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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

安倍総理在任期間歴代最長と戦後レジーム脱却【1】遠い道のりと不協和音が潜在の日米安保

2019-11-19 20:08:54 | 国際・政治
■桂首相在任2886日を凌駕
 戦後レジームからの脱却、この指針は意外な程に難しいのかもしれませんが終戦から永く時が経ちまして脱却できない我が国を視る世界の視線には不協和音が生じ始めます。

 安倍首相の在任期間が桂首相、歴代一位の在任期間を越えて憲政史上最長となりました。平成初期には一年未満の短命首相が続き、日本が確たる国家指針を示すことが出来ないとの揶揄は国内外からも続き、そして政党政治は連立政権とともに大選挙区制度の宿命として多党化が進み対案が曖昧模糊とした野党による揚足取的な大衆迎合主義化が進みました。

 国の指針が定まらない中で首相のみが交替しますと、官僚主導に収斂し、其処で政治が主導権を無理に求めますと朝令暮改的な施策となってしまう為、この点で長期政権は歓迎すべき点なのかもしれませんが、安倍総理が就任前からの政治方針として掲げる憲法改正による戦後レジームからの脱却は道半ばというよりは端緒で鳴動している印象が拭えません。

 在日米軍駐留経費分担金を四倍とする必要がある。アメリカ外交専門誌が更迭されたボルトン大統領補佐官の補佐官就任中に日本側へ伝えた内容が紹介され、NHKはじめ国内メディアでも報道、これが一種の驚きとともに伝えられたのは安倍総理の在任期間歴代最長を迎える二日前でした。一見無関係に見える在日米軍駐留経費増額の意向と本論は関係深い。

 戦後レジームからの脱却は、在日米軍分担金の問題、具体的には日米同盟に基づく防衛努力義務を日本がアメリカと同等に果たしているか、ということ。これは日本が信頼に足る同盟国なのか、アメリカが我が国周辺事態へ介入する際に防衛協力が確実視出来ない場合、日本が1991年湾岸戦争に際し100億ドル戦費負担を行ったような施策の方が上策となる。

 我が国自衛隊は専守防衛の枠組みの中で、沖縄に中国軍が上陸し、北海道にロシア軍が上陸し、博多に蒙古の軍勢が上陸した際には全力でその能力を発揮するでしょう。しかし、これは一部識者に本土決戦主義と揶揄され実のところ当方も憲法上自衛権を完全に発揮できる状況は本土決戦しか憲法上許されない、という状況の単なる率直な反映にすぎません。

 本土決戦主義に収斂した日本国憲法上の防衛政策、そして本土決戦となった状況では既にシーレーンが途絶し国民生活は破綻している為に、投了状態である事も事実でしょう。防衛努力について、日本は戦車と戦闘機と護衛艦をこれだけ有している、という実数よりも、必要な地域にどれだけ投入できるのかが、アメリカにとって同盟国としての問題なのです。

 台湾海峡有事となれば、現行法では重要影響事態として自衛隊がある程度は展開可能、漸く法整備されましたが、それならば護衛艦隊をどこまで作戦に展開させられるのか、空挺部隊を台北に米軍が展開させる際に後方支援として第1空挺団や即応機動連隊を台湾へ派遣する事は可能なのか、具体的施策は示されず、現行法で可能な限定列挙には含まれない。

 南シナ海での航行の自由作戦が通じず当該海域が封鎖された場合に自衛隊のF-35Aとイージス艦をフィリピン方面に派遣しアメリカの空母打撃群と共同行動をとることは可能なのか。朝鮮半島ミサイル危機に際して米軍機が半島北部に行方不明となった場合に航空自衛隊救難部隊を半島北部へ米軍戦闘救難部隊と統一行動を採って救出させることは可能か。

 朝鮮半島有事の際に緒戦で韓国軍が崩壊した場合に第2師団と第7師団を米軍第3師団と連携させ韓国崩壊から建て直しまでを支援できるか、など。ただ、日本側の視点としては、在日米軍は日本領土を守る為ではなく、西太平洋地域の安定化に資するべく施設を貸与させ、結果の恩恵を日本は受け日本国土そのものは自衛隊が守るという云い分がありますが。

 本土決戦まで何もしない、憲法上できないのだが、本土決戦となれば本気で対応する。これは野田内閣時代までの厳しい現実でした、本土決戦にならない場合でも限定的に対応できる項目は特措法で整備し、何かあるときに備えるのではなく何かあってから議論する。アメリカ側の視点としては、こう、アンフェア、に映る事は残念ながら否定できません。

 橋本龍太郎総理の時代。上記視点を示しますと、しかし橋本内閣時代に周辺事態法が整備されているため、本土決戦の緒戦として沖縄近海や日本海での米軍協力は可能である、という態勢でしたし、自国民を紛争地域から救出することは出来ないが戦闘がない場合に移動させる事は出来る法整備は完了しました。この点で全く動けないのではありませんが。

 宮沢喜一総理の時代。宮沢内閣時代までは国連の活動に自衛隊を限定的に参加させることも完全に鎖国状態を強いていたのです。逆説的に、以前がこの状態でしたので現在の憲法解釈と平和安全法制だけでも、充分不測事態に対応できる、と誤解する自己過大評価が世論としてあるのかもしれません。出来ない事は無い、しかし基本は本土決戦、憲法はこう。

 本土決戦主義、なるほど沖縄本島に中国軍が上陸し、あらかじめ展開した陸上部隊とアメリカ第3海兵師団が協同するならば、前回ほど酷い地上戦とはならないでしょう。ただ、東日本大震災よりは犠牲者が多くなる可能性はある。前回の沖縄戦では東日本大震災の五倍もの県民が犠牲となっていますから。憲法は目的ではなく手段として平和を用いるゆえ。

 現行憲法、この視点で言い換えれば、本土決戦まで何もしないという施策の危険性とともに、前回は本土でも沖縄と硫黄島が陥落したのみであるのに、なぜ敗戦に追い込まれたかと問われれば、シーレーンを維持できなくなった時点で既に国が採れうる選択肢が無かったため、という状況があります。本土決戦主義では防衛が必ずしも成り立たない、しかし憲法上収斂している、この部分の土台が曖昧で有る故に防衛政策にも日米関係にも不協和音があるのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (2)
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