◆新田原航空祭、午前中の飛行展示が完了!
ファントムの近接航空支援展示は中々の迫力です、双発のJ-79エンジンとヴェトナムや中東で暴れたファントムの威容が今なお威圧感を与える。
航空自衛隊へは要撃機として導入されたファントムは、もともと空母艦載機として開発され、空軍へは戦闘爆撃機としての運用が念頭にアメリカで開発されたもので、爆弾架の数では近接航空支援と対艦攻撃を念頭に開発され今は除籍されているF-1支援戦闘機よりも大きく、搭載量も大きくなっています。
戦闘爆撃機としての獰猛さを一番前に押し出す飛行展示が近接航空支援展示即ちこれです、500ポンド爆弾ならば最大24発を搭載可能で、離陸した全ての機体が次々と急上昇し高高度から切り返して地上の一点へ向け急降下する様子は優美ともいえるものでした。
ただ、近接航空支援は陸上部隊から二日前までの目標の明示が必要だ、とのことです。これを聞いたのは数年前の話ですが、それなりの立場の方からの御話しでしたので、激しく前線が流動する現代戦にしては、二日前までに位置を要請というのは少々厳しいというか、現実離れしているなあ、と。
ファントムが次々と着陸を開始しました。非常に大きな迫力と共に飛行展示でしたが、岩国航空基地で展示されたホーネットの近接航空支援展示、これは殺される、というような鬼気迫るものは、正直在りませんでした。カメラマンの視点から見上げた場合、の話ですが。
米海兵隊のホーネットと比較した場合は、低空からの地形偵察から始まり、前線航空統制員の支援下で実施されました。まず海兵隊が砲兵火力ではなく航空打撃力に依存している部分が大きいという日本との違いもあるのですが、迅速性が求められたゆえの洗練というものがあるのですけれども。
航空自衛隊の場合、前線航空統制員、つまり航空自衛隊の要員が地上部隊に随伴して、的確に地上への航空打撃を航空管制し、地形への接近と攻撃を支持する、前線航空統制員という要員が各国と比較し、徹底的に不足し質としても十分ではない、というものが近接航空支援への問題になっているのではないか、と考えます。
近接航空支援は失敗すれば友軍が多数犠牲となります、近接とは彼我地上部隊の近接ですので、誘導に失敗すれば味方部隊の上に物凄い数の500ポンド爆弾の雨を降らせることとなります。だからこそ、航空統制を行うわけなのですけれども、二日前に敵の位置を予測できる指揮官が居れば、そもそも日本に敵を上陸させません。
NATOでは前線航空統制員養成に訓練課程を標準化して実施しており、前線航空統制員は第一次課程として12単位の修了を以て養成課程員へ限定戦闘可能認定を付与、共通課程に加えて各国で独自の後期課程を経て実戦可能認定を付与するとともに、認定は半年ごと6回の実飛行統制訓練を行う条件で更新されます。
前線航空統制員はレーザー測距装置とGPS端末により目標を正確に測量すると共に、レーザー照射装置により誘導爆弾や航空機搭乗員への目標通知を行い、マルチバンド通信機を操作し、上級司令部や実際に航空支援を行う攻撃機操縦士との通信も行い、攻撃を正確に実施、失敗して誤爆を防ぐ。
こうした前線航空統制員を要請するNATOですが、要員は各旅団に最低でも一個以上の前線航空統制班を配置しているのですが、不十分とする声もあり、例えばイギリス軍ではAH-64D戦闘ヘリコプターの搭乗員や機械化歩兵大隊本部のウォリアー装甲戦闘車へ前線航空統制員に準じる統制員を配置する計画が進められ、アフガニスタンでも活躍しているとのこと。
航空自衛隊を見ますと、まず術科学校に近接航空支援の前線航空統制員を養成する課程があるのか、と気になります。ただ、少なくともいえるのはNATO加盟国にあるような近接航空支援要員専門学校が自衛隊に置かれていないことは確かでして、正直なところこれで大丈夫なのか。
陸上自衛隊は現在米海兵隊と共に様々な訓練を行っていますが、自衛隊の師団と旅団数と同程度の15個班以上の前線航空統制班を配置できる程度の派米留学制度や、米軍の射爆場を利用し、十分な対地任務としての近接航空支援を実施できる水準の必要性を、予算面や制度面で考えてほしいですね。迫力ある展示だけに、展示倒れにならないよう、期待しています。
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