北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中国防空識別圏尖閣諸島我が国領空を一方的に包含、日中関係は戦後最大の緊張へ

2013-11-25 23:53:23 | 防衛・安全保障

◆政府は静観、中国が実行すれば日中開戦

 中国政府は新しい防空識別圏として、我が国南西諸島尖閣諸島の領空を含む境界線を一方的に通知しました。防空識別圏は日本では単なる識別線ですが中国の防空識別圏は管轄権行使を含む境界線です。

Osimg_3036 そもそも防空識別圏とはどういうものか、について。防空識別圏とは、我が国では国際法上の領空に対し、高速で接近し領空侵犯の可能性が生じる航空機に対し、緊急発進を行い領空に接近しないよう警告を行い、領空侵犯を未然に防ぐ対領空侵犯措置実施の判断線として行うもので、その目安としているものです。ただ、我が国では以上の通り緊急発進の目安とする基準線に過ぎませんが、中国国内法では通過航空機全てに飛行認可を行い、必要に応じて武力攻撃を行う、主権行使と管轄権を有する空域設定としています。

Osimg_1503 我が国の対応について。この問題について、政府は、他国領空を防空識別圏に加え管轄権行使の可能性を示すことは不測の事態を招きかねない非常に危険な行為であるとともに、撤回を求める、というもので、我が国としては領海領空の領土保全に万全の態勢で臨み、これまでと変わらない姿勢で対応する、という静観の姿勢を示しました。仮に中国側が防空識別圏内での中国国内法に基づく執行管轄権行使を強行すれば、日中の航空戦闘に展開しかねないものであるため、非常に憂慮する状況と言え、日中関係は戦後最大、中華人民共和国建国以来としては最悪の緊張となります。

Osimg_1025 防空識別圏の重複という問題ですが、重なっていることはあります。ただ、防空識別圏を、管轄権行使の領空に準じた扱いとし、他国領空を含む方向へ修正することは非常に異例です。単に重複することだけならば実例はあり、例えば2006年までの期間、日本と中華民国の防空識別圏設定が米空軍により実施されたため、南西諸島西端の与那国島の一部が台湾の防空識別圏に含まれている実情がありました。また、陸上国境を有する国ではこうした重複の問題は生じ得るわけですが、防空識別圏は識別を行う線ですので通常問題はありません。しかし、中国の亡く識別圏は単なる識別線ではなく、管轄権行使を行う境界線である、という事情が大きな問題となるでしょう。

Osimg_2085 尖閣諸島の我が国領空が、中国の防空識別圏に包含されることはどういう状況が発生するのか、という点ですが、以下の通りのことが考えられます。第一に尖閣諸島領海内において海上保安庁船艇等がヘリコプターを発進させた場合に中国軍機が接近する。第二に尖閣諸島周辺空域を飛行する旅客機に対し管轄権を行使するとした中国国内法に基づき日本領空において一方的な執行管轄権行使、つまり中国軍機が示威行動を行う可能性がある。第三に尖閣諸島南方空域での示威行動が活性化する可能性がある。以上の通り。

Osimg_2363 中国空軍は、仮に上記の行動を強行する場合、我が国としては自国領空での他国軍隊による管轄権行使を同意なく看過する事は出来ません。結果、例えば尖閣諸島を含む我が国領空付近において中国空軍機が旅客機等を排除行動に出た場合、重複する防空識別圏を中国軍機が侵犯した時点で航空自衛隊は対領空侵犯措置任務を発動し、緊急発進を行います。中国国内法では防空識別圏内での武力攻撃が認められているため、航空戦闘に展開する可能性が生じます。

Img_3405 特に日本領空において外国旅客機が中国軍機による妨害を受ける可能性が、この中国式の執行管轄権を伴う防空識別圏設定には生じる事での問題ですが、我が国防空識別圏では管轄権行使を想定していないものと対照的であり、特に日本領空を通過する旅客機については我が国は保護管轄権を有するわけですので、日本政府としては、保護をする義務を負うわけです。この点の問題が、両国の戦闘機が対峙する状況となりますので非常に懸念せざるをえないところ。

Osimg_1214 それでは中国空軍が一方的に宣言したのみで、行動に移さなかった場合はどうなのか、という事となりますが、これは日本側としては修正を要求するのみとなる半面、中国側としては対外的に、時刻が設定した防空識別圏を管理できていない、前近代的な空軍組織であることを行動で示すこととなるため、防空識別圏を拡大した一方で行使しない、という選択肢は対外的に無理が生じます。選択肢は、拡大を撤回、もしくは防空識別圏での管轄権行使を含む国内法の改正を行う事でしょうか。

Osimg_2919 日中開戦は明日にでも差し迫っているのでしょうか。この点ですが、ある程度の楽観論を考えることが出来ます。こういいますのも中国側としては尖閣諸島の併合を主張し、一方的に領有を宣言していますが、尖閣諸島領内へ侵犯した場合でも海上保安庁巡視船の監視を逸脱する行動は行っていません。従って、今回も一方的に宣言を行ったのみであり、中国が国内法に基づく管轄権行使を我が国領空内において強行すれば確実に航空戦闘に展開することから、危険な火遊びは、少なくとも当面、避ける可能性はあります。

Osimg_3276 懸念事項ですが、中国空軍の能力についてです。仮に強行した場合、執行管轄権を行使せずに緊急発進のみを行った場合でも、例えば長時間滞空可能な哨戒機等を日本が展開した場合、中国側は絶え間ない緊急発進を行う事となり、機材消耗が著しく速くなります。また、中国のレーダー監視網は2005年にようやく自国沿岸部を網羅したばかりの能力構築段階にあり、そもそも現時点では能力的に実施できません。これを無理に強行しようとした場合、中国側は自ら不利な消耗戦に落下することとなります。その意図は分かりません。

Osimg_6897 本記事には、実行すれば日中開戦の危機、と明示しましたが、非常に緊張する内容であると共に、冒頭に“実行すれば”、という部分を点けたのは、能力的に不可能であるという事、軍事的に日本側が有利な状況を構築し得る状況を中国側が設定している事、など、実のところ合理的ではなく、まさにそうした背景があるわけです。他方で、条件としては我が国領空において中国軍機が我が国の保護管轄権の下に或る旅客機等を排除する可能性が法律上生じたわけですので、警戒監視を怠る事は出来ません。

北大路機関:はるな

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コメント (9)
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