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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ロシアトルコ対立 Su-24撃墜事件発端の第三次世界大戦危機を如何に回避するか

2015-12-01 22:24:39 | 国際・政治
■露土対立深刻化
ロイター通信がコラムに”「第3次大戦」防ぐ処方箋”という興味深いコラムを掲載しました。

トルコ空軍のF-16によるロシアSu-24戦闘爆撃機撃墜、その対立はパリでのCOP21を利用しての首脳会談の可能性もロシア側の拒否に終わり、NATOがロシアへ相互情報共有措置の持ちかけ等の次の緊張緩和策に躍起です、そこで発表されましたのが、ロイター通信のコラム”「第3次大戦」防ぐ処方箋”、トルコ空軍によるロシア機撃墜事件を受け、トルコがNATO加盟国である為、トルコとロシアの緊張関係が危険な方向へ進展すれば、NATOとロシアの衝突へ発展しかねない、というもので、コラムにはアメリカが主体となってロシアとトルコの双方を和解させる必要性を示しています、NATO,即ち北大西洋条約は集団安全保障機構であることを示していて、条約の五条には一国が攻撃を受けた際にはNATO全体での対応を明記しています、ここが、ロシアとトルコの関係悪化により武力紛争へ発展すれば第三次世界大戦に発展する懸念がある、と示したわけです。

その回避への選択肢を提示している訳ですが、当方の視点は、ロイターほど楽観できません、また、ロシアは我が国の隣国でもあり、この緊張の背景が長期手kに我が国へ影響を及ぼすリスクなどについても無視できないとも考えます。露土対立という新しい緊張は、北大西洋条約が締結された当時の欧州正面へのソ連軍侵攻を警戒し、中東と欧州を結ぶ要衝としてのトルコとギリシャの欧州への調和が重視された背景がありますが、トルコを発端としてNATO全般への集団安全保障機構としての機能が求められることは大きく想定していませんでした、更に同じNATO加盟国として棚上げされていますが、トルコはギリシャとのキプロス問題などの国際係争問題を抱えています、露土対立へNATOが大きく関与すれば第三次世界大戦の危機があり、アメリカとNATOがこれを回避すべくトルコへ大幅な譲歩を迫った場合にはNATOからのトルコ脱退という危険を孕みます。NATOの能力低下がロシアの対外政策における積極的な対外政策へ転換した場合、やはり極東方面へも影響は無視できないでしょう。

しかし、現状の対立をこのまま放置すればトルコ一国では、陸軍では強大な規模を有して空軍も戦闘機だけは膨大な数を有していますが、全般として北部の黒海を挟み対岸のロシアへ対抗し得るわけではありません、一方、ロシアとしてはトルコが黒海から地中海とを結ぶ最峡部800mの国際海峡であるボスポラスダータネルス海峡を抑えている現状が、潜在的なロシア国際政策への不確定因子としており、長期的にはロシアはトルコとの友好関係、所謂単純な友好関係ではなく欧州よりもロシアへの親和路線を執る自陣営への参加を希望するでしょう、第三国がこの命題へ少なくとも現状の国際関係を維持するには、相応の覚悟と慎重さがもとめられるでしょう。つまり、Su-24撃墜事件だけの仲介ではなく、中東政策全般のパワーバランス変化への確たる姿勢と対応策を視野に対ロ政策を構築し、交渉と進めてゆく必要があるのです。

長期的視野、具体的には、ロシアの中東重視政策とトルコの地政学的関係を考える必要があります、中東への関与は、アメリカがイラク戦争までの時代、サウジアラビアに大規模な米軍部隊を常駐させ、クウェートとの関係も基地協定など高い水準を維持してきました、実際、ペルシャ湾地域の米軍部隊の規模は非常に大きなもので、9.11同時多発テロについても中東地域におけるアメリカ軍の駐留規模の大きさと影響力を排除する施策を、テロという無差別攻撃により試みたものです、しかし、現在のオバマ政権時代に入り、アメリカ軍の中東からの大規模な撤収が進み、サウジアラビアからお楽戦争を契機にイラクへ展開した米軍はそのままサウジアラビアではなく米本土へ引き上げる事となり、中東地域での軍事力の空白が生じました。

ロシアがウクライナ東部紛争による経済制裁の最中に国防費を投じてシリア支援へ大規模派遣を行う背景は中東への影響力拡大と解釈するべきで、中東とロシアの中間に位置するトルコとの国境周辺でトルコ空軍が強硬手段に出る程の航空機接近が続いた背景を見た場合ですが、長期的に視て、中東地域は産油国と価値観の共同体という国々とともに、アジア地域と欧州地域を結ぶ要衝という地政学上の要件を有しており、単純に占領し石油をという発想は今日にはあまり意味がありませんが、影響力を行使できる地域に収める事で世界の大きな二つの経済圏の交易へ影響力を及ぼす事が出来ます、ロシアの視点からは現在ロシアは地球温暖化を受けての北極圏の極地での棚氷減少を受け、夏季に限り北極圏通商航路の開発に大きな努力を払っていますが、冬季には閉塞され、春季秋季も特殊仕様船が必要となる北極は必ずしも交易航路には最適ではなく、インド洋へのアクセスへ友好国、より踏み込めば衛星国を中東地域に増やすことで、自由貿易を構築しようとすすむ可能性があり、その上でトルコの位置関係を見る必要があるでしょう。

このトルコでの緊張は我が国にとり、必ずしも対岸の火事とは言い切れません、形而的に今回の事案がトルコ機によるロシア機の撃墜事案に端を発するものではありますがこれだけを見ますと、トルコ領空へロシア機による領空侵犯事案が多発しており、この事へのトルコの強い対応の必要性があったという部分、シリアイラクとの緩衝地帯を構築しなければならないトルコの国情、シリアへ接近する必要があるロシアの国情、などなどが複雑に絡み合っていますが、一つの見方として中東地域へのロシアの関与増大が背景にあるとすれば、同程度にロシアと地政学上重要な位置にある太平洋外縁弧状列島の位置づけへの見方も変わってくるのではないでしょうか。

太平洋外縁弧状列島とはつまり日本列島を示します、日本列島への今後のロシアの制作がどのように転換するかを、かなりの部分で政治背景と外交関係や防衛政策と紛争地との関係は異なりますが、トルコへの施策が将来的に極東地域でのロシアの外交が友好国、つまり将来の衛星国構築へ積極的に転換した場合の具体例を見せる事になるのかもしれません。そのロシアですが、おそらく21世紀中、大国としての地位を更に向上させます、その大きな根拠として、地球温暖化によるシベリア地域の凍土が水資源へ昇華し、巨大な穀倉地帯がシベリアに構築できる可能性がある為です。

シベリアは元来開発困難地域ではありましたが、地球温暖が進むならば、現在の世界における穀倉地帯の少なくない部分が干ばつなど気候変動の影響を受けますが、逆に寒冷地域は農業開発が可能となり、広大な平原と水資源を有するロシアの潜在的地位は非常に大きいのです、重ねて化石燃料などの資源と強力な軍事力、一定以上の人口資源を持つと共に、基礎工業力と基礎技術力の大きさはこれら資源を最大限行使する土台ともなる為です、このため、今後のロシアのトルコへの制作と欧州への強いか座当たりや影響力の行使は、同じくロシアと国境を接する我が国としても慎重に見てゆく必要があるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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