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尖閣諸島防衛への一視点⑬ 第15旅団の増強と八重山列島への防衛を再考する

2013-03-16 23:17:00 | 防衛・安全保障

◆尖閣諸島の後ろ盾へ及ぶ脅威の可能性

 本掲載は十三回を迎えましたが、尖閣諸島の防衛と共に八重山列島の防衛を、改めて考えてみましょう。

Dimg_0554 尖閣諸島と八重山列島は西部方面隊の第15旅団管区にあり、第15旅団は司令部を那覇駐屯地とし、2100名を以て沖縄県全域の防衛警備及び災害派遣にあたっています。しかし、南西諸島防衛の任務を考える場合、第15旅団の部隊規模や能力は少々不十分と言わざるを得ないところがあります。

Dimg_0952 第15旅団は、第51普通科連隊、第6高射特科群、第15偵察隊、第15施設中隊、第15通信隊、第15特殊武器防護隊、第15後方支援隊を基幹としている部隊で、離島であるため航続距離の大きなUH-60JAやCH-47JAといったヘリコプターを運用し、方面隊直轄で運用されることが多い戦域防空ミサイルを旅団が方面隊から独立し運用しているのが特色です。

Simg_3811 しかし、第15旅団は沖縄本島以外に部隊を置いていません。これは我が国を構成する島嶼は6800に達し、陸上自衛隊では島嶼部防衛に際し、全ての島々に守備隊を置く方針は取らず、機動運用により奪還を基本とする防衛体制を構築してまいりました、何故ならば6800の島々に各一個小隊を配置した場合、全陸上自衛隊の二倍の定員が必要になってしまうためです。

Simg_3756 ただ、尖閣諸島のような部隊が小隊規模であっても陣地構築が難しい狭隘離島と、有人の離島は分けて考えられなければならないといえます。そういいますのも、有人島は一旦奪取されれば、奪還に際し、航空打撃や揚陸等に際し、必ず民生被害が付随するためで、これは避けなければなりません。

Simg_2664 この点で、尖閣諸島にほど近い八重山列島は人口も少なくなく、この離島を如何に防衛するかは大きな課題となります。石垣島の石垣市は人口44000名、宮古島の宮古島市は人口54000名、尖閣諸島はそもそも石垣市の一部ですから、有事の際にはこちらに対しても重大な影響が及ぶことは想像に難くないところ。

Simg_0782 上記の八重山列島は、陸上自衛隊第15旅団の司令部と旅団主力が置かれる沖縄本島から400kmの距離があり、有事の際に緊急展開する場合にはヘリコプターによる九州を含めた増援の展開、本土からの空挺部隊展開くらいしか想定できないほど、距離があります。

Simg_9146 沖縄本島から距離がある一方、八重山列島は尖閣諸島まで170kmの距離にあり、陸上自衛隊には射程180kmの地対艦ミサイルなど、八重山列島から尖閣諸島を防衛する手段があります。もちろん、現在八重山列島は航空自衛隊のレーダーサイトがあるのみで、これらの長射程装備は配備はされていません。

Simg_9022 ただ、尖閣諸島の奪取を試みる勢力からは、ここに自衛隊の拠点となり得る大地があるだけえ、戦略的な要衝となります。自衛隊としては、陸上部隊が展開できない尖閣諸島の岩場に削岩機で窮屈な蛸壺を掘るよりは八重山諸島を拠点として防衛任務を展開する方がりにかなっています。

Simg_0478 上記の通り、八重山諸島は尖閣諸島防衛の後ろ盾という要地であり、そして、行う行わざるに関わらず、その能力と可能性があれば、逆に防衛を固めなければ八重山諸島が攻撃を受ける蓋然性があるのです。日本としては、急迫不正の侵害により尖閣諸島が武力制圧された場合、必要な措置を取らざるを得ません、そしてその措置を取る必然性があれば、侵攻側も先制行動をとる可能性がある、ということ。

Simg_3576 八重山諸島へは、自衛隊も沿岸監視隊の配置に向けた駐屯地の取得など準備を行っていますが、配置されるのは沿岸監視隊であり、沿岸監視隊は一応の暫定的な守備隊としての能力を有してはいるものの、基本は警備小隊等少数のプレゼンスを示す能力の域を出るものではありません。

Simg_2543 プレゼンスを示すことは非常に重要であるのですけれども、一定規模の部隊を展開させていなければそもそもその任務を達成することが出来ず、例えば1982年のフォークランド紛争ではイギリスは縮小中隊規模の警備部隊を置いていたものの、アルゼンチン海兵隊と空挺部隊の強襲を受け、抵抗が成り立ちませんでした。

Simg_2362 この点、沖縄本島の第15旅団は第51普通科連隊と、偵察警戒車を運用する第15偵察隊のほかは、離島急患輸送に主眼を置いた第15飛行隊、沖縄本島の防空を担う第6高射特科群等があるのみで、普通科連隊の数が不十分、航空機はもちろん、特科火砲も戦車もありません。

Simg_1208 第15旅団、現状の態勢では残念ながら不十分で、例えば第15飛行隊を第15ヘリコプター隊に強化、第52普通科連隊を増設、北部九州の第4師団対馬警備隊のような離島警備部隊を八重山諸島に配置する必要はあるでしょう。警備隊は、本部管理中隊と一個普通科中隊を基幹とする部隊で、能力的には限界があるものの本部管理中隊を有することで本土からの増援中隊により容易に増強できます。

Simg_4777 もっとも、八重山諸島には演習場の問題があり、対馬のように島民の大きな支援と島の国有地や民有地を使っての生地訓練が行えなければ、部隊の訓練体制をとてもではありませんが維持できず、この問題をどう解決するのかが難しくなります。対馬警備隊も歴史と理解があってこそ成り立つ訓練体制ですので、この条件は一朝一夕には成り立ちません。

Simg_9142 普通科中隊を旅団内の普通科連隊で多数編制して、警備隊の隷下部隊との間で訓練を行う場合は沖縄本島の中隊とローテーション体制を構築、九州の演習場や本島北部の米軍訓練施設を利用する、という方式も考えられますが、八重山諸島に演習場を確保することは地形上できませんので、これも解決しなければならないところ。

Simg_3695 また、戦車隊を旅団隷下に置く必要も、特に八重山諸島への攻撃は空挺強襲が最も可能性として高いですから、空挺部隊を効率的に無力化することのできる戦車部隊を沖縄本島に配置させて、必要に応じて八重山諸島へ前進させる方法についても考える必要があるでしょう。

Img_0175 一方、離島部隊として最も難しい問題は、全般防空支援や全般火力支援を旅団が行うには、那覇駐屯地と八重山諸島があまりに距離がある、という事です。特に対空レーダ装置や低空レーダ装置などは旅団に配備できる数が一基で、これを八重山諸島に前進させると本当の野戦防空が成り立たなくなり、前進させなければ前線防空が成り立ちません。

Mimg_1650 レーダ装置を運用する情報小隊を複数置くとしても、勿論これも難しいのですが、実施したとしても、今度は本島と八重山諸島の通信基盤確保が、余りに距離がありすぎるため、衛星通信装置などを充分配置しなければならず、どうすればいいのか、この問題は真剣に考える必要がるでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (4)
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