁を駆使するにかくまでも頭の回転が早い。一国の首相が使う詭弁の対象となるのは最終的には国民であり、その用途は国民を騙すこと以外にない。国民を騙して、自身の外交能力がさも優秀であるかのように装う。そのための詭弁の駆使である。
「私が意欲を見せない限り動かないんですよ。今まで一ミリも動いていなかったじゃないですか」との物言いで安倍晋三以前は「一ミリも動いていなかった」事態が自らの意欲によって「一ミリ」でも動いているかのように言っていることも、言いくるめの議論――詭弁に過ぎない。プーチンの提案によって、日本側が基本的立場としていた北方四島の帰属問題を解決して平和条約締結に持っていく肝心要の行程表が「一ミリも動いていなかった」ことになるからである。
共同経済活動は平和条約締結に持っていくための手段としている側面をも抱えているのに対してロシア側は北方四島を自国領として譲らない姿勢のだから、共同経済活動が前進したからと言って、平和条約締結の側面援助の役を果たす保証はないし、プーチンの提案自体が日本の基本的立場をブチ壊す体裁を取っている以上、平和条約締結に関わりのない場所で共同経済活動だけが前進する可能性は否定できない。
安倍晋三は「あそこに日本人が、日本の法的立場を害さない形で行って作業する、(北方)四島で。初めてのことですよ」と言っているが、「日本の法的立場を害さない形」はプーチンの提案自体が阻害要件となって立ちはだかることになり、その体裁が整わないままに共同経済活動だけが進展する可能性も否定できない。
尤もそのような進展こそがプーチンが望む可能性であることは、これまでのロシア側の態度のみならず、プーチンの今回の提案そのものが証明することになる。
どこからどう見ようと、誰かがああ言えば、巧妙にこう言う式で成り立たせたプーチンの提案に対する安倍晋三の詭弁の連発となっている。以上見てきたように平和条約の必要性が日ロとでは異なる以上、決して言い換えることはできないにも関わらず、「平和条約が必要だという意欲が示されたことは間違いない」と言い換える国民騙しの詭弁はもうやめるべきだろう。プーチンにとって平和条約締結は日本から贈られてくる経済的果実を確かなものにするための方便に過ぎない。