◆報復的抑止力への憲法上制約下での選択肢
弾道ミサイル防衛について重要なのは様ざまな部分が挙げられますが、迎撃ミサイルの性能がかなりの部分を占めます。
BMD用能力向上型迎撃ミサイルは、日米共同開発として92億円が要求されています。弾道ミサイルは大量破壊兵器の運搬に用いられる事例が多く、それはミサイルの命中精度が長射程化するとともに高速化し極超音速で飛翔する為週末誘導が非常に難しくなる点が挙げられるところ。
弾道ミサイルは本土から離れた場所で迎撃することが理想となります。こういいますのも短距離での迎撃は終末迎撃として最後の防御能力となるため重要視されますが、重要地域への防御を行うことが目的であるため、週末迎撃に成功したとしても弾道ミサイルの残骸が周辺地域へ落着することとなります。
一部には破片が落ちるので迎撃すべきではない、との指摘は識者から何故か示されるところですが、大都市中心部に落ちるよりは周辺の近郊地域に落下させた方が人的被害は少なく、その人的被害も大都市中心部の社会基盤や医療基盤が維持されれば救援できるという究極の取捨選択そのもの。
こうした状況を回避するべく日本政府はアメリカとの弾道ミサイル迎撃ミサイル用の弾頭共同開発を長く続けています。日米共同開発92億円として提示されているものはSM-3迎撃ミサイルの弾頭部分で、これはイージス艦より投射します。最大射程は1300km、高高度を飛翔する弾道弾を狙う。
SM-3BlockⅡAとしてBMD用能力向上型迎撃ミサイルの開発は継続開発に位置付けられますが、ノーズコーンというミサイルの先端部分、キネティック弾頭、ミサイル誘導部分、第三段ロケットモータ、第二段ロケットモータ及び分離装置部分、第二段操舵部、そして現状のMk72ミサイルブースタの改良型等を統合する開発が進められています。
キネティック弾頭は、弾道ミサイルの宇宙空間における進路上に浮遊しミサイルを待ち受け、弾道ミサイルは極超音速でこのキネティック弾頭に衝突することで、その自らの運動エネルギーにより宇宙空間においてバラバラに破壊されるという構造を採用しており、いわば宇宙空間に浮かぶ盾というべき装備です。
構成要素は軌道姿勢制御装置DACS,誘導装置、赤外線シーカにより構成されるもので、赤外線シーカが弾道ミサイルの噴射熱からミサイルの位置を補足すると誘導装置に従い軌道姿勢制御装置DACSが微調整を行い弾道ミサイルの進路上に立ちふさがる、極超音速の弾道ミサイルは弾道を描き進路を変更できないため、迎撃するという。
ただ、弾道ミサイル脅威に直接さらされると共にその脅威が顕在化している諸国は世界的に見て少数派であり、此処に不幸にして我が国が含まれるため、アメリカと共にその迎撃手段を開発しているところで、迎撃ミサイルに代替装備が無いため、その費用がどの程度透明性を以て妥当と言えるのかが難しいところ。
基本的に報復的抑止力として弾道ミサイル攻撃が行われた際には通常弾頭を含む長距離打撃力、巡航ミサイルなどを整備し相手側の攻撃に対し策源地や中枢機構を打撃可能な体制を構築する事で相手に攻撃を思いとどまらせる報復的抑止力を整備することが諸国間では一般的ですが我が国は憲法上その選択肢を採れません。
このため、弾道ミサイル防衛へ毎年膨大な迎撃装備の整備費用を盛り込んでおり、自衛隊の人員不足や装備品の旧式化に対する代替装備の取得への段階的遅延の原因の一端は此処にあります。非常に難しいところではありますが、どの程度妥当性を有しているのかの検証は必要となります。
また、これらの視点から当然の代替案として迎撃に留まらず報復的抑止力整備、例えば潜水艦からのトマホーク巡航ミサイルの投射能力整備等の選択肢とともに予算面の限界が防衛政策全般に及ぼす影響と共に見極めて納税者に選択する機会を供することは重要だ、と言えるやもしれません。
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