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【くらま】日本DDH物語 《第四九回》はるな型護衛艦とPS-1対潜飛行艇,外洋対潜作戦模索

2018-10-27 20:07:04 | 先端軍事テクノロジー
■PS-1対潜飛行艇大量運用構想
 神戸市の新明和工業、戦前の川西飛行機は飛行艇名門企業として今日もその技術を洗練し受継いでいます。

 はるな型ヘリコプター搭載護衛艦と同時に海上自衛隊では潜水艦を制圧するためのいくつかの研究が進められています、この中で個性的といいますか各国海軍でも例を見ない事例として、対潜飛行艇PS-1を挙げてみます。PS-1は現在の海上自衛隊救難飛行艇US-2、US-1の原型にあたる航空機で1967年に初飛行を果たし1970年より運用を開始しました。

 PS-1対潜飛行艇は一旦洋上に着水してソナーを展開する方式を執っています。P2V対潜哨戒機やアメリカ海軍において運用が開始されていましたP-3哨戒機、ソノブイを海上に投下し潜水艦の徴候を探すとともに、対水上レーダーや磁気探知装置を駆使して潜水艦の徴候を探します、しかし、一つ、直接聴音する吊下げソナーだけは搭載する事が出来ません。

 HSS-2対潜ヘリコプターはホバーリングし洋上から海面下に吊下げソナーを展開します。海上自衛隊の地方隊展示訓練等でSH-60J/K哨戒ヘリコプターが吊下げソナーによる対潜哨戒展示を実施する様子をご覧になった方も多いのではないでしょうか、トランデューサを海面の下に展開しますと、海水塩分濃度層や変温層の下部まで届かせる事が出来ます。

 二式大艇として日本海軍は太平洋戦争中に大型で航続距離の大きな飛行艇を開発し、ちょうど日本には飛行艇を開発する独自の技術があり、海上自衛隊としてはこの技術を応用する格好の手段として対潜飛行艇という運用を開拓しました。なにしろ二式大艇は今日の視点でも大型の航空機、この技術を応用すれば非常に大型のソナーを搭載出来る機体になる。

 海水濃度は河川の河口は勿論潮流などにより当然変化しますし、冷水塊や海面太陽光の関係から層というものは複雑に広がります。固定翼航空機からはソナーを海中に投じた場合、失速しない速度で曳航した場合でも掻水がそのまま雑音となりますし、その前に航空機の飛行速度で曳航してはトランデューサも索も強度が足りず即座に破損してしまうでしょう。

 PS-1飛行艇は直接海上に着水し展開できます。海上自衛隊ではこのPS-1対潜飛行艇を固定翼哨戒機と共に運用し、頻繁な離着水を繰り返し対潜情報を収集、徐々に潜水艦を制圧するという独自の運用を構想します。PS-1対潜飛行艇を岩国航空基地、大村航空基地、大湊航空基地へ配備する計画を示し、当初の計画ではかなりの数を調達する計画でした。

 はるな型護衛艦のHSS-2を洋上にて運用するという構想の一つの対案が、PS-1飛行艇です。実際飛行艇でも固定翼航空機なのですから飛行速度も進出速度もはるかに速いもので、そして二式大艇の技術を応用した新型機PS-1は80km/hという定速での離水性能や波浪3mでの発着能力、非常に高性能の航空機として完成しましたので自衛隊の期待も大きかった。

 しかし、飛行艇としては大型とはいえ、艦艇と比較すれば港湾哨戒艇程度、波浪のある太平洋上で運用しますと、機体が波浪で揺れソナーの軸線が安定しません。これはソナーの揚収に予想以上に時間を要する事が実運用を経て判明する事となり、潜水艦を追って捜索と離水に着水と捜索、と一連の作業が当初の想定程迅速に行えない事が判明してきました。

 PS-1対潜飛行艇はその発着能力の高さから救難飛行艇US-1にUS-1AとUS-2へ改修改良されてゆきましたが、一方でソナーの技術に苦労しているうちに対潜ヘリコプターの対潜哨戒技術が改良され、結局海上自衛隊は1989年には対潜飛行艇の運用を終了します。ヘリコプター搭載護衛艦はその後も改良と新型が今日に続き、選択肢の正解はこちらでした。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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