◆那覇空港最寄米軍施設へバス二時間という時代へ
安倍総理が30日に羽田空港にて行った記者会見において嘉手納以南米軍基地返還の具体的日時を計画に明記する方向で日米調整に入っていることが明かされました。
これにより嘉手納基地以南の米軍基地全面返還、この2000年代の日米合意を民主党政権時代に空中分解させ、一時は危ぶまれていた返還計画が再稼働したこととなり、この方針に基づき菅官房長官は4月3日に沖縄訪問を予定、県側へ返還計画の日米合意に向けた経過を報告する予定です。
嘉手納基地以南全面返還、凄いことです。沖縄の地理に明るくない方にはこの意味するところが理解しにくいやもしれませんが、これは、沖縄の玄関である那覇空港から最寄りの米軍基地に向かい出発した場合、最短で沖縄都市モノレールと沖縄バスを利用した場合でも二時間を要する、という事に他なりません。
嘉手納基地へ向けて那覇市内からバスに乗りますと知念経由でも北谷経由でも米軍の延々と続く白い倉庫群が返還されることとなり、普天間前の意外なほど続く施設も戻ってきます。即ち、沖縄に到着すると延々と米軍基地が広がる、という印象はかなり払拭されることとなり、米軍基地は実感、実感としてですが大きく減るという事になるでしょう。
政府は普天間基地の名護市辺野古への移設を2020年代初頭までに完了させ、宜野湾市への返還を行う方向で、日米調整に入り、牧港補給地区キャンプキンザーなど嘉手納基地以南の普天間以外の米軍施設についても具体的な返還時期を10年後から15年後と具体的に明示し、調整へ向かうとのこと。
普天間基地の辺野古移設については移設とどうじに関する要望を防衛省が沖縄県に提出、これにより一年程度で結論が出る事となりますが、普天間基地とともに周辺の付帯施設が返還、併せて那覇市内から海岸沿いに嘉手納に向かう際に続く広大な施設、キャンプキンザーが返還されることで、沖縄=米軍基地だらけ、という印象が払拭されることを意味します。
こうした一方で、空軍と海兵隊、沖縄と日本南部の防衛を根本的に担う極東最大の米空軍拠点としての嘉手納基地、そして台湾有事への緊急展開能力を維持することで台湾有事そのものを封じこめる海兵隊の航空部隊を維持しつつ、返還の道筋を通した、という事は日本外交の再興を意味するものと言えるやもしれません。
実際問題沖縄の防衛だけであれば自衛隊で対応出来る部分は大きいといえます、勢力が増長する中国空軍の脅威に対しても、自衛隊独自で対応する場合、若干戦闘機を増勢する必要、冷戦時代なみに350機程度に増勢する必要や、護衛艦定数を60隻にまで戻す必要はあっても、防衛費のGDP比率を考えれば何とかすることはできる。
ただ、台湾有事、日本のシーレーンを左右させる重要な要素である台湾周辺の安全確保について、日本の抑止力のみで台湾海峡の武力紛争を予防するだけの能力を発揮できるか、と問われれば、憲法上の問題がありますが、これをさしおいても冷戦時代並の負担では不十分で、先の大戦期ほどではないもののこれに準じる負担の覚悟が必要となってしまいます。
より厳しい表現では、東南アジアにある日本の友好国でアメリカとも友好関係を結んでいる国々へ、海洋自由と武力紛争抑止という国際公序を破壊させる勢力の圧力がかかった場合でも、これら国々の主権と安定を守ることは日本には現時点で不可能、アメリカにしかできません、こういう意味からこれを支えるアメリカの拠点としての機能は、日本の安定にも重要な意味合いを有している、ということ。
返還計画ですが、一方で、アメリカ側は、日本の民主党政権時代に生じた計画実行への疑念から、沖縄からグアム移転の準備を予算に一部のみ盛り込むにとどめ、具体的な期限を盛り込む事へ消極的との見方が伝えられますが、名護市辺野古の新航空施設建設が具体的な進展をみる目処が付けば、こちらについても前進の兆しを見ることが出来るでしょう。
北部訓練場など、面積の面ではかなりおおきな米軍施設が残りますが、少なくとも那覇都市圏の拡張を大きく阻害していた開発できない地域、海とを隔てる地域が返還されますので、米軍基地依存や補助金依存に観光依存という沖縄県の経済は、大きく転換する機会となる事だけは間違いありません。
これにより広大な米軍施設用地が沖縄側へ返還され、キャンプキンザー跡地については工業団地の誘致などを、普天間基地跡地については複合リゾート施設などの造成を沖縄県側は計画しているとされますが、これらについても実行の目途が付くこととなりそうです。
もちろん、港湾設備が不十分である沖縄の工業団地誘致や、昨今の経済状況下でのリゾート開発には展望に不透明なものがあり、嘉手納基地にほど近い読谷補助飛行場跡地開発の頓挫等を見た場合、どうしても見通しに不安は抱かざるを得ませんが、那覇空港を降りて最初の米軍基地である嘉手納基地まで2時間を要する、今までに考えられない時代は近づいているのやもしれません。
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