◆師団火力と防空を担い前進を支える
普通科部隊の観閲行進に続いて野戦特科部隊の観閲行進が開始されました。
第四特科連隊長永田伸二1佐が連隊旗と共に観閲行進へ臨みます。西部方面隊は現在日本で最も有事に近い部隊で、冷戦時代の北部方面隊と並ぶ状況にあるといって過言ではありません、そこで第四特科連隊も全国の師団特科連隊の一部が特科隊へ改編される中、五個大隊基幹の連隊編成を採っています。
連隊幕僚が連隊長に続きます。第四特科連隊は、久留米に駐屯、特科連隊本部と本部管理中隊、対砲レーダ装置や音響標定装置と特科指揮統制装置を運用する情報中隊、そして普通科連隊の直掩大隊である第一大隊と第二大隊に第三大隊と第四大隊、師団全般火力支援の第五大隊から編制されている。
観閲行進へは、第一大隊を編成する三個中隊が参加しました。第一大隊に本部中隊と第一中隊、第二中隊、第三中隊。第二大隊に本部中隊と第四中隊、第五中隊、第六中隊。第三大隊に本部中隊と第七中隊、第八中隊、第九中隊。第四大隊に本部中隊と第十中隊、第十一中隊、第十二中隊。そして第五大隊に本部中隊と第十三中隊、第十四中隊、第十五中隊、第十六中隊が置かれています。
直掩火力大隊は、普通科連隊の攻撃前進での火力支援や攻撃準備射撃、対砲兵戦により敵砲兵の殲滅を行い、各中隊は五個戦砲隊を基幹、連隊は榴弾砲約八十門を運用しています。そして、運用するのはFH-70榴弾砲、牽引式榴弾砲としては今なお世界最高性能を持つ火砲の一つ。
FH-70榴弾砲は、1970年代に第二次大戦中の火砲を置き換える目的で国際共同開発された火砲です。ただ、半自動装填装置や自走能力に連続射撃を支える液圧駐退装置と長砲身を有し、その分製造費用が増大してしまいました。自走榴弾砲とあまり違わない費用を要したため、各国は第二次大戦中の砲を長砲身化改修し、併せて自走榴弾砲との混成運用へ向かった。
半自動装填装置、というと特科隊員の方は怪訝な顔をしますが、昔使っていたM-1榴弾砲は、一発一発砲弾を装填架に乗せるだけのFH-70と違い、重い砲弾を装填桿により砲身の内部へ送り込まねばなりませんでした。これがかなりの人員を要し、連続射撃も簡単ではありません。
FH-70は射撃時の反動で装填架上の砲弾を後退した砲身が装填することで緊急時に一分間で六発の射撃が可能です。米軍のM-198榴弾砲、スウェーデン製FH-77と比較し、M-198よりも射撃能力に優れ、FH-77よりも小回りが利くため、採用され、日本製鋼で479門がライセンス生産、これはNATOが採用したFH-70総数を凌駕しています。
第四高射特科大隊長青木英敏2佐以下の観閲行進参加部隊が式典会場を進みます。大隊は特科連隊と同じく久留米駐屯地に駐屯、大隊本部、本部管理中隊、第一中隊、第二中隊を基幹とした編成で、師団野戦防空と師団全般防空にあたる大隊、もともとは特科連隊第六大隊となっていました。
93式近距離地対空誘導弾、射程5kmで第一線の師団部隊の防空にあたります。5kmといいますと対空ミサイルとしては心細い印象をもたれるかもしれませんが、京都駅前に展開した場合、北は京阪出町柳駅、東は東海道本線山科駅、西は阪急桂駅、南は近鉄丹波橋駅までを防空可能で、中隊には八両が装備されており、第一線部隊を航空攻撃から防護、心強い味方といえるでしょう。
発射装置に搭載されているのは肩担ぎ式の91式携帯地対空誘導弾で、車両が師団対空情報処理システムに連動、高射特科大隊にはP-14,P-9といった対空レーダ装置と低空レーダ装置が配備され、100km以上と言われる捜索能力を活かし目標を索敵、空襲警報を対空情報装置により発令し、その目標情報に向け、93式近距離地対空誘導弾はIFF装置により敵味方を識別、TVカメラ装置や熱画像装置、レーザーにより照準し迅速に排除します。
第二中隊の81式短距離地対空誘導弾、師団策源地などの防空に当たります。レーダーを搭載する射撃統制車両、四連装発射装置二両からシステムが構成されており、射程10kmから12kmといわれ、これは京都駅に展開した場合、北は叡山電鉄終点鞍馬駅、東は東海道本線南草津駅、西は山陰線亀岡駅、南は京阪線宇治駅や阪急線大山崎駅まで到達します。
81式短距離地対空誘導弾は師団高射特科大隊の中隊に四セットが配備されており、第四高射特科大隊に装備されているのは短SAM-Cとよばれる後期型の装備となっています。射撃統制装置は開発当時、索敵距離が50kmと聞いていたのですが、最近聞いた話としてそこまで大きくはない、とのこと。
このミサイルシステムは複数目標を同時対処することが可能で、前述の師団対空情報システムとの連携により、師団へ脅威を及ぼす航空目標の接近に対しては迅速に対処することが可能で、戦闘爆撃機や中型無人機にヘリコプターの接近に際し、3000m以下の高度に降下した場合、即座に排除できる。
この81式は、複合照準装置を発射装置に搭載しているのがC型です。そして現在、この後継装備として11式短距離地対空誘導弾が開発されています。ただ、近年は長射程ロケット弾や高高度からの精密誘導爆弾の脅威が増大しており、イスラエルのアイアンドームミサイルシステムはこの対処が可能です。陸上自衛隊においてはこれらに対処する防空システムが求められるようになるやもしれません。
第4施設大隊の観閲行進参加部隊が、大隊長大久保克久2佐以下、式典会場に臨み、師団長へ敬礼します。第四施設大隊は本部管理中隊と四個中隊を基幹とする編成、師団施設大隊は地雷原や地形に人工物などにより構成される障害除去や架橋など、師団の攻撃前進を支える戦闘工兵部隊です。
ただ、陸上自衛隊の師団施設部隊は、装甲ドーザや施設作業車を、北部方面隊の一部部隊を除き方面隊の施設部隊に集中してしまっているため、師団の最前線において敵の抵抗の下でバリケートや地雷原を処理する装甲車両等を欠いています、これでは現代戦は戦えません。
グレーダー。陸上自衛隊へは最前線で使用するために、例えば四輪装甲車体へバケットローダとバケットローダを搭載し車幅が2.49mのイギリス製HMEE工兵装甲車や、排土板と地雷処理装置を搭載した96式装輪装甲車などが必要と考えます。なによりも障害除去と言っても地雷原や障害物には敵の防御部隊側せて配置されているのですから。
道路障害作業車、こちらが退却する際に障害物を構成して敵の前進を阻害する道路障害を構築する車両で、六種類の危機を搭載可能なアタッチメントを車体後部に持っています。簡単なクレーンとしてや、施設作業を行うことも可能で、防弾車体ではありませんが使いやすい装備です。
81式自走架橋柱、河川に迅速に橋梁を構築し、74式戦車以下師団の全装備を渡河させる装備です。自衛隊は架橋装備についてはかなりの充実で、これは河川が多い我が国の地形を相当考慮した上でのことです。もともと師団施設には75式ドーザ装置や92式地雷原処理車があったわけですが、増備して戻せば師団施設の装備体系は完ぺきに近づきます。HMEEや工兵用96式などは欲しいところですが、毎回そんなことを思いつつ、観閲行進は続く。
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