北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

検証:防衛省令和3年度概算要求5兆4897億円(3)少子高齢化を背景とした自衛官人材の確保

2020-10-29 20:02:46 | 国際・政治
■規模と内容とも不十分だが一歩
 来年度予算概算要求では人員確保の面で特筆すべき視点が少し含まれていました。ただ、もう少し本質的な問題に注目してほしいとも。

 来年度予算概算要求において一つの重要事項が少子高齢化を背景とした人材確保の強化です。2000年代に実施された新隊員制度の廃止による自衛官候補生制度の創設、並行して曹候補士制度の廃止による曹候補学生制度への転換は、事実上、幹部自衛官をのぞく自衛官の特別国家公務員としての身分を任官から数年間、実質の非正規雇用としてしまいました。

 募集難は少子高齢化だけが原因ではなく、財政難を背景とする人件費圧縮の政治的要求をそのまま曹候補士制度廃止として、いわば終身雇用を選抜制に切り替える事としたため、若者から人材を使い捨てとする曹候補学生よりは終身雇用、人材を大事にする組織、民間企業や地方公務員などに流れたことが、募集難の一つの大きな背景ではないでしょうか。

 募集広報動画作成と配信に3億円。実は自衛官のそれ誤解です、というような動画が話題を集めましたが、実は募集官のそれ誤解です、というような自衛官としての過ごしやすい環境ではなく人材が大切にされるのかという問題から選びにくくなっている現状を少々無視しているような印象のある施策に3億円投じられるわけで、ちょっと考えさせられる。

 人材の確保を目指すのであれば現在の曹候補学生制度、学生なのだから任期満了の退職金は出ないが選抜制で上位者は終身雇用の陸曹に昇進できる、昇進できなければ七年後に除隊、という制度ではなく、2007年まで有った曹候補士制度、時間はかかるがいつかは陸曹昇進できる事実上の終身雇用制度、安定の公務員、ここに回帰する必要を感じるのですね。少子高齢化の内の少子化は生活が安定しない為に婚期が遅くなるためというのも原因の一つ。

 公務員だから安定している、ソレ誤解です。現実はここにあるのですが。前制度に戻せない理由には、財政難があります、自衛隊としては人件費を削りたい、人件費を圧縮するよう財務当局からの圧力が大きい。もちろん曹候補士制度では七年後にほぼ自動的に陸曹に昇進するために勤務意欲の低い陸曹の増加、という問題があったことは理解しています。

 即応予備自衛官任官を条件に大学へ奨学金のような制度を構築できないか、これは前防衛大臣であった河野防衛大臣の発案です。高校を卒業し二年間、海上自衛隊では一任期三年、任官した上で退官後に即応予備自衛官に任官した上で大学に進学する。即応予備自衛官の訓練年間30日間、退官後の企業就職か、任期延長しつつ大学院に行ってもよいでしょう。

 任期制自衛官進学支援。高校卒業後に大学進学前に任期制自衛官に任官した場合は、任期満了後の大学進学に際し即応予備自衛官任官を条件に入学金と授業料の一部を支援する、新しい制度が始まります。学費負担の大きさと事実上の教育ローンを貸与制奨学金としている現状で、高校生に進学の道を開く、ここは大きな一歩でしょう、ただし規模に問題が。

 進学支援ですが、来年度に要求されたのは0.8億円、8000万円なのですね。学費が私学では年間百万円を越えることも多い現状、この予算規模ではフルブライト奨学金並に狭き門となりそうです。ただ、現在の即応予備自衛官制度では企業協力金として毎月42500円が支払われていますが、これを学費に転用できるならば、まあ多少の足しとはなりましょう。ただ、国に奉仕したのだから学費位は全額、と思うのは当方だけでしょうか。

 即応予備自衛官の確保には必要な措置とはいえるのですが、質も量も不十分で、例えば延灯許可を受けて入試対策を行うとして、制度では現役勤務の訓練日程とオープンキャンパスの日程を確保できるのか、大学入試日程と勤務の両立の難しさもあり、例えば早い時期に進学先を画定できるAO入試と勤務が両立できるような冗長性ある制度が求められます。

 働き方改革。来年度予算には上記の制度とともに今話題の働き方改革が盛り込まれています、具体的にはOA化の促進やペーパーレス化による勤務時間の短縮が挙げられているのですが。演習は仕方ないとしても、業務にはデスクワークの調整業務も相応に大きくなっており、ペーパーレス化だけで対応できるかは未知数ですが、一歩は踏み出すようです。

 NATOジェンダー関連年次会合への派遣、働き方改革の一端としてこうした取り組みも行われるようです。そして女性自衛官隊舎の環境整備などに50億円が投じられるとのことで、また自衛官全体の勤務環境整備を含めた、含めたという点で全てではないと示しているようですが、自衛隊施設整備に574億円、日用品調達に44億円が要求されていました。

 輝号計画、過去には自衛官の待遇改善に昭和末期から平成初期にこうした取り組みがあり、大部屋の中部屋への改編や外出時の制服着用義務の廃止などがありました、しかしこれは1990年代の視点での改善であり、2020年代と1990年代では、そもそも自衛官候補生が2000年代生まれの時代なのですから、もう一歩踏み込んだ待遇改善を望みたいところです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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