北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱と我が国防衛力の課題④ 多方面同時接近に対応する防空体制の在り方

2013-11-18 23:01:27 | 防衛・安全保障

◆単なるスクラップ&ビルドでの対応に限界

 我が国防空を考える上で、避けて通れない課題が平時における対領空侵犯措置任務の増大への対処です。

Adimg_1585 特に近年の南西方面における対領空侵犯措置任務の増大は爆発的増大という一言を以て説明するほかないほどで、年々増大し、一個飛行隊を基幹とする航空隊での対応は既に限界点を突破、二個飛行隊体制への転換が計画されているものの、それとて充分なものであるとは言い切れません。

Adimg_1339 元来、日本の領空は広大です。欧州の地図に東京京都大阪名古屋をその中心部に置き換えますと、北海道稚内の位置には北欧フィンランドの首都ヘルシンキが、沖縄与那国島の位置には南欧や地中海を飛び越え北アフリカアルジェリアの首都アルジェが来るため、実に冷戦時代の鉄のカーテン以上に日本の領域は長大であるわけです。

Img_6543 もともと広大な領空を有する一方で、我が国周辺国は比較的大きな航空部隊の勢力を有する国があり、冷戦時代においては対する陣営側、今日でも必ずしも軍事的だけでなく政治的に価値観を共有する事は出来ない国を隣国として、現状は広大な領空の防空に当たっているというもの。

Adimg_1950 その広大な領空の防空で現在の沖縄を見ますと具体的には、対領空侵犯措置任務として防空識別圏内への国籍不明機の出現が連続する場合、緊急発進への待機航空機では二方面へ緊急発進したのちには航空機が払底するため、訓練待機の航空機に実弾を搭載し展開しているという実情が伝えられているところ。

Adimg_0157 那覇空港ではこれを示すように旅客機にて誘導路を進む途上のエプロン地区には実弾を搭載した戦闘機が見られ、更に那覇基地以外の航空機が訓練名目で展開している様子は、あたかも冷戦時代、ソ連軍の北方での演習に対し抑止力を強化するために北方機動演習にて一個師団を演習場へ増強した歴史を思い起こさせるほど。

Adimg_2435 こうしたなかで、改めて考えるのは、現在の防空体制の基盤とした戦闘機定数は果たして妥当であるのか、平時における対領空侵犯措置は、現状で空対空ミサイルを使用しての漸減措置は当然採れませんので、主導権は常に相手にあり、こちらは受動的とならざるを得ません。

Adimg_2382 一方で、対領空侵犯措置任務全体の回数が増大しているため、安易に接近回数の少ない航空部隊から引き抜くわけにはいかず、例えば我が国の防空に当たる北部、中部、西部各航空方面隊と南西方面航空混成団のうち、最も緊急発進の回数が少ないのは西部航空方面対ですが、先日発生したロシア爆撃機による領空侵犯事案は西部航空方円隊管区において発生しました。

Adimg_6061 現状の、訓練名目での飛行隊の展開は、事実上部隊配置の再編を強いているものであり、他方、安易にひき抜こうとしても我が国の基地配置は、北方防空の千歳、北方対艦攻撃の三沢、首都防空の百里、日本海北朝鮮対岸の小松、朝鮮半島最寄の築城、南西諸島北部の新田原、南西諸島中部南部の那覇とあり、引き抜く飛行隊がそもそもありません。

Adimg_3188 有事のみを想定するのであれば、戦闘機定数だけでゃ必ずしもなく、戦闘機を効率よく運用し航空優勢確保への絶対主導権を握る早期警戒管制機や、第一線航空基地での作戦能力維持を担保する空輸能力、更には戦闘空中哨戒の持続時間延伸に寄与する空中給油機などの装備が重要となります。

Adimg_2455 しかし、平時だけとなりますと、対領空侵犯措置任務には文字通り戦闘機の数が必要となり、加えて即応性も重要となります。これは有事と反面、資材と物資の消耗戦とはなりにくいのですが、回数が増大すれば器材の消耗にはなってゆくことが対照的と言えるでしょう。

Adimg_8806 もちろん、ほぼ唯一の解決策は1990年代初頭の戦闘機定数350機が現状の270機へ、削減されたことで1990年代初頭の規模の対領空侵犯措置任務を展開できなくなっているのですから、戦闘機を四個飛行隊程度増強することなのですが、財政的というありきたりな理由以外に人員面で対応できるものではありません。

Adimg_9730 しかし、部隊配置の転換のようなスクラップ&ビルドでは現状に対応できないため、戦闘機定数だけであれば、当面の対処としては、一機当たりの搭乗員を機数に対し増勢し、一機当たりの一日の稼働数を増大させる、かつてのイスラエル空軍のような方式が望まれるのですが、機体には構造寿命があり、飛行限界が早まることに繋がりますし、整備要員と器材などの増勢も必要になりますので、やはり人員と器材の問題が大きいでしょう。

Adimg_7419 戦闘機以外の装備を強化することは、当然、有事の置ける作戦能力を強化につながることなのですが、平時における対領空侵犯措置任務は数が必要となります。例えば、空対空戦闘が形式的に可能であるMQ-9無人機のような航空機に平時での一種の戦闘空中哨戒を任せるなどの裏技的な選択肢は無いには無いにしても、これも厳しい。

Adimg_1571 冷戦時代と比較しても、戦闘機定数は削減されたが、一個飛行隊が教育所要へ引き抜かれているため、劇的な縮小ではなく質的に向上している、という反論もあるでしょうが、冷戦時代は超音速練習機が戦闘機戦闘訓練を展開し、有事における補助戦闘機的な運用が期待されていたのに対し、練習機を亜音速機へ統合したため現状の戦闘機転用の必要性が生じ、更に質的向上は我が国だけのものではないため、これは言い分として通用しません。

Adimg_9824 この点で、例えば教育所要のF-15J/DJとF-2Bの二個飛行隊を第一線部隊へ引き戻す場合、従来のT-4練習機では不可能で過去にはT-2練習機が実施していた教育訓練を補う新しい航空機が必要となります。こうなりますと、新しい装備を導入するか、戦闘機定数を考え直すか、となってくるところ。

Adimg_1840 他方で、対領空侵犯措置任務は、そのまま速先頭に展開することは、平時から有事となりますので開戦第一撃を除けば考えにくい、ということを考慮する必要があるでしょう。即ち、そこまでの航空機性能は必要ではない、という部分があります。無論、基地の間隔が国土面積と比較し大きいこともあり、航続距離だけは必要になるのですが。

Adimg_1520 以上の点を踏まえますと、戦闘機定数に限界がきているという一点に対し、更に対領空侵犯措置任務を展開するという面から、必要な性能を絞った航空機を現在の次期戦闘機F-35とともに、ハイローミックスする、という選択肢を、考え、戦闘機定数を再構築する必要があるのかもしれません。

Img_8247_1 この部分で、性能に配慮を行うハイローミックスのロー部分を担う機体は、どういった能力を有事の際に求めるのかで、機種に影響します。例えば、平時の際は動的運用を念頭に後方支援の必要性の低い戦闘機を航空総隊や航空方面隊に直轄させ機動運用するのか、飛行隊として対領空侵犯措置任務の第一線に置くのか、既存の戦闘機との航空団内でのハイローミックスをおこなうのか。

Img_1156 有事の際には航空阻止や近接航空支援や対艦攻撃用途であるのか、転地しての後方での要撃支援に当たるのか、機種選定に影響するでしょうが、併せて同盟国アメリカの運用航空機と連動させ、艦載機や再生機、将来高等練習機の動向とともに考える必要があるでしょう。

北大路機関:はるな

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