■深刻な21世紀核軍拡競争懸念
21世紀に入り早2018年ですが、現在、20世紀のような核軍拡競争の懸念が現実化しつつあるようです。その厳しい現状を少しみてみましょう。
INF全廃条約として知られる中距離核戦力全廃条約が瓦解の危機に曝されています。アメリカのトランプ政権がロシアによる違反の疑いが濃厚であるとして条約の破棄を主張し、米ロ対立に新しい火種を生みつつあります。トランプ政権が批判しているのは、ロシア軍が装備している射程2500kmのカリブル/クラブ巡航ミサイルの地上発射型について等です。
国連総会第1委員会軍縮委員会にて22日、中距離核戦力全廃条約が討議され、アメリカはロシアの違反が明白であるとし、強く批判したのに対し、ロシア側は純粋に防衛用の物であり問題は無いとした上で、東欧に配備するアメリカの欧州NATO諸国防衛用陸上型イージスシステム“イージスアショア”が核抑止の均衡を破綻させたとして逆に批判しました。
ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官が訪露しラブロフ外相と会談、プーチン大統領に中距離核全廃条約から離脱方針を伝えるという。この条約は米ソ、つまりソ連を国家継承したロシアとアメリカの条約なのですから、アメリカ離脱という事は条約終了を意味します。元々、この条約には中国が批准しない為、米中緊張下での戦力的空隙も指摘されている。
レーガン大統領とゴルバチョフ大統領が1987年に合意に達した中距離核戦力全廃条約、中射程、及び短射程ミサイルを廃棄するアメリカ合衆国とソビエト社会主義共和国連邦の間の条約、この略称であり全面核戦争の脅威が現実的に存在した冷戦時際において、限定的ながらも一分野の核戦力とその運搬手段全廃は画期的なもので、欧州は特に恩恵が大きい。
SS-20中距離弾道弾が1979年東京サミットにおいて脅威として定義され、当時の大平首相がSS-20を何たるか知らずに国際的な笑いものとなった事がありました、中距離核戦力全廃条約が成立へ大きな努力が為されたのはこのSS-20の存在が大きい。射程5000km、150kt核弾頭をCEP500mの精度で投射する移動式発射ミサイルは欧州にとり死活的脅威でした。
ただ、フランスがアルビオン高原に配備しソ連中枢を射程に含める中距離弾道ミサイルは、そもそもこの条約が米ソ間の条約である為に除外されていますし、ソ連に条約締結を促進させるためにアメリカは当時開発途中であった中距離弾道弾パーシングⅡの配備を前倒しし、合意成らねばNATO核戦力が増大するとの圧力をかけ、との背景はあったということ。
カリブル/クラブ巡航ミサイルはロシア版トマホークとして1985年に開発され、インドや中国とヴェトナム等へ輸出されていますが、射程が300kmであり、ロシア軍が装備するカリブル/クラブ巡航ミサイルについても射程は300kmであると考えられてきました。しかし、2016年シリア内戦介入に際し投入され、少なくとも1500kmの射程があると判明しました。
Intermediate-range Nuclear Forces、中距離核戦力とは500kmから5500kmの射程を有する地上発射型の弾道ミサイル及び巡航ミサイルを示します。射程500km未満の戦術核ミサイルや核爆弾、射程5500km以上の大陸間弾道弾等はこの定義から外れます。トマホークミサイル等も、地上発射型については定義に含まれ、地上発射型が廃止されています。
中距離核戦力全廃条約は米ソ間の核軍縮条約であり、当時としては短距離核戦力として奇襲攻撃に用いられる核爆弾等が残ると共に長距離巡航ミサイルや大陸間弾道弾と潜水艦発射弾道弾等全面核戦争に用いられる戦略核兵器の廃止が盛り込まれなかった、という事で締結当時には、根本的な核軍縮となっていないとの批判はありました。しかし本当なのか。
西欧諸国、とくに欧州NATO諸国から中距離核戦力全廃条約を考えますと、そもそも、欧州への最大の核戦力の脅威の定義には中距離核戦力が最も該当するもので、短距離核戦力によるNATO第一線への奇襲攻撃の危険と同等にNATO主要兵站拠点を射程内に収めているソ連の中距離核戦力は非常に大きな脅威、その全廃の意義は決して小さくはありません。
NATOの欧州第一線において、現在、アメリカが中距離核戦力全廃条約を離脱する事により条約レジームそのものが瓦解する事は、特に欧州にとり死活的な問題となります、何故ならばソ連崩壊後、旧東欧諸国がワルシャワ条約機構解消により中東欧諸国のNATO新規加盟を果たした今日、西欧NATO諸国はロシアの核戦力脅威からかなり逃れていたのです。
ベルリンとミンスクは950km、パリとモスクワの距離は2700km、この距離を示しますと500kmから5500kmまでの射程の兵器を中距離核戦力運搬手段として廃止させた意味が大きさが理解できるでしょう。条約は空対地型と艦対地型についてはその規定外ですが、空対地型は空軍基地を監視する事で、艦対地型は欧州周辺の海洋防衛で、脅威を抑止できる。
ロシアによるクリミア併合とウクライナ東部紛争介入を契機として、NATOとロシアの対立関係は非常に懸念すべき水準にあります。その上で中距離核戦力全廃条約が解消されるならば、NATOはロシア核戦力の直接脅威に曝される事となり、欧州NATOにはEU欧州連合を離脱するイギリスと一度軍事部門から離脱したフランスが核兵器国としてあるのみ。
影響は限定的となるとは考えられません、例えばロシアの中距離核戦力再整備は条約無効化により確実に進みます。これに併せ現在の在欧米軍縮小が更に進むのであれば、ドイツが核武装へ転換する懸念もありますし、これが朝鮮半島核廃絶交渉へ影響を及ぼし、日本を巻き込むような核軍備管理体系そのものが破綻する可能性さえあり得る、重大問題です。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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21世紀に入り早2018年ですが、現在、20世紀のような核軍拡競争の懸念が現実化しつつあるようです。その厳しい現状を少しみてみましょう。
INF全廃条約として知られる中距離核戦力全廃条約が瓦解の危機に曝されています。アメリカのトランプ政権がロシアによる違反の疑いが濃厚であるとして条約の破棄を主張し、米ロ対立に新しい火種を生みつつあります。トランプ政権が批判しているのは、ロシア軍が装備している射程2500kmのカリブル/クラブ巡航ミサイルの地上発射型について等です。
国連総会第1委員会軍縮委員会にて22日、中距離核戦力全廃条約が討議され、アメリカはロシアの違反が明白であるとし、強く批判したのに対し、ロシア側は純粋に防衛用の物であり問題は無いとした上で、東欧に配備するアメリカの欧州NATO諸国防衛用陸上型イージスシステム“イージスアショア”が核抑止の均衡を破綻させたとして逆に批判しました。
ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官が訪露しラブロフ外相と会談、プーチン大統領に中距離核全廃条約から離脱方針を伝えるという。この条約は米ソ、つまりソ連を国家継承したロシアとアメリカの条約なのですから、アメリカ離脱という事は条約終了を意味します。元々、この条約には中国が批准しない為、米中緊張下での戦力的空隙も指摘されている。
レーガン大統領とゴルバチョフ大統領が1987年に合意に達した中距離核戦力全廃条約、中射程、及び短射程ミサイルを廃棄するアメリカ合衆国とソビエト社会主義共和国連邦の間の条約、この略称であり全面核戦争の脅威が現実的に存在した冷戦時際において、限定的ながらも一分野の核戦力とその運搬手段全廃は画期的なもので、欧州は特に恩恵が大きい。
SS-20中距離弾道弾が1979年東京サミットにおいて脅威として定義され、当時の大平首相がSS-20を何たるか知らずに国際的な笑いものとなった事がありました、中距離核戦力全廃条約が成立へ大きな努力が為されたのはこのSS-20の存在が大きい。射程5000km、150kt核弾頭をCEP500mの精度で投射する移動式発射ミサイルは欧州にとり死活的脅威でした。
ただ、フランスがアルビオン高原に配備しソ連中枢を射程に含める中距離弾道ミサイルは、そもそもこの条約が米ソ間の条約である為に除外されていますし、ソ連に条約締結を促進させるためにアメリカは当時開発途中であった中距離弾道弾パーシングⅡの配備を前倒しし、合意成らねばNATO核戦力が増大するとの圧力をかけ、との背景はあったということ。
カリブル/クラブ巡航ミサイルはロシア版トマホークとして1985年に開発され、インドや中国とヴェトナム等へ輸出されていますが、射程が300kmであり、ロシア軍が装備するカリブル/クラブ巡航ミサイルについても射程は300kmであると考えられてきました。しかし、2016年シリア内戦介入に際し投入され、少なくとも1500kmの射程があると判明しました。
Intermediate-range Nuclear Forces、中距離核戦力とは500kmから5500kmの射程を有する地上発射型の弾道ミサイル及び巡航ミサイルを示します。射程500km未満の戦術核ミサイルや核爆弾、射程5500km以上の大陸間弾道弾等はこの定義から外れます。トマホークミサイル等も、地上発射型については定義に含まれ、地上発射型が廃止されています。
中距離核戦力全廃条約は米ソ間の核軍縮条約であり、当時としては短距離核戦力として奇襲攻撃に用いられる核爆弾等が残ると共に長距離巡航ミサイルや大陸間弾道弾と潜水艦発射弾道弾等全面核戦争に用いられる戦略核兵器の廃止が盛り込まれなかった、という事で締結当時には、根本的な核軍縮となっていないとの批判はありました。しかし本当なのか。
西欧諸国、とくに欧州NATO諸国から中距離核戦力全廃条約を考えますと、そもそも、欧州への最大の核戦力の脅威の定義には中距離核戦力が最も該当するもので、短距離核戦力によるNATO第一線への奇襲攻撃の危険と同等にNATO主要兵站拠点を射程内に収めているソ連の中距離核戦力は非常に大きな脅威、その全廃の意義は決して小さくはありません。
NATOの欧州第一線において、現在、アメリカが中距離核戦力全廃条約を離脱する事により条約レジームそのものが瓦解する事は、特に欧州にとり死活的な問題となります、何故ならばソ連崩壊後、旧東欧諸国がワルシャワ条約機構解消により中東欧諸国のNATO新規加盟を果たした今日、西欧NATO諸国はロシアの核戦力脅威からかなり逃れていたのです。
ベルリンとミンスクは950km、パリとモスクワの距離は2700km、この距離を示しますと500kmから5500kmまでの射程の兵器を中距離核戦力運搬手段として廃止させた意味が大きさが理解できるでしょう。条約は空対地型と艦対地型についてはその規定外ですが、空対地型は空軍基地を監視する事で、艦対地型は欧州周辺の海洋防衛で、脅威を抑止できる。
ロシアによるクリミア併合とウクライナ東部紛争介入を契機として、NATOとロシアの対立関係は非常に懸念すべき水準にあります。その上で中距離核戦力全廃条約が解消されるならば、NATOはロシア核戦力の直接脅威に曝される事となり、欧州NATOにはEU欧州連合を離脱するイギリスと一度軍事部門から離脱したフランスが核兵器国としてあるのみ。
影響は限定的となるとは考えられません、例えばロシアの中距離核戦力再整備は条約無効化により確実に進みます。これに併せ現在の在欧米軍縮小が更に進むのであれば、ドイツが核武装へ転換する懸念もありますし、これが朝鮮半島核廃絶交渉へ影響を及ぼし、日本を巻き込むような核軍備管理体系そのものが破綻する可能性さえあり得る、重大問題です。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
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