北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アメリカAMPV装甲共通車両とスペインピラーニャ-豪州K-9決定,ロシアSDM-1

2020-10-17 20:10:14 | インポート
■週報:世界の防衛,最新11論点
 今回は各国陸軍関係の最新情報を紹介する事といたしましょう。特に装甲車と装甲戦闘車や自走榴弾砲等の戦車以外の装備の最新動向について。

 アメリカ陸軍は8月31日、AMPV装甲共通車両の第一号車を受領しました。AMPVはM-113装甲車を中心として1960年代からアメリカ陸軍において多用されている車両体系を置換える50億ドルの将来共通車両体系でBAEランドディフェンスシステムズ社が開発を担当、アメリカ陸軍で多用されているM-2ブラッドレー装甲戦闘車車体を基本としている。

 AMPVは機甲旅団戦闘団用でXM-1283-GP汎用装甲車522両、XM-1284-MEV装甲救急車790両、XM-1285衛生装甲車216両、XM-1284-MTV自走120mm迫撃砲386両、XM-1286-MCMD指揮通信車993両が調達、開発にはジェネラルダイナミクスランドディフェンス社も提案しましたがBAEランドディフェンスシステムズ社が選定されました。

 BAEランドディフェンスシステムズ社は防衛産業再編によりアメリカ防衛産業大手を傘下に収めており、今回のAMPV生産についてもサウスカロライナ州エイケンやアラバマ州アニストンとアリゾナ州フェニックス及びミシガン州スターリングハイツに現地工場を有しており基本的にアメリカ国内で生産されます。今後40年間の米軍主力車両となりましょう。
■BAE,ブラッドレーFVを近代化
 AMPV計画に並行して既存のブラッドレーFV、装甲戦闘車についても近代化改修が行われ巨額の費用が投入されます。

 BAEシステムズ社はアメリカ陸軍との間でM-2A4ブラッドレー装甲戦闘車159両の改造について2億6690万ドルで契約したとのこと。イラク戦争に投入されたM-2A3は高度なデータリンク能力を有しますが、これにより発電能力の強化などで車内容積が圧迫され重量増大により機動力が低下、M-2A4はその改善型で防弾を強化しつつ機動力を回復した。

 M-2A4ブラッドレー装甲戦闘車についてBAEシステムズ社は既に2018年にM-7A4砲兵観測戦闘車と共に473両について3億4790万ドルの契約を交わしており、今回はそのオプション計画というかたち。六月末の契約ですが、BAE社とブラッドレー装甲戦闘車についてはパワーパック更新に関する話題が在りましたので、その関連として紹介しました。
■ハンガリー,KF-41リンクス
 ドイツの往年の名車であるマルダー装甲戦闘車を応用した次世代装甲戦闘車の話題です。

 ハンガリー陸軍は次期装甲戦闘車としてドイツ製KF41リンクス装甲戦闘車を選定しライセンス生産を行う方針について8月17日、ドイツのラインメタル社との間で契約を締結しました。この為にハンガリーにはリンクスを生産するラインメタル社との合弁企業が設立される。KF41リンクスはハンガリーのほか、チェコ軍とオーストラリア軍で検討中だ。

 ラインメタル社製のKF41リンクスは冷戦時代の傑作装甲戦闘車マルダー1の設計を応用した装甲車として2016年のユーロサトリ兵器見本市に原型のKF31が発表、2018年にKF41が発表されました、基本重量は34tですが増加装甲により戦闘重量は50tまで対応しており1140馬力エンジンにより70km/hを発揮する他、基本装備として35mm機関砲を持つ。

 KF-41リンクス装甲戦闘車は200両程度が量産されるとみられ、ハンガリー軍は20億ユーロの予算を計上しています、ライセンス生産では2024年から遅くとも2025年に潜航量産車は配備され2027年までに最初の運用部隊を編成する方針です。ハンガリー軍は2個旅団を基幹、2019年にレオパルド2A7戦車44両の導入を決定しており近代化を進めていいるところだ。
■ハンガリーKF41リンクス続報
 KF-41リンクス続報です、マルダー1の車体を更新し最新鋭の砲塔を搭載した古くて新しい装甲戦闘車です。この思いきりは日本も89式後継で見習いたい。

 ハンガリー陸軍は9月、次期装甲戦闘車としてドイツラインメタル社製KF-41リンクス装甲戦闘車の採用を決定しました。218両が導入され、その総費用は20億ドルを超える防衛力整備事業です。リンクスはドイツが冷戦時代に開発したマルダー装甲戦闘車車体を応用した新時代の装甲戦闘車で、各国に提案されていますが契約成約はハンガリーが初めて。

 リンクスにはマウザー社製30mm機関砲有人砲塔が採用され、調達契約では第一段階として2023年までにドイツ国内で製造された46両のリンクス、そして同時に導入が決まったバッファロー装甲回収車9両が納入、続いてハンガリー国内において172両のリンクスがノックダウン生産される事となっており、合弁会社が既にハンガリーに設立されています。
■ボクサーRCH-155自走榴弾砲
 16式機動戦闘車の車体には設計上で75式自走榴弾砲の砲塔を搭載し火力機動戦闘車と発展させられ得るのですが、この発想をドイツがやった。

 ドイツのクラウスマッファイ社は同社がプライベートベンチャーにて開発を進めるボクサーRCH-155自走榴弾砲の最新試験映像を八月下旬に公開した。これはドイツ軍などへ導入が進むボクサー重装輪装甲車の車体に無理矢理52口径155mm榴弾砲無人砲塔を搭載したもので、クラウスマッファイ社が生産するPzH-2000自走榴弾砲を補完する自走砲だ。

 ボクサーRCH-155自走榴弾砲の開発は2014年に開始され、2020年8月の時点では90秒間の間に行進中から射撃命令を受領し陣地進入、8発を射撃した後に陣地変換へ離脱するまでの水準となっている。なおこの8発の射撃はMRSI射撃という、角度を変えて射撃し8発を目標付近に同時段着させ、相手に陣地などへの退避猶予を与えない射撃を実施した。

 ボクサーRCH-155自走榴弾砲の乗員は2名、主砲はデータリンクによる高度な自動化を誇り、毎分6発から最大8発を射撃、射程は通常榴弾で30km、射程延伸弾で40km、ロケット補助弾で56kmといい、車内弾庫には30発の砲弾を搭載するほか、無人砲塔ではあるが緊急時には手動射撃を可能とする。同社はPzH-2000よりも安価である点を強調している。
■豪州陸軍が韓国製K-9採用
 十年近く延期されていた自走榴弾砲選定が遂に結論が出されました。我が国も99HSPの砲塔システムとKF-41車体の統合型でも提案しておくべきであったかも。

 オーストラリア陸軍は陸軍LAND 8116計画として選定中であった将来自走榴弾砲について、韓国製K-9自走榴弾砲30門とK-10弾薬補給車15両を採用すると発表した。オーストラリア軍は2010年代に選定を進めたが、提示した予算枠ではAS-90やPHz-2000等は不可能で当時実績の無かったK-9や簡易型のカエサルしか不可能で見送った過去がある。

 K-9自走榴弾砲は改良が進められFDC火力調整所よりの情報受領から30秒間で初弾を射撃可能、行軍中に情報受領の際にも60秒以内に射撃開始が可能だ。K-9自走榴弾砲はトルコへの輸出を筆頭にフィンランド軍へも輸出が成約しており、安価ではあるが旧式化が進むM-109を置き換える手頃せ堅実な52口径155mm高性能自走砲として定評を得ている。
■スペイン軍は30mm砲試験
 スペイン軍はピラーニャⅤの採用に向けて前進中です、アメリカ海兵隊のLAV-25を三世代発展させたもの。

 スペイン>ナバンティア社はピラニア装甲車用ティソナ30mm機関砲塔試験を実施したと発表した。ティソナ砲塔は同国が配備を進めるスイス製ピラニアⅤ装輪装甲車に搭載される。30mm機関砲はドイツのマウザー社製機関砲で既にスペインではASCOD/ピサロ装甲戦闘車に採用されている。ASCODとティソナ砲塔の最大の相違点は無人化されたこと。

 VCR/ドラゴン装甲車として導入されるピラニアはスペイン国産のBMR装輪装甲車等を置き換える構想で、ティソナ砲塔システムは30mm機関砲と砲安定化装置及び火器管制装置と電子光学照準システムに同軸連装機銃及び発煙弾自動発射装置を有し、必要に応じ火器管制装置は発射架に追加されるスパイク対戦車ミサイル射撃管制にも応用可能としている。
■ピラーニャからドラゴンへ
 スペイン軍はピラーニャ装甲車をドラゴン装甲車として採用するとのこと。

 スペイン国防省は八月末、ジェネラルダイナミクスヨーロッパランドシステムズ社とサンタバーバラ社の合弁会社との間でピラーニャⅤ装輪装甲車のスペイン軍仕様新型VCRドラゴン装輪装甲車348両の調達契約を締結した、この契約は製造と整備費用及び予備部品費用を含み8億7000万ドルの総額である。同装甲車の原型設計は瑞西のモワク社製だ。

 VCRドラゴン装輪装甲車は八輪式で30mm機関砲安定化砲塔を採用し砲塔にはスパイク対戦車ミサイル発射装置が内蔵される。兵員8名と乗員3名を輸送すると共に四軸の操行装置により高い小回り性能を有し、路上機動性も高い。しかし増加装甲により30t台までの戦闘重量を有し、極めて高い生存性を持つ。348両のVCRは2027年までに納入される。
■英軍はジャッカルを近代化
 イギリスのオープントップ戦闘室を有するジャッカル装甲車の改良を行う。

 イギリス国防省は八月、フォックスハウンド耐爆車両とジャッカル/ジャッカル2偵察警戒車のハイブリッド動力化試験にジェネラルダイナミクスUK(GEUK)社との間で300万ポンドの契約締結を発表した。これらの車両は2000年代のアフガニスタン派遣を契機に導入され、形状は特殊だが、各車は1両当たりの製造費で100万ポンド以上費用を要している。

 国防省はこれら装甲車両のハイブリッド動力化に当って、車体騒音静粛化による被発見性の低減を期すと共に環境省の温室効果ガス低減にも寄与するとしている。装甲車ハイブリッド動力システムはNPエアロスペース社が開発したものをGEUK社が車体に適合させる。この改修により各車は2050年代までの延命が可能になり国防費節約に資するともしている。
■ブッシュマスターを水で防護
 水もタンクに収めて並べれば装甲防御力の一端を担う事が出来るという。

 オーストラリアDST防衛科学技術局は同国陸軍が大量に運用するブッシュマスター耐爆車両の装甲強化に水タンクを応用する新技術研究を8月に発表した。ブッシュマスターはタレスオーストラリア製でM-113装甲車やトラックの後継としてオーストラリア陸軍に大量配備され、大陸砂漠地帯での戦闘に対応するべく大型の飲料水タンクを内蔵している。

 ブッシュマスター耐爆車両の装甲強化について、DSTは大型飲料水タンクの配置と形状や増設を工夫する事で路肩などに敷設された簡易爆発物IEDから車体を防護する最適形状を検討するという。具体的には爆風と破片を任意の位置に指向させ乗員区画へ致命的な衝撃と破片が飛散しない水タンク位置を目指す、重量増大となるが水は飲用などに寄与する。
■125mm砲搭載のSDM-1
 空挺部隊の最新装備として事実上の軽戦車が完成しました。我が国も60式自走無反動砲の後継となる様な装甲戦闘車共通車体に機動戦闘車砲塔を搭載したものが必要やも。

 ロシア陸軍は最新型のSDM-1スプルート対戦車自走砲試作車を8月21日、受領したとのことだ。スプルートはロシア国有企業ロステックにより開発されている。スプルートの任務はロシア軍がソ連軍の時代から配備されるPT-76軽戦車の後継という位置に在り、空挺軍や海軍歩兵といった主力戦車を戦場に輸送する手段を持たない状況での戦車役である。

 SDM-1スプルート対戦車自走砲はその名の通り戦車に対抗出来る軽量な装甲車であり、125mm戦車砲としてT-80戦車やT-90戦車と同じものを搭載している。イタリアのチェンタウロ戦車駆逐車や自衛隊の16式機動戦闘車と似たものだが無限軌道方式の車体であり泥濘などに強い。これはロシアで実績あるBMP-3歩兵戦闘車の車体を利用しているためだ。

 試作車はすでに製造されたスプルートと比較して車体制御装置やエンジン管制装置を改良している他、125mm戦車砲の射撃統制装置もデジタル型の新型となっていて、長距離での戦車戦を有利としている。試作車の試験は2022年まで実施されることとなっていて、マイナス40度から40度、海岸から砂漠や山間部まで過酷な状況で試験され採用が判断される。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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