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戦車とは 欧州通常戦力削減条約にみる戦車の定義

2007-12-15 00:01:39 | 国際・政治

■第一回:戦車の定義

 戦車の定義とは何か、戦う車である、って答えると軽装甲機動車や機銃搭載の四輪駆動車、果ては西部警察のマシンXもその定義に含まれてしまう。今回は、兵器の定義について、記載してみたい。

Img_0214  江畑謙介氏の著書「兵器の常識非常識 陸軍・海軍兵器編」(並木書房 1998)では、防御力、攻撃力、衝撃行動力の三要素を備えている戦闘車輌を「戦車」と呼ぶ、と定義している。しかし、回転砲塔を搭載し、装輪式で90㍉以上の火砲を搭載しているフランスのAMX-10RCやブラジルのEE-9などは偵察用装甲車にあたり、戦車には分類されない、と記載されている(P19~P21)。不整地機動性が低く、重量が軽い為その分装甲が薄く、重量が軽い為、大口径砲を搭載していても高初速の砲弾から生じる衝撃を吸収できないため、と書いている。

Img_8549  たしかに、87式偵察警戒車のようなもの、若しくはこれに大型火砲を搭載しても戦車と呼ぶには差し支えあるが、しかし、イタリアのチェンタウロ戦車駆逐車は重量が25㌧あり、最新型のチェンタウロ120は、OTOメララ社製45口径120㍉砲を運用可能であり、砲塔電動駆動装置に対応可能な範囲内での増加装甲装着により35~40㍉APFSDS弾への防御力を得られるという。また、南アフリカが開発した装輪装甲車ロイカットは、76㍉砲を搭載し、重量は28㌧。T-62主力戦車に充分対応できるとメーカーは説明している。

Img_0410_1  戦車の定義を明確にしなければ、例えば軍縮条約を締結する際にも、限りなく戦車に近い装甲車、というものが出てくる可能性がある。事実、1925年のワシントン海軍軍縮条約では、主力艦の軍備規制を明記したものの、主力艦に準じる補助艦が大量に建造されてしまい、急ぎロンドン軍縮会議を開くこととなった。

Img_0862  ここで参考と成りうるのは1990年の欧州通常戦力削減条約に記された定義である。いわゆるCFE条約であるが、これは戦車、装甲戦闘車両、火砲、戦闘用航空機および戦闘用ヘリコプターに関する保有上限を定めており、条約の抜け道を無くす為に、明確に各種兵器の定義がCFE条約第2条C項に記されている。

Img_6910  CFE条約の定義では、以下の通り。戦車とは自走装甲戦闘車両であって、装甲その他の目標の攻撃に必要な高初速度直接照準主砲を主とする重火力能力を有し、路外機動性に優れ、自己防衛能力が高く、主として兵員の輸送用に設計されていないものをいう。この種の装甲車は、地上軍戦車その他機甲部隊の主要な兵器システムとして使用される。

Img_2073  戦車は、装軌式装甲戦闘車両で、空車重量が16.5㍍以上で、口径75㍉以上の360°旋回砲を装備する。この他、就役することのある装輪式装甲戦闘車両で、右の他の全ての基準を満たすものも戦車とみなされる。と定義されている。また、空車重量については、条約では弾薬・燃料・油脂・潤滑油・取り外し可能なリアクティヴアーマー、予備部品・工具・付属品、取り外し可能なシュノーケル装置、及び、乗員とその装具を除いた重量をいう。としている。

Img_1651  こうして定義すると、例えば旋回砲塔を有していないスウェーデンのStrv103戦車はこの範疇に含まれるのか、とか、装甲戦闘車を基本としているとはいえ、105㍉砲を搭載するCV-90-105を、装甲車としてM-113などと同列に扱うのは如何なものか、などなど幾つかの疑問が自然と出てくる。

 次回は装甲車の定義について、記載し、本論の補完としたい。

HARUNA

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