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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

オバマ政権ヘーゲル国防長官辞任、政権との国防政策上の対立で事実上の更迭

2014-11-27 23:51:52 | 国際・政治
◆ヘーゲル長官後任人事も難航、批判多い抑制的国防政策
 北大路機関移転の最中、11月24日、オバマ政権のヘーゲル国防長官が辞表を提出しました。パネッタ国防長官から引き継いだのが2013年2月26日、中間選挙での与党敗北後早い時期の辞任でした。

 チャックヘーゲル国防長官は民主党オバマ政権下、共和党から国防長官に指名され、パネッタ国防長官から引き継いだ形ではありますが、今回の辞任は米ABC等の表現を借りるならば、ワシントンDC流の辞表提出か更迭かを迫られた結果とのことで、事実上の更迭ということがいえるところです。しかし、国防長官は全世界の安全保障に最大の影響を与えるアメリカ四軍の指揮系統中枢、最高司令官である大統領の国防政策での長官として責務を負う要職ですが、事実上の更迭とは穏やかではありません。

 この更迭劇について、オバマ政権との安全保障政策の不一致が理由であり、オバマ大統領が進めるアメリカの国際関係において特に国防政策での理解の不一致が大きくなり、このままでは国防政策の推進に支障が生じるため、実質的に更迭した、という形です。ヘーゲル国防長官は歩兵下士官としてヴェトナム戦争に従軍し戦傷を負い叙勲するなどの経歴を持つ上院議員、どういった点で政策の不一致が大統領との間であったのでしょうか。

 オバマ政権の国防政策は軍事力の投射への距離を置こうとする政策です。これはイラク撤退やアフガニスタン撤退をブッシュ政権時代の海外派遣拡大路線から差別化し大統領選において民意を勝ち取ったという視点に依拠するもので、言い換えればアメリカ軍の治安作戦終結の次期を武装勢力に明示したことにより、イラクやアフガニスタンの武装勢力にはその期間まで潜伏すれば捲土重来の機会につながると印象付けた事でもあり、治安が悪化する中アメリカ軍が撤退し、有志連合として共に展開した各国も撤収したため、治安は極度に悪化、ブッシュ製塩時代に絶対阻止しなければならないとした、武装勢力尾跳梁跋扈を防ぐ治安機関や統治既往が存在しない状態、破綻国家へ近づきつつある状態を招いてしまいました。

 加えて、2010年末よりアラブの春運動が過熱化し、急速な民主化が中東地域で波及、中には民主化の基盤となる機構や意見集約体制等を構築する以前に革命運動や暴動により政権が崩壊した事例があり、シリアでは内戦が勃発、その混乱の中でイスラム国ISILの行動が活発化、非常に深刻な状況となってしまいました。ISILに対してはイギリス軍特殊部隊SASが第一線において武装勢力の後方補給線などを攻撃し、その前進を遅滞することに成果を上げている様子などが報じられていますが、危機が拡大する現状においてもアメリカ軍の展開は空爆に限定、その空爆開始も効きが本格化するまで放置されていた状況でした。

 従来、こうした状況に際してアメリカは国際社会の意見を迅速に集約し、人道被害や人道危機を阻止する合意形成の下有志連合を編成し対応するか、独力により緊急展開を行ってきましたが、オバマ政権ではこの種の緊張状態が発生した際にも米軍の本格介入は抑制的とし、結果危機が拡大している状況です。アメリカは必要な際に軍事力を即座に投射する、この原則は従来のアメリカ政府の基本的行動原則であり、まず、人道とは基本的人権が行使され得る状態を確保する、ジョンロールズの正義論が示す状態を提供するという基本があったのですが、これがオバマ政権では非常に制約的だったのです。

 ヘーゲル国防長官とオバマ大統領の国防政策をめぐる意見対立は、こうした視点にある事が考えられるでしょう。もちろん、この背景にはアメリカの巨額の財政赤字があり、国防費を抑制しなければならない、というものがあり、これは前任のパネッタ国防長官時代、日本でも米軍関連行事が予算不足で中止となったことで記憶に新しい、財政支出強制抑制措置、このころから指摘されてきました。その反面、アメリカは国際公序として人道を担保する基本的人権が個々人に担保され、その下での自由を普及させることが結果的に自由市場や交易の自由等を生み、結果的にアメリカに資する平和な世界が形成される、という理解がありますので、その役割を放棄するという事には矛盾も生じるのですが。

 先日の中間選挙はまさにこの問題を主権者に問うた、即ち、オバマ政権の国防政策は、財政難とイラクアフガニスタン派遣負担を忌避しアメリカの世界への役割を部分的に放棄するべきか、自由市場と基本的人権に基づく自由意思の普及に努力を行うことでアメリカと世界の安定に資する厳しい道を歩むのか、というものでしたが、結果的にオバマ政権はだいたいを期することとなったのは記憶に新しところでしょう。

 更に、アメリカが国際秩序への影響、好影響悪影響ともに含めてですが、位置を変化させるのではないか、この影響が実際の国際政治において生じました、一が変化するのであれば、アメリカが引いた分だけ、空白地域に乗り出してくる新興勢力の存在があります、それがウクライナ情勢に端を発するロシアと東シナ海南シナ海情勢に端を発する中国です。米ロ関係は、一時ロシアをNATOオブザーバー国という立場においた蜜月時代は今や昔、中国の南シナ海東シナ海情勢への影響は、自由な海洋という国際公序を中国の排他圏へ転換し、その勢力は西太平洋半分の割譲を要求する程となっているのは御承知の通り。

 中間選挙ではこの国防政策の失策が招いた部分にアメリカ国民がNOを突き付けた形です。もちろん、中間選挙の最大の争点はフリーライダーを許す事となっているオバマケアという新しい社会保障政策が雇用対英や財政体系と受給資格者の区分に影響を及ぼしたものが最たるもので貼りましたが、国際政治の面、特に外交面と国防政策ではかなりの部分、軍事力を使わないアメリカが生んだ世界情勢の変化が影響しています。

 平和は求めるものの、軍事力行使を忌避することで形式的な平和を生んだ後、抑止力の近郊が破綻し大戦争が始まるようでは長期的に平和的な結果を生んだとは言えない、行使するべきは行使するべきだ、というところでしょうか。

 一方で長官辞任ですが、ここに一つの矛盾点を孕んでいることに気付かされるのではないでしょうか。ヘーゲル長官はオバマ政権の国防政策に反対し、事実上の更迭となった、中間選挙で米国民はオバマ政権の国防政策にNOを突き付けた、結果的にオバマ大統領の軍事力の行使に抑制的な政策は国防長官と対立しただけではなく、国民が求めるアメリカの位置づけにも反発していることになります。一方で、更迭されることにより政権は国民に国防政策の評価へ厳しい声があったので国防政策の責任者を更迭した、という形にもなるのですが。

 後任人事としては国防副長官のロバートウォーク氏、前国防副長官のクリスティーンフォックス氏が有力視されており、クリスティーンフォックス氏が着任すれば史上初の女性国防長官誕生となったのですが相次いで辞退、中間選挙で敗北し、しかし二年間の任期が残るオバマ大統領と国民の全く異なる国防への要求へ双方を納得させる人材には苦慮しているようで、フロノイ元国防次官、ジャックリード上院議員といった有力候補も辞退、この問題はもう暫く波紋を呼びそうです。

北大路機関:はるな
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